本当にせこい   作:七九六十

39 / 82
09-04 注射

 

 

 

 ある日の朝のHR(ホームルーム)にて。(はる)から小咲(こさき)に電話がかかってきた。

 本来ならHR(ホームルーム)中に電話を取ることなどないし、そもそもかけることも無い。しかし現在はとある理由によりHR(ホームルーム)が中断しており、またこの電話がその理由に直結している可能性が高い。

 そのため小咲(こさき)は迷わず電話に出る。

 

「どうしたのって、え? ポーラちゃん? ポーラちゃんなら……」

 

 そう言って彼女が目を向けた先には、震えながら舞斗(まいと)に抱き着いているポーラの姿。

 先ほど突然、窓から教室に飛び込んできたと思ったらこの状態である。

 

 その知らせを受けてやってきた(はる)とその付き添いの(すず)の説明によれば、彼女たちの担任から放課後に予防接種があると案内があった途端、窓から飛び出して行ってしまったとのこと。

 

「おいまさか……」

 

 それを聞いた(らく)はポーラのほうに目をやる。

 

「注射が嫌いで何が悪いかぁ!!!!」

「……まだ何も言ってねーよ」

 

 舞斗(まいと)に全力でしがみつきながら、涙目のポーラはそう主張する。

 どうも第一印象からそうだが、見た目以上に幼い感じに(らく)は困惑を隠せない。

 

「だって……あんな金属の針を体内に突き入れようってのよ?」

 

 注射の恐怖を思い出したのか、ポーラの顔が青ざめていく。

 

「え? でも、もっと太いモノを体内に」

小咲(こさき)、ストップ」

 

 不適切な発言は、るりの手によって物理的に防がれた。

 

「むーむー」

「芸風を広げるのは良いけど、あんたが進むべき方向はそっちじゃないわ」

 

 今さらの話かもしれない。

 本当に、清楚系大好き力士(大包平関)の推しだった小咲(こさき)ちゃんはどこに行ってしまったのか。

 

 まあそれはさておきポーラのほうに視点を戻す。

 彼女が教室に飛び込んできた時点では騒然としていた周囲の人々。舞斗(まいと)(すが)りついて震える姿に何事かと困惑していたのだが、理由を知った現在では生温かい視線を送っている。

 

 彼女のことを知らない人たちからすれば注射を怖がるただの少女なのだが。

 正体を知っている(らく)としてはツッコまざるを得ない。

 

「お前、本当にヒットマンなのか?」

「私は正真正銘、優秀なヒットマンよ! その証拠にもうすぐメガンテだって覚えるし!」

「それは鉄砲玉だ……」

 

 いつの間にか持ち物が世界樹の葉で埋まっていたら、そういうことである。

 

「つぐみちゃん、ヒットマンと鉄砲玉って違うの?」

「ええ、別物です。なぜか日本では混同されることがありますが」

 

 小咲(こさき)は両者の何が違うのか分からず、(つぐみ)に質問する。

 まあ(らく)(つぐみ)たちのような業界人でもなければ、特に意識するようなものでもないのだが。

 

「ヒットマンは資金と時間をかけて育てられた、任務の達成と同時に生還が求められるプロフェッショナル。

 鉄砲玉は発射された弾丸が戻ってくることが無いところから付けられた、任務の達成が求められるも生還は望まれていない使い捨ての道具。

 極端に言うとこれくらい違うものなんです」

 

 自身がヒットマンとしての誇りを持っているからなのか、鉄砲玉への扱いが少し酷い。

 しかしそれも、少し胸をそらして得意気に語る(つぐみ)が可愛いことですべてが許されるはずだ。

 

「そう、ポーラちゃんは優秀なヒットマンだ」

 

 彼女の頭を優しく撫でながら舞斗(まいと)は続ける。

 

「厳しい訓練の成果、というのも勿論あるけど、ポーラちゃんが頑張ったからこそ()()()ヒットマンになれた。

 そして苦手だった野菜も食べられるようになったし、自転車にも乗れるようになった。泳げるようにもなったし、勉強も頑張ってる」

 

 頑張ってるのは分かるが、それは同列に並べてもいいのか?

 

 (らく)は空気を読んで(くち)をつぐむ。

 

「だからね」

 

 両手を肩に乗せ、ポーラの瞳を真っ直ぐに見つめる。

 

「そんなポーラちゃんなら、注射だって乗り越えられるよ」

 

 

 

「…………んっ!」

 

 

 

 ポーラの瞳に活力が戻る。

 舞斗(まいと)の服から手を放し、(こぶし)を握りしめる。

 

「私、頑張る。この試練に、勝って見せる!」

 

 そこまで意気込むものか?

 

 (らく)は空気を読んで(くち)をつぐむ。

 

「ほら、行くわよ、(はる)(すず)!」

「あ、待ってよポーラさんっ」

「注射は放課後だよ~」

 

 颯爽(さっそう)と教室を出ていくポーラを、1年生コンビが慌てて追いかけていく。

 

 

 

 

「…………立派になって」

 

 目元をハンカチで押さえる(つぐみ)の肩を、舞斗(まいと)がそっと抱き寄せる。

 

「いやだから、そこの2人は子育て夫婦感を出すんじゃない」

 

 とうとう(らく)(こら)え切れずに、ツッコミを入れてしまうのだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。