本当にせこい   作:七九六十

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08-05 プール掃除 後編

 

 

 

「そういうわけで始まりました、第1回水泳教室」

 

 講師の舞斗(まいと)、生徒のポーラ、アシスタント兼保護者の(つぐみ)、そして何となくの流れで参加している(らく)の計4人でお送りするこの番組も、ついに最終回を迎える。

 

 先に舞斗(まいと)がプールに入り、タラップを恐る恐る降りてくるポーラを出迎える。

 

「やっぱ無難に壁につかまってバタ足から始めるのか?」

「そこが素人の赤坂見附」

 

 (らく)の言うやり方は、運動が苦手な人間にそれっぽいことをさせるにはいいかもしれない。

 しかし運動が得意な人間にやっても無意味である。水中での体の動かし方に慣れてしまえば、後は勝手に泳げるようになるのだから。

 というか運動が得意であるというプライドのある人間にそんな地味なことをさせると、水泳自体が嫌いになる可能性がある。

 

 なので、まずは水そのものへの抵抗感を取り払うことを考える。

 舞斗(まいと)は両手両足を使ってしがみついて沸騰しそうなポーラに語りかける。

 

「ポーラちゃん、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。ちょっと深めのお風呂みたいなものだよ」

 

 なお、風呂を浅めのプールと考えるのは駄目である。

 

「ほら、この間みんなで行った銭湯みたいな、大きいお風呂だと思って」

「銭湯………………?!!」

「行き過ぎ行き過ぎ。その前の、湯船に浸かったところを思い出して」

 

 突然真っ赤に()で上がるポーラ。頭から湯気が出ている。

 ちょっと子供には刺激が強すぎるイベントがあったりなかったりしたので、調整をかける。

 

「そういえばウチの風呂の調子が悪くなって銭湯に行ったとき、入れ違いに来てたな」

「ポーラが銭湯と、そのあとのコーヒー牛乳に興味を持って行きたがっていたので、マイちゃん様がならば皆で一緒にと声をかけて集まったんですよ」

 

 広いお風呂、という意味では舞斗(まいと)のマンションでも十分なのだが。銭湯はそれよりも広く、また独特の雰囲気というものがある。

 そういうわけで小野寺姉妹とるり、そして同じく銭湯に興味を持っていた千棘(ちとげ)を加えた計7人で向かったところ、なぜか(らく)が番台に、万里花(まりか)が女湯に居たという。

 ただ彼は臨時の番台だったため、舞斗(まいと)たちが来た直後にお役御免となったのだが。

 

「…………残念だったわね一条君。もう少し後だったら、ね」

「そんなことはないぞ宮本うん少しも残念なことは無かったぞ」

 

 (らく)(つぐみ)の会話に、るりがいつの間にか潜水で近づいて来て一言付け加えていく。

 しかし彼は少しも慌てることなく、当時の『このまま残っていれば小野寺の、いや、でもそれは不自然だし……』という葛藤を隠し通すことに成功した。

 

 再び潜行して離れていったるりを見送る彼は、不自然なほど自然な笑みを浮かべたまま固まっていた。

 

「さて、ポーラのほうはどうなったかな?」

 

 ついでに不自然なほど自然に話題を変える。

 見ればポーラは舞斗(まいと)に支えられながら、水にプカプカと浮いている。どうやら脱力することに成功したようだ。

 

「じゃあちょっとレベルアップして、水に潜りながらの脱力をやってみようか」

 

 次なるお題は土座衛門ごっこである。

 成瀬川土座衛門も、まさかこんな未来にまで名前が残るとは思わなかっただろう。

 

 まずは舞斗(まいと)がお手本を見せる。

 

「こんな感じに浮いて、どれだけ自然な感じを出せるかを競うんだよ」

「へえ~」

「そんなものを競いはしなかったが、確かに定番ではあるな」

 

 手足の力は抜いて沈むに任せ、胴体部分は水面近くを維持する。

 

「で、上級者になると力の入れ具合を調整して沈むことで、プールの底に漂う『真・土座衛門』になれるんだよ」

「おー」

「いや、そんなところは上達しなくていいから」

 

 最初は沈んでいるが、腐敗が進んでガスがたまると浮いてくるのである。

 

「るりちゃんもコレの応用編として、持ちネタがあるし」

「宮本が?」

 

 基本ツッコミ担当の彼女の持ちネタ。(らく)には想像もつかない。

 

「今は泳ぐために纏めている髪をほどいて、『竜宮の乙姫の元結(もとゆい)の切り外し』って」

「竜宮の…………え?」

 

 あまりにも聞きなれない単語に、理解が追い付かない。

 

「だから、竜宮の乙姫の元結(もとゆい)の切り外し。アマモの別名だよ」

「アマモって、海草だっけか」

 

 元結(もとゆい)は髪を束ねるための紐のことである。

 つまり乙姫が髪を纏めている元結(もとゆい)を外すと、その髪は海中をゆらゆらと(ただよ)うことになる。

 その様が海草(アマモ)に似ていていとをかし、という名前である。

 

「いや分っかんねーよ。つーかそれをどう笑えばいいんだよ」

「そんなこと言ってると、るりちゃんに玉手箱ぶつけられるよ?」

「それ玉手箱じゃなくて弁当箱だろ絶対」

 

 きっと残弾は豊富である。

 

「というか何で岬は水中に居るのに、自然に会話できてんだよ」

「そりゃあもちろん、吹き出しを水の上に出してるからだよ」

 

 今は(らく)たちが水面から顔を出しているのでそれに合わせているが、水中でも普通に会話できたりする。プール妖怪も安心である。

 ちなみに一度潜って以来ここまで息継ぎをしていない。

 

「じゃあ早速、東京湾に浮かんでる気分になってやってみようか」

「こいつらの職業的に、シャレになってないんだが」

 

 というわけでポーラと(つぐみ)も一緒になって参加しての土座衛門ごっこ。(らく)の前に3人が浮かんでいる。

 非常にシュールな光景だが今さら参加するわけにもいかず、ただ眺めるしかなかった。

 

 やがて初心者のポーラが先に顔を上げる。

 

「どうだった? 私のカレイなドザエモンは」

「あーうん、初心者とは思えない素晴らしさだったな」

「そうでしょそうでしょ」

 

 (らく)の言葉に腕を組んでうんうんと(うなず)いている。褒めて伸ばそう。

 

「水には慣れたか?」

「ええ、もうバッチリよ」

 

 どこからその自信が来るのかは分からないが、彼女は胸を張って答える。

 それを聞いた舞斗(まいと)は次のステップに移行する。

 

「ふむ。なら次はもっと実際の泳ぎに近いオビ=ワン、もとい蹴伸びをやってみようか」

「そのネタは、今の子供たちに通じるのか?」

「何をおっしゃいますか一条様。我々アメリカ人には鉄板のネタですよ?」

「いや、お前らには『蹴伸び』のほうが通じないだろ」

 

 そういえば(つぐみ)はアメリカ人のカテゴリだったかと、(らく)は今更ながらに思い出す。

 

 オビ=ワン・ケノービ。スターウォーズの登場人物である。とりあえず助けを求めればいい。

 親が世代であれば一緒に見たことがあるかもしれないが、若者の知名度としてはどれくらいなのだろうか。

 

 まあそれは置いといて、今度は(らく)が手本を見せる。

 潜った後に両足を壁に付け、しっかりと蹴ること。

 水の抵抗を受けないよう体をまっすぐ伸ばすこと。

 たったこれだけで形になるものである。

 

 (らく)には足の着いたところで立っていてもらう。

 

「じゃあポーラちゃん、一条のところを目指してやってみようか」

「私にかかればそんなのお茶の子さいさいよ!」

「おお、よくそんな表現知ってたな」

 

 お茶の子とは、茶菓子のことである。

 

 すっかり食いしん坊キャラになってしまったポーラの1回目。

 

「ん!」

 

 気合十分に飛び出すも壁を蹴るのが早すぎて水面で勢いが殺されてしまい、ほとんど進んでいない。

 

「おい、こっそり足を動かすんじゃない」

 

 (らく)からの指摘が入り、ファール判定である。

 

「むう……」

「潜って、体勢を整えて、蹴る。慌てずにゆっくりやると良いよ」

 

 舞斗(まいと)からアドバイスをもらって試すこと数度。

 元々の身体能力が高いため、コツを掴めばすぐに(らく)と並ぶ。

 

「ふふん」

「おー、すごいすごい」

 

 得意気なポーラの頭をぐりぐりと撫でる(らく)。扱いが小さな子供になっている。

 

 ここまで出来たら後は専門家に任せればいいだろう。

 

「太郎冠者、太郎冠者あるか」

御前(おまえ)に」

「近い近い」

 

 泳ぐ勢いそのままに飛び込んできた太郎冠者(るり)を抱きとめる。

 彼女の水着はワンピースタイプなので肌の露出が少ないが、守備力は当然低い。

 水中で周囲からの目が届かないのをいいことに、舞斗(まいと)の手が際どい部分を攻め立てる。

 

「……んっ」

「るりちゃんカワイイ」

 

 表情に出さないよう、声を出さないよう我慢している姿に嗜虐心(しぎゃくしん)(あお)られる。

 止めるためなのか、それとも催促のためなのか。舞斗(まいと)の腕に添えられた彼女の手には、力が込められていない。

 

 その先に進みそうになる誘惑を何とか抑え込み、ポーラにクロールのやり方を教えてもらうよう依頼する。

 1つ泳げるようになれば、プールでの遊びの幅も広がるというものだ。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 るりちゃんの水泳教室が開かれて賑やかになった輪から外れ、舞斗(まいと)は少し距離を取る。

 彼にはやることがあるのだ。

 

「それで、どうしたの?」

「…………ん~」

 

 少し前から背中に小咲(こさき)が張り付いているのだ。

 水着のおかげで普段とは違う感触が楽しめ、柔らかさも堪能できるのだが、浮力のせいで少し物足りない。

 

「……そろそろ、かまって欲しいな~、って」

 

 小咲(こさき)のカワイイわがままに、舞斗(まいと)が応えないはずがない。

 彼女の身体を正面から抱きしめる。

 

「……ん」

 

 認識疎外の結界は、こういうときに役に立つ。

 

 小咲(こさき)が満足するまで、存分に構い倒す舞斗(まいと)であった。

 

 

 






草薙「せっかくのイモウト回なのにさ、(らく)君の実妹がいないんだけど……」

鬼丸「いやまぁ、実妹は問題外だし…… そもそもメインヒロインになれるんか……?」

草薙「問題外だって? 最近は他の属性も色々とやりたい放題じゃないか。
   実妹だけさも問題あるかのように扱うのは間違っている」

草薙「試しに実妹の水着回を1話やってみてはどうだろう。皆も考えを改めるはずだ」

鬼丸「お、おぅ、そうじゃな……」

鬼丸(なんじゃコイツ、稽古のし過ぎで頭がおかしくなっとるのか?)

鬼丸(まぁ好きなだけやりゃあいいさ。場末の二次創作の欄外のほうでな……)



 ピクッ


草薙「ふざけるな……」

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