本当にせこい   作:七九六十

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04-03 万里花(まりか)登場 名乗り

 

 

 

「お~、(らく)。どこ行って……」

(らく)様~~~!! ずっとお会いしたかったですわ~~~!!」

 

 教室に戻ると(しゅう)が声をかけてくるが、それを(さえぎ)って飛び掛かる人影が1つ。

 

「うおおおおなんだぁああ!!?」

「転校生が一条に抱きついた~~!!」

「ちょ、ちょっと待て!! なっ、何すんだいきなり……」

 

 突然の事に動揺する(らく)と、盛り上がるクラスメートたち。

 

「ああ、申し訳ありません、(らく)様! (わたくし)ずっとこの瞬間を夢見て来たものですから……!」

 

 本当はしっかりご挨拶をと思っておりましたが、まさかいきなり焦らしプレイだなんて、そんな。

 

 そう言って(ほお)に手を添え恥じらう見知らぬ少女。どうやら彼女がウワサの転校生のようだ。制服が間に合わなかったのだろうか、凡矢理(ぼんやり)高校のものではないセーラー服に身を包んでいる。

 栗色の髪に花のアクセサリをつけて対称性を崩し、ヒロイン格であるとの主張もバッチリだ。

 

「あ、あの~! 橘さんって、もしかして(らく)のお知り合い?」

 

 先ほど出番を削られた(しゅう)から質問があがる。

 すると転校生の少女からは微笑とともに肯定が返される。

 

「では、改めまして」

 

 コホンと咳ばらいを1つ。

 

「橘 万里花(まりか)と申します。(わたくし)(らく)様の、許嫁(いいなずけ)でございます」

 

 衝撃の自己紹介(こくはく)に教室は再び大盛り上がりである。

 

「どぉ~いう事だ一条ー!!」

許嫁(いいなずけ)とは(まこと)なのかー!!」

「何何これどういう展開!?」

「これって桐崎さんにライバル登場って事!?」

「修羅場!? 修羅場なの!?」

 

 いつぞやの(つぐみ)が転校してきたときのセリフが再び教室を満たす。

 そんな中、冷静に分析する千棘(ちとげ)小咲(こさき)

 

「らくさま、らくさま……んー、聞き覚えはないわね」

「まりか、まりちゃん、まっちゃん……こっちは少しひっかかる気が……」

 

 転校生が使う呼称には心当たりは無いが、名前にはある。

 ということは、この10年の間に心境か性格かが変化したのだろうか。

 

「久しぶりね、タチバナマリカ」

「あら? 桐崎さん?」

 

 少し揺さぶりをかけようと千棘(ちとげ)が声をかける。

 彼女は昔から変わらぬ特徴的なリボンをしているため、小咲(こさき)がやるよりも効果があると踏んでのことだ。

 当時の呼び方が分からなかったので、この場面であれば不自然ではないだろうとフルネームで呼びかける、なんて小細工まで(ろう)する。

 

 その甲斐あってか名乗ってもいないのに『桐崎』と返してくる。

 やはり彼女は昔のことを覚えている。

 

「一条君、一条君」

「小野寺?」

 

 その間に小咲(こさき)(らく)へと情報を共有する。

 

 そして揺さぶりをかける者がもう1人。

 

「本田さん、やっほー」

 

 誰も居ない空間に向かって、ひらひらと手を振る舞斗(まいと)の姿。

 何をやっているのだろうかと周囲が(いぶか)しむ中。

 

「お久しぶりです、岬様」

 

 突如、黒スーツの長身の女性が姿を現す。

 

「え?! 誰、というかどこから?!!」

 

 彼女は 万里花(まりか)の護衛であり、普段は物陰に身を隠している。

 行間とかコマ割りによる隙間とか、隠れる場所は案外多いものである。

 

「え、本田、ぇえっ?!!!」

「以前、ちょっとした縁がありまして仲良くなりました」

 

 表情を変えることなく冷静に返される。

 舞斗(まいと)と両手を合わせて仲良しアピールも込みである。

 

 あの本田がこんな簡単に居場所を見破られるなんて。

 しかも知り合いだなんて。

 それも『様』を付ける間柄。

 そして彼女がこの場に居ても驚いていないということは……

 

 まさかの出来事に、万里花(まりか)は動揺している。

 

 ちなみに舞斗(まいと)(つぐみ)のときと同様に『マイちゃん様』を定着させようとしたが、失敗している。一回しか呼んでもらえていない。

 

「それにしても、アナタは変わったわね」

「と、当然です!

 (らく)様が『髪が長い女の子らしい女の子』が好みだというので、髪を伸ばして言葉遣いも直して、今まで嫌がっていた習い事やお稽古も進んで受け、(らく)様の求める理想の女性へとならんがために邁進したのですから!」

 

 そのタイミングでの千棘(ちとげ)の攻撃に、思わず口数が多くなってしまう万里花(まりか)

 その姿は10年の努力による自信に満ちていたが、同時に不安も内包していた。

 

 そして分かったことがある。

 『当時は髪が短くて』『言葉遣いに特徴があり』『お稽古と呼ばれる類のもの受けるような家柄』

 それを手掛かりに、記憶を呼び起こす。

 

 

 

『なぁらっくん。らっくんは、どがん女の子が好きと……?』

『ん~、よく分かんねーけど、まあ女の子らしい人、とか? たとえば髪が長いとか』

 

「あ、お前、まさか……!!」

 

 屋上での会話と合わさって、1つの情景が浮かび上がる。

 

「マリー……?」

(らく)様……!!」

 

 彼の言葉に、思わず首元に抱きついてしまう。そして涙まで出てくる。

 

 10年も想い続けて来たのだ。

 それなのに、当の相手(らっくん)自分(マリー)の事を忘れていた。

 事前の調査で判明したその事実は彼女を酷く打ちのめした。

 

 彼にとって、自分はその程度の存在だったのだろうか。

 自分の10年は無駄だったのだろうか。

 

 そう弱気になる心を叱咤し、震える脚に力を込めて、彼女は(らく)の前に立っていたのだ。

 

 

 それが、この短時間で思い出してくれた。

 (らっくん)の中で(マリー)は生きていたのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「一条君が昔の女を思い出すって、相当レアなんじゃないかしら」

「るりちゃん、空気読んで。感動のシーンなんだから」

「結局、ここ以外は最後まで思い出してなかったような……」

「その点に関しては、私たちも似たようなモノでしたけどね」

 

 

 

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