本当にせこい   作:七九六十

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06-03 クリスマス 導入

 

 

 

 昼休み。机をつなげて一緒に食事を取った面々で談笑している。

 ちなみにメンバーは(らく)千棘(ちとげ)小咲(こさき)、るり、舞斗(まいと)(つぐみ)万里花(まりか)である。

 傍目(はため)からは(らく)のハーレムに見えるだろう。

 

「みんなもう予定あんの? せっかくだしクリスマスパーティーでもやんない? こう皆でわいわい楽しく~」

「そうね、企画者不在なら」

「オレ言い出しっぺなのに!?」

 

 そんなグループに(しゅう)が話しかけてくるが、るりによっていつもの様に冷たくあしらわれる。

 

「クリスマスパーティーってことは、栗よーかん用意しないとね」

「そうだね、私がんばって作るよ!」

 

 舞斗(まいと)の発言に小咲(こさき)が気合を入れて応える。

 

「え? なんで栗羊羹?」

「舞子(しゅう)は芋派なのか? だが残念だったな、クリスマスは栗よーかんと決まっているのだ」

 

 (しゅう)の言わんとするところは汲み取ってもらえず、(つぐみ)からも謎の返答があるばかり。

 

「え? え?」

「日本人ならケーキじゃなくて、よーかんよね」

 

 るりからもダメ押しが来る。

 

「ねぇねぇ(らく)様! 実はイブの夜、父が家に居ないのですが!」

「オレは実家で、千棘(ハニー)と過ごそうかな」

 

 一方でこんな会話も聞こえてくる。

 (しゅう)は無事このメンバーをまとめて、クリスマスパーティーを開くことができるのであろうか。

 

 そこで彼は作戦を考えた。

 皆に予定を確認するから、それぞれが好き勝手に動くのだ。

 ならばまずは千棘(ちとげ)を落とせばいい。彼女は大人数でのイベントとなれば必ず参加するだろう。

 そうすれば(つぐみ)はセットで参加するし、同じように(らく)が釣れる。

 さらに(それ)を狙った小咲(こさき)万里花(まりか)が続き、小咲(こさき)が来るなら、るりも付いてくる。

 

 そう目論んでいたのだが……

 

「あれ? 桐崎さん?」

千棘(ちとげ)!!?」

 

 見れば千棘(ちとげ)は顔を真っ青にして、小刻みに震えている。

 これには横に居た(らく)もビックリである。

 

「クリ…… クリス…… クリスマ…… クリマタスミ……」

 

 虚ろな表情でブツブツと(つぶや)く彼女に精神分析をかける。

 ダイスロールに成功し、話の都合(ハウスルール)で時間経過無しに正気を取り戻したようだ。

 

「……毎年クリスマスは、ママが帰って来て家族水入らずで過ごすから、パーティーには参加出来そうにないわね」

 

 青い顔でなんとかそう言い切った彼女のためにも、一旦クリスマスの話題は打ち切られるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえつぐみちゃん、千棘(ちとげ)ちゃんのお母さんって、そんなに怖い人なの?」

「……ノーコメントで」

 

 小咲(こさき)の質問に対する(つぐみ)のその態度が、何よりも雄弁に語っている。

 

「何というか、仕事一筋の人だよね」

「あれ? マイちゃんも知ってるの?」

「直接会ったことはないけどね」

 

 (らく)のペンダントについて調べているときに、彼女についてもそれなりに調べている。

 忙しい人なので縁もゆかりもない中学生に会ってくれるはずもなく、こっそりと観察したことはあっても、直接話したことは無い。

 

「優れた能力を持っていて、そしてそれを必要とする人のために使う事を(いと)わない。それが長所でもあり、短所でもある人かな」

 

 自分の力を振るう事を考えているため、他の人に作業を分けることをせず、その結果自分の作業負荷が上がっていく。

 しかしそれをごり押しで解決できてしまう能力がある。

 

 常に目の前の作業を順番に片付けているため、作業の効率化という視点が抜けており、その結果自分の作業負荷がさらに上がっていく。

 しかしそれを更なるごり押しで解決できてしまう能力がある。

 

「そして最大の欠点は、能力を必要とする人の声は聞こえても、助けを求める人の悲鳴は聞こえていない、ってことなんだよね……」

 

 彼女の能力によって仕事が回り、喜ぶ人が大勢いるのは確かだ。

 しかしその一方で、彼女自身を求める人たちにとっては……

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 そんな話をした翌日。

 どうやら千棘(ちとげ)の母が来日すると小耳にはさんだ一行。

 そしてそれに合わせて(らく)がアイサツに行くと知り。

 

「そういうわけで、やってきました千棘(ちとげ)ちゃんの家」

 

 実際に見てみよう、ということで(つぐみ)の伝手で屋敷に潜り込む。

 出迎えのために整列するギャング一同の陰からこっそりと様子を(うかが)う。

 ほとんどの人間が顔を青くして余裕のない状態のため、『千棘(ちとげ)ちゃんのお母さんって、どんな人なんだろーねー』とのん気な小咲(こさき)とるりは、かなり浮いている。

 

マダムフラワー(桐崎華)が到着しましたー!!」

 

 そう告げられると同時に場の緊張がピークに達する。

 何故か家族のはずのアーデルト()千棘()までビクビクしている。

 

 そして扉が開き入ってきた若い女性と、おそらく護衛を兼ねているであろう黒服の集団。

 夜の屋内なのになぜか全員サングラスなのはお約束だからである。

 

「…………ただいま」

 

『おかえりなさいませマダーム!!!』

 

 実に統率の取れた挨拶である。

 

「え? あれがお母さん? お姉さんじゃなくて?」

「いや、若過ぎでしょ」

 

 小咲(こさき)とるりが驚いているが、正真正銘千棘(ちとげ)の生みの親、桐崎(はな)である。

 そして舞斗(まいと)以外に気付いている者はいないが、小咲(こさき)の母親と同級生である。

 

「少しは休んでいけるのかい?」

「残念ながらすぐに仕事よ」

 

 アーデルト()も分かっていて聞いたのであろうが、返事はいつも通り。

 やはり仕事人間のようである。

 

『今、プライベートに使えるのは2時間って言ってなかった?』

『クリスマスの夜まで日本に居て、その間に使えるのが2時間と36分て、おかしくない?』

 

 毎年の家族水入らずの時間とやらは、最大でも156分(怪奇千万)のようだ。

 

『あれ? なんだか様子が』

 

 アーデルト()との再会を喜んでいたはずなのに、何やら空気が変わっている。

 

「すぐに執務室に閉じ込めて。クリスマスまでに終わらせなかったら、目ん玉ほじくり返すわよ」

 

 どうやら頼んであった仕事が終わっていなかったようだ。

 黒服に連行されるアーデルト()に対し、容赦のない言葉が投げかけられる。

 

「……さてと、千棘(ちとげ)は居る?」

「はひゃい!!?」

 

 アーデルト(父親)の惨状を目の当たりにして臆したのか、千棘()からおもしろい声が上がる。

 

「……久しぶりね、元気にしてた?」

 

 先ほどまで(アーデルト)とは違ってどこか歯切れが悪い。

 

「えーと…… あなた今、幾つになったんだっけ?」

「は、はい!! 16歳であります、お母様!!」

 

 こちらは緊張のあまりキャラが変わっている。

 

『あの2人って……』

『なんか……』

 

 客観的に状況を見られる小咲(こさき)とるりは、なんとなく2人が噛み合っていないように感じる。

 

「学校の方はどう?」

「は、はい…… こないだテストで学年7位を、取りました……」

「そう…… 7位……」

 

 おずおずと、もしかしたら褒めてもらえるかもと千棘(ちとげ)は答える。

 

「……千棘(ちとげ)、理屈にあわないわね」

 

 だが現実は非常であった。

 急激に母親の威圧感が増していく。

 

「あなたが卒業した中学は、アメリカでも屈指の名門。あなたはそこを首席で卒業したわ。

 今あなたの通う高校は、日本でも平均的な学力だと聞いてるけど」

 

 にっこりと笑って。

 

「……どういうことかしら」

「もっと頑張りますぅう~!!」

 

 限界に達した千棘(ちとげ)は泣いてしまった。

 

『なんと不憫な……』

 

 さすがに舞斗(まいと)も同情してしまう。

 

 一口にアメリカと言っても、下は『進化論を否定し、地球が平面だと教えるレベル』から、上は『覚えるよりも考えることを重視した、エリート向けのレベル』まで幅広く。

 千棘(ちとげ)がアメリカの名門中学を出たというのであれば、日本の暗記型のテストで点を落とすのは無理もない。

 まして凡矢理(ぼんやり)高校のようなレベルの内部テストでは、赤点回避のためのサービス問題と称して割と理不尽な問題が混ざってきたりする。授業中の雑談から出題されても、授業を聞かずに自分で勉強している人間に解けるはずがない。

 

 そしてそもそも、すべての生徒が自分の学力に合わせて進路を選んでいるわけではないので、学校のレベルが低いからといって油断はできない。

 

『どこかの誰かが居なければ、もう1つ順位が上だったのに。ねえ学年主席さん?』

『その場合、学年次席さんも同罪だと思います』

『私は9位だったから、悪くないよね?』

 

 ちなみにこの場には8位の(つぐみ)も居たりする。

 彼らのように人間関係を優先したり、家庭の事情で近場の公立にしか通えない、なんて成績優秀者が毎年居るのだ。

 

「……娘をよろしくね、坊や」

 

 いつの間にか話題は(らく)に移っていたようだ。

 そんな彼の順位は、まあ、良いほうではある。

 

「でも、もしこの子を傷つけるようなことがあればどうなるか…… 想像できる?」

「え、はい、多分……」

 

 彼女は(らく)の頭を撫でながら、笑顔でこう告げる。

 

「安心なさい、必ず想像以上の事をしてあげるから」

 

 (らく)は冷や汗を流しながら固まっている。

 

『るりちゃん、やっぱり千棘(ちとげ)ちゃんのお母さんって』

『ええ、どう考えても子煩悩な母親よね』

 

 ただ、千棘()との距離感が分からず、よそよそしい態度になっているが。

 この短時間でも分かるほど嘘や冗談を(くち)にしない人間が、一条楽(娘の恋人)に対してこれほどのセリフを吐いたのだ。よほど大事にしているのだろう。

 悲しいことに本人()には欠片も通じていないが。

 

「あなた…… そのリボン……」

 

 ふと千棘()が身に着けているリボンに目が留まる。

 

「……まだそんなものを着けてるの? すっかりくたびれて。

 そんなリボンくらい、いくらでも買ってあげるのに」

 

 千棘(ちとげ)から表情が抜け落ちる。

 

『…………ねえ、マイちゃん。千棘(ちとげ)ちゃんのリボンって確か……』

『さっき、小さい頃に母親から(もら)ったって言ってたね……』

『……でも、あのリボンが自分が贈ったものだってのには気付いてたみたいだし』

 

 るりのフォローが入るが、それはすなわち『相手がそれくらい大事にしている』ということが理解できなかったという意味でもある。

 

『親子だなぁ……』

 

 同時に舞斗(まいと)は、千棘(ちとげ)が転校してきたときに起こった騒動について納得もしていた。

 この母親だったから、『自分に価値が無いもの(ペンダント)でも、相手にとっては大切なもの(思い出)だ』ということを想像すらできない人間に育ったのだろう。

 

『あ、一条君が連れていかれた』

『なんか秘書がどうのって言ってたわね』

 

 何人いるか分からないが全滅した秘書の代わりに(らく)を雇うようだ。

 

『これは婿として一条をテストするためのものかな? それとも秘書の仕事がそこら辺の高校生に務まる程度の内容なのかな?』

『さすがに前者でしょ。今月だけで何人も倒れてるらしいのに、状況を改善する気配が無いから後者のように聞こえる、ってだけよ』

『一条君も大変だねー』

 

 まあ仕事の内容はともかく、クリスマスまでの短い期間ではあるが桐崎(はな)と一条(らく)がお互いを知る時間ができたのは大きい。

 

『あれ? 一条君には2人のすれ違いの事、教えないの?』

『こういうときって、他人から教えられた場合と自分で気付いた場合とで、行動にかける熱量が変わってくるからね。できれば自分で気付いて欲しいかなって』

『でも彼が気付かなかったら……』

『もちろん、保険はかけておくよ』

 

 昔、日経平均株価はその日の桐崎(はな)の機嫌で決まる、と言われたことがある。まあ実際に機嫌で決まるわけではないが、その動向が経済に影響を与えるのは確かだ。

 

 そこで舞斗(まいと)は彼女に近いところに人を配置して、彼女がどう動くか何を考えているかを知り、それで楽してお金儲けだと考えたことがあった。もちろんインサイダー取引にならない範囲で、だが。

 実際にはその人が得た情報を別の人が金を儲けるために利用し、その儲けの一部が舞斗(まいと)に渡るという仕組みを作ったのだ。

 今もその仕組みは生きているので、それを利用すれば桐崎(はな)と一条(らく)の関係が良好か、仕事だけの関係になっていないかくらいは知ることができる。

 

 ちなみに舞斗(まいと)はこういった『自分は資金を出すだけで何もせず、利益の一部だけを受け取る』といった手段で収入を得ているため、桐崎(はな)のように『富を得てなお自分の力で金を生み出す』人たちを尊敬すると同時に、引け目を感じている。ナマケモノには眩しすぎるのだ。

 

『あとは千棘(ちとげ)ちゃんがいざ母親と対面した時に、スムーズに話ができるようにさりげなくフォローしておく、くらいかな?』

 

 最後のリボンの件が無ければ直接でもよかったかもしれないが。

 コレのせいで部外者が(くち)を出すと余計に(こじ)れる問題に発展してしまった。

 

『まさに一条が成否のカギを握っている、ってことだね』

『マイちゃん、一条君が持っているのは『(じょう)』のほうだよ』

『しかも『(かぎ)』だった場合、何本もあるのよね』

 

 

 

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