本当にせこい   作:七九六十

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原作:第75話カミカゼ~第82話オソウジ まで

・後輩組登場
・妹が出て以降、小咲(こさき)ちゃんが出しにされる頻度が上昇している印象。
 「妹と仲良くなって欲しいからといわれたので仕方なく」
 「お姉ちゃんのために、でも今回で最後だから私が」
 を何度も繰り返したあげく、(らく)とは進展どころか始まることもなく終わる。
 いろいろと勿体ない使い方をされたキャラ。
・「超絶美人でスタイル良くて人当りも良さそう」な見た目だと称される千棘(ちとげ)
 (はる)に見る目がないのか、作者はそういう風に描いているのか迷うところ。
 キャラに言わせるのではなく、読者にそう思わせて欲しいものである。
・あとアニメ化決定の見開きページ、なんで小咲(こさき)ちゃんだけ一人で歩かせてるの? (つぐみ)ちゃんは?
 無自覚の悪意なのか、気付かれないと思ってやってるのか……




08 - イモウト
08-01 (はる)登場


 

 

 

 季節は移り替わり、春になっていた。

 今日も朝から日差しが暖かく、(らく)欠伸(あくび)を噛み殺しながら登校していた。

 

「……ああ、そういや今日は入学式か」

 

 真新しい制服に身を包んだ、ソワソワと落ち着かない生徒がちらほら見つかる。一年前は自分もそうだったなと少し懐かしむ。

 今度こそ家業(ヤクザ)のことを隠して上手く友達を作るぞと意気込んでいたり。

 これから3年間、また小野寺たちと一緒の学校だと思うと嬉しかったり。

 

「……ん? なんだ?」

 

 前方に何やら揉めている集団がいる。

 人数は4人。いずれも小柄で、凡矢理(ぼんやり)高校のセーラー服に身を包んでいる。

 

「って、小野寺? それに岬と宮本も」

 

 よく見れば小咲(こさき)を背に(かば)っている見慣れぬ人影と、それに対峙する舞斗(まいと)、その横にるりという構図。

 (らく)は状況がつかめず首を傾げる。

 

「あ、一条君、おはよー」

「お、おぅ……」

 

 彼に気付いた小咲(こさき)が声をかけてくる。

 ただその声色はいつも通りだったので、余計に状況が分からず混乱してしまう。

 

「一、条……?」

 

 小咲(こさき)の前で舞斗(まいと)と対峙していた少女が(らく)に目を向ける。

 

「……もしかして、()()一条(らく)先輩……?」

「あ、ああ、そうだが……」

 

 急に自分の名前が出てきて驚いてしまう。

 

「ヤクザ集英組の組長の息子で」

 

「超絶美人の彼女がいるにも関わらず、多数のキレイな女の子を従えて」

 

(うわさ)じゃ親の権力で学校を裏から牛耳っているという……」

 

「あの、一条(らく)~~~!!?」

 

 目を見開いて驚愕の表情でとんでもない内容の叫びをあげた少女。

 

「待て待て待て!! なんだその(うわさ)!!」

 

 初対面でいきなり悪しざまに言われ、彼は少し涙目である。

 少女の方はというと、そんなウワサを持つ(らく)の剣幕に怯えている。

 それでも小咲(こさき)の前で『お姉ちゃんは私が守る』的な発言をしているのは、立派というかなんというか。

 

「こらっ。(はる)、ダメでしょ、人をウワサだけで判断したら」

「だ、だってお姉ちゃんっ」

 

 (らく)がウワサについて否定するために(くち)を開こうとしたが、その前に守られていたはずの小咲(こさき)が少女を(しか)っていた。

 (しか)るといってもまったく迫力が無く、思わず自分が代わりたいと(らく)が思ってしまうようなものだったが、それでも大好きな姉から(しか)られたという事実が少女に大ダメージを与えているようだ。

 

「ん? さっきからお姉ちゃんって……」

「そう、あの子は小野寺(はる)小咲(こさき)ちゃんの妹だよ」

 

 近くに寄ってきた舞斗(まいと)からそう教えてもらう。(はる)小咲(こさき)に抑えられたので、(らく)と合流しにきたのだ。

 

 改めて見てみれば黒髪にサイドポニーという違いはあれど、顔立ちはよく似ている。

 

「そういえば前、妹がいるっていってたな」

「見て分かると思うけど、今年から凡矢理高校(うち)に通う1年生だよ」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「にしても一般人からの一条のイメージって、そんなに外れて無かったね」

「ウワサの3分の2は合ってたわね」

「おい2人とも、あんなのは事実無根のただのウワサだ」

 

 るりも合流して2人で笑っているが、当事者にとっては大問題だ。

 

「確かに親の権力で、ってのは間違ってるよね」

「おう」

 

 ただし(らく)自身が見るからにヤクザな連中と一緒に、黒塗りの如何にもなリムジンで学校に乗りつけているのだから、脅しと取られてもおかしくはない。

 

「ヤクザ集英組の組長の息子、ってのは合ってるよね」

「……おう」

 

 これは確かに仕方がない。生まれについてはどうしようもない。

 

「超絶美人の彼女がいるにも関わらず多数のキレイな女の子を従えてる、ってのも合ってるよね」

「ほら3分の2じゃない」

「待て、それはおかしい」

 

 オレはそんな軟派な男じゃない!

 彼はそう否定する。

 

「でもさ、美人の彼女はいるよね?」

「お、おう、それはまあ……」

 

 千棘(ちとげ)が美人であることは否定しない。

 が、ここに居る2人は事情(ニセコイ)を知っているのだから、彼女であることは否定しても大丈夫なのだが。

 

「普段自分の周りに居る『キレイな女の子』を数えてみたら?」

 

 そう言われて(らく)は指折り数えてみる。

 

 ここに居るだけで小野寺、岬、宮本。

 千棘(ちとげ)は彼女枠か? まあとりあえず入れておいて。

 あとはつぐみと橘……

 

「片手じゃ足りなかったね」

跳満(ハネマン)ね」

「い、いや、やっぱり千棘(ちとげ)は彼女枠だから抜いて……」

 

 それでも満貫(マンガン)である。十分に高い。

 

 改めて考えてみると、自分の周りには女の子が多いことに気が付く。しかしウワサについては受け入れがたく……

 

「もしかして、本当はその中の何人かはキレイじゃない、ってこと?」

 

 舞斗(まいと)(らく)の顔を覗き込みながら、そう問いかけてくる。

 今しがたキレイな女の子としてカウントした人間の急接近に、彼の鼓動が跳ね上がる。

 

「い、いやそんなことはないぞ! みんな間違いなく美人だ!」

「チョロいわね。従えてる、のほうから意識を逸らされてることに気付いてないわ」

 

 るりの(つぶや)きは彼には届かなかったようだ。

 ちなみにこの男、るりがメガネを外して髪をおろした姿を目撃して以来、彼女も美人枠に入れている。それまではカワイイ女の子枠であった。

 

「ま、まあ、オレの方はそれでいいとして、岬たちは何をやってたんだ? 揉めてたように見えたけど」

 

 実に強引な話題転換である。

 

「ああ、あれ? 実は俺、(はる)ちゃんには嫌われててね」

「え? 彼女に何かしたのか?」

 

 自分はウワサのせいで警戒されたようだが、と気になってしまう。

 

「まあ1つは、彼女はお姉ちゃん大好きっ子でね」

「それは、何となく分かるけど……」

「だからお姉ちゃんを取っちゃヤダ、的な」

「なるほどな……」

 

 良くある話である。ただ、高校生にもなって、というのは……

 

「ああ、そこは(はる)ちゃんが女子中に通ってて、しかも寮に入ってたせいだね」

「元々思い込みが激しい子だったけど、閉じた環境でそれが強化された上に、離れて暮らしてたからさらにってとこね」

「へー……」

 

 なんだかんだと頻繁に顔を合わせていたとはいえ、寮生活は淋しかったらしい。

 高校は共学なので、なんとか落ち着いて欲しいところである。

 

「もう1つは、彼女の母親に嫌われてるせいだね。親の嫌いなものって、子供も嫌いにならなくっちゃって思い込むヤツ」

「親が子供に与える影響って、本人が思ってるより大きいのよね」

「いや、いったい何したんだよ、お前は……」

 

 ちょっとファーストコンタクトに失敗しただけである。

 

 あれは中学1年のころ。小咲(こさき)と仲良くなった舞斗(まいと)とるりが、彼女の家に遊びに行った時のことである。彼女の家は和菓子屋『おのでら』を営んでおり、そこで店番をしていた彼女の母親と遭遇したのだ。

 ちょうど虫の居所が悪かったというのもあるのだろうが……

 

『中学生が和菓子屋(ウチ)に何の用……? 子供はアメでもなめてな……!!』

『確かに、中学生に用事は無いようですね。こんな年寄り向けの和菓子よりは、飴玉の方がマシだ』

 

 第一声がこんな感じだったのである。

 

「それは確かに……いやでも、大人として……」

「てっきりそんな感じのやり取りが好きな人かと思って、ノリを合わせてみたんだけど」

「ただの(くち)が悪い人だった、ってだけなのよ」

 

 和菓子屋に若い娘が嫁いだという事で、近所の老人たちからチヤホヤされたのが原因だろうか。

 接客業として致命的な態度のまま、今日(こんにち)に至るのだ。

 

「おかげで、直後に出禁になってね」

「塩を()かれそうになったのは、人生であのときだけだわ」

「なんというか、うん……」

 

 近場にあった塩は和菓子用のお高い物だったため、幸いにも()かれることは無かったが。

 

 ちなみに他人事としてのん気に構えている(らく)であるが、数ヶ月後に彼も出禁になる未来が待っていたりする。

 よりにもよって和菓子屋『おのでら』の目の前にケーキ屋を出店するという、小野寺母からしてみれば正面から喧嘩を売るに等しい行為によって敵と認定されてしまったのだ。

 

 開店直後のヘルプとして参加していた彼が、何とかして和菓子屋に客を戻そうとして何故か新作ケーキを連発し、より一層お客を集めて小野寺母の機嫌を悪化させ。

 

 さらに客層を無視した小野寺母による起死回生の一手、娘の着る店の制服の布地面積を減らして客引きをさせるという作戦を察知した小咲(こさき)が、妹を連れて舞斗(まいと)のところに避難してしまい、さらに機嫌が悪化して。

 

 そんな負のオーラをまとった彼女のところに和菓子を買いに行く猛者(もさ)が居るはずもなく、来店客による売り上げが壊滅的なものとなり、もはや機嫌の悪化などという生温いものではなくなり。

 

「お前は、我々に宣戦布告をしたのだぞ!」

「お互いに国境を封鎖しているせいで、緊張が高まっているのだ」

「未開人の宗教を崇めるとは、なんとも不愉快だな」

「お前は、我々の都市を滅ぼしたのだぞ!」

 

 とまあいろいろと積み重なって。

 舞斗(まいと)に対しては『苛立(いらだち)』もしくは『警戒』くらいだったものが、(らく)に対しては『激怒』まで行ったことで、『最悪の敵』と見なされてしまうのだ。

 

 

 

 

「ちなみにマイちゃんの印象が強すぎたせいか、一緒にいた私は別に何ともないのよね」

「だから基本、るりちゃんとその友達と遊んでる、って建前で通してるんだよ」

 

 さすがに気付かれてはいるのだが、名前や姿が直接出てこない限り何も言ってこないというのが現状である。

 

「まあこちらとしても顔を合わせたら、別の文句が出そうだから丁度いいんだけど」

「え? 他にも何かあるの?」

「昔の事で、ちょっと」

 

 20年近く前の、いや正確には20年間の、といったところか。

 

 そんな話をしているとお説教も終わったのか、小咲(こさき)(はる)を連れてやってきた。

 

「ごめんね、一条君。妹がひどいこと言っちゃって」

「ごめんなさい……」

「い、いや、オレは全然気にしてないからっ!」

 

 小咲(思い人)にもその妹にも頭を下げられるのは耐えられないし、気にしていないのは本当のこと。なので(らく)はあっさりと謝罪を受け入れる。

 そして改めてお互いに自己紹介を行い、今回の件は終わりとなった。

 

「で、でも!!」

「お?」

 

 (はる)は再び小咲(こさき)の前に立ち、舞斗(まいと)と対峙する。

 その迫力は両腕を振り上げたレッサーパンダにも匹敵するほどに苛烈(かれつ)だ。

 

「お姉ちゃんは岬先輩には渡しませんから!」

 

 話は(らく)が来る前まで戻ってしまう。

 しかし今回は、小咲(こさき)が動いた。

 

「ごめんね、(はる)……」

「え?」

 

 (はる)の背後からするりと抜け出した小咲(こさき)舞斗(まいと)に抱きつき、彼女に告げた。

 

「私はもう、身も心もマイちゃんのモノだから」

「そういうことだ、(はる)くん。君とはもう、終わったんだよ……」

「お、お姉ぇちゃん?!」

 

 (はる)が涙目で小咲(こさき)(すが)り付く。

 

「岬先輩もヒドいです! 私とは遊びだったんですか!?」

 

 昨日はあんなに愛してくれたのに、と必死である。

 何だかもうよく分からない状況になってしまった。

 

「ああやって事あるごとに揶揄(からか)うから嫌われた、って説もあるわね」

「いやそれが一番デカいような気がするが」

 

 小咲(こさき)舞斗(まいと)(はる)の反応を楽しんでいるのがよく分かるため、るりと楽(外野)はのん気なものである。

 るりが語った嫌われているという話が、実際は4年近く前の状態のことだったりもするし。

 

 そもそも(はる)自身が2人に構って欲しい、構ってもらえて嬉しいと全身で主張しているのが丸分かりである。

 これからは同じ学校に通えるという嬉しさもあって、ちょっとテンションがおかしいだけなのだ。

 

 

 

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