小野寺
以前、
『今好きな人と、昔の約束の男の子。どちらを選ぶの?』
彼に自分の所有する『
『
そんな自分に都合のいいことを考えて逃避しているうちに、気づけば高校生になっていた。
『一条君はそのペンダント、どこで買ったの?』
『いや、あれ
そして訪れた、自分に都合のいい
しかし気づいてしまう。これは同時に、可能性を完全に失くしてしまう危険性も秘めていると。
もし違ったら?
もし
避け続けてきた問題に直面する可能性が、足をすくませる。
そのまま迷い続けた結果がこれだ。
分かっている。
決断できなかった自分が悪いのは、分かっている。
一条
それでもと考えてしまう自分の浅ましさも、分かっている。
ふと気づけば
「
出迎えてくれた、中学生のときからの
自分とほとんど目線の高さが変わらない華奢な体つき。少女のような顔つき。
そしてその見た目とは裏腹に、自分にはない
自分で決めて、行動する。
その結果が成功であれ失敗であれ、そして後悔であっても、自分で受け止める。
本人は『こんな、1人で生きてきた結果身に付いた
自分にも彼のような強さがあれば。そう考えてしまうのだ。
彼からは、いろんなものを
料理についてもそうだ。母からも「あんた仕上げ以外、死ぬ程下手くそなんだから」と評されるほどだったものが、今では和菓子・洋菓子はもとより、和洋中の料理がその道で食べていけるレベルに達している。
カナヅチだったのに、クロールと平泳ぎだけとはいえ50mも泳げるようになったのだって、彼のおかげだ。マンションにあるプールを使わせてもらい、一緒に練習した結果だ。
技術的なものだけでももっと沢山あって、精神的なものはそれこそ言葉では言い尽くせないほどある。
そんな彼との関係が、この先もずっと続くものだと甘えていないだろうか。
もしこのまま何もしなければ、また奪われ、失うのではないだろうか。
「
目の前の
「
「……るりちゃんも、誰にも渡さないから……」
「え? ……え?」
近づいて来たるりもまとめて抱きしめる。
もう決して、奪われたくないし、失いたくもないから……
◆
あれから小一時間。
「
「ありがと、るりちゃん」
コーヒーを用意して、『さあお前の知っていることを吐いてもらおうか』と待ち構えていたるりに従い、ソファーに腰掛ける。
ちなみに過去にファーストコンタクトを失敗したため、
まあバレてはいるのだが、暗黙の了解というやつである。
「さて、どこから話したものか」
簡潔にまとめるには少し前提となる知識が多すぎる。
そう迷っていると、るりが先に
「……まず、一条君は
「それは合ってる」
本人にそれとなく確認したことがあり、そこに間違いは無い。
まあ普段の
ではそれがなぜ、桐崎
昨日の放課後に一応の和解が成立したとはいえ初対面からこっち、ずっといがみ合っていたのだ。
普通はあり得ないだろう。
しかしそこに、
「じゃあ、それを
「そう簡単な話ではないんだな、これが」
問題は
偽の恋人として過ごす期間がどれくらいになるかは分からないが、ヤクザもギャングも
おそらく今日のデートだけでもかなりの情が移っているだろう
「じゃあ、もう
「
「だったらなぜ、今まで
マイちゃんだったら
るりは暗にそう言ってくるが、これにも深い事情がある。
「
彼女の中で10年前の『約束』を昇華できていない以上、それでは駄目だったのだ。
ちなみに
・避暑地の別荘で親同士のつながりもあって仲良くなった子供たち。
・夏が終わればもう会えなくなるので、当時子供たちが好きだった絵本になぞらえて再会の約束をした。
・その約束を形にするため、絵本に出てきた『
・『
・いつか大きくなって再会したら、結婚しよう、と。
「
今も昔も
「おそらくそうなんだろうけど、記憶って結構いいかげんでね」
細部を忘れる取り違えることはもとより、他人から聞いた話を自分の体験に置き換えてしまうことすらある。
るりに向かって手にしたコーヒーを見せつつ、
「例えばるりちゃん、先週の土曜のこの時間、ここで本を読んでいたときにコーヒーを飲んでたけど。そのときに使っていたカップはピンクだった? オレンジだった?」
「え?」
そう言われて記憶を
先週の土曜、夕方、そのとき読んでた本、カップを手にしたとき、コーヒーを
そのときの情景を頭の中で組み立てるが、肝心な部分が抜け落ちている。
「……ピンク、かしら」
「残念」
勘で答えてみたが、間違っていた。
そうか、オレンジだったのか。
最後のピースがはまり、過去の情景が完成する。
「正解は、『
「はぁっ?!」
完成直後に、爆発した。
「いやぁ、るりちゃんは素直でカワイイなぁ」
「ぐぬぬ」
るりの頭を撫でる
「普通はこんなに簡単にはいかないけど、記憶は変化してしまうものなんだ。
だから『当事者全員に別々に話を聞いたうえで、時系列順に、状況や物的証拠と矛盾がないように組み立てる』とかしない限り、正しい姿は分からないと思うよ」
そもそも『
当人同士で後で交換していたり、ぶつかった拍子に落として入れ替わってしまったとかも考えられる。
そんな
そしてそれは他人に言われたからではなく、自分の意思で決めてほしい。
そう思って見守っていたのだが。
「そしてそんな
他人が大事にしているものを紛失した原因である少女が、しかもラブコメというジャンルで『好きだった子に
あげくにそれに言い返した男の方が反省するという流れを見て、ああ作者の中ではちょっとしたすれ違い程度の認識なんだなと分かり。
読者の感想も
この作品の唯一の良心である少女が幸せになる展開は用意されておらず、それどころか今回のような流れで今後も酷く傷つくのではとすら思えてしまう。
「
「ゆっくりだけど前に進めてはいたんだけどね」
この場合は『
ただし
第1話で『
第2話で『そういうロマンチックなのは嫌いじゃない』と
以前バカにしたことは謝らない、つまりは他のヒロインとの思い出はダサい。
こうもハッキリと示されれば、専用アイテムだったことは明らかで。
正統なる所有者には祝福を、そうでなければ災いを、というヤツである。
ファンタジー物を描きたかった作者であればそれくらいはやってもおかしくないのだ。
◆
「……
「んー、ちょっとダメかも」
「え? ……っ?!」
「マイちゃん…… るりちゃん……」
ハイライトのない目をした
暗い影を背負って部屋の入口に立つ彼女は、実にホラーな存在と化していた。
「
そんな
「……ん」
ゆっくりと、ふらつきながらも
そして彼に抱きしめられ、
さらに頭を撫でられて、喉をゴロゴロ鳴らしている。
るりはその光景を見て安堵する。
彼が居れば、小野寺
月曜には
それに耐えられるレベルまで、この土日で
るりはそう決意するのであった。
……ダメだったら
るりはそう決意するのであった。
自分が生贄にされるとも知らずに。
横綱「……女の子が不幸な目にあうマンガが好きとは言った」
横綱「でもね」
横綱「困難に立ち向かうところが好きなんであって……」
横綱「バッドエンドが読みたいわけじゃねぇんだよ俺ぁ……」