本当にせこい   作:七九六十

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04-05 万里花(まりか)登場 残

 

 

 

 保健室から教室に戻る途中、小咲(こさき)は最後のやり取りで気になっていた疑問を(くち)にする。

 

「ねえ、マイちゃん。以前言ってた『助けたい女の子がいる』って、もしかして……」

 

 その言葉に一行の足は止まり、視線は舞斗(まいと)へと集中する。

 

「……その子の家庭は、とんでもない問題を抱えていてね。

 誰もその子を助けようとしないのなら、俺が助けてやるって意気込んでいたんだけど」

 

 特に隠すようなことではないため、舞斗(まいと)は話を続ける。

 

「その(くち)ぶりだと、もしかして助けられなかったのか……?」

「原因となっている家庭環境を強引に変えるって意味であれば、すぐにでも助けられるんだ。

 でもそれだと根本的な解決にはならなくてね」

 

 最大の問題は、彼女が今の環境を受け入れていることにある。

 しかもそれが諦めによるものだというのが、解決を難しくしているのだ。

 

 もしこのまま環境を変えてしまえば、次はそちらの環境をただ受け入れるだけになってしまう。

 彼女に必要なのは、『自分の意思』なのだ。

 

「年内には下準備が終わって、いつでも助けられるようになる。あとは切っ掛けだけなんだ」

 

 この特殊な家庭環境は、彼女の家が何百年と続く歴史を持っていることに基因している。

 それだけ影響が根深く広範囲に達しているのだが、代わりに情報が集めやすい。

 関わる人間が多い分、それぞれが持つ情報を比較して精査しやすいのだ。

 

 そこから見えてくる『過去』と、そこから推測できる『未来』。

 おそらく最大のチャンスが、もうすぐ訪れる。

 

「………………なあ、岬。オレに手伝えることってあるか?」

「え?」

「いや、いつも世話になってるからってわけじゃないけど、何か手伝えたらなって」

 

 (らく)はそう言って、照れ隠しに指で(ほお)をかく。

 普段から助けられていることへの恩返しをしたいという気持ちはもちろんある。

 それだけではなく、自分が役に立てるのかは分からないが、友人の(ちから)になりたいのだ。

 

「お姉ちゃん、私も手伝う!」

「もちろん私も手伝うよ」

 

 続いて千棘(ちとげ)も声を上げ、小咲(こさき)たちも同意する。

 彼女たちも同じ気持ちなのだ。

 

 舞斗(まいと)にとってこれはありがたい申し出である。

 自分だけで実行するより、皆が協力してくれたほうが大きな効果が見込めるのだ。

 

「……じゃあ、頼らせてもらおうかな。ただし、みんなが思うような形じゃないけど」

「いや、何させる気だよ」

「だって、一条って計画通りに人を助けるってできそうにないし。

 絶対にその場の勢いで行動するし、しかもその方が上手くいきそうなのがまた」

 

 だから事前に知らせずに、全員まとめていきなり巻き込む形で参加させてしまおうかと。

 

 そう笑いながら告げられると、少し不安になってくる。

 

「……それで大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。フォローは完璧にやるから、絶対に成功させる」

 

 その自信はどこから来るのかと問いたいが、まあ大丈夫なのだろう。

 なんだかんだと今までの実績が証明している。

 

 それぞれ付き合ってきた時間は違えど、全員が同じように信頼を寄せているのだ。

 

「期待してるよ?」

「……お手柔らかに頼む」

 

 (らく)の表情が少し硬い。

 今は女性陣のように『がんばるぞー』と(こぶし)を振り上げるくらいで丁度よいのだが。

 どうせまだまだ先の話である。

 

「一条君は()()()()()空気が読めないのよね」

「一条様は()()()()()不器用ですからね」

「おいコラ、『良い意味で』と付ければ何言っても許されるわけじゃねーぞ」

 

 るりと(つぐみ)に言われずとも自覚はあるのだが、それはそれとしてツッコミは入れる。

 

「じゃあ『良い人なんだけど』だったら?」

「それはホントやめて」

 

 小咲(こさき)が言ったら致命傷になりかねない。

 

 

 

 (らく)(いじ)りながらも教室への歩みを再開する一行。

 そんなこんなで彼らは(きた)る決戦の日に向け、準備を進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「あれ? 一条、何かあったの?」

 

 翌日。

 朝から全身で疲労困憊を主張する(らく)に、舞斗(まいと)が声をかける。

 

「……昨日、放課後に橘を見舞いに行ったときに、そのまま家まで送っていくことになってな……」

「いきなり相手の家とか、展開早いね」

 

 許嫁(いいなずけ)なのだから、それが普通なのかもしれないが。

 

「しかも親父さんが居た……」

「わーお」

 

 見た目がヤクザよりおっかない警視総監ってなんだよ……

 

 ちょっと精神的疲労が漏れてしまう。

 

「ただまあ、千棘(ちとげ)の親父さんと橘の親父さん、2人に立て続けに会って。それで少し思うことがあってな」

 

 ちなみに舞斗(まいと)はこの2人と面識があったりする。

 相手が覚えているかは別だが。

 いや、おそらく覚えてはいないだろうが。

 

「2人とも、自分の娘のことを心配して、そして信じてた。その姿が、なんかカッコよかった。

 それに比べて、ウチの親父のダメさ加減が、ちょっと……」

 

 娘と息子の違いかも知れねーけど、もうちょっと、こう……

 

 そう(くち)にする彼には言えない。

 

『大丈夫。君等4人の母親も呆れるほど酷いから。俺の両親も同じくらい酷いから』

 

 舞斗(まいと)はその言葉を飲み込み、(らく)の愚痴に付き合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

小咲(こさき)ちゃん、お誕生日おめでと~!」

「おめでとー」

「おめでとうございます」

「ありがとう、マイちゃん、るりちゃん、つぐみちゃん!」

 

 千棘(ちとげ)の誕生日から一週間ほど経つと、今度は小咲(こさき)の誕生日が来る。

 当日は家族と過ごすので、その前後どちらかの週末に舞斗(まいと)の家で毎年誕生会を開いているのだ。

 今年からは(つぐみ)も参加しており、4人でのお祝いとなる。

 

「~♪」

 

 ご満悦の小咲(こさき)であったが、それを見る舞斗(まいと)は少し複雑である。

 

『来年こそは一条を入れて4人になるのかな』

『無理ね』

『る、るりちゃんひどい!』

『それとも、ワタシ彼と2人きりで過ごすから、なんて言うのかしらね』

『うぅぅ』

 

 同じ4人でも、意味合いが異なる。

 

「マイちゃん」

 

 そんな彼の心情を察したのか、小咲(こさき)が顔を寄せてくる。

 

「私、幸せだから」

 

 無理をしているわけではなく、自棄(やけ)になっているわけでもない。

 自分は、新しい道を進んでいるから。

 

 彼女はそう伝えてくる。

 

「そんな小咲(こさき)にプレゼント~」

「え?」

 

 るりはそう言って舞斗(まいと)の髪にリボンを結ぶ。

 

「名付けて『プレゼントはワタシ』作戦」

「わー、ありがとう、るりちゃん!」

「ほほう、そう来たか」

「あ、私のときもぜひお願いします」

 

 いい仕事した、と言わんばかりの彼女だが。

 その油断が命取り。

 

「まさか、ネタが被るとは」

「え?」

 

 どこからともなく取り出されたリボンで、るりは後ろ手に拘束された。

 

「名付けて『プレゼントはワタシ』作戦」

「わー、ありがとう、マイちゃん!」

「え?」

「まあこうなりますよね」

 

 あっという間に前方を小咲(こさき)、後方を舞斗(まいと)に挟まれ、るりは思考が追い付かない。

 (つぐみ)が周囲のモノを片付けてスペースを広げる。

 

「ま、待って小咲(こさき)! こんな明るいうちから、んっ」

「ふふっ、るりちゃんカワイイ」

 

 小咲(こさき)ちゃんが楽しそうで何よりです。

 るりちゃんも嬉しそうで何よりです。

 

 舞斗(まいと)はそう、しみじみと思うのだった……

 

 

 






鬼丸「『10年前に約束をしたこと、(かぎ)を持っていることを打ち明けた千棘(ちとげ)ちゃん』」

鬼丸「ずっと待っていた展開なのに、どうも気が晴れん」

鬼丸「万里花(まりか)の病弱な描写の影響か……
   そのせいでどうしてもワシの母ちゃんを思い出しちまって、
   あれ以降万里花(まりか)の事を見る目が……」

鬼丸「ワシはどっちを応援すれば……」


横綱「グダグダとうるせぇ野郎だな!」


横綱「何を迷う必要がある。両方かわいいで応援すればいいじゃないか。
   確かに最終的に選ばれるのは1人だ。フラれた()は悲しい思いをするだろう」

横綱「だが大切なのは『課程』だ。
   たとえフラれたとしても、描写次第では本命よりも魅せる事ができるからな」

横綱「だから無理に肩肘張るな」

横綱「俺たちはその『課程』を、推しを応援しつつ手の平大回転で楽しみゃいいんだよ」


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