ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

48 / 52
ミヤジと音楽

 

「ふんふふ〜ん♪」

 

 お気に入りの歌。こっちの世界では馴染みのない歌だろうが、私の好きな歌である。私はこのデビルズパレスを探索中、よくこの歌を口ずさんでいることが多かった。

 

 〜♪ 〜〜♪

 

 そんな時、一つの美しい音色が聴こえてきた。なんのメロディかは分からない。私は気になって音色を辿った。

 

「ん……? ああ、こんにちは、主様」

 

 そこにいたのは、楽器を弾いているミヤジの姿だった。

 

「こんにちは、ミヤジ」私はミヤジの楽器へ視線を移す。「それ、チェロ?」

 

「そうだよ。主様の世界にも同じ楽器があるんだね」

 

「こっちの世界にもチェロがあるんだね〜」

 

 こっちの世界の楽器が、私の世界とあまり変わらないということが知った時は驚いたものだった。

 

「もし良かったら、主様の好きな曲を演奏するよ」

 

「え、いいの?!」

 

 私はついそんな反応をしてしまったが、この頃はまだミヤジのこともあまりよく知らなかった。だから、私の好きな歌のことも知らなかったに違いない。

 

 だけど、ミヤジは優しく微笑んで。

 

「ああ、構わないよ」

 

 大人の余裕とはこういう笑みのことを指すんだろうなと私はこの時そう思った。ルカスとは違う微笑みに、私は少し緊張感を覚えたりして。

 

(でも、さすがに私の世界で流行ってる歌は知らないよね……)

 

「じゃあ……前に感謝祭でベリアンが演奏していたものは?」

 

 さすがに、ミヤジの知らない曲をリクエストする訳にはいかないと、ベリアンが演奏していたピアノ曲をお願いしてみた。

 

「ああ、あの曲だね。もちろん構わないよ」

 

 そうしてミヤジは弦を構え、美しく壮大なチェロの演奏を聴かせてくれた。丁度夕暮れだったのもあり、夕日色に照らされたミヤジとチェロが、音楽と一体化してどこまでも響くような錯覚すらしたのを、今でも覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからだいぶ経ったある日のことだ。

 

「やっぱりここのお庭の薔薇はいつ見ても綺麗ですね!」

 

「そうだね〜」

 

 ムーと一緒に、私は屋敷の庭を散策していた。デビルズパレスは屋敷内も庭も、どこを見ても美しい。古いながらもその美しさを保っているのは、各所に薔薇や様々な花が咲いているのも理由の一つだろうと思う。

 

 〜♪ 〜〜♪

 

 そんな美しい庭に、一つの旋律が聴こえてきた。

 

「綺麗なメロディが聴こえますね、主様!」

 

 ムーがキラキラした目で私にそう言った。そうだね、と私は相槌を打ったが、ムーの尻尾はソワソワと揺れている。

 

「きっと誰かが演奏しているんですよ! 見に行きましょう、主様!」

 

 言うと思ったムーの発言に私は苦笑を浮かべながら頷く。自分の好奇心に純粋なムーが、時々羨ましいなと思う。まぁ、私も奏者が誰か気になっていたし……と思っていると、その旋律が別のメロディを演奏し始めて私は足を止めた。

 

「どうしました? 主様」

 

 ムーが不思議そうな顔をしてこちらを振り向く。だが、私の意識はほとんどが聴こえてくる旋律に集中していて取り合う余裕がなかった。

 

「私、知ってる……この曲……」

 

 まさか、と私が走り出すと、間もなく旋律を発している主に辿り着く。庭で演奏をしていたらしいミヤジの姿。その手にはチェロが構えられている。

 

「ミヤジ、その曲……」

 

 私が声を掛けると旋律が止まり、ミヤジがこちらに顔を上げた。

 

「こんにちは、主様」

 

 なんてことないというような顔でミヤジが優しく微笑む。だけど私は、驚きで胸がいっぱいで言葉が上手く出てこなかった。

 

「こんにちは、ミヤジさん!」

 

 そうしている内に、足元のムーが明るい声で挨拶をし出した。ミヤジは紳士にムーにも挨拶を返す。私はそこでようやく、現実に引き戻されたような感覚になった。

 

「あの、ミヤジ、その曲……」

 

 私の言葉は途切れた。ミヤジは不思議そうな顔をしながらチェロと私を交互に見つめた。

 

「ん? 曲……?」

 

「ミヤジさん、さっきの曲はなんて名前なんですか?」

 

 そこにお喋りなムーがミヤジに質問をした。私が聞こうと思っていたことだったからその質問には助かった。

 

「ああ、この曲かい? 名前は知らないんだ」とミヤジは答えた。「この曲は、大事な人のために練習している曲なんだ」

 

 と言いながら、ミヤジの浅縹色の瞳が私に目配せをする。白銀の髪から覗くその瞳が、私にだけ分かるメッセージを無言で伝えてきた。

 

(ミヤジ、私の世界にある歌をいつの間にか耳コピして練習してたんだ……)

 

「へぇ、すごいですね!」

 

 私が心の中で感動している内に、ムーがミヤジと会話を進めていた。

 

「ありがとう、ムーくん。完璧に演奏出来るようになったら聴いて欲しい。主様も一緒に」

 

 とミヤジはムーから私に視線を移す。私は驚きと緊張でますます言葉を詰まらせてしまった。

 

「はい、もちろんです! 主様も、ミヤジさんの演奏聴きますよね!」

 

 とムーに話を振られてハッとする。私はなんとか頷いた。

 

「う、うん、そうだね……」

 

 私がそう返事をすると、ミヤジが嬉しそうにより微笑んだ気がした。私のあの鼻歌がどこかで聴かれていたのだと思うと恥ずかしくなったが、ミヤジの演奏が聴ける楽しみも増えた日だった。

 

 

 おしまい

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。