ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

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ベリアンと楽譜

 

「ふふ、屋敷探索って、いつしてもワクワクします!」

 

 ある日のデビルズパレス。暇を持て余した私はムーと一緒に、屋敷内を探索していた。早く屋敷内を覚えたいというのもあるのだが、私の元の世界とは違う建築仕様や内装に、少し興味があるからだ。

 

「あ、この部屋はなんだっけ?」

 

 私はある部屋を覗き込んで足元のムーに訊ねる。私より物覚えのいいムーは、こうしてお喋りしながら歩いているだけで本当に助かるばかりなのだ。ムーも一緒に、部屋の中を覗き込む。

 

「ここは……音楽室じゃないですか?」とムーが言った。「前にここで、ミヤジさんが楽器演奏していたのを見掛けたんですよ! 主様、ピアノもありますよ!」

 

 そうして先に音楽室へ入って行くムー。私もあとからついて行くと、そこそこ広い部屋にいくつか楽器があり、ムーが言うピアノも置いてあった。

 

「ここには誰もいないね……」

 

 デビルズパレスはどこかに誰かしらいるイメージはあるけれど、音楽室には私たち以外人も猫もおらず、静かだった。

 

「ふふん、今なら楽器とか触ってもいいですよね!」とムーが話し出した。「僕、楽器演奏をしてみたかったんです! ピアノだったら僕も出来ますかね?」

 

「うーん、猫の手で出来るかな……?」

 

 ピアノ演奏をする猫という話は聞いたことないけれど、ムーは記憶力もあるし器用だから、頑張れば出来るかも……? と思いながら私はピアノに近づいた。ピアノの譜面台には、楽譜が広げて置いてあった。

 

「あれ、その楽譜、誰かの忘れ物でしょうか?」

 

 と言いながら、ムーは椅子に飛び乗って楽譜を覗き込む。私もその楽譜のタイトルを読もうとしたが、かなり年季が入っているのか文字までは読めなかった。

 

(でも、音符の部分は何度も直した箇所がある……)私は楽譜をよく見てみる。(ここは伴奏かな……ここからはメロディーが入ってるっぽい……)

 

 私は、触れたら破けそうな楽譜なので顔を近づけて音符を読もうとした。

 

「主様、楽譜が読めるんですか?」

 

 私が食い入るように楽譜を見ていたからだろう。ムーがそう聞いてきた。

 

「ううん、ピアノの楽譜はあまり……」けど、分かったこともあった。「でも、このサビのところだけは分かったかも。前に感謝祭でベリアンがピアノ演奏していた曲だよ」

 

「え、そうなんですか!」

 

 もう随分前のことなのに、楽譜を見ただけでメロディーがありありと蘇ってきて私ですら驚いたくらいだった。私が学生だった頃、吹奏楽部でしっかり楽譜の読み方を教えてもらったことがこんなところで繋がるとは。

 

「えーっと、ベリアンみたいには出来ないけど、片手だけなら……」

 

 私は近くの椅子を引っ張り出して来てピアノの前に座る。もう一つの椅子にはムーが座っているからだ。

 

「……こうかな?」

 

 ポロン、ポロンとゆっくり音を鳴らしてみる。そうして音を聴いてみたことにより、ますますベリアンが演奏していた曲を鮮やかに思い出し、何度か繰り返している内にそれはメロディーになった。

 

 〜♪ 〜〜♪ 〜♪♪

 

「わぁ、すごいです、主様!」サビだけの演奏だったが、ムーは絶賛してくれた。「ここの執事さんたちも多才ですけど、主様も多才なんですね!」

 

「えー? そんなことないよ」あのすごい執事たちと比べたら、私なんか下の下だ。「保育園の……子どもたちのために演奏することはあるだけで、ピアノの楽譜からメロディーだけ弾いたのは初めてだよ」

 

 でも、自分にこんな才能があったなんて初めて知った。

 

 ガチャ……。

 

 その時、音楽室の扉が唐突に開いて私の肩は思わず跳ねた。勝手にピアノを弾いてごめんなさい、と思いながら扉の方を見やると、そこにはベリアンが拍手をしていた。

 

「素晴らしいです、主様」

 

「こんにちは、ベリアンさん!」

 

 私がビックリしている間に、ベリアンに挨拶をするのはムー。ムーは本当にいい猫だ。私も見習わなくては。

 

「こんにちは、ベリアン。勝手にピアノを弾いてごめんなさい……」

 

 私は謝りながら椅子から立つ。だけどベリアンは、いつものように優しく微笑んだ。

 

「いえ、自由に使ってもらって構わないのですよ。むしろ、主様に素敵な演奏をして頂いて、ピアノも喜んでいると思います」

 

「ピアノが……?」

 

 ベリアンはピアノの言葉が分かるのだろうかと一瞬考えたが、それが私をフォローするための比喩表現だったと気づいたから何も言わなかった。

 

「それにしても、主様がピアノ奏者だとは知りませんでした。それは私が使っている楽譜なんです」とベリアンは言いながらピアノに近づいた。「もしご興味があるのなら、他の楽譜も見てみますか? すぐに用意しますよ」

 

「ありがとう。でも私、そんなに上手でもないし、楽譜がちゃんと読める訳でもないから……」

 

「僕、主様の演奏聞いてみたいです!」

 

 私は遠慮しようと思ったが、ムーが悪気ないくらい無邪気にそう言い、なんだか断りづらくなった。ベリアンもベリアンで優しい顔をするばかりだし。

 

「あ、えっと、そこまで上手くないからさ、ピアノ演奏のこと、教えてくれるかな……? ベリアン」

 

 唐突な私の頼みになってしまったが、ベリアンの優しい微笑みは崩れないまま、フフフと笑った。

 

「もちろん構いませんよ。簡単な楽譜を用意しますね」

 

「ありがとう……」

 

「やったぁ! 主様のピアノ演奏がもっと聴けるんですね!」

 

 私は、言ってしまってから迷惑だったかなぁと思ったが、ムーはそんな心境も気づかないまま嬉しそうに跳ねた。

 

「よろしくね、ベリアン先生」

 

 私がわざと「先生」を強調して言うとベリアンは少し驚いたような顔はしていたけれど。

 

「はい、主様」

 

 ベリアンは目を細めて優しく微笑んでくれた。

 

 その後私はベリアンに簡単なピアノ演奏を教えてもらった。それはとても、充実した時間だった。

 

 おしまい

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