本当にせこい   作:七九六十

33 / 82
08-03 1年生 VS 2年生

 

 

 

「お姉ちゃんの危険が危ない!!」

「どうしたの(はる)、急に立ち上がって」

 

 昼休み。

 1年生の教室にて食事中の(はる)とポーラ、そして(はる)の中学時代からの友人である彩風(あやかじ)(すず)、通称(フウ)ちゃん。決して(カジッ)ちゃんではない。セミロングの髪を片側だけ三つ編みにしており、どうやら脇役(モブ)ではないようだ。

 彼女は(はる)に対する女子校的な愛情と、その(はる)が懐いている舞斗(まいと)へのライバル心というか苦手意識を持った少女である。(はる)に近づくと舞斗(まいと)が邪魔で、舞斗(まいと)から離れると(はる)からも離れてしまうというジレンマを抱えた、中々に難儀な状況に悩んでいたりもする。

 

「どうしたのって、お姉ちゃんが!」

「うん、分かったから落ち着いて」

 

 とりあえず座らせて話を聞いてみる。

 ちなみにポーラは我関せずというか、弁当の方に夢中だった。

 

「と、とにかく! 私はお姉ちゃんが心配でっ!」

「うーん……」

 

 単にお姉さんに構って(もら)いたいだけだろうと予測した(すず)は、昼食後に2年生の教室を覗きに行くことを提案する。

 本当は2人もとい1年生だけで過ごしたかったのだが、(はる)を優先したのだ。

 

 というわけでいざ鎌倉、やってきました2年生のフロア。

 

受験の時(9巻の扉絵)は10階建てくらいはあったのに、なんか縮んだよね」

「気のせいよ。築60年、木造モルタル3階建ての時計塔校舎じゃあるまいし、伸び縮みはしないわ」

 

 そうは言うが、その次の(ページ)では半分くらいになっていたし、平均すると4階建てくらいだと思われる。

 というか目次では(はる)が自分の足で入学式に行ったことになっているが、であれば75話の『初日』という表現はどういうことだろうか。

 仮に入学式だけ別日に行ったとした場合、ポーラと初対面なのが辻褄が合わなくなる。

 まさか明日は学園祭初日(そういう意味)だったのだろうか。奥が深い。

 

「でもやっぱり2年生のフロアは違うね。廊下の両側に教室がある」

「気のせいよ」

 

 基本的に片側である。それこそ4階建てに伸びた時計塔校舎じゃあるまいし、左右でループなどしていない。

 この後の(つぐみ)万里花(まりか)が来た方向と、小咲(こさき)が去った方向を考えてはいけない。

 

「……ところであなたたち2人は、何してるの?」

「え?」

 

 校舎の造りについて語っていた2人(ビューティフルドリーマー)に、ポーラから疑問が投げかけられる。

 

 2人は現在、見つからないように書割(かきわり)に身を隠している。お弁当に入っているバランのような草が描かれた段ボールであるが、裏には足がついていて自立もできる凄いヤツだ。

 通りすがりの生徒たちが不思議そうに見ていくが、気のせいである。

 

「ポーラさん、忍者とのぞきは段ボールがトラディショナル!」

「トラディショナルとなッ!」

(はる)、あなた岬先輩に毒され過ぎよ……」

 

 しかもそれは段ボールではなく、天井裏である。

 

 まあそんなこんなで、本人たちにとっては隠れているつもりで周囲の様子を(うかが)う。

 

「あ、お姉さん居たよ。なんか男の人と話してるみたいだけど……」

 

 探し人である小野寺小咲(こさき)は運よく廊下にいたようで、すぐに見つけることができた。

 

「え?! って、あれ? あの人は(つぐみ)先輩だよ?」

(つぐみ)はああ見えて女よ」

 

 姉が男と一緒に居るという事に驚くも、その人が顔見知りであることに気付き安堵する。

 しかし(すず)の方は、続いてポーラからもたらされた情報をうまく呑み込めない。

 

「え?」

「だから、(つぐみ)は女だって。ここからじゃ分からないかもしれないけど、私たちが束になっても(かな)わない超兵器(おっぱい)を備えた………………」

 

 そこまで言ったポーラが(うずくま)ってしまう。

 

「ポ、ポーラさん、泣かないで」

「そんな、嗚咽(おえつ)を漏らすほどなんて……」

 

 ポーラ・マッコイ。

 少しばかり胸のサイズにコンプレックスを持つ少女である。

 

 

 

 そんな彼女に手が差し伸べられる。

 

「ポーラちゃん、大丈夫だよ。胸が小さいからって、ポーラちゃんの可愛さは少しも損なわれないよ」

「……マイちゃん様!」

 

 (すが)り付いてくるポーラを抱きしめて(なぐさ)める。

 セーラー服の前面が完全に平坦な舞斗(まいと)だが、堂々とした立ち振る舞いである。

 

 なお余談だが、ポーラの場合は何故か脚に目が行く。

 他のキャラとスカート丈は変わらないはずなのに、不思議なものである。

 

「『マイちゃん様』? なんでそんな呼び方なんですか?」

「ああ、(つぐみ)ちゃん共々、ネタとして提案した呼び方が定着しちゃったんだよ」

 

 (すず)の疑問はもっともだが、極一部に定着してしまったのである。

 ちなみに(はる)にも似たような提案をしたのだが、苗字+先輩の方が『できる後輩』っぽいからという理由で断られている。

 

「それで、3人はこんな所で何してたの?」

「岬先輩の監視です!」

 

 (はる)は拳を握って答える。

 (みなぎ)る闘志によって、子アリクイに匹敵するほどの迫力を(まと)っている。

 

「お姉ちゃんは私が守るんです!」

「なるほど。じゃあしっかり見張らないとね」

「はいっ!」

 

 彼女のやる気は十分だ。

 

「……お前ら、何なんだその会話は」

「あ、一条先輩」

 

 そこに現れた、呆れた顔をした(らく)からツッコミを受けた。

 廊下で騒いでいる集団を見つけて近づいてみれば、顔見知りだったので声をかけようとしたらこの会話である。

 

「お姉ちゃんを守る、って話ですけど。何か変ですか?」

「いや、うん……」

 

 首を(かし)げて問いかける彼女に、返す言葉を持ち合わせていなかった。

 

「確かに私のお姉ちゃんはカワイイですが……」

 

 続けて(はる)は拳を握って力説する。

 

「そのうえピュアでおしとやかで、ウルトラ素敵なお姉ちゃんですが……!!」

「……そうだな。そのうえ優しくて、思いやりがあって」

 

 小野寺小咲(こさき)については一家言ある(らく)も便乗して語り始めた。

 

「そうそう、そうなんです! どんな人にも優しくて、特に笑顔がステキで……」

「だよな~、あの笑顔に何度救われたか。たまにどんくさいのも、またかわいくて……」

 

 

 

 

「…………、一条先輩?」

 

 

 

 

 (はる)の瞳に警戒の色が浮かび上がる。

 (らく)も己の失言に気が付く。

 

「べ、別にオレは、小野寺のこと─────」

「私が、何?」

 

 背後から突然聞こえてきた声に驚き、(らく)の心臓は(くち)から飛び出す寸前であった。

 

「あ、お姉ちゃん!」

(はる)、どうしたの? こんなトコロで」

 

 淋しくなって遊びに来たのかと、10割がた正解の予想を立てる小咲(こさき)

 しかし(らく)に対して警戒心を抱いている理由までは分からない。いつぞやの朝みたく、険悪なムードではないので心配はしていないが。

 

「お姉ちゃん安心して!! 私が来たからにはもう大丈夫だからね!?」

「え? うん、ありがとう?」

「いや違っ、オレは、そのっ?!」

 

 本人登場で焦っていた(らく)だが、そこにさらなる追撃が行われる。

 

(らく)様~~!! こちらで(わたくし)とお茶などいかがですか~!?」

「うおっ!? 橘……!?」

 

 突如現れた万里花(まりか)が彼の首に手を回して抱き着いてきた。

 引き剥がそうにも下手なところに手を触れるわけにはいかず、どうすることもできない。

 

「まさかこの人も、一条先輩が引き連れてるっていう女性たちの1人……?」

「誤解だー!!」

「いや、誤解じゃないでしょ」

 

 こちらもいつの間にか参戦していた千棘(ちとげ)の後押しにより、(らく)の立場がさらに悪くなる。

 

「私が連れてきました」

「るりちゃん、ナイス」

 

 このままでは万里花(まりか)の出番が無くなることが危惧されたため、るりが千棘(ちとげ)(つぐみ)とともに誘導してきたらしい。

 なんて気の利くいい子なんだろうか。

 

「顔見せのつもりだったんだけど、(はる)たちに一切興味を持ってないわね」

「それは、うん、まあ、橘さんだし……」

「マイちゃん様は橘万里花(まりか)の事については反応が薄いというか、なおざりですよね」

 

 千棘(ちとげ)にはいろいろと世話を焼いてこの1年で結構な変化をもたらしたのに、万里花(まりか)にはそれがない。今も転校してきたときと変わらぬままである。

 (つぐみ)にはこの扱いの差が不思議であった。

 

「いやだって、(らく)様要員じゃなくなった橘さんって、本当に出番無くなりそうで」

「……………………」

「……………………」

 

 まあもちろんそれだけではないのだが。

 

 2人に共通しているのは、舞斗(まいと)個人では関わりたくない人間性であったこと、そして小咲(こさき)が友人だと思っていることである。

 

 2人の差は、千棘(ちとげ)小咲(こさき)を友人として扱っているが、万里花(まりか)はそうではないこと。

 万里花(まりか)本人にはその意識が無いのかもしれないが、(らく)とそれ以外くらいにしか見ていない、と舞斗(まいと)は受け取っている。

 まあ千棘(ちとげ)のほうも友人というには扱いが雑だったのだが、0と1の差は大きかったのだ。

 

 

 

 ということで、千棘(ちとげ)はこの先も関係が続きそうなので、小咲(こさき)が困らないよう、目に余る部分をそれとなく指摘して矯正している。

 一方の万里花(まりか)はすぐに関係が切れそうなので、無駄な労力をかけるのが嫌で放置している。

 

 舞斗(まいと)の性格の悪さがよく表れた対応方針であり、周囲の良い子たちには聞かせられない内容である。

 

「ほんと、事情が事情だし、余裕がないのは分かるけど、もう少し一条以外にも目を向けてくれれば……」

 

 そんな万里花(まりか)であるが、今も(らく)に向かってアピール中だ。

 

(らく)様、ちょうど2年生にもなりますし、そろそろ古くなった彼女は捨てて、(わたくし)に乗り換えませんか?」

 

 乗り換え割もありますよと車や携帯端末のような売り文句である。

 

「…………ねえ、万里花(まりか)。それであんたに乗り換えた場合、1年後には自分も捨てられることになるんだけど」

「はっ?!!」

 

 千棘(ちとげ)のツッコミに、万里花(まりか)が固まってしまう。

 

「しかも今からだいたい1年後って、原作で言うとちょうど……」

「そそそそんな事はありません?! 私は1年(120話)後を勝って迎えるんです!! 事象の地平を超えるんです!?!!」

 

 血の気の引いた顔で冷や汗を流しつつ、壁に手をついて訳の分からない言葉を(つむ)ぎ始めた万里花(まりか)

 千棘(ちとげ)はそんな彼女の背中を撫でつつ、出番を増やすためにはこの自爆癖(もちあじ)を磨いていくべきなのだろうかと、頭を悩ませるのであった。

 

 

 

 

 

 さてそんな騒ぎの横で、(つぐみ)を至近距離で見た(すず)はポーラの発言が正しかったことを理解する。

 確かに圧倒的な戦力差だ。

 

「……ポーラちゃん」

「……うん」

 

 自分を見て、お互いを見て。友情が深まる。

 

 そのやり取りでポーラはもう大丈夫だと判断した舞斗(まいと)は、彼女を(すず)に預けて小咲(こさき)に近づく。

 

「あ、マイちゃん、たすけてっ」

 

 万里花(まりか)体を張った仲裁(一発ギャグ)をものともせず、いまだ対決の姿勢を崩さない(はる)(らく)

 そんな2人を止めようにも事情が分からず、かける言葉に困っていた小咲(こさき)舞斗(まいと)に助けを求めた。

 

「岬先輩、そのままお姉ちゃんをお願いします! 一条先輩は私が押さえます!!」

「だ、だから、オレはそんなつもりじゃ……」

 

 嘘をつけない(らく)の性格が災いして、膠着(こうちゃく)状態から抜け出せない。

 そんな状況にそろそろ飽きてきたもといどうにかしなければと使命感に燃える舞斗(まいと)は、現状を打破できる小咲(こさき)にアドバイスを送る。

 

「一条が小咲(こさき)ちゃん絡みの迂闊(うかつ)な発言をして(はる)ちゃんに警戒されてるだけだから、一条の方は放置しても大丈夫だよ」

「そうなの?」

 

 発言の内容については触れないでくれと、必死にアイコンタクトを送ってくる(らく)

 武士の情けというのもあるが本人に聞かせるものでもないので、舞斗(まいと)もそこには触れずに状況を説明して彼女に解決を依頼する。

 

「ただ、(はる)ちゃんが聞く耳持ちませんモードになっちゃったんで、これをどうにかしないと収拾つきそうにないけどね」

 

 一条にはそんなスキルは無いからこんな状態になったんだし、と舞斗(まいと)は語る。

 

「う~ん……」

 

 小咲(こさき)は少し考え込んで、やがて1つの(ネタ)を思い付く。

 

 

 

 

 

 

「やめて2人とも! 私のために争わないで!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 

「……………………」

 

 

「……………………」

 

 

「……………………」

 

 

「……………うぅぅ」

 

 場の空気に耐えきれず、小咲(こさき)は真っ赤になった顔を両手で覆って舞斗(まいと)に泣きつく。

 

「うん、頑張った。小咲(こさき)ちゃんは頑張った。可愛かったから大丈夫だよ」

 

 何が大丈夫かよく分からないが、そんな小咲(こさき)を抱きしめ背中を撫でてあげる。

 

 彼女の尊い犠牲により、ひとまず(らく)(はる)の戦いは終わりを告げた。

 (はる)は『お姉ちゃんカワイイ』が(あふ)れないよう、口元を手で押さえてプルプルしており、(らく)もまた『小野寺カワイイ』が溢れないよう似たような状態だ。

 

「…………何で同じ自爆なのに、小咲(こさき)と橘さんでこんなにも差があるのかしらね」

「さすが自爆の第一人者と呼ばれる宮本様ですね。研究に余念がない」

「違うわよ! って第一人者でもないわよ!!」

 

 るりが必死に否定するも、(つぐみ)は分かってますよと慈愛の表情を浮かべるだけだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。