本当にせこい   作:七九六十

1 / 82
原作:第1話ヤクソク~第4話ソウグウ まで

・導入部。個人的に一番きつい回。
・連載当時は「メインヒロインがコレかよ」と一話目でギブアップしました。
・その後「お前、(あたま)楽様(らくさま)かよ」の元ネタをたどって完結を知ったくらい、思い入れのある作品です。


01 - (から) - ヤクソク
01-01 原作第1話


 

 

 

 “男たる者かくあるべし”

 

 地域で有名なヤクザの元締め、集英組。

 その二代目として組員たちから期待されている一条(らく)は、そう育てられてきた。

 しかし体格も良くなければケンカも弱い、そんな自分はヤクザに向いていないと思っていた。

 

「一流大学を卒業して堅実な公務員になって、お天道さんに顔向けてまっとうに生きたい」

 

 早く家を飛び出して、静かに平和に暮らしたい。そう願っていた。

 高校でこそはと思っても家業のために友人を作るだけでも苦労し、一流大学に行くために勉強漬けで彼女はおろか、モテたことすら一度も無い。

 

「……いや、あるか。1回きりだけど……」

 

 首に下げたペンダントを手に取る。

 中央にカギ穴の付いたそれは、10年前の約束の証。

 

ザクシャ イン ラブ(愛を永遠に)

 

『あなたは「(じょう)」を、私は「(かぎ)」を』

 

『肌身離さず、ずっと大切にもっていよう』

 

『いつか私たちが大きくなって再会したら、この「(かぎ)」でその中のものを取り出すから』

 

『そしたら──』

 

『結婚しよう……!』

 

 この(じょう)はまだ、開かないままだ──────

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

「オース、(らく)……ってうわ!?」

「一条君!? どうしたのそのケガ」

 

 凡矢理(ぼんやり)高校1年C組の教室に入ってきた(らく)を見るなり、彼の()()たちが騒ぎ出す。

 それもそのはず、いつもと変わらずボサボサの髪に十字の髪留めを付けた彼は、いつもと違って額から鼻にかけて(あざ)を作り、鼻血まで出ていたのだから。

 

「……はあ? (おんな)通り魔にやられたァ?」

 

 2m以上ある学校の塀を飛び越えてひざ蹴りって、どんな女の子だよ。

 自称『親友』((らく)とは幼稚園時代からの付き合いなので、あながち間違いではない)である舞子(しゅう)はそう言って一切信じることなく興味を失い、今日来るとウワサの転校生が美人らしいと目を輝かせてしゃべりだす。

 金色に近い明るい茶髪にメガネの、お調子者系男子高校生らしいと言えばらしい行動である。

 

「ちょっと待って。今、バンソーコ……」

 

 それとは対照的に(らく)を心配する女子生徒、小野寺小咲(こさき)

 左側だけが長い、濃い茶色の髪を肩口まで伸ばした可愛らしい少女である。

 

 鼻血は止まっているようだが、擦りむいたところには治療が必要だろうと自分の荷物をあさる。

 中学からの()()で、鼻先に絆創膏を貼ってもらって「ケガして良かったかも」なんて考えてしまうような()()である。

 それを見て当然気付いている(しゅう)はニヤニヤしているが。

 

「あの塀なら、マイちゃんも飛び越えてなかった? 足先だけの跳躍(何気なくふわっと)、とかで」

「ん? ああ、あれは飛び乗ろうとして目測を誤っただけだよ」

 

 少し引いた立ち位置で少しおかしな会話をするのは、(らく)の最後の友人たちである。

 一見するとクールそうに見えるが、実際はそうでもない小柄でポニーテール&メガネの宮本るり。

 一見すると黒髪ショートカットの少女に見えるが、実際はそうでもない岬舞斗(まいと)。ちなみに女子のセーラー服を着ているが、違和感がまったく無いため誰も気にも留めていない。どうせクラスの誰かが着せたのだろう。

 2人ともこの世界での脇役(モブ)の証である、左右対称の造形である。

 

「そもそもマイちゃんは空を飛べるよね?」

「塀を乗り越えるくらいなら、自前の筋肉だけで十分だよ」

「足首しか動いてなかった気がするけど?」

 

 そこに小咲(こさき)も加わり、さらにおかしな会話をするこの3人と(らく)は、中学生のころ縁あって友人となりそれが今も続いている。

 ちなみに小咲(こさき)はもちろんだが、残る2人もそれなりにカワイイため一部に人気である。

 そのため男子生徒からの一条(らく)への視線には、強い嫉妬が込められていたりする。

 

「つい最近、入学式だった気がするけど。こんな時期に転校生って珍しいね」

「……家庭の事情(作者の都合)よ、きっと」

「助っ人としての『転校生』なのか、それとも異世界から侵略してくる方なのか。楽しみだね」

 

 本当に、おかしな会話をする3人である。

 

 アフロから(タカ)が飛び出してくるとか、そんな些細なことはどうでもいい。(らく)は今、幸福を噛みしめるのに忙しいのだ。

 

『今日は幸先(さいさき)最悪かと思ってたけど、小野寺に心配してもらえたし案外悪かねーのかも……』

 

 

 

 

 

 登校中に少女とぶつかる。

 そして、転校生のウワサ。

 ごく普通のフラグは、ごく普通のフラグで強化され。

 

 

「初めまして! アメリカから転校してきた桐崎千棘(ちとげ)です」

 

 

 ごく普通の回収をされました。

 

 

「あなたさっきの……」

「さっきの暴力女!!」

 

 

 でも、ただひとつ違っていたのは、転校生は……

 

 

「それが謝ってる態度かよ! この……猿女(さるおんな)!!」

「誰が猿女(さるおんな)よ!!!」

 

 

 猿女(ごりら)だったのです。

 

 

「おお、一条が格ゲーのKOシーンのように宙を舞ってる……」

 

 クラス中が置き去りにされるほどの勢いで言い争う(らく)千棘(ちとげ)

 その締めに繰り出された千棘(ちとげ)の右こぶしは、舞斗(まいと)が思わず(つぶや)いてしまうほど鮮やかに(らく)の意識を奪った。

 

 この時期は暴力ヒロインが猛威を振るっており、もはや見慣れた光景なのだが、それでもあまり気分のいいものではないなぁと思いつつ、舞斗(まいと)は隣の席のるりと共に傍観者の位置取りを行う。

 

「それにしてもアメリカからとは。でもこの時期だと入学? 編入?」

「…………絶対にそこまで考えてないわ(シチュエーションありき)よ」

 

 本当に、おかしな会話をする2人である。

 

「で、桐崎さんは左右対称の金髪ロングだけど、頭のリボンで対称性を崩してると」

「確実に脇役(モブ)ではないわね。まあ『美人の転校生』って時点で主役級(メインヒロイン)でしょうけど」

 

 本当に、おかしな会話をする2人である。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転校初日から実に仲良さげな2人が、実に自然な流れで隣同士の席になった後。

 

「無い!! オレのペンダントが無い!!」

 

 (らく)が突如立ち上がり、己の身体を(まさぐ)ったと思ったら叫び声をあげた。

 何事かとクラスメートから注目を集める中、今度は千棘(ちとげ)と言い争いになる。

 

「ハァ!? なんで私がそんな物探すの手伝わなきゃなんないのよ」

「てめーのひざ蹴りのせいで失くしたんだから、てめーにも責任あんだろ!」

 

『大事な思い出の品というわりによく落とすよね。しかもこの重みが無いと落ち着かないとか言いつつ、無くしても気づかないとか』

『2mの高さからひざ蹴りを繰り出し、「あっごめん、急いでたから」と放置するような人間に責任とか筋を求めるのは、いかがなものだろうか』

 

 思わず(くち)から出そうになった言葉を飲み込む舞斗(まいと)

 そんな自分とは違い、空気の悪い2人へと心配気に近寄り、事情を聞いて手伝いまで申し出る小咲(こさき)に思わず天使の姿を幻視してしまう。本当に良い子である。

 

 ちなみに、舞斗(まいと)はある意味では一条(らく)を尊敬している。

 自分ならとっくに見限って距離を置くような相手に、こうやって正面からぶつかって、最終的には分かり合える男だからだ。

 

「で? どんなペンダントなのよ、それ?」

「あー、このくらいのチェーンの先に、こ~んな形の(じょう)がついた……」

「え、それって……」

 

 まったく無関係の人間が出てきたことに良心の呵責(かしゃく)を覚えたのか、渋々ながら手伝うことにした千棘(ちとげ)

 彼女がペンダントのことを質問したときに、何故か反応したのは小咲(こさき)だった。

 

 このとき(らく)がもう少しそのことに疑問を持てていたらどうなったのだろうか。

 

「……分かった。じゃあそれを探すかわりに、今後私に学校の中で話しかけないって約束してくれる?」

「……は?」

「私、嫌いなのよ。過ぎた事をグチグチ言う男って。そんな器の小さい男とお友達だなんて思われたくないもん」

 

 指を突き付けつつ、畳みかける様に放たれた千棘(ちとげ)の言葉に、怒りで気を()らされていなければどうなっていたのだろうか。

 

「今回もダメだったか……」

「どうかした?」

 

 るりは詳細を知らないため、まして話の終わった小咲(こさき)が2人の下に戻ってきたため、舞斗(まいと)は何でもないとごまかすしかなかった。

 

 

 

 そう、舞斗(まいと)はペンダントのことを、『(じょう)』と『(かぎ)』のことを知っているのである。

 

 無論当事者しか知らない詳細な部分は分からなかったが、おおよその検討が付けられるほどの情報は手に入れていた。

 

 

 

 そもそも男子中学生がペンダントを身に着けている、それも10cm近くの大きなものをとなれば気になるのは当然で、見せてもらうついでに来歴というか(らく)が覚えている範囲のロ~マンチックな思い出も聞いている。

 そうなればちょっと調べてみるかとなって、1人でいろいろと調査したのである。まさかアメリカと中国まで出張することになるとは思っていなかったが。

 

 というのも『誰もこのペンダントを気にしていない』『それどころか当人も気にしていない。大切な思い出を一部とはいえ忘れているのに』という状況に少し怖くなり、G.F.(ガーディアンフォース)をジャンクションした影響とか呪いの品である線も疑いつつ、当事者である(らく)にすら秘密に1人で調べていたのである。

 

 その流れで少々特殊な人たちと縁が結ばれたのは、良い思い出である。

 

小咲(こさき)も、何かあったの?」

「え?! な何にもないよ!」

 

 るりと話す小咲(こさき)を見る。

 彼女は(らく)の『(じょう)』と対になる『(かぎ)』のペンダントを所有している。

 しかし当人はこの2つのペンダントの結びつきに対して確信までは至っていないようで、期待と不安の入り混じった表情をしている。

 

 これまで小咲(こさき)がペンダントに気付く機会(チャンス)は何度もあった。しかしすべて、何かしらの邪魔が入った。

 それがここにきてあっさりと気付いてしまった。桐崎千棘(ちとげ)が現れてすぐに、である。実は本人に自覚は無いが、彼女もペンダントの関係者なのだ。

 

「やっぱ呪いの品だよなあ……」

 

 これからのことを考えて不安になりつつも、せめて小咲(こさき)ちゃんが報われますようにと願わざるを得ない舞斗(まいと)であった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「で、1週間たっても見つからない、と」

 

 いがみ合っていた2人も、毎日放課後に顔を突き合わせていればお互いを理解し仲良くなれるだろう。

 そう思って静観していた舞斗(まいと)だったが。

 

「マイちゃん、どこ行くの?」

「ん? そろそろ桐崎さんが限界を迎えそうだから、代わりに手伝いに行こうかと。

 るりちゃんも行く?」

 

 先ほどクラスの女子が2人の仲をからかうような発言をしていた。

 これを聞き流せるような性格には到底見えないため、恐らくもう無理だろうと判断し代わろうと思ったのだ。

 

「……そうね。小咲(こさき)も居そうだし、傘を持って行ってあげましょう」

 

 暗雲立ち込める、という表現にふさわしい空を見上げて、るりはそう言った。

 

 が、暗雲が立ち込めていたのは空ではなく、地上であった。

 

「フン! 何よ大の男がペンダント1つ失くしたくらいで。

 あんたお気に入りのクマさん失くしたら夜も眠れなくなるタイプ?」

 

 かつてないほどに鋭く、そして完全に敵として(らく)を睨みつける千棘(ちとげ)

 

「どーせ昔好きだった子に(もら)った物とかなんでしょーけど!

 あーやだやだ、昔の事ズルズル引きずって女々しいったら無いわ!!」

 

 今までとは違い、(らく)()()ではなく(らく)()()()()を否定していく勢いに押され。

 そして同じく『昔の事』をズルズル引きずっている当事者かもしれないという意識のせいで、小咲(こさき)も割り込むことができない。

 

「どーせその相手だって、あんたにそんなもんあげた事なんて忘れてるに決まってんのに。

 ホンット、ダサ!! バッカみたい!!」

 

 

 

 

「うるっせぇな!!!!

 だったらもう探さなくていいから、どっか行けよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 桐崎千棘(ちとげ)が転校してきて、そして一条(らく)のペンダントが無くなって11日目。

 これまでとは比べ物にならないほど険悪な2人の空気に、クラス内では余計な物音1つ立てられないような状態が続いていた。

 

 そんな緊張感からようやく解放された放課後、るりは舞斗(まいと)(すが)り付く。

 

「ねえマイちゃん、どうにかできないの?」

「ここまでこじれると……下手に部外者が入ってしまうと、これからずっとこのままになる危険性があるし……」

 

 精神的な疲労の色が見える彼女の背を撫でつつ、ついでにポニーテールの先を(いじ)って自分の回復も行う。

 舞斗(まいと)としても手段を選ばなければ、それこそ千棘(ちとげ)を別の高校に転校させる等の荒業であれば可能だが、一番の解決策が当事者によるモノである以上、何もできない。

 

 救いは千棘(ちとげ)(わず)かばかりではあるが人の心が残っていたことだろう。

 (らく)に見つからないよう、ペンダント探しを続けていたのだ。

 

 直接それを見てしまった小咲(こさき)は口止めされたようだが、(らく)に見つからないよう気を配って他がおろそかになっている千棘(ちとげ)は、その目立つ容姿のせいもあって遠目からでも分かりやすい。普通に校舎から見られていたりする。

 

 そのため状況を察した舞斗(まいと)は、早く千棘(ちとげ)が見つけてくれることを祈るしかなかった。

 

「お?」

 

 ふと窓の外をみると、(らく)小咲(こさき)が立っているのが見える。

 そして離れた位置にはこれまで(らく)の視界に入らないようにしていた千棘(ちとげ)の姿も見える。

 

「あれって一条君? 何か突然倒れたけど」

「ああ、向こうにいる桐崎さんがペンダントを投げつけたようで、それを顔面に受けた一条が倒れたんだよ。

 そして今はペンダントに結び付けられていた手紙を読んでいるようだね。英語だから読めているかは分からないけど」

 

 るりは眼鏡で視力を矯正しているせいか細かいところまでは見えなかったようだが、舞斗(まいと)は一部始終を目撃していた。

 

「……この距離で何でそこまで見えるのよ。相変わらずとんでもない視力……って、大丈夫? 能面のように表情が抜け落ちた顔してるけど」

 

『他人の大事なものをそんな勢いで投げつけるなよ。壊れたらどうするんだ』

『そもそも人に物を投げるなよ』

『というか一条に当たらなかったらまた失くすところだったじゃないか』

『直接渡せないなら担任経由とか……いやアレはダメか』

『この一連の流れで、クズはどう考えてもお前だ』

 

 そんな言葉を無理やり飲み込みつつ、舞斗(まいと)は思った。

 

「scum bastard、って……」

 

 前言を撤回しよう、桐崎千棘(ちとげ)に人の心は無かった、と。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。