本当にせこい   作:七九六十

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04-02 万里花(まりか)登場 導入

 

 

 

「助けてくれ……」

 

 翌日、朝一で(らく)は屋上に関係者を集めた。

 もはや自分ではまとめきれない。情報を共有すれば、誰かがなんとかしてくれるだろう。

 見上げる空が青い。

 

「まず一条と千棘(ちとげ)ちゃん、小咲(こさき)ちゃんが10年前に仲良く遊んでいたと」

「誰も覚えてないけどね」

 

 るりの厳しいツッコミが入るが、事実なので反論できない。

 

「まあ1ヶ月程度だったらしいし、小さな子供の時だと、相手の名前じゃなくてあだ名で覚えていたりもするか」

「一条君が昔、『凡矢理(ぼんやり)のチュパカブラ』と呼ばれていた可能性が?」

「いや宮本、当事者じゃねーからってテキトーなこと言うなよ……」

 

 可能性はあるが、チュパカブラではないらしい。思い当たる節が無い。

 

「で、実はそこに(つぐみ)ちゃんも居た可能性があるんだよね」

「え?!」

 

 当事者ではない舞斗(まいと)から更なる情報が出てきたことに(らく)は驚く。

 ちなみに可能性ではなく確実に居たのだが、彼女は『(かぎ)』を持たない脇役なので一歩引いた表現にしている。

 

「はい。時期的にお嬢とご一緒していた頃ですし、初こ」

「つぐみー?!!!」

 

 千棘(ちとげ)は余計な事を口走りそうになった彼女の(くち)を抑える。

 幸いにも本人()には伝わらなかったようだが。

 

「まあ千棘(ちとげ)ちゃんの日記の話は置いといて」

「日記……?」

「にっ、え?! 何で、え?!!」

 

 なんで日記の話なんて、と首をひねる(らく)

 なんで日記の話まで、とパニック寸前の千棘(ちとげ)

 

 混乱の度合いは千棘(ちとげ)が大きくリードしている。

 小咲(こさき)に頭をヨシヨシと撫でられているので、すぐに落ち着くだろうが。

 

「で、一条が探していた『約束の女の子』に条件が該当し、しかも『(かぎ)』を持っている。

 さらに謎のキーワードを知っていたのが千棘(ちとげ)ちゃんと」

「『ザクシャ イン ラブ(愛を永遠に)』な」

 

 ザクシャなんて他で耳にしないから、何かの聞き間違いかも知んねーけど。

 『人』の記憶が曖昧なので、『言葉』もその可能性があると(らく)は考えていた。

 

「ああ、ザクシャはポーランド語だよ。『Zawsze in love』でポーランド語と英語による造語」

「え?」

 

 そう思っていた矢先に、この発言である。

 

「……なあ、岬。なんでそんなこと知ってるんだ? 普通、ポーランド語なんて気づかないだろ。それにさっきも……」

「覚えてないの?」

 

 (らく)の発言を遮り、舞斗(まいと)が1歩、距離を縮める。

 

「本当に、覚えてないの? 10年前の事」

「……え?」

 

 また1歩、距離が縮まる。

 

「思い出して、()()()()

 

 眼前に顔が迫る。

 鼓動が高まる。

 

 彼より頭一つ分は低い位置から覗き込んでくる、その吸い込まれそうな瞳がトリガーとなって、1つの記憶を思い出す。

 自分たち以外にも、もう1人いた。

 

『らっくん』

 

 そして自分をそう呼ぶ、彼女は──────────

 

 

 

 

 

 

 

「悪質な記憶操作をするんじゃない。一条君も正気に戻りなさい」

「痛っ」

 

 るりの手刀(右)(ツッコミ)が脳天に決まり、(らく)は正気を取り戻す。

 ちなみに手刀(左)(ツッコミ)は、事前に察知した舞斗(まいと)によって優しく受け止められている。

 

「……え?」

「今のはマイちゃんの出まかせよ」

 

 どういうことだと目線を向ければ。

 

「いやぁ、ここに居る6人の内、4人が当事者っていう驚きの展開だったから。

 今なら俺とるりちゃんを追加してもバレないかなー、なんて」

 

 あっはっはー、とお気楽に笑っている。

 もちろんすべてを知った上でネタに走っているだけである。

 

「あ、覚えてないとかじゃなくて、本当に居なかったから安心して。ちゃんとアリバイもあるから」

「アンタは何かの容疑者か」

 

 今度の裏拳(ツッコミ)も止められた。

 

「コ、コイツ……!」

「そっかー、お姉ちゃんは居なかったんだ……」

 

「…………………………ん?」

 

 何か不穏なセリフが聞こえたような気がしてそちらを見やると、ちょっとがっかりした感じの千棘(ちとげ)の姿。

 

 ……いや、きっと気のせいだろう。

 (らく)は話題を変えることにした。

 

「それにしても何で『らっくん』なんだよ」

「いや小さい子供って、(ひね)った付け方よりも『名前の1文字+くん/ちゃん』かなーって思って」

 

 チュパカブラとかじゃなくて。

 

「なるほど。そう呼んでくる女の子の姿がぼんやりと浮かんできたけど、言われてみれば小学校とかで一時期そんな呼ばれ方してたから、そっちの方か」

「…………まさか」

「私じゃないわよ」

 

 舞斗(まいと)からのネタ振りを、るりは即座に否定する。

 

「あれ? でも言われてみると『らっくん』って音に聞き覚えが……」

千棘(ちとげ)ちゃんも? 実は私もそうなんだよね」

「…………まさか」

「私じゃないわよ」

 

 千棘(ちとげ)小咲(こさき)からの再度のネタ振りを、るりは即座に否定する。

 

「つまり、『らっくん』は実在した?」

「マイちゃん、実在したのは『らっくん』じゃなくて、『らっくんと呼んでいた女の子』だよ」

「いや小野寺、オレも実在してんだけど……」

「え、あ、ゴメンなさい!」

 

 (らく)は思わぬところで存在を否定される。

 

「『ひょうたん島からトラヒゲ』というか『嘘から愛と誠』というか、思わぬところでもう1人女の子がいることが分かりましたな」

「マイちゃん、ネタが苦しいうえに古いわよ」

 

 ちなみに舞斗(まいと)は『もう1人』とは言ったが、『最後の1人』とは言っていない。

 

「でも、それだけだと何の手掛かりにもならないのよね」

千棘(ちとげ)ちゃんみたいに転校してきたりして」

「そういえば今日、転入生が来るらしいですよ」

 

 小咲(こさき)の予想を(つぐみ)が補強する。

 そういえば朝のHR(ホームルーム)をすっぽかしてしまったなと、今更ながら気付く一同。

 それどころか授業も始まっていることからは目を逸らす。

 

「……ねえ一条、許嫁(いいなずけ)って今日来るんだっけ?」

「ああ、そうだが。それがど…………まさか」

 

 ここまで来たら、いくら何でも無関係なんてことは無いだろう。

 

「しかも一条の父親(ヤクザの親分)が面倒だという相手か……」

「オレと同じヤクザか?」

「じゃあ私も同じギャングに1票」

「マフィアじゃないの?」

「カモッラかもしれませんね」

「えーと……」

 

 流れ的に自分の順番だとは分かっている小咲(こさき)だったが、適当な言葉が出てこない。

 オロオロする彼女に、救いの手が差し出される。

 

「ほら小咲(こさき)ちゃん、ショッカーとかブラックゴーストとか」

「変なことを教えない」

 

 るりちゃんは厳しい。

 

「んー…………あ、警察」

 

 辺りを見回し何かヒントが無いかと探していたときに、偶然にも奇妙な集団を見つける。

 おそらく転入生の関係者だろう。(らく)千棘(ちとげ)も身内が学校についてきたことがあるので、そういうものだろうと受け入れる。

 

 というか周囲に世界の犯罪組織に関するヒントがある学校とか、嫌過ぎる。

 

「警察関係者か、それとも政治家かしら」

「どっちも嫌だ……」

 

 るりの予想に、(らく)実家(ヤクザ)警察(ヤクザ)の戦争を想像してしまう。

 

「つぐみ、ちゃんと隠しておきなさいよ?」

「はい、お嬢!」

 

 いろいろと()()()()()を隠し持っている(つぐみ)である。警察に目を付けられるのは避けたい。

 

「ねえ一条君。あなたの許嫁(いいなずけ)は、小さい頃からあなたの事を知っていたのかしら?」

「え? ああ、親父のニュアンスだと、そんな感じだったけど」

「そう……」

 

 るりは彼の返答を受けて、しばし考え込む。

 

「ということは、相手は10年前の事を覚えている。

 少なくとも一条君に関することは覚えていて、10年たった今でも結婚していいと思えるほどの事が過去にあった。

 小咲(こさき)千棘(ちとげ)ちゃん、(つぐみ)ちゃんのことまで覚えているかは不明。

 警察を動かせるので、一条君と千棘(ちとげ)ちゃんは実家の事を突かれると弱い、と」

「なんか腕が3本ありそうなくらい強敵(TRI-P OF DEATH)だね」

 

 TRIPのほうでもイケるのがすごいね、などと舞斗(まいと)が意味不明なことを言っているが無視する。

 

「彼女が『10年前に約束した女の子』である可能性があるけど、一条君はその場合、どうするつもり?」

 

 るりが残酷な問いかけを行う。

 かつて小咲(こさき)が答えられなかった問い。

 現在と過去、どちらを取るのか。

 

「…………オレは」

 

 答えが出せない。

 

 小野寺小咲(こさき)と桐崎千棘(ちとげ)に目を向ける。

 

「…………………………オレは」

 

 こちらをまっすぐ見つめる瞳と、不安気に揺れる瞳。

 

 それを見て覚悟が決まる。

 

「オレは、『10年前に結婚の約束をしたから』って理由では、今のその子を好きにはなれない」

 

 目の前に居る2人は、どちらも『現在の』自分が好きな相手だ。

 

「でも、もし『過去のオレとはいえ、10年間も思い続けてくれた子』だったら、その子に対して強くは出れないと思う」

 

 10年は決して軽いものではない。まして16歳の自分たちにとっては、物心ついてからの人生のほとんどと言っても過言ではない時間である。

 

 1人分の人生を背負えるほど、今の一条(らく)は強くはない。

 

「だから千棘(ちとげ)、スマン! お前に迷惑かけることになると思う!」

 

 そう言って頭を下げる()に、()()は答える。

 

「まあそこで毅然とした態度をとる(らく)、なんて想像できないしね。迷惑かけるのもお互い様だし」

 

 

 

 

 

 

 

「だから頑張ってね、(ダーリン)?」

 

「おう、任せろ千棘(ハニー)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの2人、自分たちは抗争を止めるための口実(ニセコイ)だって忘れたのかしら?」

「るりちゃん、空気読んで。せっかくカッコよく締めたんだからさ」

「やっぱり、ヒロインは最初から千棘(ちとげ)ちゃん1人で良かったんじゃないかな?」

「それだと最後の流れは『(ダメな)キャプテン・ラヴ』とか言われそうですね。サブヒロインの方から次々と別れを告げられますし」

 

 

 

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