本当にせこい   作:七九六十

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01-02 分岐点

 

 

 

 いろいろなものに決着がついた翌日。

 

 この日は土曜だったため朝から家業の和菓子屋を手伝っていた小咲(こさき)は、午後になると舞斗(まいと)の家に向かっていた。(らく)のペンダントを見て確信を深めるも、いざとなると本人に伝えることができず、このままではダメだと思い相談するつもりなのだ。

 るりも恐らく居るはずなので、2人であればきっと助けてくれるという信頼があった。

 

「あれ? 一条君?」

 

 予定より少し遅い時間に家を出た小咲(こさき)だったが、途中の公園でベンチに座る(らく)を見つける。

 こちらには気づいていないだろうと思い、いきなり声をかけて驚かそうと近づくも。

 

「あ───……のデ……小野寺……のに」

「……え?」

 

 急に名前を呼ばれ、逆に驚かされてしまった。

 何故か(らく)の方も驚いていたが。

 

「どうしたの一条君、こんな所で」

「どうしたって……小野寺こそなんでこんなとこ……」

 

 小咲(こさき)に会った衝撃で思考が止まりかけている(らく)に、さらなる追い打ちが迫る。

 

「ダ~リ~ン!! お待たせ~~!!」

 

 ヤケクソのように甘えた声で千棘(ちとげ)がやってきたのだ。

 しかも分かりやすいほどに着飾っている。

 

「ゴメンね~! 思ったよりずっと時間かかっちゃって~えぇ~~……」

 

 

 

 

 

 完全に空気が死んだ。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「桐崎……さん? え……? 今、一条君の事……“ダーリン”って……」

 

 ようやく再起動した小咲(こさき)は、ゆっくりと状況を飲み込んでいく。

 

「え~と、その……ダーリンてことは、つまり……」

 

 (らく)にとっては最悪の事態である。

 よりにもよって思い人に、一番されたくない誤解が生まれようとしている。

 

「2人は、その……付き合って……?」

 

 しかし(らく)にはどうすることもできない。

 

 2人は付き合ってはいない。これは正しい。

 しかしラブラブの恋人同士でなくてはならない。

 

 (らく)の実家は集英組(ヤクザ)

 千棘(ちとげ)の実家はビーハイブ(ギャング)

 この2つの武装勢力による抗争を止めるための『2人はラブラブ』という嘘(ニセコイ)を、止めるわけにはいかないのだ。

 

「そっ、そーなのよ~~!! 実は私たち、付き合いたてのラブラブカップルなの~~!!

 もー彼ったら私にぞっこんで~~!!」

 

 千棘(ちとげ)(らく)の腕に抱き着き、これまたヤケクソのようなテンションで言い放つ。

 彼と小咲(こさき)の関係をただのクラスメートだと思っているため、演技を続けることを選択したのだ。

 

「は、はぁ~?? 別にぞっこんじゃねーし……

 つかこいつが勝手に言ってるだけだし……」

 

 しかしあまりの状況に混乱の極致にある(らく)は演技を忘れてしまう。

 目をグルングルンと回し、頭からは蒸気を出している。

 

「さっきもね~? ダーリンとおいしい食事してきてね~?」

「べ、別にオレ食いたくなかったし……こいつが肉、食いたいって言うから……」

「!?」

 

 キャロリ~ンという謎の効果音と共にどうにか演技を続けようとする千棘(ちとげ)と、否定しつつも『相手のわがままを受け入れるほどの仲です』とのアピールになっていることに気付かない(らく)

 ただし日本語のニュアンスに慣れていないのか、千棘(ちとげ)には『否定した』というようにしか伝わらなかったようだが。

 

「彼ったらいつも週末に~映画に誘ってくれて~!」

「た、たまたまチケット持ってただけだし……ホントは1人で観たい派だし……」

「!!??」

 

 怒りのせいなのかキラリ~ンと効果音を変えつつ『いつも週末に映画へ誘う、付き合いたてのカップル(初対面から2週間)』という明らかに時系列のおかしい演技を続ける千棘(ちとげ)と、『1人で観たい派にもかかわらず、一緒に行くほどの仲です』とむしろ強い肯定になっていることに気付かない(らく)

 ただし日本語のニュアンスに慣れていないのか、またしても千棘(ちとげ)には『否定した』というようにしか伝わらなかったようだが。

 

「む、むしろ……こんな、映画館でよだれ垂らして寝るような女……」

「んが!!?」

 

 さすがにこのセリフには怒りが限度を超え、(らく)の足をヒールで踏み抜いた後に千棘(ちとげ)は立ち去ってしまう。

 

(し、しまった……テンパりすぎてつい否定を……)

 

 足先に発生した痛みによって正気を取り戻した(らく)だが、既に手遅れだった。

 こっそりと2人を監視していたビーハイブの大幹部(クロード)が疑惑を確信に変えていたりする。

 

「あ、あのな小野寺……」

「……分かってるよ、一条君」

 

 葛藤の末に事情を打ち明けようと言葉を絞り出す(らく)

 しかしもう1つ、手遅れなことが発生していた。

 

「もう言わなくても大丈夫だよ。私はちゃんと分かってるから」

 

 分かってくれた、と顔を上げた(らく)を迎えたのは、いつもの小咲(こさき)の笑顔。

 

「そんなに否定することないよ。いくら()()()()でも、そんなに言われたら桐崎さん、かわいそうだよ」

「は!!!?」

 

 (らく)の想いは届いていなかった。

 が、言葉はしっかりと届いていた。

 

「あ、ゴメン! デートの途中だよね!」

「あ……いや……」

 

 その場を離れようとする小咲(こさき)(らく)は慌てる。

 もはや事情をすべて説明する時間はないが、このまま別れるのは不味い。

 

「……1つだけ、聞いてもいいかな……」

 

 会話をつなげるために、必死で探した話題。

 会話の流れ的に唐突過ぎるが今なら2人きりで丁度いいと、胸元からペンダントを取り出し小咲(こさき)に問う。

 

「このペンダント、昨日見た時よりも前に、どっかで見た事とかねぇかな……?

 たとえば、子供の頃とか……」

 

 昨日、ようやくペンダントが手元に戻ったときに、横に居た小咲(こさき)が何故か『ペンダントにまつわる約束』に対して言及したのだ。

 そこから推察すると彼女が『約束』に関係している可能性が高い。

 

 約束の女の子が小野寺であってほしい。

 自分に都合のいい願望であったが、確かめずには居られなかったのだ。

 

()()()()()()。それがどうかしたの?」

 

 しかし、返ってきたのは否定の言葉だった。

 

「え!? い、いや、ないならいいんだ……わるい……」

 

 あまりの衝撃に思考が止まり、結局それ以上小咲(こさき)を引き留めることもできず、放心してしまう(らく)

 しかしいつまでも落ち込んでいるわけにもいかず、千棘(ちとげ)を迎えに行くのだった。

 

 

 

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