本当にせこい   作:七九六十

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09-03 一日体験入学

 

 

 

「えーと、今日は皆に紹介する人がいます」

 

 担任の日原教子(きょうこ)が寿退社して以来、副担任の福田任次郎(にんじろう)・31歳独身が代わりを務めている。

 今どきの教師らしく、やる気がないのとやる気がある(女子生徒を見る目が怪しい)のが特徴の彼から、朝のHR(ホームルーム)で通達があった。

 

 他校の制服に身を包んだ1人の女子生徒が黒板の前に立つ。他校の制服と言うが、どこかで見たようなデザインである。

 

「本日急遽、一日体験入学をする事になった、篠原御影(みかげ)と言います」

「えー!!? 御影(みかげ)~~!!?」

 

 なしてこがん所んおると~!? と万里花(まりか)から驚きの声が上がる。よくよく見れば彼女の制服のデザインと一致しているようだ。このことから転校前の、九州の学校時代の知り合いなのだろうと予想される。

 

「橘さんが、『(らく)様ー!』以外のセリフを!!?」

 

 そんなまさか! とクラスメートから驚きの声が上がる。

 

万里花(まりか)、ちゃんと友達いたのね……」

「おい千棘(ちとげ)、それはかなり失礼、ってかそれはお前も……」

 

 目頭をハンカチで抑えている千棘(ちとげ)であるが、(らく)からツッコミが入る。

 何気に彼も失礼な事を言いかけている。

 

「これはアレかな、親友の許嫁(いいなずけ)を見にやってきたぜ、的な」

「え、でも一条君と許嫁(いいなずけ)的なことって1つも……」

「それどころか、通常のイベントも(ことごと)く自滅してるわね」

「お嬢と一条様の関係は順調に進んでいるんですけどね……」

 

 転校してきたときのインパクトは何だったのかというほど、あれからまったく活躍できていない状況である。クラスメートたちも万里花(まりか)の現状を思い、生温かい視線を向けている。

 

万里花(まりか)、あんた……」

「………………」

 

 そんな様子から、親友たる御影(みかげ)も状況を察してしまった。

 

「超ウルトラ激イケ婚約者(フィアンセ)と超絶ラブラブウルトラハッピーに交際中って……」

「わー!! わー!!?」

 

 察したが、それはそれである。

 開始早々に目的を達してしまったが故に、出番が削られることになった恨みを晴らしているだけである。

 

万里花(まりか)ちゃん……」

「うぅ、万里花(まりか)……」

 

 またもや自爆オチになりそうな空気に、小咲(こさき)千棘(ちとげ)は同情を禁じ得ない。

 

仕方(しょん)なか。せめて女の子ば堪能してから帰らな」

「え?」

 

 御影(みかげ)のセリフで、教室の空気が変わる。彼女は何か、不穏なことを言わなかっただろうか。方言のせいでそう聞こえてしまっただけであろうか。

 

「いや~、こん学校はべっぴんさんの多かね~」

 

 ぐへへと涎を垂らしながら教室を見回す彼女に、周囲はついていけていない。

 

「おお~!! すごかべっぴんさん!! わいはまさかハーフ!?」

「は!?」

 

 千棘(ちとげ)がロックオンされた。

 

「は!? こっちにも凄か私好みな女の子が!!」

「え!?」

 

 その隣にいた小咲(こさき)もロックオンされる。

 

「かわいいな~かわいいな~、やっぱ都会はレベルが高かね~」

 

 両手を前に、頭部を左右に揺らしながらじりじりと迫ってくる御影(みかげ)の姿は、恐怖以外の何ものでもない。

 

「………………」

「およ?」

 

 しかしそれを(さえぎ)る人影がある。

 これまた御影(みかげ)好みの、身長は少々足りないが格好いいタイプの美少女である。

 

「俺の女に気安く触るな」

「ひっ?!」

 

 しかし向けられた大罪7つ分の圧力に、思わず腰を抜かしてしまう。4大週刊少年マンガ誌のすべてで連載しているのは伊達ではない。

 

「マイちゃんっ」

「お姉ちゃんっ」

 

 脅威から脱した小咲(こさき)千棘(ちとげ)の2人は安堵のあまり、彼の腕にぎゅっと(すが)りつく。

 

「いや、お前の女じゃないだろ、ってかやりすぎじゃね?」

「マイちゃん様は他人のセクハラには厳しいですからね」

「自分はセクハラ三昧のくせにね」

 

 セクハラ被害の第一人者は語る。

 まあ、同族嫌悪というやつである。

 

「……おい橘、なんなんだあの子は」

「気にしないで下さい。中身が少々おっさんなだけです」

 

 ついでに(らく)万里花(まりか)に問いかけるが、返ってきたのは何とも言えない内容だった。

 このようなキャラ造形はどの作品でも人気がある。やっていることは嫌がらせや犯罪レベルであろうとも、見た目が可愛い女の子であれば許される。そんな世界のバグを利用した彼女のような存在は、女の子同士の絡みというサービスシーンのために広く受け入れられているのだ。

 

 で、そんな人気キャラな御影(みかげ)のほうはといえば、床にうずくまったまま何やらぶつぶつと(つぶや)いている。

 

「博多の(とお)りもんが都会っ子の威圧で尻餅だと……」

 

 ちなみに『博多(とお)りもん』は博多名物のお菓子で、白餡の饅頭である。

 断じて『ぼっけ(もん)』や『ひえもん』の仲間ではない。

 

「おいは恥ずかしか! 生きておられんごっ!」

御影(みかげ)どん!」

 

 突如として顔の造作が南のほうにズレた親友の様子に、万里花(まりか)は思わず声を上げてしまう。

 

介錯(かいしゃく)しもす!」

 

 舞斗(まいと)の手刀による当身(あてみ)御影(みかげ)の首筋に放たれ、その意識を奪う。

 崩れ落ちた彼女を囲み、るりと(つぐみ)は手を合わせる。

 

「笑うたこと許せ」

「合掌ばい!」

「いや、宮本とつぐみもそうだが、なんでクラス中が手を合わせてんだよ」

 

 お約束だからである。

 

 取り合えず左近(さこん)どんもとい御影(みかげ)は、保健室に放り込んでおけばいいだろう。

 一件落着である。

 

「……あれ? もしかして(わたくし)の見せ場、無くなりました?」

「あー、もう誰も聞いちゃいねーと思うが、連絡は以上だから」

 

 万里花(まりか)と副担任の声が教室に(むな)しく響く。

 

 こうして九州からの刺客は打ち取られたのであった。

 

 

 

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