本当にせこい   作:七九六十

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05-03 夏休み 海1日目

 

 

 

「じき夏も終わるし、やっぱ海くらい行かねーとな!」

 

 という(しゅう)の提案で2泊3日で海にやってきた一同。

 

「それにしても、本田さんは暑くないんですか、その格好」

 

 (らく)が言う通り他が水着に1枚羽織っただけの中、いつもの黒いスーツ姿の本田は見てるだけで汗が出てくる。

 

「鍛えてますので」

 

 当の本人は汗一つかかず、涼し気な表情である。

 片手でビーチパラソル2本の柄を持つという強者の風格まで(ただよ)わせている。

 

「マイちゃんも涼し気っていうか、実際にマイちゃんの周りだけ涼しいよね」

「身の回りにある気体の分子をより分けて、動きの遅いものだけを集めてるからね」

「エントロピーにケンカを売るんじゃない」

 

 小咲(こさき)はヒンヤリした舞斗(まいと)にくっついて(りょう)を取っている。

 るりもその恩恵を受けている身ではあるが、ツッコまざるを得なかった。

 

「もちろん冗談だから安心して。本当は身の回りにある気体分子の動きを、いい感じに遅くしているだけだから」

「そうだったのね、それなら安心……んん?」

 

 さて彼らが砂浜に降り立つと、当然のように周囲がどよめきだす。

 

「な、なんだあの美女軍団……」

「レベル高ぇ~……」

「芸能人? 見た事ないけど……」

「どこの雑誌の子だろ……」

 

 それに構わず、シートとパラソルで陣を張る。

 

「美女、ねえ……」

「?」

 

 何故か舞斗(まいと)が腑に落ちない顔をしている。

 

「いや、みんながカワイイってのは同意するんだけど」

 

 例えば千棘(ちとげ)万里花(まりか)に対する周りの反応に『モデルみたいだ』というものがある。

 年齢の割にスタイルが良いのは分かるが、モデルと称するには童顔かつ身長が足りないのが合わさって、無理があるのではと思うのだ。

 

「みんな『美少女』であって、『美女』と言っていいのは本田さんだけだと思うんだ」

「恐れ入ります」

 

 本田が一礼を返す。

 

「マイちゃん、よく考えて。原作(ココ)でいう大人の女性って、どんな人たち?」

「……………………なるほど」

 

 小咲(こさき)の言葉で理解する。この作品(ニセコイ)の成人女性は童顔ばっかだ。

 まあ年齢に合わせて顔を描き分けられる漫画家は少ないので、そこは仕方のないことだと割り切ろう。

 

「ん? 何かあったか?」

 

 そこにシートを敷き終わった(らく)がやってくる。

 

「いや、周りの言う『美女軍団』に、一条と舞子は入るのかなって」

「入んねーよ!!」

 

 入らないらしい。残念だ。

 

「ねぇねぇ(らく)様、ちょっと来て下さいますか?」

「ん?」

 

 ビーチチェアに居る万里花(まりか)(らく)を呼ぶ。

 余談だが彼女はいつもの面子(メンツ)ではかなりの戦闘力の持ち主なのだが、ほぼ話題に上がらない悲しい運命にある。2位じゃダメなのだ。

 何気に本田の戦闘力も高かったりする。

 

(わたくし)……日焼けするとお肌が荒れてしまうんです。

 ですからサンオイル、塗って頂けますか……?」

「は!!?」

 

 お約束をこなそうとしている2人。

 それを見ていた小咲(こさき)舞斗(まいと)は首を傾げる。

 

「……日焼けしたくないから、サンオイル?」

「日焼けするとお肌が荒れるのは、当たり前だよね?」

 

 日焼けしたいからサンオイルを使うのでは?

 まあこの場で『日焼け止めを塗って欲しい』だと『先に塗って来いよ』になるので、サンオイルが正しいのかもしれないが。

 

「2人とも、甘いわね」

 

 るりが腕組みして現れる。

 

「アレは鈍い一条君に対する、高度なツッコミ待ちなのよ。複数のボケを重ねることで、どれか1つには反応してくれるだろう、そういう期待を込めた、ね。

 そして一条君はヘタレだから絶対に塗ってくれないけど、日焼け止め自体は着替えの時に塗ってあるから大丈夫という、セーフティも万全!」

「さすがはるりちゃん。読みが深い」

 

 そうなるとこの一連の流れは、彼へのアピールではなく体を張ったボケになってしまうが。

 彼女はどこを目指しているのだろうか。

 

「ただ、千棘(ちとげ)ちゃんが参戦して、場は混沌としてきたけど」

 

 何やら2人に塗ることは確定で、どちらを先にするかの戦いになっているようだ。

 

「日焼け止めとサンオイルの二層構造か……」

「少なくとも悪い日焼けはしないような気がするから、いいんじゃないかな?」

 

 他に気にすることがあると思われるが、当事者たちは楽しそうだから良しとしよう。

 

「さて、そろそろ泳ぎに行こうか。るりちゃんが待ちきれずにソワソワしてる」

 

 シュノーケルを装着したるりちゃんカワイイ。

 

「毎日のように部活で泳いでるのにね」

「海で泳ぐのは別腹よ」

「というか宮本様は、直前まで水泳の全国大会に参加していたのでは?」

 

 女子400m自由形の代表である。

 得意のドルフィンキックを生かし、飛び込みとターン時にタイムを縮めてきた結果だ。

 

 (つぐみ)は仕事の関係で別行動だったが、舞斗(まいと)小咲(こさき)は応援のために水泳部と同行し、その流れで海に来ている。

 その関係でるりは競泳水着だったりする。決して他の水着、例えば皆と一緒にビキニ、とかが嫌だったわけではない。戦闘力の差は関係ないのだ。

 

「まあ今年は予選落ちだったので、来年は決勝に残れるよう精進するわ」

「おお、るりちゃんが燃えている」

「るりちゃんガンバって!」

 

 高校受験やら何やらによるブランクか、少しだけ届かなかった。

 るりはリベンジを誓うのであった。

 

「というわけで(つぐみ)ちゃん、もう時間稼ぎはいいだろう。服を脱ぐんだ」

「うぅ…… はい」

 

 恥ずかしくて服を着たままだった(つぐみ)も、舞斗(まいと)の言葉に従い1枚、また1枚と脱いでいく。日頃の調教もとい教育の賜物である。

 まあとは言っても、今回は下に水着を着ているのだが。

 

「マイちゃん様……」

「よし、いい子だ」

 

 羞恥に震え、腕に(すが)り付いてくる彼女を引き連れ、一行は波打ち際へとやってくる。少し人が多いため、それほど人のいない、水深がある場所まで移動する。

 水中であれば視線が届かないため、(つぐみ)も少しはマシになるだろうというのもある。

 

「マイちゃん、なんで水の上に立っていられるの?」

「ん? 右足が沈む前に左足を、左足が沈む前に右足を、ってヤツだよ」

「仁王立ちして言うセリフじゃないわ」

 

 小咲(こさき)の質問が下のほうから聞こえる。

 腕につかまっていた(つぐみ)も含めて、現在の頭部の位置は彼の腰の辺りまで下がっている。

 

「もちろん冗談だから安心して。本当は高さ軸の調整に失敗しただけだから」

(つぐみ)ちゃん、引きずり込んで」

「分かりました」

「あ、私も手伝うよ」

 

 足を引き腰を引き、そして最後にるりが背中に乗ることで軸を修正(良介が逃げたぞ)する。

 いつぞやのフルアーマー舞斗(まいと)、再びである。

 

 そんなこんなで足の届かない深さまで来ると、るりと(つぐみ)の泳ぎに自信のあるペアは遠泳を楽しみ、小咲(こさき)は少しは泳げるという程度なので、舞斗(まいと)の手の届く範囲でプカプカと浮いている。

 

 3人がそれぞれに楽しんでいるのを眺めつつ、舞斗(まいと)はよっこらせと水中に腰掛ける。気分は子供たちを公園に連れてきたお父さんである。

 

 じゃれついてくる小咲(こさき)に構いつつ、彼は平穏を満喫するのであった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 夜はBBQ(バーベキュー)である。

 

「ねえ一条、なんでそんなにジャガイモを?」

「え? なんでって、そりゃあ………… え? なんでジャガイモ?」

 

 なんてことはあったが、BBQ(バーベキュー)である。

 ちなみにジャガイモはホイル焼きにしました。こういうときは皮がついていたほうがそれっぽいのだが、まあ良しとする。

 

 料理のできる万里花(まりか)と、それに対抗する料理初心者の千棘(ちとげ)

 そしてそれを止めつつも調理を進めるだけの腕がある(らく)による力作は、皆に好評のようだ。

 

「うん、おいしいよ、一条君」

「お、おう」

 

 『小野寺においしいって言われた!』と喜ぶ(らく)だったが、その余韻に浸る暇は無い。

 

「はい、(らく)様。あ~ん」

「ちょ、万里花(まりか)、何やってんのよ!」

 

 横から突き出された串に(くち)(ふさ)がれ、だったらこっちも食べなさいよと突き出された串に視界を(ふさ)がれる。

 彼は順調にラブコメの王道を進んでいるようだ。

 

「うん、おいしいよ、一条くん」

「マイちゃん、なんだかニュアンスがおかしいよ?」

 

 3人を見て楽しんでいる舞斗(まいと)(くち)に、手にしていた串を差し出す。

 こちらもラブラブしたかっただけで、余計なことを言わないように(くち)(ふさ)ぎたかったわけではない。

 

「あれ? るりちゃん、ここにあった焼きそばは?」

「ん、美味(おい)しかったわ」

 

 ふと見れば、大きめの鉄板に用意してあった焼きそばが影も形も無い。

 

「じゃあ追加を作っちゃおうか」

「あ、私も手伝います」

「るりちゃんはその間、ジャガイモを……って、もう食べてるか」

「ん」

 

 同じ環境、同じ材料で作っても、微妙に味が変わるのが面白いところで。

 (らく)が作ったものと、小咲(こさき)(つぐみ)が作ったもの、その違いを楽しむのも乙なもの。

 今回は楽しむ前に食べつくされてしまったが。

 

 そう、最大の障害となるのがるりの食欲である。再び食べつくされぬよう、調理が終わるまでに何とか彼女を鎮めなくてはならない。

 舞斗(まいと)はせっせとるりの(くち)に食べ物を運ぶ。

 

「マイちゃん様、味見をお願いします」

「ん」

 

 (つぐみ)が口元に差し出してきたものを、るりが私にも食わせろと目で訴えてくるのを抑えつつ試食する。

 その味にOKを出し、さらにるりの口に食べ物を捧げる(グルメ・デ・フォアグラ)

 

「できたよー」

「完成です」

 

 2人の声に待ってましたとばかりに駆け寄る一同。やはりソースの焼ける香ばしい匂いは人を惹きつけるものがある。るりは舞斗(まいと)が物理的に押さえているので安心である。

 

 もちろん味の方も文句なしに美味(おい)しい。

 それは(らく)小咲(こさき)との新婚生活で一緒にキッチンに立つ姿を幻視してしまい、顔をだらしなく緩ますほどであった。

 

「ところで、なんで岬は宮本に腕を噛まれてんだ?」

(たわむ)れに差し出してみたら、思ったより食いつきがよくて」

 

 お返しに首筋に噛みついてやろうか、などと考えているとは(おくび)にも出さずに舞斗(まいと)は答えるのであった。

 

 

 

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