本当にせこい   作:七九六十

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原作:第83話スキナコ~第117話フクツウ まで

(つぐみ)ちゃん、唐突に愛を語る。
 これこそ千棘(ヒロイン)の役目だろというか、せめて万里花(まりか)に振ってやれよというか。
・好きな人の見舞いに行って、より重傷だった妹を気に掛けるというのは、まあいいとしよう。
 ただもうちょっとやり方を考えてほしいというか、0か100かじゃなくて、合間合間に気に掛ける、でよかったような……
 一応小咲(こさき)のほうも気にかけていたふうな描写はあるものの、というかこっちは症状が悪化してるような……
・好きな人の誕生日を知らない、というのはまあ、百歩譲っていいとしよう。
 しかしそれをその人の妹とのいちゃつきイベントに変えるというのは、常人の発想ではないと思う。
・ここで「もう絶対失くさねえ、お前には約束とか以上に変な愛着がわいてるから」といって泣きながら(ほお)擦りしていたペンダント。最期は……




09 - ナンノヒ
09-01 看病


 

 

 

 5月のある日。

 

「スイカの、じゃなくて舞子がおかしい? それいつもの事だよね?」

「名産、じゃなくてマイちゃん、舞子君の様子が、だよ」

「無駄に韻を踏んでるような、踏んでないような……」

「舞子の様子が変、字面も似てますね」

 

 (らく)の発言が理解できなかった舞斗(まいと)

 

 まあ理解したところで結論は変わらない。

 それいつもの事だよね? というのがこの場に居る者の総意である。

 

「いや、まあ確かにそうなんだが……」

 

 幼馴染である彼からして様子がおかしいのはいつもの事だと思っているし、今回の変化にしても何の確証もない状態である。

 とりあえず様子を見るしかないと思われて(放置されて)いたこの事件、解決したのは月の後半に入ってからだった。

 

「え~、今日は、お前らに重大発表がある」

 

 朝のHR(ホームルーム)での担任の発言である。

 

「私、結婚するから今月で学校辞めるわ」

 

 ハッハッハッと笑いながら告げられた内容で、何となく察することができた。

 

「あー、(しゅう)はキョーコ先生と仲良かったから、淋しいのか」

 

 納得のいった(らく)であったが、もう1つ腑に落ちない事が。

 

「何で岬は頭を抱えてんだ?」

「……いや、うん、まあ、いろいろと言いたいことがあるだけだよ」

 

 今は5月である。ここで辞めるくらいなら3月で辞めとけよ、とか。

 

「……それは、先生にも何か、事情とかあったんじゃねーか?」

「うん、分かるんだけど、もうちょっと子供に与える影響とか考えてくれないかなー、ってね」

 

 ここで職業選択の自由や民法なんかを持ち出して、自分の都合だけで考えるような人には、できれば教職は遠慮してもらいたいところである。

 

「林間学校で酒飲んで監督責任を放棄するような人だけど、一条に聞いた話だと休みの日に飼育委員の仕事をやってくれてるそうだから、少なくとも単に金目当てに教職に就いた人じゃあないとは思うんだけど」

 

 彼女の結婚を祝福するクラスの様子を見ても、いい教師だったのだろう。

 

「でもだからこそ、引き際を間違えたのが残念で」

「なるほどな……」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 そんなことがあった翌日。

 小野寺姉妹は朝から舞斗(まいと)のマンションを訪れていた。

 

 両親が商店街の人たちと1週間弱の旅行に行くため、女の子だけを家に残すのは危険だと、その間は彼の家(建前上はるりの家)に泊まることになっていたのだ。

 まあ実際には彼女たちの部屋と彼のマンションは空間的に接続されているため何の問題もないのだが、それを知らない両親へのポーズは大事である。

 

 というわけで登校ついでにお泊りセットを彼の家に置いて、一緒に登校しようというのだ。

 ……そのはずだったのだが。

 

「風邪だね。今日は学校休んで、安静にしてなさい」

「うぅ、はい……」

 

 小咲(こさき)は制服からパジャマへと逆戻りすることになった。

 

「お姉ちゃんは私が看病します! だから岬先輩は……」

(はる)ちゃんもアウトだから、パジャマに着替えましょうね~」

「ええぇえ?!」

 

 (こぶし)を握って主張する(はる)だったが、姉と同じく制服を脱がされ、パジャマ姿にされる。

 まさか自分も風邪だったとはという驚きと、抵抗することもできずに着替えさせられたことへの驚きで、思わず変な声が出た。

 

「じゃあ(つぐみ)ちゃん、ポーラちゃん、学校への連絡はお願いね?」

「お任せください」

「はーい」

 

 看病がいるほど重症でもないのだが、病人だけを残していくのは双方にとって不安になるため、舞斗(まいと)も学校を休むことにする。

 同居人に伝言を頼んで送り出した後、姉妹には薬を飲ませる。

 

「これ飲んで安静にしてれば夕方には良くなるよ」

『はーい』

「薬で眠くなったらそのまま寝ててもいいし」

 

 まだ初期段階なので無理して睡眠をとる必要は無い。家の中で大人しくしていれば十分である。

 

 ちなみに渡した薬は砂糖の塊、つまりは偽薬(プラシーボ)である。

 舞斗(まいと)が言うなら間違いないと2人が思い込んでいるため、実際に効果が出るのでこれで問題ない。

 

 一息ついた舞斗(まいと)は自分も制服から部屋着に着替え、薄手の毛布をもって姉妹のもとへと戻る。

 並んでテレビを見ている2人に毛布を掛けて自分もその横に腰を下ろす。

 

「朝のニュース番組を最後まで見るって、罪悪感と焦燥感と優越感が入り混じった不思議な感覚になるよね」

「まあ、最後まで見てたら確実に遅刻だからね」

 

 そんな会話をしながらも、小咲(こさき)はもぞもぞと舞斗(まいと)の膝の上へと移動する。2人の身長差がほとんど無いため、こういう時に格好がつかないのが最近の彼の悩みだったりする。

 まあいざとなれば身長を伸ばすか、逆に小咲(こさき)を縮めればいい。

 

「ああ! 岬先輩、お姉ちゃんを返して!」

「はいはい、暴れちゃダメだよ(はる)ちゃん」

 

 そういって舞斗(まいと)の腕をグイグイと引っ張っていた(はる)であったが、気が付けば彼の腕に(から)め捕られていた。

 

「あれ?」

 

 抜け出そうにも抜け出せない。それどころか腕を動かすこともできない。

 

「……あれ?」

(はる)、大人しくしてちゃんと風邪を治さないと。来週の林間学校、楽しめなくなるよ?」

 

 姉に頭を撫でられながらそう諭される。

 

「ああそういえば、もうそんな時期か。確かに病み上がりに山登りは、キツイだろうね」

「え? 山登りもあるんですか?」

 

 (はる)はまだ林間学校の内容をしらない。来週、班分けついでに説明があるのだ。

 そんな彼女に説明するために、1冊のアルバムを取り寄せ(アポート)する。

 

「わっ、懐かしーね」

 

 自分たちで撮ったものと学校で売り出されたものと、当時の写真が数十枚ほど収められている。

 行きのバス内のものから時系列で並んでいるので順に辿(たど)っていく。

 

「あ、千棘(ちとげ)ちゃんと一条君」

 

 顔を赤くして並んで座っている2人。

 お互い視線は外れているのに、相手が気になっている様子が伝わってくる。

 

「一条先輩と桐崎先輩はすでに付き合ってたんですか?」

「この少し前に付き合い始めたんだよ。このときはまだ、お互いに名前を呼ぶこともできていなかったね」

 

 あれから約1年、それほど進展した気配が無いのは気のせいだろうか。

 仲は確実に良くなっているのだが、男女の仲として見ると物足りない。

 

「こっちは飯盒炊さんで、定番のカレーを作ったんだよね」

 

 小咲(こさき)の指差す先には、山盛りのカレーを前にしたるりの写真がある。

 料理の腕が壊滅的な千棘(ちとげ)も居たので、味のほうは期待していなかったのだが。それどころか不味さを笑い飛ばす準備までしていたのに、出来上がったものは可もなく不可もなく。あまりにも普通だったために、ネタにすることもできずに困ったのも良い思い出だ。

 

「……あの、ポーラさんってもしかして」

「うん、甘口にしてあげてね。辛いと泣いちゃうから」

 

 ちなみに舞斗(まいと)が作るカレーは常に甘口である。

 彼は『辛さで(くち)の中がマヒしたら、せっかくの味が分からなくなるじゃないか』派なので、スパイスの塊というよりも旨味の凝縮されたスープ的なカレーになっている。

 

「あ、お姉ちゃん浴衣着てる…………え?」

「林間学校なのに、結構立派な和風旅館なんだよねー」

「その代わり食事は食堂というか学食というか、そんな所だったよね」

 

 商売柄なのか和風のものが好きな(はる)は浴衣姿の小咲(こさき)に目ざとく反応するが、同時に違和感にも襲われる。

 普通こういうときはジャージではないだろうか。

 

「ちなみに温泉、しかも露天風呂だったよ」

「……林間学校?」

 

 林間学校である。

 そして最大の謎はそこではない。

 

「……あれ、一条先輩?」

「うん、班員は男女で同じ部屋なんだよね」

(ようかい)、もとい(ふすま)で仕切れるとはいえ、おかしいよね」

 

 どこからこういう設定になったのか。

 というか結局イベントにも絡まなかったし、何だったのだろうか。

 普通このような状況では(ふすま)の向こうにいる女子にドキドキとか、トイレに行った後に寝ぼけて同じ布団にとか、何かあるだろう。何で無いんだ。

 

(はる)も、班のメンバー決めには注意してね?」

「ポーラちゃんがいるから大丈夫だと思うけど、念のためね?」

「……うん」

 

 少し林間学校が不安になった(はる)だった。

 まあ男女比は指定されていないため、班員をすべて同性にすればいいだけではあるのだが。

 

「これがさっき言ってた山登りだね」

 

 次に舞斗(まいと)が指差した写真には、1学年約200人が列をなして木々の間を歩く様子が写っている。

 

「登山、ってほどじゃないんですね」

「まあ何の準備もしてない、ただの高校生の集団だし」

「でも片道2時間ちょっと歩くから大変だったよね」

 

 確かに病み上がりには辛いイベントである。

 

「それで、なんで(つぐみ)先輩は棒を右手に(かか)げてるんですか?」

「出発前にこういう時は棒が必須だよねって話をしててね。道中で誰が一番いい棒を拾えるか、みたいなことしてたんだよ」

 

 思わぬ出会いに、はしゃいだ結果である。

 

「つぐみちゃん可愛かったよねー」

 

 写真を撮られたことに気付いた彼女が、羞恥で顔を真っ赤にするまでがセットである。

 

「あ、これは……?」

 

 (はる)は1枚の写真に目をとめる。

 

「……何してるんですか、これ?」

 

 右腕に(つぐみ)、左腕に小咲(こさき)、そして背中にるりというフルアーマー状態の舞斗(まいと)

 

「ああ、肝試しのヤツだね」

 

 本来であればクジで男女のペアを決めるのであるが。

 怖がりの小咲(こさき)(つぐみ)を下手な人間に任せることができず、というか2人の怖がる様子を独占したくてこういう形になったのだ。

 

「お姉ちゃん、怖がりだもんね」

「えへへ」

 

 可愛いからOKである。

 

「でも意外ですね。(つぐみ)先輩も怖がりだなんて」

(つぐみ)ちゃんは、服装の好み以外は純度100%の女の子だよ?」

「つぐみちゃんカワイイよね」

 

 男の要素が服しかないのに、なぜか男扱いされる不思議。

 

「そういう意味だと、ポーラちゃんも怖がりだね」

「……それは意外というか、やっぱりというか」

 

 涙目になる姿が容易に想像できてしまう。

 子供らしい弱点はほぼ完備している愉快な子である。

 

「最後は帰りのバスの中だね。でも私すぐ寝ちゃったから、記憶に無いんだけど」

 

 小咲(こさき)舞斗(まいと)に寄りかかって寝ている写真である。

 この時は他のクラスメートたちもほぼ寝ていたため、特に何も無かったのだが。

 

小咲(こさき)ちゃんを堪能しました」

「むう、岬先輩ずるい」

 

 拘束されて腕が動かせない(はる)は、代わりに頭をぐりぐりと押し付けて抗議する。

 小咲(こさき)は2人が仲良しなのを見てニコニコである。

 

 

 

 

 

 

 そんな感じに緩い時間を過ごしていた3人であるが、こういうときの時計の針はなかなか進まないもので。

 学校ではようやく1限目が始まったころ、(はる)は温かい毛布と舞斗(まいと)の腕の中という心地よさから、半分ほどドリームランドの住人になりかけていた。

 

(はる)ちゃん、薬が効いてきたんだろうから、そのまま寝てもいいよ?」

 

 薬といっても、ただの砂糖の塊なのだが。

 

「…………んん」

 

 彼女は舞斗(まいと)に寄りかかって位置を微調整すると、そのまま寝入ってしまった。

 

小咲(こさき)ちゃんはどうする?」

「……んー、私もちょっと……」

 

 こちらもお(ねむ)な様子、目がほとんど開いていない。

 本当に素直な姉妹である。

 

 (はる)を抱きかかえ、服の裾を握らせた小咲(こさき)を引き連れ、舞斗(まいと)は寝室に向かう。

 ベッドはキングサイズなので小柄な姉妹が並んで寝ても余裕がある。

 

 まあ今回はその大きさが(あだ)になり、(はる)をベッドに載せるのに苦労するのだが。

 

「……マイちゃんも、一緒に寝よ?」

 

 そんな彼の耳元に、(ささや)きかける少女が1人。

 当然(あらが)えるわけもなく、3人で仲良くベッドインしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

小咲(こさき)は?』

小咲(こさき)ちゃんなら俺の横で寝てるよ』

『そうじゃなくて』

『風邪は治ったよ。そろそろ起こしてお昼にするとこ』

 

 現在、学校ではお昼休み。るりが舞斗(まいと)に安否確認のメッセージを送ってきた。姉妹のステータス画面を開いて『風邪(初期)』の文字が消えているのを確認し、返信する。

 

 本日のお昼は気分だけ病人食ということで、お(かゆ)ではなく雑炊である。野菜とキノコ、鶏肉と具沢山なので、健康な胃袋にも大満足な一品に仕上げている。ついでにミカンの缶詰をデザートとして開ける。

 

 調理を終えると匂いに釣られて起きてきた姉妹と共に食卓を囲む。

 

「マイちゃんマイちゃん」

「ん?」

 

 さあ食べようとしたところで服の裾を引かれる。

 小咲(こさき)が期待した目を向けてくる。

 

「えっとね、ほら、病人だから」

 

 既に完治しているのだが、言わんとしていることは分かる。

 要は甘えたいだけである。

 

「あ~ん」

 

 レンゲを小咲(こさき)の口元に差し出せばパクリと食いついてくる。

 うん、可愛い。

 

「あ、岬先輩ずるい! 私も……!」

「はいはい、あ~ん」

「えっ、違っ、ん………… 美味し」

 

 姉に食べさせるのはこの私だ、と言わんばかりに身を乗り出してきた(はる)であったが、舞斗(まいと)の差し出したレンゲに沈む。

 

 わが家のレンゲは2度咲く。

 

「あ~ん」

 

 (はる)がモグモグしている間に舞斗(まいと)自身も食べ、再度小咲(こさき)の番になる。

 そうすると次は(はる)(くち)を開けて待っているのでレンゲを差し出す。

 見事な三角食べである。

 

 

 

 そんなこんなで風邪から回復し、エネルギーの充填も終えた姉妹は、当初の予定通り舞斗(まいと)の家で数日間の合宿を満喫するのであった。

 

「あれ、こんな時間に電話だ。……もしもしお母さん、どうしたの? え? もちろんお姉ちゃんと一緒に居るけど……」

「………………マイちゃん、もしかして今日って」

「旅行から帰ってくる日だね。小咲(こさき)ちゃんたちが普通にお風呂入って夕飯食べてるから、面白がって見てたけど」

 

 それはもう、自宅に戻るという考えがキレイさっぱり消え去るほどであったという。

 

 

 

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