本当にせこい   作:七九六十

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06-02 身体検査

 

 

 

 とある冬の朝。

 凡矢理(ぼんやり)高校の校門前に人だかりができていた。

 

 人相の悪い外国人の2人組が学校の前に居るというだけで十分怪しいのに、やけに焦った様子で辺りを警戒しているとなれば注目を集めないわけがない。

 

「あ、いた!! お~いそこの、集英組の坊主!!」

 

 どうやら(らく)を探していたようだ。2人組は彼を校舎裏に連れ込む。

 

「突然で申し訳ねぇ、オレたちぁビーハイブのもんなんだ」

 

 (らく)もこれについては予想できていたので驚きは無いが、問題は何故彼らがここにいるかだ。

 

「話ってのは、このアタッシュケースの事なんだが……」

 

 本日午後3時からの取引で使うブツが入っているが、暗証番号を失くしてしまった。

 上司(クロード)とも連絡が取れないので、代わりに暗証番号を入手して欲しい。

 それというのも上司(クロード)が設定した番号というのが……

 

「お嬢のスリーサイズを入力したらしいんだ」

 

 というわけで、恋人なのだから知っているかもしれない、それがダメでも今日学校で身体検査があるのだから、そこから入手できるかもしれない(らく)を頼ったというわけだ。

 

「3時までにこいつの中身を届けないと取引はパァ……

 そうなりゃオレたちはTOKYO湾のもくずになるかも……」

 

 悲壮感ただよう顔で己の未来を語るギャング2人組。

 

「スマンが頼む!! オレたちもう戻らねーと!! あとで回収に()っから!!」

「なっ! いや、ちょっと!!?」

 

 そういうわけで、(らく)は見事に面倒ごとを押し付けられたのであった。

 

「なんでオレがこんな…… クソ、どうする……」

「いや、普通に千棘(ちとげ)ちゃんに開けてもらえばいいじゃん」

 

 自分しか居ないはずの校舎裏から、何故か聞こえてきた声に振り向く。

 

「み、岬?! お前、いつから!」

「え? 最初からだけど」

 

 今回の件は衆目に(さら)すのはどうかと思うが、別に(らく)以外に知られて問題が出るものでもない。

 

 まあそれもそうかと納得した(らく)は、このままの流れで相談することにした。

 身内とまではいかないが、関係者の生死がかかっているならどうにかしてやりたい。

 

「いや、でも千棘(ちとげ)に言ったら『この変態!!』って怒鳴られる未来しか無いんだが」

「……あのね、別に千棘(ちとげ)ちゃんに教えて(もら)わなくても、直接入力してもらえばいいじゃん」

 

 その手があったか、と(らく)は手を打って納得する。

 

「じゃあ早速」

「ちょい待ち」

 

 アタッシェケースを抱えて歩き出す(らく)を止める舞斗(まいと)

 

 ちなみに『アタッ()()ケース』でも通じるが、本来は『アタッ()()ケース』である。

 カタカナ表記している時点で正しい・正しくないの議論は不毛な気がするが、一応フランス語の大使館員(アタッシェ)が使っていたケース、というのが元ネタのようだ。

 

「思ったんだけど、スリーサイズっていつのヤツだと思う?」

「え? そりゃあ……」

 

 クロードが設定した日のモノなのか、それ以前に彼が入手したモノを設定したのか。

 というかそもそもスリーサイズであれば、誤差を最大に見積もってそれそれ±5cmだとしても1000通り前後しかないため、総当たりで1時間もあれば確認できてしまう。ビーハイブ(ギャング)が取引で使うとなれば防犯についてもそれなりに考慮されているはずで、連続して失敗すると2度と開かない、くらいのことはやるだろう。

 なので入力は慎重に行う必要がある。

 

「てことは、結局本人(クロード)しか分からないってことか?」

「だね」

 

 ということで、やるべきことはただ1つ。

 

(つぐみ)ちゃん、よろしく」

「承知いたしました」

 

 (らく)に顔を知られていない程度の下っ端よりも、直属の上司兼育ての親として接している(つぐみ)のほうが、確実に連絡を取れる手段を持っているだろう。

 というわけで彼女に相談したのだが。

 

「え? 千棘(ちとげ)のスリーサイズじゃない?」

「はい、どうやら彼らの勘違いのようでして」

 

 正しくは『設定者本人(クロード)のスリーサイズ』だったようだ。

 考えてみれば当たり前の話で、大事にしているお嬢のスリーサイズを、そうと説明したうえで部下に知らせるわけがない。

 

「よかったね、一条。無事に解決したよ」

「お、おう」

 

 ケースはすぐに回収に来るそうなので一件落着である。

 

 

 

 

 

 

「ということがあってね」

 

 午後の身体測定の時間にて、ビーハイブ(ギャング)が関わっていることをぼかした形で話題に出す舞斗(まいと)

 

「まあ身体測定でスリーサイズの測定なんて、都市伝説なのにね」

「だよねー」

 

 そんな漫画の世界じゃあるまいし。

 

「あれ、でもウチの学校、スリーサイズ測るみたいよ?」

「え?」

 

 ほら、と保健委員から差し出された記録用紙をみると、確かに検査項目に入っている。

 

「るりちゃん、そもそも何でスリーサイズ測るの?」

「建前では疾患や成長異常を発見するため、ってなってるわね」

「座高と一緒で、変化する数値を計測してればやってる感が出て、指示した方は満足ってだけだと思うけどね」

 

 その数値と疾患との因果関係をろくに研究しておらず、しかも計測した数値を分析もしないのだから、何の意味もない。

 

「それなのに、なんでやってるの?」

「誰も止めるように指示しないからよ」

「場所によっては男性教員が測定してるからね。自分から止めようなんて言わないよ」

 

 当たり前の話である。誰がこんなおいしい話を、自分から止めようなどと言い出すだろうか。

 

「……で、(つぐみ)ちゃんはどうしたの?」

「いえ、なんとなく皆さんの視線がおかしくて」

 

 舞斗(まいと)の背後に身を隠す(つぐみ)

 計測のためにいろいろと装備を外しているため、いつもより柔らかい。

 

「ウチのクラスでも断トツの、つぐみちゃんの気になるバスト!! 皆で測らせて(もら)うわ!!」

 

 おかしな目つきをしておかしな言動をした女子生徒の群れが現れた。

 

「……憧れる気持ちは分かるけど、(つぐみ)ちゃんのサイズを知ったところで、自分のサイズには何も影響しないんだよ?」

「うぐっ?!」

 

 舞斗(まいと)の発言! 女子生徒の群れにダメージを与えた!

 

「で、でもほら、林間学校の温泉でつぐみちゃんのおっぱいに触った子が、2カップもサイズアップしたって!」

 

 何かしらのご利益(りやく)が! と必死である。

 

「俺は毎日触ってるけど、特に変化はないよ?」

「岬君は男の子だし」

 

 本当にご利益(りやく)があるなら、男でも大きくなりそうなものだが。

 

「私も大きくなってないよ?」

(でら)ちゃん?」

 

 少ししょんぼりとした小咲(こさき)が言う。

 皆の目線が、少し上下する。

 

「そんな、ではアレは……」

「いや、しかし……」

 

 女子生徒の群れはトーンダウンしている。

 

「もしかしたら、(つぐみ)ちゃんの持ってたご利益(りやく)は、その子に移ったのかもね」

「……まさか!」

「ヤツを探せ! ひっ捕らえろ!!」

 

 舞斗(まいと)の言葉に少し考え込んでいたが、可能性を感じたのだろう。標的が(つぐみ)から外れたようだ。

 そのまま更衣室を出ていく女子生徒の群れを見送る。

 

「マイちゃん様、小野寺様、ありがとうございました!」

「なんか、お礼を言われるのは複雑だけど……」

 

 別にコンプレックスを抱えているわけではないが、もう少し大きくならないかな~くらいには気にしている小咲(こさき)であった。

 

 

 

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