ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

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主の過去話が出てきます

苦手な方は閲覧非推奨

なんでも大丈夫な方だけ、どうぞ













ハナマルと畳

 

「は〜、やっぱ畳はいいよね〜」

 

 デビルズパレスの別邸一階には、畳部屋が用意されてある。私はその畳部屋で寝転びながらザ・だらけ生活を自身の体で表現してみる。

 

「主様の世界にも畳があるんだっけ? 主様が望むなら、いつでもここに来ていいぞ」

 

 今日の担当執事はそう話すハナマル。ハナマルもそこまで畏まった執事らしくはなく、私が何か言わなくてももうすでに畳の上で胡座をかいて座っていた。

 

「ありがとう〜、ハナマル〜」

 

 私は畳の上で伸びをしながらだらけ生活を絶賛再現中。畳の匂いが、懐かしさを呼んで落ち着きを与えてくれているみたいだ。

 

「へっへっへっ、じゃあ俺も寝っ転がるか」と言うと、ハナマルも私の隣で寝転がった。「やっぱいいねぇ、畳は」

 

「そうだよね〜……なんだか、おばあちゃん家に帰って来たみたい」

 

「ばあちゃん家?」

 

 ハナマルに繰り返され、あ、懐かしさついでにうっかり零してしまった、と私の心臓は跳ねた。自分の話をするということは、自分の心まで相手に晒すということに、私は未だ執事たちに対しても抵抗があった。

 

「えっと……」

 

 私はハナマルがどんな顔をしているのか見ることも出来ないまま言い淀んだ。だけどハナマルは、私の横で何か身動ぎはしたようだったが、そっかそっかと、いつもの口癖を返した。

 

「俺も、畳で寝転がると東の大地で暮らしてた時のことを思い出すから、気持ちはよく分かるよ」

 

 そっか、ハナマルは、東の大地に追われてこの中央の大地で暮らしていた……私はそのことを思い出し、ハナマルの優しさを改めて感じた。この男、いつもはサボりだの寝るだのとやる気がないことに全力だが、気遣いが出来ないという訳ではない。私が言いたくなさそうにしていることに、ハナマルは瞬時に気づいたのだと思われた。

 

「ねぇ、ハナマル……」

 

「ん〜?」

 

「私のちょっと暗い話、聞いてくれる?」

 

「お〜、俺でいいなら、聞かせてくれ?」

 

 ハナマルが私の顔を覗き込んだ。ハナマルの抹茶色の天パから、真っ赤な瞳が私を見つめた。赤い目だなんて普通なら鬼とか化け物とか連想してしまうのに、ハナマルの瞳は不思議と怖くない。

 

 私は、いつの間にか強ばっていた体から力を抜いて深呼吸をした。

 

「あのね、ハナマル……」私はゆっくりと話し始める。「田舎に、おばあちゃんが住んでいたの。親も兄弟も沢山いるけど、私出来損ないでさ……でもおばあちゃんだけは、このままのハルでいいんだよってよく言ってくれた、優しい家族だったんだ」

 

「へ〜、家族ねぇ……」

 

 ハナマルは頭を引っ込め、私の隣で足を伸ばしたまま座り直す。私も上体を起こし、祖母のことを思い出すように目を閉じた。

 

「子どもの頃はさ、おばあちゃんの言ってること分からないことも多くて。ずっと、周りに追いつかなきゃいけないんだって焦ってたから、おばあちゃんに怒ったこともあったんだよね……」

 

 でも、それでもおばあちゃんは献身的に私を支えてくれていた。今思えば、ここの執事みたいな人だったな。

 

「でも、数年前に亡くなっちゃってさ……私すごく泣いちゃったよ」

 

 こうやって振り返ると、こんなにも悲しい。私、こんなに悲しかったんだ。

 

「主様」

 

 ハナマルにそっと肩を叩かれて気づいた。私の目から涙が零れていたのだ。

 

「ご、ごめん……! 涙を畳に飲ませちゃダメだよね……」

 

 飲み物を畳に飲ませるなよ、といつかどこかで言っていたハナマルの言葉を思い出しながら私は頬を擦った。その時、背中からぐっと強めの力で引かれてハナマルに抱きしめられていた。

 

「大丈夫。主様の涙は、俺の胸が飲むから」

 

 そう頭上から聞こえてくるハナマルの声が、いつものだらけた声じゃなくて、落ち着いた穏やかなもので私は不覚にも緊張して。

 

「……ありがとう、ハナマル」

 

 ぽんぽんっとハナマルの大きな手が私の頭を撫でた。全然違うのに、不思議とおばあちゃんのことを思い出して、私は自然と落ち着きを取り戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、私は時々、別邸の畳部屋に来てはハナマルとダラダラする時間を作るようになっていた。さすがにユーハンに怒られたようなのでハグまではされなかったが……。

 

「そういえば、主様って飲める口?」

 

 ハナマルは懐に仕舞っている日本酒のような瓶を取り出しながらニタリと笑う。どうやらハナマルは、私がここに休憩に来るという口実で、こっそりお酒を持ち出しているみたいだ。

 

「そんなには飲めないけど……ちょっとだけなら」

 

 そう言うと思ったよ、とハナマルは手早くおちょこを二つ取り出した。私が断らないのを知っていたみたいだ。

 

「さ、飲もうぜ」

 

「ありがとう、ハナマル」

 

 ハナマルに注いで貰ったお酒を飲みながら、縁側からの景色をボーッと眺める。不思議と祖母宅から見た田んぼの景色が蘇ってきて、私はホッと息を吐いた。

 

「たまにはこういうのもいいね」

 

「でしょ? 主様が望むなら、いつでも用意するぜ」

 

 ハナマルが隣で、お茶目そうにニカリと笑った。

 

 

 おしまい

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