本当にせこい   作:七九六十

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06-04 クリスマス 本番

 

 

 

 結局。

 

 事態はさらに(こじ)れ、千棘(ちとげ)がトレードマークのリボンを外すレベルにまでなってしまった。

 

「マイちゃん、本当にこのままで大丈夫かなぁ」

「家族水入らずの予定だからって断わったクリスマスパーティー、急に参加すると言ってるわ」

 

 本日、千棘(ちとげ)と一緒に買い物に行った小咲(こさき)とるりも不安そうだ。

 

「一条は上手くやってるみたいだけど、母親の方が娘とのコミュニケーションに失敗して、萎縮しちゃったみたいで……」

 

 昨夜、桐崎邸に張り込んでいた(つぐみ)から連絡があったときは驚いた。

 娘が勇気を振り絞ってかけた電話に対する母親の回答は、イブは代わりに仕事を入れたから、である。

 こんな状態でよく『毎年家族水入らずでクリスマス』なんて言えたな、という状況ではあるが、一応まだ望みはつながっている。

 

「一条がなんとか仕事を予定より早く切り上げさせて、千棘(ちとげ)ちゃんと話す時間を確保するように動いてる」

 

 直接確認したくなった舞斗(まいと)がこっそりと職場に忍び込んだところ、いつの間にかそういう流れになっていた。

 というかプライベートに使える2時間36分(156)はいつの間に打ち切られたのだろうか。やはりこの世は怪奇でいっぱいなのだろうか。

 

「明日、母親と2人で会うことになりそうだけど、千棘(ちとげ)ちゃんは大丈夫?」

「うーん、大丈夫だとは思うけど……」

「少なくとも、母親を拒絶するとかは無さそうね」

 

 リボンの件も電話の件もあるが、彼女はまだ母親を求めている。(らく)が上手く事を運べばなんとかなるはずである。

 

 ダメだったらこの後、飛行機で移動中なんかの逃げられないタイミングで強制的に母娘(おやこ)面談を開催させてやる。

 

 舞斗(まいと)はそう考え、こっそりと準備するのであった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 そして運命の12月24日。

 この日は(しゅう)の案が通って、クラスでクリスマスパーティーである。彼の知り合いの店を貸し切って行われている。

 

「マイちゃん、今日はミニスカサンタなんだね」

「うん、トナカイの着ぐるみと2択でね」

 

 ショートブーツと帽子がセットである。ひげは無い。

 手に持っていた小袋から金平糖を取り出し、小咲(こさき)(くち)に放り込む。

 

「トナカイは170cm以上推奨だったんだよ。ちょっと足りなくてね」

「15cmはちょっとではないわね」

 

 そこからさらに15cm低いるりがツッコむ。その(くち)にも金平糖が放り込まれる。

 

 舞斗(まいと)数多(あまた)ある欠点の1つが、その低い身長である。

 元々見た目のせいで男らしさが皆無のため本人も含めて誰も気にしていないが、男子高校生として考えると平均を大きく下回っている。

 

「マイちゃん様!」

 

 (つぐみ)が駆け寄ってきたので、その(くち)にも金平糖を放り込む。

 

「ん、おいし…… じゃなくて、一条様がそろそろコチラに着くそうです!」

「よかった、間に合ったか。雪が降りだしたから渋滞に巻き込まれてなんてことも考えてたけど、良かった良かった」

 

 目論見通り仕事を前倒しにできて、時間が取れたというところまでは確認できていたが、ここに来て天候の悪化である。いざとなれば天候くらい書き換えられるが、これもドラマチックな演出のうちだと控えていたので少し心配だったのだ。

 

 他に予想されていたのは『土壇場になって千棘(ちとげ)がパーティーに出席せず、どこかの公園でブランコを漕いでる』なんて状況だったが、それは(つぐみ)にしっかり連行させることで防いでいる。

 そしてこの場に彼女が居ることはもちろん(らく)にも連絡済みだ。

 

「よし、あとは一条が()()()()()()()()()、母娘の語らいを強制することはいくらでもできるし、もう大丈夫でしょ」

「マイちゃん、変なフラグ立てないで」

 

 るりがフラグを強化する。スルーしておけばフラグと認識されなかったものを……

 

「いやいや、もしかしたら一条を見た橘さんが暴走して、千棘(ちとげ)ちゃんが母親よりも一条を優先してグダグダになるかもしれないけど、そこはすぐに(つぐみ)ちゃんが連れて行けばなんとかなるし」

「はい! お任せください!」

 

 (つぐみ)(こぶし)を握ってやる気をアピールしている。

 これで準備は万端。手抜かりは無い。

 

「お、どうやら来たみたいだよ、たぶんアレでしょ」

 

 窓から外を眺めていると、法定速度を無視して突っ込んでくる黒塗りの車が見えた。

 実に良いタイミングである。

 

千棘(ちとげ)!! そこにいるか!?」

 

 横滑りしながら店の前に止まった車から(らく)が出てくる。

 驚いている千棘(ちとげ)を促して、予定通り(つぐみ)は彼女を連れて店の外に出る。

 

「説明してるヒマがねえ!! とにかく一緒に来てくれ!!」

「は!? ちょっと……」

 

 (らく)千棘(ちとげ)の手を取ると、(つぐみ)に代わって車まで引いていく。

 

「……ん? ヒマがない?」

 

 舞斗(まいと)はその言葉に少し引っかかりを覚える。

 確かに時間がたっぷりとあるわけではないが、そこまで急ぐ必要はないのでは?

 あれ? そういえば車内に人影が見当らない……?

 

「誰だアレ…… ってもしかして一条?」

「え? 何? どうしたの?」

「キャ~~~!! 2人でイブにどこへ行こうと言うのですか!!?

 どうせ連れてゆくのでしたら、この(わたくし)を!! この万里花(まりか)を!!」

「桐崎さん、どっか行くの?」

 

 事態が把握できていないクラスメートたちに、ひと際大きな声で騒いでいる万里花(まりか)

 

「ちょっと待ってよ! そんな急に…… どこに行くのかくらい……!」

「ああ!? ええい、だからぁ……!!」

 

 加えて千棘(ちとげ)までがこの調子だったため、(らく)は全員をまとめて黙らせるセリフを解き放つ。

 

 

 

 

「高級ホテルのスイートルームだよ!!!」

 

 

 

 

 

「え……」

「え……?」

「ええええ~~~~!!?」

 

 その場はパニックに包まれた。

 

「どーゆう事ですか!!! 今の発言は一体、どーゆー!!」

 

 一番酷いのは当然橘万里花(まりか)で、手近に居た(しゅう)の胸倉をつかんで高速で揺さぶっている。

 

「あ、マイちゃんが頭抱えてる」

「珍しいわね」

 

 一番脱力感に襲われているのは岬舞斗(まいと)で、ふらついた体を小咲(こさき)が支えている。

 

「……なんでわざわざべつこうどうにしたん? じかんがないんだからさ、それにきがかわってにげないようにっていみでも、ふつうちょくせつつれてくるでしょ……」

 

 限界に達してしまった舞斗(まいと)小咲(こさき)を抱きしめ、その胸に顔をうずめたまま現実から逃避していく。

 

「マイちゃん、落ち着いて? 一度、中に入ろ?」

小咲(こさき)も落ち着いて。顔が緩んでるわ」

 

 小咲(こさき)に促されパーティー会場に戻り、(つぐみ)と合流して隅にあった長椅子に腰掛ける。

 

「小野寺様、次は私、私に代わってください!」

小咲(こさき)、10分交代よ」

 

 気が抜けて物理的に小さくなってしまった感のある舞斗(まいと)を膝に乗せ、ご満悦の小咲(こさき)さんに左右から催促が来る。

 黒スーツに身を包んだ(つぐみ)がミニスカサンタを抱いている姿は絵面的に少し問題があるような気もするが、本人が嬉しそうなので良しとする。

 

 そういうわけで彼女たちは2周ほど楽しむのだが、今回はるりだけ立場が逆転するなんてこともなく、平和に過ごせたようだ。

 

 ちなみに彼女らのこの様子を外から見ると『一条のホテル発言にショックを受け落ち込んでいる岬とそれを励ます3人』と解釈されたようで、『つまり岬は、実は一条に惚れていたのでは』という疑惑がクラス内で持ち上がっていた。

 

 それを聞いた舞斗(まいと)は『……そんなことないよ?』と肯定とも取れる否定の言葉を返しており、後日これをネタに(らく)揶揄(からか)うための仕込みに入ったようだ。

 

 

 

 

 一方その頃、空港にて。

 

『……V1(ブイワン) ……回転(ローテート) ……V2(ブイツー)

『機長! 儀典長もとい乗客(VIP)から空港に引き返すように命令が!』

『クソ! ふざけるな!!』

 

 なんてこと(メーデー)が発生していたようだが、舞斗(まいと)たちには関係のない事である。

 

 

 なおこの時代、機内で携帯電話を利用していた場合は航空法違反により逮捕されたりもする。

 VIPだからセーフなのかもしれないし、今回はそれどころではない問題を引き起こしているので何とも言えないが。

 

 まあ、漫画的な演出というやつである。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 さて、本日のメインイベントはまだ終わっていない。

 

「るりちゃん、お誕生日おめでと~!」

「おめでとー!」

「おめでとうございます!」

「ありがとう、みんな」

 

 12月24日は、るりの誕生日でもあるのだ。

 

「…………」

 

 るりは少し、警戒していた。

 自分の誕生日は(つぐみ)のときと同じく、描写されずにスキップされると思っていたのだ。

 

 小咲(こさき)の誕生日は特別なので描写があるのは当たり前だろう。

 正史(原作)の94話『小咲(こさき)の誕生日に(かこつ)けて、彼女の妹といちゃつく鬼畜イベント』のような記憶を上書きするために、小咲(こさき)に近しい人間が彼女を優先するのは自明なのだ。

 

 ただまあ、オチに自分が使われたのだけは納得いかなくて、まさか今回も……

 

「はい、プレゼントだよー」

 

 しかし3人から渡されたのは、ごく普通の品物だった。

 ポトラッチを防ぐため事前に決めた『高校生の小遣いの範囲で購入できるもの』という制限内の、本当に普通の品物だった。

 

「あ、ありがと」

 

 良かった。『プレゼントはワタシ』作戦じゃなくて、本当に良かった。

 

「るりちゃん、安心して。そっちもちゃんと準備してるから」

「え?」

 

 見れば舞斗(まいと)が懐からリボンを取り出していた。もちろん残る2人もだ。

 彼らがリボンを手に、じりじりと迫ってくる。

 

「ま、待って3人を同時にとか、体が持た、んっ」

「ふふっ、るりちゃんカワイイ」

 

 どうやら明日のクリスマスパーティーのやり直し(楽と千棘の事情聴取)には参加できなさそうだ。

 セイなる夜は、まだ始まったばかりなのだから……

 

 

 






蜻蛉(はぁ…… やだやだ)

蜻蛉(人気投票で軽いファンが増えちゃって……)



蜻蛉「何ぃ? 人気投票1位だから小咲(こさき)を応援するだぁ?
   お前この前まで千棘(ちとげ)推しだって言ってただろ」

付人「だ、だって、勝ち馬に乗るのは当然では……」

蜻蛉「バカかてめーはよ、都合のいい時だけコロコロと考え変えやがって。
   そんなんだから、その程度の番付止まりなんだよ」




鬼丸「……今回は2人(楽と千棘)の絆の深さを、様々な視点から再確認するいい話じゃったろうが」

鬼丸「元ネタ(ぼく勉)とは違って、小咲(こさき)の回は結局千棘(ちとげ)の踏み台に過ぎなかったから、
   どの力士も小咲(こさき)フラグとまでは盛り上がらなかったが……」

冴サン「……そこまで気にする必要はありませんよ」

冴サン「読者の数だけ様々な意見が出てきます。中には雑音に感じるものもあるでしょう。
   そんな物にいちいち耳を傾ける必要はありません」

冴サン「よそ見せず、自分の推しだけを見てればいいんですよ」



蜻蛉(……)

蜻蛉(言うじゃない……)

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