本当にせこい   作:七九六十

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08-02 ポーラ登場

 

 

 

「どうしたの? さっきから騒々しいけど……」

「ん? 千棘(ちとげ)か」

 

 そんな声とともに(らく)の肩越しに千棘(ちとげ)が顔を覗かせる。

 どうやら登校中に(らく)たちを見つけたので、寄ってきたようである。

 千棘(ちとげ)の他には(つぐみ)と、もう1人小柄な銀髪の少女の姿が見える。銀髪という特徴はあれどボブカットの対称性が、彼女が脇役(モブ)であることを主張している。

 

「この子はね、つぐみの妹なの!」

「お嬢、妹じゃなくて妹分ですが……」

 

 (つぐみ)はそう言って自分の後ろにいた少女を前に押し出す。

 彼女はこの少女を迎えに行くために、今朝は舞斗(まいと)たちとは別行動だったのだ。

 

「……ポーラ・マッコイ、です」

 

 少女は目線をあわさずにそう告げると、すぐに(つぐみ)の後ろに戻ってしまった。

 

「私の昔の仕事仲間でして。見ての通り人見知りが激しい子ですが、よろしくお願いいたします」

「おう、こちらこそ……って、つぐみの仕事仲間……?」

 

 確か(つぐみ)は昔、ビーハイブ(ギャング)の凄腕のヒットマン、と言っていたような気がする……

 (らく)はそんなことを思い出す。ココではもはや形骸化した設定なので忘れていたのだ。

 

「!! ええ、そうよ。これでも裏ではそこそこ名の知れた腕利きなの。ビーハイブの“白牙(ホワイトファング)”と言えば……」

「おい、いきなり饒舌(じょうぜつ)になったぞ」

「自分の事になると、ってのはよくあることよ」

「これでも昔に比べれば、だいぶ人付き合いができるようになったというか……」

「え、そうなの? それってつぐみがアメリカに居た頃の話?」

「って、ちょっと! 私の話を聞いてよっ!」

 

 誰も自分に注目していないことに気付いて涙目になるポーラに、(らく)とるりはなんとなく彼女のことを理解する。

 

「マイちゃん様にはこの子(ポーラ)の偏食を治すためにお世話になりまして。おかげ様で野菜全般が食べられるようになって、食わず嫌いも無くなって……」

「おいつぐみ、なんか子育ての話っぽくなってるぞ」

「好き嫌いはともかく、食材単位で食べないなんて決めてかかってると食事の幅が狭まるし、そうすると活動の幅も狭まるからね」

 

 自分の話題になったからか、舞斗(まいと)小咲(こさき)が合流してきた。

 その腕にぐったりとした(はる)を抱いて。

 

「偏食が過ぎて出先で食べるものが無いからって、外出することも、団体行動することも無くなる。

 そんな状態になると人生の損だからね」

 

 大人になって何だかんだと親に感謝することの1つとして、無理やりにでも嫌いな食べ物を克服させられたことを上げる人も少なくはない。

 やり方を間違えると、ただのトラウマになってしまうが。

 

「ポーラちゃん、元気だった?」

「……うん」

 

 腕に抱いていた(はる)については彼女に興味を持った千棘(ちとげ)に預け、自分はポーラへと向き合う。

 気恥ずかしさのあまり、(つぐみ)の背中に貼りついている彼女の頭を撫で、昔を懐かしむ。

 

 なまじ実力があったが故に高慢なお子様に育ちつつあった彼女だが、(らく)のペンダントを調査するために渡米した舞斗(まいと)と出会い、ほんの少しだが変化があった。

 

 ちょっとしたお節介で食生活の改善を考えた舞斗(まいと)

 そのときに短い期間だったが(つぐみ)を含めた3人で行動した経験が、彼女の成長を促したのだ。

 もともと努力家で根が素直な少女だっただけに、舞斗(まいと)の影響で変な方向に結構な勢いで行ってしまった感はあるのだが、まあ誤差の範囲である。

 

「セーラー服姿もカワイイね」

「…………」

 

 真っ赤になって(もだ)えている姿は、見た目よりもずっと幼い少女の様に映る。

 思わず追撃したくなる舞斗(まいと)だが、さすがに自重してそのまま頭を撫で続けるだけに留める。

 

「……………つぐみといい、このポーラって子といい、ビーハイブ(ギャング)のヒットマンって……」

「ある意味、極一部の特殊な人たちにヒットしてるから大丈夫よ」

 

 今回は何となくセットになっている(らく)とるりから、生温かい視線が送られる。

 もしかしたら教育係の中に、左手にサイコガンを持つプロデューサーでも居るのかもしれない。

 

「ちなみにどうやって野菜嫌いを治したんだ? お残しは許しまへんで~とかか?」

「マイちゃん様はそんなことしませんよ。1週間ほど、野菜をメインにした料理だけを用意したんです」

「野菜嫌いには拷問では?」

 

 訓練の後で空腹のところに、美味しそうな香りの料理が並ぶ。

 ただしすべて自分の嫌いな野菜が入っているのだから、ある種の拷問ではあっただろう。

 しかし周りの人が皆、美味(おい)しい美味(おい)しいと食べる姿を見ていると、自分も食べてみたくなるのが子供である。

 

「こう言うと誤解が生まれそうですが、アメリカって素材のままの味(手抜き)で勝負する料理が多いのに、素材の味そのものには(こだわ)らないせいで、不味い料理は本当に不味いんですよね」

 

 逆に素材に(こだわ)ってしっかりと料理したらこんなにも美味(おい)しくなるものなのかと、ポーラのみならず他のヒットマンの卵たちも衝撃(洗脳)を受けたのだ。

 

「ただそのせいか、ちょっと食いしん坊キャラになってしまいまして……」

「あー、よくある話だな」

 

 何でもよく食べる子はカワイイので問題ない。

 

(はる)ちゃん、おいで」

 

 ようやくポーラも落ち着いてきたので、千棘(ちとげ)に抱きしめられながらもコチラを(うかが)っていた(はる)を呼び、彼女と対面させる。

 

「よろしくね、ポーラさん!」

「……ん」

 

 (はる)はポーラの手を取って握手、というかテンションが上がってブンブン振り回している。

 彼女も姉と同じで、こういう時に物怖じしない性格である。

 

「ポーラにお友達が……!」

「よかったなぁ、母さん」

「だから子育て感を出すんじゃない」

 

 思わず涙ぐむ(つぐみ)と、彼女の肩を抱く舞斗(まいと)

 そんな2人に思わずツッコミを入れてしまう(らく)だった。

 

「ところで2人とも、時間は大丈夫?」

 

 るりが腕時計を示しながら、1年生組に尋ねる。今日は入学式のため、在校生とはスケジュールが異なるのだ。

 ちなみに凡矢理(ぼんやり)高校の入学式は在校生が出席しないタイプである。

 

「えっ、あ、もうこんな時間?! 早く行かないと、ほらポーラさんも!!」

「ちょっ、私も?!」

 

 お先に失礼します-! と走り去っていく(はる)と、彼女に手を引かれて連れていかれるポーラ。

 その姿を見て、やはり多少強引な(はる)ちゃんに任せて正解だったと、舞斗(まいと)は満足気だ。

 

「……でもポーラの性格だと、この後クラスが別だったら泣いちゃったりしませんかね?」

「大丈夫、クラス割は既に入手済みで、同じクラスなのは確認してあるから」

 

 事前に(つぐみ)からポーラのことを聞いていたので、いろいろと準備していたのだ。

 クラス割もその中の1つで、仮に別のクラスだった場合はあれやこれやで変更するつもりだったのだが。

 

「もしかして、今年もオレたち全員同じクラスだったのって、お前が何かしたんじゃないだろうな?」

「いやいや、単に学校側が問題児をまとめた結果だから、安心して?」

 

 素行不良というわけではないが、いろいろと騒がしい人間はひとまとめにしておいたほうが監視しやすいのだ。

 

「で、でも、私はみんなと一緒で嬉しかったよ!」

「そ、そーだよね、一緒のほうが楽しいもんね!」

 

 しかしそんな学校側の思惑があったとしても、小咲(こさき)千棘(ちとげ)にとっては歓迎すべき結果である。

 また1年、仲の良い友人たちと同じ時間を過ごせるのだから。

 

小咲(こさき)はクラス発表の時、嬉しさの余り泣いてたしね」

「お嬢もそうでしたね。クラス替えがあると聞いて以来、ずっと不安そうでしたし」

「るりちゃん!!」

「つぐみー!!」

 

 気付かれていないと思って安心していただけに、小咲(こさき)千棘(ちとげ)に思わぬダメージが入る。

 2人とも羞恥で顔が真っ赤である。

 

 ちなみにこちらも同じく変更する準備はしており何の問題も無かったのだが、不安気に袖を握ってくる小咲(こさき)の様子が可愛くて、それを堪能したくて長らく言い出せなかったのだ。

 

 さらにちなみに(らく)もクラス替えに不安を抱いていた1人で、また皆と同じクラスだと分かったときには安堵のあまり、少し涙ぐんでいたりした。

 

「同じクラスと言えばもう1人……」

「どうしたの?」

 

 (らく)は辺りをキョロキョロと見回す。

 

「いや、こういうときって橘が突っ込んでくるから……」

「……一条。こんなに居て、まだ足りないの?」

「さすが一条君ね、恐れ入るわ」

「一条様なら追加で後輩組も行けますよ」

「いや違ぇーよ! さらに収集付かなくなることが多いから、警戒してんだよ!」

 

 濡れ衣である。たぶん。本人的には。

 

万里花(まりか)ちゃん、朝は遅刻ギリギリになることが多いせいで車だからねー」

万里花(まりか)とはときどき校門のところで一緒にはなるのよね」

 

 小咲(こさき)千棘(ちとげ)はお気楽なものだが、事態は割と深刻である。

 

「基本的に一条にしか絡まないから、活躍させにくいんだよね」

「芸の幅を広げないと、レギュラー落ちしそうね」

「最近は『(らく)様ー!』要員ですからね。頑張って欲しいところです」

「お前らは何の話をしてんだよ……」

 

 まだ彼女の最大の見せ場は残っている、はず。

 今後に期待である。

 

 

 

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