本当にせこい   作:七九六十

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原作:第46話エンゲキ~第63話ソノアト まで

・文化祭とクリスマス編。
・野球ボールに肝試し、海、そして文化祭…… この流れはちょっと……
・メガネ回の「オレは(くち)出すけど、お前はやめろ」発言のクズっぷりが良かったのに、
 実は言葉通りにコイツは良いヤツなんですって方向性だったとは。




06 - エンゲキ
06-01 文化祭


 

 

 

 新学期が始まる。

 凡矢理(ぼんやり)高校では2学期に文化祭が行われるため、それに向けた準備が始まる。

 

「はいはい注目~~!!

 それでは早速、今年行われる我が校の文化祭の話し合いを始めたいと思いま~す!!」

 

 壇上に上がった(しゅう)が音頭を取る。彼はこういったことを率先してやるタイプである。

 

「我がクラスの出し物は、厳正な投票によって文化祭当日に行う演劇に決まった!!」

 

 演目は『ロミオとジュリエット』である。

 

「今日はその配役を決めたい……! そこでどうだろう、私から提案なのだが。

 主役のロミオとジュリエットには我がクラスの有名ラブラブカップル!!

 一条(らく)と桐崎千棘(ちとげ)嬢にお願いしようと思うのだがいかがかー!!」

「んなぁ!!? お、おいちょっと待てよこら!! おい(しゅう)!!」

 

 突然の事に焦りだす(らく)、一方の千棘(ちとげ)は『へ~、おもしろそう』くらいの感想である。

 

「ちょっと待ったぁ!」

 

 ここで橘万里花(まりか)のちょっと待ったコールがかかる。

 

「ジュリエットは(わたくし)がやりますわ!!

 (わたくし)(らく)様が演じるロミオとジュリエット……! ああ、なんて素晴らしい!」

 

 テンションの上がっている彼女だが、それに負けない一団が居る。

 万里花(まりか)がジュリエットをやるなら、ロミオはオレがやる! という男子生徒たちである。

 

 

 

「仕方ねぇな。ならここは公平にくじで決めるという事で」

「いや完全ランダム、しかも立候補していない人まで含めてどうするの。

 ペアでやりたい人たち、誰とでもやれる人たち、その中から選ばれるようにしなよ」

 

 舞斗(まいと)の提案は『競争相手(ライバル)を増やしたくない人』と『そもそも主役をやりたくない人』に支持された。

 

「じゃあそうなると……って、結局この3人か」

 

 (らく)千棘(ちとげ)万里花(まりか)の3人が残る。

 

「いっそ『ロミオとジュリエットとジュリエッタ』でもやる?」

「マイちゃん、この3人でそれだと、演劇じゃなくて昼ドラ系の修羅場になっちゃうよ」

「なんだか『ぐりとぐらとぐふ』みたいですね」

「お願いだから(つぐみ)ちゃんはボケにまわらないで」

 

 外野がうるさい。

 

「よし、2人でこのくじを引いて、先端が赤かった方がジュリエットだ」

 

 千棘(ちとげ)万里花(まりか)の前にくじが差し出される。

 2人が同時に手を伸ばす。緊張の一瞬である。

 

 

 

 

 

 

 そして万里花(まりか)は崩れ落ちるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 放課後にはさっそく練習が始まる。

 

「一条、お前主役とかホントに出来んの?」

「ダメならいつでも替わってやるぞ?」

「うっせ! 余計なお世話だ!」

 

 主役(らく)にはクラスメートから温かい声援が送られる。

 

「ねえ、るりちゃん。ロミオとジュリエットってどんな話だっけ?」

「ん? あー、そういえば有名な割には中身についてあまり知られてないわね」

 

 『ああロミオ、あなたはなぜロミオなの』のセリフで有名だが、それ以外を知っている人は少ないだろう。

 小咲(こさき)の疑問に、るりが答える。

 

 『ロミオとジュリエット』はシェイクスピアによる戯曲である。

 悲劇に分類されているが四大悲劇ではないし、そこまで深刻なものでもない。

 その大まかなあらすじは以下のようになる。

 

『ロミオはロザラインに片想いをしていた。

 が、それとはまったく関係なくジュリエットに一目惚れした。

 なのですぐさま結婚、とはいえ2人の家は代々対立していたため、それは秘密裏にだったが。

 そしてその直後にロミオは街でのケンカで人を殺してしまい、町から追放される。

 同時にジュリエットは親から別の男と結婚させられることになる。

 そこで彼女は仮死状態になる毒を飲んで、墓に埋葬された後に逃げ出す計画を立てる。土葬文化万歳。

 そのことを知らないロミオは彼女の墓前にやってきて、彼女と結婚するはずだった男を当然のように殺害し、自分も死ぬ。

 墓から這い出たジュリエットは目の前で死んでいるロミオに気付き、自分も後追い自殺。

 2人の死の真相を知った双方の親同士は和解し、めでたしめでたし』

 

 るりはそんな話をしている途中で気付く。あれ、ロザラインって……

 

「へー、そんなお話だったんだ」

 

 幸いにも小咲(こさき)は気にしていないようだ。ほっと胸を撫で下ろす。

 

「じゃあ最初から行ってみよーかー」

 

 進行係の生徒の声に従い、(ロミオ)千棘(ジュリエット)が向かい合う。

 

「おおジュリエット、僕の瞳にはもはや君しか映らない!!」

 

 ヤケクソのように(らく)が声を張り上げる。

 それにしても、ロザライン(小咲)という前置きは必要だったのだろうか。

 それほどジュリエット(千棘)が魅力的だったと言いたいのだろうが、シェイクスピア(作者)は相当性格が悪かったに違いない。

 

「まあ嬉しい! (わたくし)もですわ、ロミオ様。早速結婚致しましょう!!」

 

 ジュリエット役の千棘(ちとげ)(くち)を開く前に、突如として万里花(まりか)が割り込んでくる。

 

「あれ? るりちゃん、ロミオはジュリエット以外の人とも結婚するの?」

「まさか。橘さんが自分の欲望に飲まれたのよ」

 

 小咲(こさき)たちが展開を見守る中、そこにさらに割り込んでくる人影がある。

 

「今までずい分、大根役者を見てきた……」

 

 この流れに激怒した舞斗(まいと)だ。

 

「だが古典の名作を勝手に変えるマヌケにゃ初めて会ったよ!!」

「落ち着いてください、マイちゃん様!!」

 

 (つぐみ)が彼を羽交い絞めにし、何とか引き離す。

 

「落ち着け、岬!」

「誰か洗面器もってこい!」

「帽子とタオルには注意し『ガッ』あクソッ!!」

 

 教室内は大騒ぎである。

 

「マイちゃん、これは『マクベス』じゃないわ」

 

 るりのツッコミが(むな)しく教室に響いた。

 

 展開についていけない(らく)はうろたえるばかりである。

 そこに小咲(こさき)が慌てて駆け寄る。

 

「ごめんね、一条君。みっともないトコ見せちゃって」

「小野寺?」

 

 なぜか関係ない彼女から謝罪され、さらに(らく)の混乱は増す。

 

「正式な公演では完璧な舞台を見せるから!

 もちろんチケットもあげるから、もう一度観に来て! お願い!」

「え? え?」

小咲(こさき)、だから『マクベス』じゃないから」

 

 るりのツッコミが(むな)しく教室に響いた。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 さて、なんとか落ち着きを取り戻した教室内。

 

「とりあえず橘、お前は邪魔するんじゃない」

「まぁ! 邪魔だなんてとんでもないですわ」

 

 事の発端となった万里花(まりか)に対し、(らく)は注意する。

 

(わたくし)だってジュリエットの代役なんです。しっかり練習しておきませんと……」

 

 まあ効果は無いようだが。

 

「それに、桐崎さんを亡き者にすれば、(わたくし)がジュリエットに……」

「こらこら」

 

 さすがの千棘(ちとげ)もこれには呆れる。

 

「その手があったか!」

「マイちゃん様?」

 

 そのとき、いまだ(つぐみ)から拘束されて(抱き締められて)いる舞斗(まいと)から声が上がる。

 

「一条、ゴメン、今まで黙っていたことがあるんだ」

「な、なんだよ……」

 

 今までの事があるので警戒してしまう(らく)

 ここで素直に聞いてしまうから、いろいろと苦労を背負い込むことになるのだが。

 

「実は俺、ジュリエットなんだ」

「は?」

 

 衝撃の告白である。

 しかしコレで終わりではない。

 

「一条君、ごめんなさい! 私もジュリエットなの! でも、今まで言い出せなくて……」

「え? 小野寺?」

 

 さらに追撃が迫る。

 

「一条君、あきらめなさい。私もジュリエットだから」

「宮本まで?!」

 

 いつもはツッコミ役のるりから裏切られ。

 

「ふ、皆さんだけを犠牲にだなんてさせませんよ。私だってジュリエットなんですから!」

「おいつぐみ、犠牲ってなんだ、犠牲って」

 

 予定調和のように(つぐみ)が加わる。

 そしてさらに教室のあちこちから声が上がる。

 

「ジュリエット。それがオレの名だ」

 

「とんでもねえ、あたしゃジュリエットだよ」

 

「ジュリエットの名は、誰にも渡さない!」

 

「アイ アム ジュリエット!」

 

「ジュリエット……と呼ばれています」

 

「私はジュリエットを超えた、そう、真・ジュリエット!」

 

「ほう、オレがジュリエットだと見抜いたのは、お前が初めてだ」

 

「おいどんはこれでも、ジュリエットですたい!」

 

「へえ、あんたもジュリエットって言うんだ」

 

「オレオレ、オレだよオレ、ジュリエットだよ」

 

「さあ、決着をつけようぜ。誰が本当のジュリエットか!」

 

「オレの名か? そうだな、ジュリエット、とかどうだ?」

 

「騙されるな! オレが本物のジュリエットだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ああロミオ、あなた()()なぜロミオなの』

 

「オレが知るか!!!」

 

 (らく)の渾身のツッコミは、(むな)しく木霊(こだま)するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに。

 本番ではこのあとスーパージュリエット大戦が行われ、最強のジュリエットを決める流れになった。

 最終的にロミオ(らく)の待つバルコニーにたどり着いたジュリエット(ちとげ)が『私がジュリエットだ!』と宣言して決着したのだが、果たしてこれは演劇と呼べる代物(しろもの)だったのだろうか、という疑問は残った。

 

 

 

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