前話でチョコの話題が出たため、本日はバレンタインデーである。
その日も一条
『今日は確か、バレンタインデーか…… まぁさして興味はねーけど』
彼にとっては
『ま、別に女子から欲しいわけでもねぇけどな。そんなの別に興味ねぇし……』
そう思いつつ、下駄箱の扉に手をかける。
開ける。
見る。
無い。
「……期待したな? 貴様」
「してない全然してない」
背後から
「んだよ
そう、チョコなんて入ってるわけがない。分かっている。
そのままいつも通り教室に行き、自席に着く。
そして何気なく机の中を覗き込む。
見る。
無い。
「…………フッ」
苦笑が漏れる。
そう、チョコなんて入ってるわけがない。分かっている。
『あー、チョコ
机に突っ伏し、心の底からそう思う。
『誰でもいいからオレにチョコくれねーかなー。今まで女の子に
あ~チョコ欲しいな~ちっっくしょお~~!!』
いろいろと限界を迎えつつあるが、自分が
義理なのはわかっているが、それでも嬉しい……
小野寺からも、
いやねぇよな!!! くれるわけねぇだろオレなんかに!!
でも優しいから義理くらい…… いやでもやっぱもしかしたら……
「……一条君は、何をしているのかしら?」
「るりちゃん、そっとしておいてあげて」
突然立ち上がると後ろを振り向き、そのまま自分の机に後頭部を打ち付けるという彼の奇行に、理解を示す者も居る。
「あ、
「おはよー」
そんなところにやってきた
「……はい
ちょっと目線を逸らしているが、綺麗にラッピングされた包みを差し出す。
「……えっ、お、あ、ありがと」
期待はしていたが、まさか本当に
「……お返しは期待してるわよ」
「お、おう、任せとけ」
2人とも顔が真っ赤である。
「……青春ね」
「この2人、自分たちの
るりと
「………………」
「えっ? ちょっと、
チョコを嚙みしめた
「……あのチョコ、
「もらってすぐに食べるって、結構なイチャつきポイントなはずなんだけどね……
でもダメだと分かった瞬間、残りも全部
るりと
◆
昼休み。
ようやく保健室から戻ってきた
「あの! 良かったら! コレを受け取ってください!!」
なぜか
「……なんだ? 今のは」
「ヒューヒュー、さすが誠士郎ちゃん、モッテモテ~」
あっけにとられる
「バレンタイン?」
「あれ? 誠士郎ちゃんバレンタインを知らないの?
バレンタインって言うのはね~嫌いな奴にチョコを渡す日なんだよ~」
彼女がバレンタインを知らないと判断した
「だからさ、誠士郎ちゃんも゛?!!」
笑えない悪質な嘘を吹き込もうとしている彼を、横から
もしこれで
これからずっと『自分がバレンタインに初めてチョコを渡したのは、嫌いな相手だった』という思い出を抱えて生きることになってしまうのだ。
それともこの場であれば自分が
……そもそもフォローをしたことがあっただろうか?
「昼休みが終わる直前に目が覚めるよう、調整しておいたから」
「さすがはマイちゃん様です」
パチパチと拍手する
「あ、私なら大丈夫ですよ。舞子
「ただ、アメリカとは違ったので少し戸惑ってしまいまして」
アメリカでのバレンタインは恋人や家族など、すでに関係が出来ている人とのイベントである。
対して日本は告白の意味も含んでいる。
そのためまさか初対面の人間にチョコを渡されるとは思っておらず、先の反応になったのだ。
まあそれはそれとして。
「……なあ、岬たちは何やってるんだ?」
「え? 何って……」
昼食を取り終わった机の上に広げられている、卓上コンロと鍋。
「チョコレートフォンデュだよ?」
「何でだよ」
バレンタインだからである。
「別に背中からカニを取り出して鍋を始めたわけでもあるまいし、普通でしょ?」
「マイちゃん、ネタが古いわ」
「普通、教室で調理はしないと思うよ?」
「私もいろいろな物を取り出してるんで、親近感湧きますね」
とある先輩の話である。
「一条君も、良かったらどうぞ」
ついで白玉(
そのまま流れでチョコに
『……あれ? もしかしてコレ、小野寺からチョコを
今まで女の子から
そうテンションの上がっている
ちなみに昨年は
昼休みに一緒に和菓子屋『おのでら』の和菓子詰め合わせセットを摘まんだだけである。
「へー、白玉とチョコってのも合うんだな」
「でしょ? おいしーよね」
ニコニコしている
「……で、何で岬はフライドポテトなんだよ」
「この塩っ気が、甘い物の後に良く合うんだよ」
そんなのん気な彼らをよそに、思い悩んでいる
「なんで私のはおいしくないんだろ……」
「市販のチョコを溶かして型に流し込むだけなのに、そもそも何で味が変わるの?」
「えっ?!」
「え?」
ガトーショコラやブラウニーみたいなものならともかく、チョコ単体で食べるなら成型するだけで済む。
市販のチョコはそのままでも十分おいしいものばかりなので、チョコ自体の味を変えるのはよっぽど自分の好みに
「
「うぅ、はい……」
「そっか…… あれハートだったのか……」
来年は真っ当なものを食べたいなと、切に願うのだった。
「
「ん? 橘の声?」
「休みかと思ったけど、やっぱり来たんだね」
廊下から聞こえた声に顔を向けると、台車を押す
「申し訳ありません
台車の上には、チョコでできた
廊下の天井に頭をこするほどの大きさで、足元の台座部分を含めると何百キロあるのだろうか。
「おそらくダビデ像をモチーフにしたんだと思うけど、造形が甘いね」
「ええ、頭が大きいのと足が細いのとで、力強さが感じられないわね」
「なんだか上半身の筋肉が変?」
「実物のしっかり体重が乗っている感じが無くなって、ポーズが不自然ですね」
「いやお前ら、像としての完成度より、そもそもオレの顔をしていることにツッコんでくれ」
「顔が90度真横を向いているのは不自然だよね」
「やっぱり目はハートマークなのかしら?」
「頭が天井にこすれて、チョコの跡ができてるね」
「こちらからは見えませんが、
「いやお前ら、そうじゃなくてだな……」
顔が引きつる彼に対し、
そして
「橘さん、それは何?」
「もちろんバレンタインのチョコですわ。
「ならさ、普通は自分の像じゃない? 私を食べて的な」
「えっ?」
少なくとも、食べる本人の形をしても喜ぶはずがない。
恐る恐る
「えっ?」
「ま、まあ、そうだね」
廊下に居た通りすがりの生徒たちは同意する。
「えっ?」
「プレゼントはワタシ、の亜種ね」
「るりちゃんが得意なヤツだね」
「宮本様の得意なヤツですね」
「えっ?」
「すまん橘、少なくとも共食いはちょっと……」
「そ、そんな……」
「……精神的なショックと、前日からの疲労によるものですね。保健室に連れていきます」
目を回してうなされているが、いつものことである。
「本田さん、知ってて止めなかったでしょ」
「……懸命なお嬢様が可愛くて、つい」
その可愛いお嬢様を台車に雑に積み上げながら言うセリフではない。
「それと岬様、これを」
「お、ありがとー」
本田からハート形のチョコをもらう
「では、また」
ダビデチョコと
「
「この場合、オレはチョコを受け取るべきだったんかな?」
結果的に
なんにせよ、教室の平和は守られたのだった。