ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

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変わる現実

 

ー保育園の園庭にてー

 

「こうやって、束にしてからまとめて結ぶと……ほら、出来た」

 

「わー、すごーい!」

 

「もう一回教えて、七崎先生!」

 

「うん。まだいっぱい咲いてるから、いっぱい作ってみようか!」

 

「はーい!」

 

 私は保育園で子どもたちに、白詰草で花輪を作る講習会を開くようになっていた。昔よく作っていたけど、大人になってからは作らなくなっていた花輪。手が覚えているみたいで、結構簡単に出来た。

 

(……白詰草の花輪、ハウレスに似合いそう)

 

 花輪を眺めながら唐突にそんなことを思い、ハウレスの少し照れたような顔が浮かぶ。やっぱりちょっと、ダサいかな?

 

「みなさーん、お昼ご飯の時間ですよ〜」

 

「「はーい!」」

 

 間もなく、他の保育士が子どもたちを呼ぶ。太陽が空高く昇っている時間だ。

 

 私はその後、子どもたちに手洗いをさせてご飯の準備。その後は昼寝の準備をし、子どもたちが大抵寝静まるとようやく保育士のちょっとした休憩時間が出来る。といっても、お昼寝をしない子どもたちもいるので、順番に保育士が常時いる部屋はあるのだけれども、それでも比較的この時間は静かだった。

 

(この間にみんなの記録をまとめないと……)

 

 私は職員室の席に座り、親御さんへの連絡や様子などをパソコンで打ち込んで置く。本当、保育士は激務である。あれ、私お昼ご飯食べたっけ?

 

「七崎せーんせ」

 

「わ、櫻葉先生……」

 

「今は休憩時間みたいなもんだし、セナって呼んでいいんですよ?」

 

「そういうセナだって、私を先生呼びしてたじゃない……」

 

「ごめんごめん、ハル」

 

 この櫻葉 セナは、私の後輩保育士。といっても年齢は一つ下なだけなのだが、気さくなセナと関わっていく内に、友達みたいな交流をしている、私の数少ない親しい人だ。

 

「それでさ〜、ハル。最近ちょっと変わりました?」

 

「え、私が?」

 

 急に話しかけてきたと思えば、そんなことだったのか。

 

「そうですよ〜? 何かいいことでもあったんですか、先輩?」とセナが意味深そうな顔で詰め寄った。「例えば……彼氏が出来たとか」

 

「ぶふぉ……っ!」

 

 セナからの思わぬ発言に、私はつい変な声を出してしまった。彼氏? 私が出来た日には世界が終わるね。

 

「やっぱその反応、出来たんですね?」

 

「いやいやいや、出来てないから。そもそもこんな私をもらってくれる人なんていないからっ」

 

 まるで漫才のツッコミかのようにセナの肩を軽く叩いた私だったが、彼女はこういう話には少々首を突っ込みたがるところがあった。

 

「そんなこと言って! だってこの前まで、子どもたちに花輪の作り方なんて教えていなかったじゃないですか」

 

「それだけで? ただなんとなく、教えたかっただけだよ〜」

 

 それに、ある執事さんたちから、色々と気づかされたんだ。

 

 

 私には私の出来ることがあるんだって!

 

 

「やっぱり! その目、誰かのことを想ってる時の目じゃん!」

 

 しかしセナは、まだ私のことを疑っていた。

 

「誰かのことを想うって、まるで恋人みたいな……」

 

 向こう側の世界の人とは、主と執事という関係だし、恋人という訳では……と考えてからふと思った。あの執事たちと恋人になったら、どうなるだろうか、と。

 

「いやいやいや! まさか! ないない!」

 

 私はつい大きな声を出してしまいながら首を激しく振った。確かにあの執事たちと恋人になっても幸せかもしれないけど、その前に彼らの顔面偏差値が高すぎて私とは全く釣り合わないのだ。

 

「やっぱり! 誰かいい感じの人いるってことじゃん!」

 

 私が声に出してしまったのもあり、セナは何か勘違いしたようだ。私は執事たちの話をせずになんとか誤魔化そうとしてみたがそれは徒労に終わり、セナの中では「恋人候補がいる」ということになってしまった。

 

(恋人、か。向こう側の世界は、どう考えたってそれどころじゃないんだよなぁ……)

 

 私は、途方に暮れながら天井を仰いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー夜、デビルズパレスにてー

 

「おかえりなさいませ、主様」

 

「ただいま〜」

 

 デビルズパレスに来るなり、担当執事から「おかえりなさい」と言われるのもだいぶ聞き慣れてきた。なんというか、自分のもう一つの家という感じでちょっと落ち着くのも本当だ。

 

「おや、今日は花を持って来たのですか?」

 

 と担当執事が私の手元を見るなりそう聞いてきた。この世界に来る時、元の世界から何かしら物を持ち込むことが増えてきた私は、こうして花とかタブレットとか持ってくるようになっていた。今回持ってきたのは、保育園で作った白詰草の花輪だ。

 

「うん。ハウレスに似合うかなぁって」

 

「主様……わざわざありがとうございます」

 

 俺なんかが〜とか、戸惑う素振りくらい見せてもいいのに、今日の担当執事であるハウレスは優しく微笑むばかり。私は少し屈んだハウレスの頭に白詰草の花輪を乗せてあげた。

 

「似合う、でしょうか……?」

 

 ハウレスが自信なさげに聞く。

 

「うーん、やっぱちょっとダサいかなぁ……」

 

 美男子に野草の花で出来た冠は、ちょっと似合わない気もした。何より顔のいいハウレスに花は似合わなさ過ぎる。

 

「似合わないでしょうか」

 

「うーん、ハウレスならもっとキレイな花がいいかなって」と答えながら私は考え込む。「ハウレスはキレイな海みたいな髪と真っ赤な目をしてるから、青と赤に似合う花ならどんなのがいいか……」

 

「主様がプレゼントしてくれたものは、どれも光栄なものになります」

 

 またまた彼氏みたいな発言するじゃん。いい子じゃん。色んなことがあっただろうに、そうして私を真っ直ぐ見つめてくるハウレスは誠意に満ちている。

 

「それならいいけど、嫌だったら外してね? ただのちょっとした遊び心ってだけだから……」

 

「いえ、お出迎えする時はこれを被ります」

 

「ええ、真面目じゃん……」

 

 そういえば前に彼にあげた白詰草の栞も、ベットの壁にぶら下げて飾ってあるらしい。彼のベット周りは散らかっているらしいが、壁に掛ければ失くさないとかでそうやって保管してるとか。

 

「でも、ありがとう、ハウレス。私のそんなプレゼントさえ喜んでくれて」

 

「主様からの大切なプレゼントですから」

 

 と微笑む彼を見、今度はお菓子とか作ってあげたらいいかなぁと思ってふと昼間での話を思い出す。

 

 

「彼氏が出来たとか」

 

 

(いやいやいや! ないないないない! ハウレスが彼氏とかもったいなさ過ぎるし!)

 

 私が勝手に内心で慌てていると、挙動不審な動きでもしてしまったのか、彼が不思議そうにこちらを見つめた。

 

「どうしました、主様?」

 

 ここにいる執事たちは、私のことになると過度に怒ったり心配したりする。これはちゃんと話した方がいいかなぁと、私はベットに座ったまま姿勢を直した。

 

「あのね、昼間仕事仲間に、彼氏が出来たのか〜って言われちゃって。このデビルズパレスの話は、向こうの世界では話さない方がいいでしょう? バレないか心配でさ〜……」

 

「主様に彼氏、ですか……」彼が考え込む仕草を見せる。「素敵な主様ですから、きっと主様とお付き合いする方も、素敵な方なのでしょうね」

 

 うわぁ、笑顔が眩しい。あなたがそういう人で良かった。まぁ多分、他の執事もこういうこと言うんだろうな。あ、ラムリは違うかもしれないけど。

 

「あなたも素敵な彼女を見つけるのよ? クリス」

 

 あなたの話なのよ、と思いながら私がそう言うと、赤い瞳をした彼がパチクリと瞬きをする。待て、その反応をするということは、また名前を間違えたのでは。

 

「ご、ごめんね? ハウレスだったよね?!」

 

 私は慌てて言い直したが、ハウレスはくすりと笑った。

 

「ふふ、いえ、驚いたのはそこではありません」とハウレスは言う。「俺は、主様の幸せを願ってばかりだったので、自分の幸せを考えることがなくて、少し驚いてしまいました」

 

(あ、そっか……)

 

 彼らは、天使と戦う覚悟を決めて悪魔執事となった。それから長い間戦い続けていたら、自分の幸せなんて気にしている余裕はなかったのかもしれない。

 

「ごめん、暗い話をしたかった訳じゃないの……」

 

「はい、分かってます」

 

 謝ったところで、ハウレスは優しさを返すばかり。私はそんな彼に、今すぐ何かしてあげたいと思った。

 

「ね、ハウレス」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「今はこれくらいしか出来ないけど……いつも頑張ってるハウレスに頭撫でてあげるね!」

 

「え、えっ……あ、主様……っ??」

 

 私はベットの上に立ち、ハウレスの頭を撫でてあげた。(なぜなら彼は背が高いからだ。もちろん、被ったままの花輪を崩さないように)。

 ハウレスは照れたように顔を赤らめてはいたが、大人しく撫でられていたので気にしないことにする。気にしてたら自分が恥ずかしくなってしまうんだもの!

 

「しかし……主様がいる世界に咲くこの花を、一緒に見に行きたいとは思いますね」

 

「え?」

 

「なんとなくそう思っただけです。迷惑でしょうか?」

 

「いや……そんなことはないけど……」

 

 急に何を言うんだ。まるでプロポーズみたいな言葉に、今度は私が赤面を食らうことになったが、ハウレスは気づいていなかったので、しばらくは頭を撫でることにしてなんとか誤魔化した。

 

 

 きっと、私たちはこうやって、自分たちでも気づかない内に変わっていくんだね。

 

 

 おしまい

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