本当にせこい   作:七九六十

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04-04 万里花(まりか)登場 保健室送り

 

 

 

 しばらく経って。

 さすがにこの状態を何とかしなければと、脳みそをフル回転する(らく)

 

「お前って、体が弱かったんじゃなかったか?」

「あら、そういえば」

 

 ふと(くち)にした彼のセリフ。

 小さな頃の彼女は病弱で、ほとんどベッドの上にいた記憶がある。

 

 ハッとした表情の万里花(まりか)であったが、おもむろにへたり込む。

 

「どうしましょう。興奮してしまったせいか目まいが……」

 

 うるんだ瞳で見上げてくる。

 

(らく)様、どうか(わたくし)を保健室まで連れて行って下さいませんか?」

 

 ぜひ2人きりで、という発言を加味せずとも、胡散臭さが凄い。

 

「ん? ……そうだな」

 

 しかし同時に、なんとなくそれだけではない。よく見ると少し呼吸が乱れていることに(らく)は気付く。

 

「一条、どれ使う?」

「ん?」

 

 舞斗(まいと)の声に振り向くと、運搬用の道具がズラリ。

 

 担架。

 まあ病人なのだから正しいが、少し大げさではないだろうか。

 

 車椅子。

 これも病人には使えるが、階段が少し厳しい。

 

 背負子。

 これなら段差も超えられるが、病人にはちょっと。

 

 長めの棒とロープ、そして焚き火セット。

 どこからともなくドンドコドンドコと太鼓の音が聞こえてくる。

 

「さ、さあ橘、早く行こう!」

「あっ、そんな強引な」

 

 慌てて万里花(まりか)の手を引き歩き出す。

 続くキャスター付き拘束具は見なかったことにした。

 

 

 

 

 

「ありがとうございます、(らく)様。おかげで気分も良くなりました」

「……そりゃどーも」

 

 保健室のベッドに腰掛けた万里花(まりか)がお礼を述べる。

 『早く』と言いつつも、自分を気遣った速度で手を引いてくれたことに喜びを感じる。

 

「さあ(らく)様、ようやく2人きり……というには多いですね」

「あ、お構いなく」

 

 関係者である千棘(ちとげ)小咲(こさき)だけでなく、舞斗(まいと)・るり・(つぐみ)ももちろん居る。

 

 この中で後半の3人については問題ない。お茶を片手に静観の構えだ。茶請けに羊羹(ようかん)まである。

 ただ何でその中に本田も混ざっているのか。あなたは生徒じゃないから見えるところに居ちゃダメだし、そもそもコッチ側でしょうに。

 

 最大の強敵(ライバル)と予想していた小野寺小咲(こさき)は、不気味な沈黙を保っている。

 いや、『万里花(まりか)ちゃん久しぶりー』と言いながら手を振っているので、沈黙はしていないか。

 

 問題は……

 

「昔みたいに『ちとげおねーちゃん』って呼んでいいのよ?」

「そげなこつ、一度も言うたことは無か!」

 

 実は『ちとげしゃん』と呼んでいた若かりし頃の自分を思い出し、動揺のあまり方言が飛び出す。

 

「……桐崎さん、あなた随分と変わりましたわね」

「よんどころない事情があってね」

 

 舞斗(おねーちゃん)に日々鍛えられた(あそばれた)結果である。

 

「まあ、それはともかくとして」

 

 コホンと咳ばらいを1つ。

 

「さあ(らく)様ようやく2人きりになれましたね式の日取りなどいかが」

「式!? いやいやちょっとタンマタンマ!! いきなり何の式だよ、しかも2人きりじゃねーし!!」

 

 勢いで押すことにした万里花(まりか)

 

「強いわねこの子……」

「見た目に反して力押し派(のうきん)なんでしょうか」

 

 千棘(ちとげ)にお茶を差し出しつつ、(つぐみ)がちょっと失礼なことを言っている。

 ちなみに万里花(まりか)の学業に関する部分は割と壊滅的だったりする。

 

「いやですわ(らく)様、式といえばもちろん結婚式に決まってるじゃないですかー」

 

 なんせ(わたくし)たちは10年前からの許嫁(いいなずけ)ですしー。

 赤くなった(ほお)に手を添えて万里花(まりか)はそう答える。

 

「……橘。いや、ほんとスマン。悪いのはウチの親父なんだが、それでもやっぱりスマン」

 

 非常に申し訳ないことだが、と(らく)は続ける。

 

「親父から許嫁(いいなずけ)がいるって聞いたの、実は昨日の夜なんだ……」

「……は?」

 

 恨むならオレの親父を恨んでくれ。(らく)はそう切に願う。

 

 確かに許嫁(いいなずけ)は本人の同意なく、親が勝手に決める物なので有効と言えば有効だろう。

 しかしこの10年間、許嫁(いいなずけ)として認識されていなかった、というのはショックである。

 

「い、いえ、まだです! まだ(わたくし)にはこれがあります!」

 

 万里花(まりか)が懐から取り出したアクセサリ。

 それは『(かぎ)』の形をしていた。

 

「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ! われこそは九州は橘───」

「あんたまでボケ始めると収拾つかなくなるから止めなさい!」

 

 本当に収拾がつかない。どうしたものか。

 

「と、とにかく! (わたくし)(らく)様と結婚の『約束』をしています! この『(かぎ)』が証拠です!」

 

 これであと160話は戦えます! と息巻く万里花(まりか)

 しかし戦い抜いた先に待っているのは、地獄である。

 

「な、なんで橘まで『(かぎ)』を……?!」

「え?」

 

 (らく)の反応が彼女の予想と異なったために、少し驚く。

 まさか『(かぎ)』のことを正確に覚えていない?

 

「コイツの『(かぎ)』は千棘(ちとげ)が……まさか」

 

 橘と千棘(ちとげ)の『(かぎ)』はデザインが異なる。

 10年前のあの場所に居た2人が持っているのだ。もしかしたら残りの2人、小野寺とつぐみも持っているのか?

 そう思って(らく)は彼女たちに向き直る。

 

「……うん。持ってるよ」

「なっ?!」

 

 胸元から小さなアクセサリが現れる。

 

「やっと、気付いてくれたんだね」

「なんで……」

 

 先の2つとはデザインが異なる『(かぎ)』が、確かにそこにある。

 

「なんで……なんで、岬が持ってんだよ?!」

「あれ? え?」

 

 これには橘万里花(まりか)もビックリである。

 

「一条、よく思い出して。俺は『あの場所には居なかった』とは言ったけど、『結婚の約束をしていない』とか『(かぎ)を持っていない』とは、言ってないよ?」

「た、たしかに……」

 

 万里花(まりか)としては何が何やらさっぱりな展開である。

 

「まさか、お前も……」

 

 その問いに、舞斗(まいと)は微笑みで返す。

 

 場に、緊張が満ちる。

 

 

 

 

「まったく……」

 

 るりが呆れた様子でため息を1つ、同時に舞斗(まいと)から『(かぎ)』を奪い取る。

 

「え、おい」

 

 突然の行動に、(らく)は頭が追い付かない。

 

 皆に見えるよう『(かぎ)』を掲げたるりは、持ち手をペコっと押し込む。

 なんと、先端が3色に光りだしたではないか! ピロピロと音まで出して!

 

「………………え?」

「今のはマイちゃんの出まかせよ」

 

 どういうことだと目線を向ければ。

 

「いやぁ、林間学校で千棘(ちとげ)ちゃんの『(かぎ)』を見たとき、2本あったらおもしろいだろーなーって思って。

 近所の雑貨屋でそれっぽいヤツがあったから、仕込んでおいたんだよね」

 

 あっはっはー、とお気楽に笑っている。

 もちろんすべてを知った上でネタに走っているだけである。

 

「あ、『持っていないとは言っていない』けど、それは『持っている』ことにはならないから注意してね。ちゃんと言葉の意味を捉えないと危ないよ?」

「アンタは何かの詐欺師か」

 

 今度の鍵で刺突(ツッコミ)も止められた。

 

「コ、コイツ……!」

「さすがはお姉ちゃん。参考になるなー」

 

「…………………………ん?」

 

 何か二重の意味で不穏なセリフが聞こえたような気がしてそちらを見やると、ちょっと感心した様子の千棘(ちとげ)の姿。

 

 ……いや、きっと気のせいだろう。

 (らく)は話題を変えることにした。

 

「さて、橘…… 橘? おーい?」

「……ハッ?!」

 

 ちょっと展開に振り回されている万里花(まりか)を再起動し、(らく)は話を戻す。

 

 咳払いなんてしつつ、可能な限り真面目な空気を作り出す。

 

「…………オレはこの10年で、いい意味でも悪い意味でも、変わってしまった」

 

 10年間変わっていない、胸に下げたペンダントを握りしめる。

 

「新しい出会いがあって、その人たちに影響を受けて。

 オレはもう、10年前に好きだと言ってもらえたオレじゃないんだ」

 

 一条(らく)は、『らっくん』ではない。

 10年も想い続けてくれた女の子に告げるには、酷なセリフである。

 

「だから橘も、10年前に『約束』したってだけで、オレなんかに……」

(わたくし)は、(らく)様が好きなんです」

 

 万里花(まりか)は彼の言葉を遮る。

 

「10年前に『約束』したから好きなんじゃなくて、好きだから『約束』したんです。

 そしてそれは今も変わらず、10年たっても好きなんです」

 

 『約束』が心の支えになったのは確かだが、それだけでは10年も頑張れない。

 

「それに『変わった』というなら、(わたくし)もあなたのために変わりました。

 『出会い』と言うなら、今日(わたくし)はあなたと出会いました」

 

 あの時から成長した、今の(わたくし)を好きになって欲しい。

 

「だからあなたのために素敵になった今の(わたくし)を、もっと見てほしい、見せつけてやると、そう決めました」

 

 千棘(ちとげ)のほうをチラリと見た後、(らく)にまっすぐ向かい合う。

 

「もう(わたくし)からは、目を()らさせませんわよ?」

 

 そう言った万里花(まりか)の微笑みには、10年分の彼女の魅力が詰まっていた。

 

 

 

 

 

「……まったく、とんだ強敵(ライバル)が現れ……ん?」

 

 千棘(ちとげ)がそう言いながら近づくも、万里花(まりか)が先ほどの笑顔のまま動かない。

 

 笑顔で固まったまま、動かない。

 

「まりかー?」

「橘? ……え?」

 

 (らく)も様子が気になって声をかける。

 すると突然、万里花(まりか)が倒れてしまう。頭から湯気を出し、目をグルグルと回している。

 

「……お嬢様のお体が弱いのは確かですが、今回のは関係ありません。オーバーヒートしただけですね」

 

 途中で限界を迎えていましたが、決め台詞が間に合って良かった。

 彼女を診察した本田はこのままベッドで寝かせておけば大丈夫でしょうと周りに説明しつつ、そんな事を考えていた。

 

「……岬様。これからもお嬢様の事をよろしくお願いいたします」

 

 そう言って頭を下げる彼女に、驚いた(らく)が声をあげる。

 

「止めないんですか? おそらく、いや絶対に今回の原因はコイツですよ?」

「……体調に配慮していただけるのはありがたいですが、体調を理由に遠慮されるのは、淋しいですからね」

 

 小さい頃から万里花(まりか)を見守ってきた、そして彼女の抱える問題を知っているが故に、本田はそう(くち)にしてしまった。

 

「本田さん、()()()だよ」

 

 舞斗(まいと)の言葉に、彼女は再び頭を下げるのだった。

 

 

 

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