本当にせこい   作:七九六十

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07-03 バレンタイン 後編

 

 

 

 そして放課後。

 男たちにとっては委員会や部活動など、ラストチャンスの時である。

 できるだけ長く学校に居れば、それだけチョコを(もら)える確率が上がるのでは、という足掻きである。

 そんなはずはないのに。

 

 一方そんなものとは無縁なためさっさと切り上げた舞斗(まいと)と、本日の活動は部室の掃除だけだった水泳部のるりは教室に居た。

 女子水泳部なだけに、バレンタインのようなイベント時にガッツリと活動する気は無かったようだ。

 

 今は他の皆がそれぞれの用事で出払っているため、戻ってくるまで暇をつぶしている。

 舞斗(まいと)は携帯ゲーム機で遊んでいるし、るりは小説を読んでいる。

 

「…………」

 

 るりはポッキーを手に取る。

 自分で食べるだけでなく、横に座っている舞斗(まいと)の口元に差し出したりもしていたのだが、少し悪戯心が湧いた。

 

「…………」

「ん?」

 

 舞斗(まいと)(くち)にしたポッキーの感触が、これまでとは異なることに気付く。

 そして目を向けてみれば、ポッキーを(くわ)えたるりの顔が至近距離にある。

 

「ん」

「……んっ」

 

 が、そこで驚く彼ではない。ためらいもなく食べ進み、ゴールにたどり着く。

 どこぞの偽装(ニセコイ)カップルとは違うのだ。最終回まで引っ張るなんてことはしない。

 

「珍しいね、るりちゃんから仕掛けてくるなんて」

「……今日は、特別だから」

 

 今になって自分の行いに恥ずかしさを感じたのか、るりの顔が少し赤い。

 そんな彼女を膝の上に乗せ、舞斗(まいと)(ささや)きかける。

 

「じゃあ、もう一本欲しいな」

「……ん」

 

 今日はバレンタインだから、特別なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? るりちゃん1人? めずらしーねぇ」

 

 呼び出しを受けた舞斗(まいと)が教室を離れてしばらくすると、(しゅう)がやってきた。

 

「ねぇねぇ、ところでるりちゃんは誰かにチョコあげたりしないの?」

「生憎、そんな予定は無いわね」

 

 ()()は無い。

 るりは彼を相手にせず、読書を続けている。

 

「じゃあさ~、そこのポッキーで良いから頂戴(ちょうだい)よ~」

 

 せっかくのバレンタインなんだし、と言って手を差し出す(しゅう)に、るりは箱ごと渡して読書を再開する。

 

「あれ? るりちゃんが珍しく素直に……」

 

 と思ったが、箱の中は(から)であった。

 (しゅう)は納得すると同時に、もう少し早く教室に戻ってこれば良かったと後悔する。

 もし中身が残っていたなら、もっとおもしろい反応が見られたかもしれないのに。

 

「つれないなー」

「あなたが欲しがったんでしょ、その()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて()()()()()()元凶である舞斗(まいと)だが、彼は屋上に来ていた。

 というのも、(つぐみ)から呼び出しを受けたのだ。

 

「……あ、マイちゃん様」

 

 先に来ていた(つぐみ)は、いつもとは違いセーラー服姿だった。

 

(つぐみ)ちゃん?」

「あの、これ、受け取ってください」

 

 そう言ってハート形の包みを差し出す。

 もちろん舞斗(まいと)が断るはずもなく、礼を言って受け取る。

 

「私も、日本のバレンタインをやってみたくなりまして……」

 

 先ほどチョコを買いに出て、折角だからと服も着替えたのだという。

 そんな彼女に得も言われぬ愛おしさを感じる舞斗(まいと)

 

「……(つぐみ)ちゃんは、カワイイなあ」

「か、かわいくなんてないですよぅ……」

 

 思わず(こぼ)れてしまった言葉とともに、彼女の体を抱きしめる。

 ただでさえ赤かった(つぐみ)の顔がさらに真っ赤になる。

 

(つぐみ)ちゃん、カワイイよ」

「うぅ……」

 

 恥ずかしがりながらも、抵抗は無い。

 

 舞斗(まいと)(つぐみ)の可愛さを堪能するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん? 岬とつぐみか」

「あ、一条と千棘(ちとげ)ちゃん。橘さんが居ないってことは……」

万里花(まりか)は……」

 

 そのあといろいろとあって、(つぐみ)が着替えてから教室に戻る途中の2人は、廊下にて(らく)千棘(ちとげ)に遭遇した。

 彼らは飼育委員の活動の後、保健室に万里花(まりか)を見舞いに行く予定だったのだが。

 

 それが今、彼女と一緒に居ないという事は、そういう事である。

 千棘(ちとげ)が空に浮かぶ万里花(まりか)の笑顔を幻視しているが、そういうことではない。

 

「とりあえず本田さんが車に乗せてたが、まだうなされてたな……」

 

 早く元気になって欲しいところである。

 

「でもこれで、来年は橘さんの形をしたチョコを(もら)えるんじゃない? 愛想尽かされてなければ、だけど」

「不吉なこと言うなよ……」

 

 (らく)はげんなりとした顔で答える。

 

「マイちゃん様、今の一条様の発言は、どちらに掛かっているのでしょう?」

「うーん、後者だったら面白かったんだけどね」

 

 耳打ちしてくる(つぐみ)には残念なお知らせだが、(らく)はそこまで深刻に捉えていないようなので、前者の可能性が高い。

 

 そんな話をしながら教室に戻った一行が目にしたのは、るりと小咲(こさき)、そして2つのチョコを手にした(しゅう)の姿であった。

 

「え、(しゅう)……?!」

 

 

 

 さて、状況を整理しよう。

 

 放課後の教室、そこに居るのは前述の3人。

 

 男が1人、女が2人。

 

 

 

 そして男は2つのチョコを持っている。

 

 

 

 

「────っぉおおおかえり(らく)いやあ今年は2つも(もら)えてさうれしくてるりちゃんたちに自慢してたんだよね~!!」

 

 嘘ではない。

 るりからの『1つも(もら)えなかったからって人に(たか)るな、(しゅう)だけに』というニュアンスの言葉を受けて、既に2つも(もら)えているのだと証明しようとしていただけである。

 そこに偶然小咲(こさき)が戻ってきて、そして偶然チョコが人数分そろってしまっただけなのだ。

 

 本当に小野寺から(もら)えたのならともかく、この誤解はマズイ!!

 

 そう(あせ)(しゅう)に苦笑しつつ、るりがフォローを入れる。

 

「一条君、安心して。()()、あげてないわ」

「ちょっとるりちゃん?!! なんで含みのある言い方するの!!」

 

 追い打ちであった。

 まあ彼女が(しゅう)擁護(ようご)するはずもないのだから、当然の流れではあるが。

 

「……………………」

 

 (らく)からの疑いの眼差しに、さらに(しゅう)(あせ)る。

 しかも悪いことに、舞斗(まいと)が自席に戻りつつニヤリと笑っていたのが見えた。

 

 ヤツを野放しにしてはマズイ!

 ヤツなら2つのチョコを自分と小野寺からのものだと(いつわ)って、三角関係による修羅場を仕立て上げるくらいの事はヤル!

 どうにかして先手を打って、(らく)の誤解をとかなくてはならない!

 

「あ、マイちゃん」

 

 がしかし、先に動いたのはなんと小咲(こさき)であった。

 彼女は舞斗(まいと)の方に歩み寄る。

 

 虚を突かれた(しゅう)だったが、考えようによってはコレは有りだと判断する。

 最悪なのは自分の側にいて、仲が良いのだと勘違いを後押しされること。

 ならばこうやってすぐに自分の側から離れていくことは、逆にその程度の会話しかしていなかったとのアピールになる。

 しかも厄介な岬(クソガキ)を抑えてくれるのだから、一石二鳥である。

 

「マイちゃん。私ね、がんばったよ」

「ちょっと小野寺?!! なんで勇気を出してチョコ渡したよ的なノリなの?!!!」

 

 あかん。コレはあかん。(らく)の目が()わってる。

 もはや『お前を殺してもう一度殺す』的なレベルですやん……

 

 

 

 

 このあと(しゅう)は頑張った。そりゃあもう必死に頑張った。

 状況が分からず首を(かし)げていた千棘(ちとげ)と、興味を失ったるりと(つぐみ)の3人が仲良く談笑する横で。

 元凶である小咲(こさき)舞斗(まいと)に頭を撫でられ、えへへーと喜んでいる横で。

 彼女が頑張ったのは『委員会の仕事』だと判明するまで、とにかく頑張ったのだ。

 

「………………オレハ、(しゅう)ヲ、信ジテタ、ヨ」

 

 欠片も信じていない声色でそう返す(らく)だが、一応その場は収まったようだ。

 そして気が付けば下校の時刻である。とりあえず一行は教室を出ることにした。

 

 いや、2名ほどこっそりとその輪から抜け出し、教室に留まっている。

 

「マイちゃん、これ……」

 

 小咲(こさき)は手にした包みを舞斗(まいと)に差し出す。

 

小咲(こさき)ちゃんから(もら)うのは、これで4度目だね」

「ま、前のは忘れて欲しいなー?」

 

 中学校に入学してすぐに、るりを含め仲良くなった3人。

 

 1年目は所謂(いわゆる)友チョコとして(もら)い、るりが食べた直後に泡吹いて倒れてしまうほど強烈で。

 2年目は特訓の成果もあって、食べられるレベルになったことを喜んで。製菓だけに。

 3年目は一条(らく)に渡せなかった敗戦処理として。

 

 振り返ってみれば、いろいろあったものだ。

 

「……まともにチョコを渡すのは、これが初めてなんだね」

 

 小咲(こさき)はそう言って、舞斗(まいと)にそっと寄り添う。

 

「私の初めて、あげるね?」

小咲(こさき)ちゃん、言い方がおかしい」

 

 そもそもそっちはとうの昔に(もら)っているし。

 

 清楚系大好き力士(大包平関)の推しだった小咲(こさき)ちゃんは、どこに行ってしまったのか。

 

 まあ、可愛いから問題ないが。

 

「ありがとね、小咲(こさき)ちゃん」

「…………ん」

 

 彼女を抱き寄せ、お礼をする舞斗(まいと)

 さすがにこの場でこれ以上はできないので、あとは帰ってからのお楽しみである。

 

 今は我慢して、皆と合流するために教室を出る2人であった。

 

 

 

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