18階層で起きた「漆黒のゴライアス」の騒動も落ち着き、いつもの日常が戻りつつある頃。本日のダンジョンの探索が終わり帰路についていたベル・クラネルは、市街で獣人の姿が目に留まり、ふとあの時の光景を思い出した。
「……」
「? ベル様、どうしましたか?」
「あ、いや……ちょっと思い出していたんだ。18階層の戦いの時、色んな獣人の人が炎や水を出しながら戦っていたけど、あれって……」
「ああ、獣霊術のことですか」
「や、やっぱり……! あれが獣王ゼオンの創りだした獣霊術なんだ……!」
英雄譚オタクのベルは、自分の予想が当たり古の大英雄の遺した技術を目の当たりにできたことに、「うわぁ」と感動の声が思わず漏れてしまった。
「獣人がオラリオで冒険者になるには、たとえ基礎であっても獣霊術の習得をしていることが絶対条件、なんて言われるくらいにはありふれた技術ですからね。というか、ベル様は見たことがなかったんですか?」
「うん。実はそうなんだ」
そう、ベルが実際に獣霊術を見たのは先日の事件が初めてだ。別にダンジョンの中で獣人の冒険者を見かけないわけではない。というよりも、現代のオラリオでは、強靭な肉体と獣気を武器に戦う獣人冒険者が数多く存在し、彼らは戦士の代名詞として、神々と冒険者たちの信頼を集めている。そのため、街中でなくてもダンジョンの中でも獣人の姿はよく見られるのだ。
「まあ、獣霊術は自分の体力を削りながら使う術と聞きますし、一瞬の油断が命取りになるダンジョンの中で、そうバカスカと使うわけにはいかないのでしょう」
それにアレは獣人固有の術なので気にしてもしょうがないですよとリリはさっさと話を打ち切ると、急いでいたのかまだ話したそうな様子のベルを残して帰ってしまった。
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翌日、ダンジョン探索の休息日に消耗品も買い足した後、散歩をしていたベルの背中に軽やかな声がかかった。
「おや、そこにいるのはベル君じゃないか。今日はダンジョンに行ってないのかい」
「あ、ヘルメス様。はい、今日は休息日にしようってリリと話してて。ヘルメス様こそそんなに荷物を抱えてどうしたんですか?」
ベルに声をかけてきたのは【ヘルメス・ファミリア】の主神・ヘルメス。彼はいつものように旅人風の装束を纏いながら、その両手にたくさんの本を抱えていた。
「うん? これかい? いやー、実はアスフィにゼオンについて詳しく調べたいから、歴史書から英雄譚までいろいろ買って来いって言われちゃってねえ」
「え、アスフィさんが、獅子王ゼオンについてですか」
ベルの言葉には、あの理知的な女性が他の種族の英雄について調べていることだけでなく、主神がそんな雑用のようなことをやっていることに対する驚きもあった。
「あっはっは。まあ、これはオレがアスフィに頼んで調べてもらってることだからベル君が気にすることはないよ。でも、フム……。そういえばベル君は英雄譚について詳しいんだったね」
「えっと……ヘルメス、様?」
「ここで会ったのも何かの縁! さあ、ベル君、ちょーとばかしオレと一緒に
「え、ちょ、ま。ええええっ!?」
話している途中で、ふと何かに気づいたヘルメスによって、急展開に混乱するベルは近くの喫茶店に颯爽と連れ込まれてしまった。
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「ははは。急にすまなかったねベル君。お詫びにここはオレの奢りだから好きに頼んでくれ」
「い、いやっ確かにビックリしましたけど、そんなに気にしないでください!?」
「まあまあそう言わず、これは色々話を聞かせてもらうことに対する報酬でもあるんだから」
「わ、わかりました。えっと、それで話って……?」
「さっきも言ったと思うけど実は今、オレのファミリア、というよりも俺とアスフィは古代の大英雄ゼオンについて調べていてね。英雄譚についてとても詳しいベル君にはぜひ話を聞かせてほしいと思ったんだ」
「その、別に話すのは構わないんですが、僕の知っているのはおじいちゃんが書いてくれた英雄譚なのですが……」
「ああ、それでいいんだ。いや、むしろ
「は、はあ……? それならいいんですが」
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僕が知っているゼオンの英雄譚は、市販されているものとほとんど変わりません、古代の獣人の村に生まれた獅子の獣人であるゼオンは、ある日村を襲撃してきたモンスターの群れによって滅びの危機に瀕します。ゼオンは村を救うため、自ら戦い、重傷を負いながらも村を守り切ります。
その後、村を出て、旅をする中でモンスターと戦う方法を開発しながら数々の人を種族を問わず助けることになります。やがてゼオンは独りでモンスターと戦うだけでなく、旅の商人を助け、戦乱の国に和平をもたらし、時には盗賊や他種族と拳を交えながらも、争いの根本を絶ち、人々を救っていく。その噂はやがて「金獅子の獣人」と呼ばれ、獣人だけでなくヒューマンやエルフ、ドワーフにまで広まりました。
ゼオンは戦いの日々の中で、自分一人だけが強くとも、すべてを守り、救うことは出来ないと気づいていました。だからこそ、己の戦いを「術」として後世に遺そうと考えました。そして積年の探究の末、ついにゼオンは生命力と魔力を融合させ、肉体に宿す技術──「獣霊術」と呼ばれることになる戦闘術を完成させました。『この命を燃やせ。牙を磨け。吠えて、戦え。お前たちの力で、未来を切り開け』そう教えながら、彼は各地の獣人の村を巡り、獣霊術を広めます。最初はゼオンのことを信じなかった者たちも、やがてゼオンの戦いを見て、慕い、学び、共に戦うようになりました。この頃からゼオンは他の獣人たちから「獣王」や「獅子王」と呼ばれることが多くなってきたらしいです。
そして時は経ち、大穴より、10体の強大な漆黒のモンスタ──―『
大地が裂け、空が吠え、数多の獣霊術と獣気が戦場を飲み込みました。ゼオンは一人、黄金の炎を燃え上がらせながら、漆黒の十獣の内6体と激闘を繰り広げ、仲間たちと共に、ついに魔物の大軍を討ち滅ぼし、世界を救ったんです。ただ、市販されている英雄譚だと、獣霊術を完全に極めた結果、完全な精霊になりながらも獣人たちを見守りながら余生を過ごしたとされているんです。ですが、僕の読んだ英雄譚ではゼオンは最後には肉体を王金気に飲み込まれ、精霊へと昇華し、この世から姿を消し二度と人前に現れることはなかったと書いてあったんです。
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「その後、彼の戦いは、獣人たちの誇りとなり、彼の名は、最も偉大な獣人の英雄として世界中で語り継がれることとなったんです! 『かつて、
「……」
「英雄譚としてはここで終わりです。ですが! ゼオン、というよりも古代の獣人族の伝説はこの他にもあり、この大戦でゼオン率いる獣人軍が斃した漆黒の十獣の死骸から──多分ドロップアイテムのことだと思うんですが──作られた十個の武具『
そこでベルは、ようやく気付いた。
目の前の相手は、あの余裕たっぷりな微笑みも、軽口も、どこへやら。ただ、目を丸くしながらポカンと口を半開きにしたまま圧倒されたように、ただただ呆然とこちらを見ている。
「ご、ごめんなさい! なんか僕、一人で熱くなっちゃって……」
先程までの勢いはどこへやら、声が急に小さくなり、熱を帯びていた顔が、今度は別の意味で熱くなる。そのままうつむきかけた時、ヘルメスもハッと瞬きをして苦笑しながら返事を返してくる。
「は、ハハハハハ! いや、ごめんごめん。あまりに熱く語ってくれるからつい聞き入ってしまったよ」
「うぅ……」
「いや、笑ってごめんよベル君。お詫びに、何か聞きたいことがあったらこのオレが答えるぜ」
ヘルメスの言葉にベルは一瞬、戸惑った後、せっかくの機会だと思い直し、恐る恐る尋ねる。
「そ、それじゃあ、その……獣霊術や獣気ってなんで獣人にしか使えないんでしょうか」
ヘルメスは意外そうに眉を上げた後、やがて「ふむ」と顎に手を当てる。
「そっちを聞くとは思わなかったな……英雄譚つながりで神話とかだと思ったけど。いいよ、話そう。あれはね──」
そして、今度はヘルメスが語り始める番だった。ただし彼の語り口は、ベルにわかるように、ゆっくりと、わかりやすく。
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ふむ、まずベル君はこのオラリオで有名な獣人の冒険者を知っているかい? 例えば、【アストレア・ファミリア】のLv.5【
そして、彼らのような高位の獣人は自らの獣性を最大限発揮する【獣化】のスキルを所持している。獣人は本能的に「戦いに適応する存在」だ。戦いの中で恐怖・痛み・死すら「戦意」に転化できる『獣性』という名の本能的な戦闘欲求を持つ。この闘争本能を下地にしたうえで獣気を使うことで獣人は獣霊術を扱うんだ。それに加えて獣人の肉体は古代から代を重ねることで、筋肉・血流・神経などが獣気に適応してきたことでより獣霊術を扱いやすくなってきているみたいだしね。まあ、結論を言うと、獣人以外が獣霊術を使えない理由は、他の種族は理性と対極となる獣性を持ち合わせていない。だから
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「獣人以外は獣性を持たないから、獣霊術を扱えない…」
「ま、なにごとにも例外ってやつはあるけどね。そんな例外に期待するよりも、ベル君はベル君にしかない力を磨くことが一番大事さ。さて、これで満足してくれたかい?」
真剣に耳を傾けながら、少し残念そうなベルにヘルメスはいたずらっぽく笑って、肩をすくめた。
「おっと、もうこんな時間か。あんまり遅いとアスフィにどやされてしまう。ここらで解散といこうベル君」
「あ、ハイ。僕もそろそろ帰らないと神様が心配するかもしれません」
「今日は色々話を聞けて助かったよ。また会おうベル君!」
軽く手を振ってから、ヘルメスは夕暮れの街の中に消えていった。残されたベルは、ふっと息をついてから、静かに空を仰いだ。
「……僕も、僕の道を……か。…よしっ!明日からまた、頑張ろう!」
決意を新たにした彼もまた、ヘスティアの待つ廃協会に駆け出す。
―――夕暮れの光が差す中、ふたりの背中が別々の道を描いて消えていった。
以下用語などの設定
漆黒の十獣(しっこくのとじゅう)
古代の大戦でゼオン率いる一万人の獣人軍が打倒した10体の強大な漆黒のモンスターの通称。当時の生き残り獣人たちが漆黒の十獣のドロップアイテムを回収・加工し、以来代々獣人の戦士・王金気使いに受け継がれてきた。
王牙十神器(おうがじゅうしんき)
漆黒の十獣のドロップアイテムから作られた武具の総称。王金気を操れる者が扱うと、真の力を発揮する伝説の神器群。各神器は使用者の獣気と共鳴し、獣霊術の発動を大幅に強化する。獣霊顕現時、王金気に染まることで「漆黒の十獣」の姿を模した獣気が肉体に纏わりつき、本能と獣性がさらに高まるため、王金気を完全に扱える者のみが理性を保てる。さらに漆黒の十獣それぞれの生前の力が使えるようになる。顕現時は黒い獣気と王金気が混じりあい、黄金と黒のオーラを纏う。現在のオラリオには【蛇盾ナガルシア】【鹿槍スタグナード】【竜剣ドラクレスト】【亀甲鎧ガメルシェル】【狼刃ヴォルグリム】の5つがあり、【竜剣ドラクレスト】はオッタルが所持、他の4つの武具は王金気の使い手が現れるまでギルドが管理している。
漆黒の十獣×王牙十神器と顕現する部位・形状
獅子型「黒獅子バルグ」
・剣【獅王剣バルグレイヴ】
・肩から獅子の鬣状の炎、背に咆哮する獅子の幻影
鷲型「黒鷲アエルヴァ」
・斧【鷲斧アエルザード】
・背中に羽ばたく翼、腕に鋭い鷲の爪の意匠
蛇型「黒蛇ナガンティス」
・盾【蛇盾ナガルシア】
・盾から蛇がとぐろを巻くように獣気が渦巻く、腕に鱗状の紋様
鹿型「黒鹿スタグルム」
・槍【鹿槍スタグナード】
・頭部に角状の獣気、脚がしなやかに強化
竜型「黒竜ドラクニス」
・大剣【竜剣ドラクレスト】
・背中に翼状の獣気、尾を模した獣気の炎
亀型「黒亀ガメルドン」
・鎧【亀甲鎧ガメルシェル】
・背に硬質な甲羅状の獣気、全身が重厚に強化
虎型「黒虎ティグレアス」
・刀【虎刀ティグラシス】
・全身に虎縞状の光、眼光が鋭くなる
狼型「黒狼ヴォルガルム」
・双剣【狼刃ヴォルグリム】
・頭部・腕に狼の耳と爪状の獣気、機敏な気配
蠍型「黒蠍スコルピオス」
・メイス【蠍鎚スコルディア】
・背に蠍の尾状の獣気、毒の瘴気を帯びる
鰐型「黒鰐クロカダルス」
・籠手&ブーツ【鰐甲具クロガーダン】
・腕と脚が筋肉質に強化、皮膚が鱗状に変化
【獣王ノ炎環(じゅうおうのえんかん)】
かつて「獅子王ゼオン」が、大戦を前にして自らの“力そのもの”を封じ込めた秘宝。ゼオンの【プライド・キングダム】と獣霊術の炎を一つの宝具に凝縮し、「いつか再び、世界が破滅に瀕したとき、獣人たちを鼓舞し、導くため」に遺された。
現代ではその所在が失われ、ただ伝説と英雄譚の中にのみ語られていたが、実は【ヘルメス・ファミリア】の主神、ヘルメスが探し出し、「時を待つ切り札」として密かに保持している。ヘルメスがアスフィに頼んだ仕事はこの秘宝の解析。
・見た目
黄金と赤銅色が交差する獅子の頭部を象った掌大のメダリオン。獅子の顔は口を開け、炎が固まったような真紅の宝石がはめ込まれており、中に黄金の炎が揺らめいている。
・効果:大規模二重強化
1.ゼオンの大群強化魔法【プライド・キングダム】の再現
2.ゼオンの獣霊術による黄金の炎の付与
この世界線では、世界勢力の一つに神の恩恵を持たず獣霊術を使い各地でモンスターを討伐しながら旅をしている獣王ゼオンを信奉する獣人の集団「殲獣の旅団」が存在し、その団長はLv.6級の実力者と言われている。また、この団長が【虎刀ティグラシス】所持し使用も可能である。
・ヘルメスがベルに話を聞きたがったのはベルの祖父があの大神で、ベルの読んでいた英雄譚が原典となる本だから。そう思って話を聞いたら、思ったより強火なベルの英雄スキーが出てきてビックリした。
・ヘルメスの言う例外
実は『殺す』ことと『喰う』ことは同義という考えを持っており、神饌恩寵(デウス・アムブロシア)という万物を食らうスキルを持っていたザルドと獣霊術の相性はかなり良く、ヒューマンでありながらも王金気と獣霊顕現までも使いこなした。原作7年前の「大抗争」の際にはオラリオの外で【亀甲鎧ガメルシェル】を見つけ出し、これを装備して襲撃した。オッタルはこのスーパーザルドに勝つために王金気と獣霊顕現に覚醒して、【竜剣ドラクレスト】を使用した獣霊顕現によって何とか辛勝した。
・この世界ではアストレア・ファミリアはほとんどが生存しており、獣霊術を使うネーゼは第一級冒険者になっている。
・この世界は獣人が原作よりも強いため、ベートの部族が襲われた際も、レーネは死んでしまったが、部族の数人と妹は生き残れた。また、獣霊術によって強さが原作よりも上のベートは、自分の部族を襲った竜を原作よりも早く倒しオラリオに帰還したことでセレニアを失うことにはならなかった。部族か完全に滅ぼされず、妹と恋人も生きているため、原作と思いはあまり変わらないまま綺麗なベートが誕生した。ちなみにベートのレベルは原作開始時にすでにLv.6になっている。
ぶっちゃけ本文よりもこの後書きの部分が書きたくて投稿しました。
続き?もちろん無いよ!