本当にせこい   作:七九六十

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原作:第5話イッパイ~第18話シアワセ まで

小咲(こさき)ちゃんが幸せになるには、早々にヒロインレースから降りる必要があるという……
(つぐみ)ちゃん登場。脈絡もなく現れて愛を語る人(キャプテン・ラヴ)
 カワイイけど、ヒロインにする必要なかったよね?
 (らく)に惚れる理由も薄いし、千棘(ちとげ)との関係が生かされるわけでもないし、(かぎ)も持ってないし。
・5話の時点で『(らく)は初対面の女の子の手にしている絵本の内容を知っていた』というヒントがあり、後に『その絵本は一般に流通している物ではない(バーコードついてるけど)』ということも分かる。
 その上で何故、絵本作家である母親に話を聞こうという発想に至らなかったのだろうか。




02 - ネタバレ
02-01 友達ノート


 

 

 

 結局、小野寺は“約束の女の子”じゃなかったんだよな──……

 けど、小野寺が“あの子”じゃなかったからといって、オレの想いが変わるわけじゃねー

 とにかく今日すぐ小野寺と話して、この誤解をさっさと解こう。

 

 

 

 一条(らく)は知らない。

 

 既に手遅れであることを──────

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとー!!!」

「お前ら付き合うことになったんだってな!!」

「末永くお幸せにー!!」

 

 教室に入った(らく)千棘(ちとげ)を迎えたのは、クラスメートたちからの盛大な祝福だった。

 実に手遅れである。

 

「なっ、なあ……!!?」

 

 あまりのことに(らく)は言葉に詰まり、千棘(ちとげ)の顔は引きつる。

 

「街で2人がデートしてるのを板野と城ケ崎が目撃してしまったのだよ!!」

 

 一体なんの話だととぼけようとするも、(しゅう)によって(さえぎ)られる。

 (らく)に向けた嫉妬と祝福、千棘(ちとげ)に向けた疑問と祝福で、教室は大盛り上がりである。

 

 

 

 そんな中、るりは恐る恐る小咲(こさき)の方を向く。

 純粋に彼女を心配してというのもあるが、彼女を慰めるためにこの2日間、大変な目にあったというのもある。

 次はもっと凄いことをされてしまうかもしれないという期待もとい不安を感じているのだ。

 

 が、そんな心配をよそに、小咲(こさき)は平気そうである。

 舞斗(まいと)の背中にしっかりと抱きついた姿で、ではあるが。

 

 彼女には妹がおり、その子がよく甘えて抱き着いていた影響なのか、何かを抱きしめるもしくは抱きしめられていると安心するのだそうだ。

 

(力の入れ具合から判断すると、一条の事はもう割り切れてるみたい)

(なるほど)

 

 (らく)の姿を見ても、抱きしめる腕に変化は無かったのだ。

 今の彼女は『これ以上は失いたくない』という状態であって、既に失ったことに対しては決着が付いているようだ。

 

 るりは舞斗(まいと)とアイコンタクトで状況を確認し、安堵する。

 少なくとも表面上は大丈夫そうだ。

 

 

 

 ……窓の外に居る、双眼鏡でこちらを見ている白スーツにメガネの男には別の不安を掻き立てられるが。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「なんでこんな事になるのよ……」

「せめてあのメガネを何とか出来りゃな……」

 

 メガネといっても(しゅう)のことではない。

 こちらのメガネも厄介ではあるのだが、今は別のメガネである。

 

「それはムリ。あーなったクロードは、人の話なんて聞きやしないもの」

 

 屋上で2人きりになった(らく)千棘(ちとげ)は、ようやく一息つけたと愚痴をこぼしあう。

 ビーハイブ(ギャング)の幹部であるクロード(メガネ)の監視の目があるため、自宅はもちろん学校でもラブラブカップルを強いられることがストレスになっているのだ。

 

「……ハァ。これじゃあ、いつまでたっても……」

 

 ベンチに腰掛け、ため息とともに愚痴がこぼれる。

 本来の目的、いや願いとも言えるモノを、一向に進められずに落ち込む千棘(ちとげ)

 

「まあでもよ、別に秘密を守れるような()()()()()になら、言ってもいいんじゃねぇか?」

 

 そんな彼女を見て、フォローのつもりで(らく)は声をかけるが。

 偶然にもそのセリフは千棘(ちとげ)の急所をピンポイントに貫いた。

 

「たとえ1人でもよ、状況を分かってくれる奴がいればお前だってだいぶ気も楽に……」

「……ああそう。ならあんたはそーすればいいんじゃない?」

 

 彼女の表情の変化に気付くことなく話を続ける彼に、千棘(ちとげ)は噛みつく。

 

「……は? なんだよ……」

「うっさいわね! 話しかけないで!」

「ええ!?」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「ということがあってだな」

 

 状況がさっぱり理解できなかった(らく)は、自称親友である(しゅう)に助言を求めた。

 まあ単に見かけたからついでに声をかけた、とも言えるが。

 自分たちの関係については明かせないため『とある秘密』とぼかしたが。

 

「んー」

「まぁ単純に虫の居所が悪かっただけかもだけど……」

「……と、言うよりかはよ。その秘密とやらを『言える友達がいりゃ苦労しねーよ!!』って事なんじゃねーの?」

 

 (しゅう)のその言葉は、(らく)の意表を突いた。

 千棘(ちとげ)が普通に女子と楽し気に話している場面を目撃したこともある。そしてあの性格なら既にクラスに溶け込んでいるだろうと思っていたこともある。だから友達くらい、もう居るものだと思い込んでいた。

 

 そんな戸惑う(らく)に、追い打ちをかける様に千棘(ちとげ)に関するウワサ話が飛び込む。

 

『やっぱさー、どっかカベあるんだよねー。避けられてるみたいな』

『金髪美人の帰国子女ってだけで話しかけ辛いけどさ』

『一条君の時と態度全然違うし』

『私たちの事もホントは見下してんのかも……』

 

 桐崎千棘(ちとげ)が転校してきて以来、いがみ合って、ケンカして、恋人のフリをして。

 長く接してきた自分は、彼女のことを知っているつもりだった。

 しかしそれ以外の、普段の桐崎千棘(ちとげ)についてはどうであったか。

 

 自分の中にうまく情報を落とし込めないまま教室に戻ると、自席に座っている千棘(ちとげ)の姿を見つける。何やらブツブツと(つぶや)きつつ、ノートに向かっているようだ。

 

「岩下さんはポニテの子……テニス部で、活発で明るくて、よく話しかけてきてくれる……」

 

「鈴木さんは茶髪で園芸部の人。おっとりしてて優しくて、カフェオレが好き……」

 

「次はきっとこっちから、話しかけてみせる……!」

 

 本当に、自分は桐崎千棘(ちとげ)のことを見ていなかったようだ。

 その姿は、必死に友達を作ろうとしていた昔の自分の姿に重なって見えた。

 

 

 

 

 ふと人の気配を感じた千棘(ちとげ)が後ろを振り向くと、(らく)と目が合ってしまう。

 

「なっなななななんであんたがここに!! いつから!!」

 

 席から飛び上がって驚く千棘(ちとげ)。顔が真っ赤になっている。

 対する(らく)は彼女に関する情報が次々に舞い込み処理しきれず、また秘密を盗み見てしまった形になったため、少しばつが悪そうな表情になっている。

 

「いや、わりぃ。なんつーか……うわ!!まてまて、タンマ!!」

 

 恥ずかしさのあまり、涙目で殴り掛かってきた千棘(ちとげ)を止める。

 

「……フン! 何よ、笑いなさいよ!」

 

 ノートを抱きしめ視線を(らく)から()らしながら千棘(ちとげ)は続ける。

 

「仕方ないでしょ……!? こーしなきゃ、みんなの事まだ覚えらんないんだから……

 どーやって話しかければいいのか分かんないし……友達の作り方とか、私分かんないんだもん」

 

 家がギャングのせいで、そしてクロードのせいで、こうなってしまったと。

 

「小さい頃から良くしてくれてるんだけど、知っての通りの過保護でね……

 学校行くにもやれ護衛だの、出かけ先でも銃持ってウロウロしたり、しまいにゃ私の交友関係までチェックし始めて……

 あいつのせいで、友達作るだけでもどれだけ苦労したか──」

 

 それは聞けば聞くほど、(らく)にとって他人事とは思えない話だった。

 

「──本当は、普通に友達作って、普通の暮らしがしてみたかった。

 日本に来れば、みんな私がギャングの娘だって知らないからチャンスだって思った。

 でも、やっぱり上手くいかなくて──って、なっなんで私があんたなんかにこんな話!!」

 

 思わず(くち)にしてしまった本心に千棘(ちとげ)は慌てる。

 

 呆れる、馬鹿にする。そんな彼女の予想に反して、(らく)は静かだった。

 

「オレも作ってたぞ、そのノート」

 

 似た境遇に育った奴って、やっぱ思考も似るのかねぇ。なんて(くち)にしながらも、(らく)は少し恥ずかし気に自分の過去を告白する。

 それは千棘(ちとげ)に大きな衝撃を与えた。

 

「オレも親がヤクザってんで、小さいころからクラスや学年が変わるたびに色々言われてな。

 そういうの(ノート)作って頑張ってたんだ」

 

 悩んでいたのは自分だけじゃない。

 相手も同じ悩みを持っていた。

 それは共感を生み、お互いが歩み寄るいい切っ掛けになった。

 

「だから、手伝ってやってもいいぜ? そのノート作るの。

 お前は嫌な奴だけど、お前の気持ちは少しは分かるからな」

 

 

 

 

 

 

(本当にクロードさんとやらのせいなんですかねぇ。ご自身の人間性には問題が無かったんですかねぇ)

 

「マイちゃん、(くち)以上に目がモノを言ってるわ」

 

 るりから小声でツッコミが入る。

 後ろに居る小咲(こさき)(くち)をふさがれた舞斗(まいと)から、声なき声が漏れ出ていたのだ。

 

「とりあえず、この場から離れましょう」

 

 るりに従いこっそりと移動する。

 教室の外から覗いているとはいえこれ以上騒ぐと気付かれるし、またこれ以上聞いていて自分たちの話題が出ると恥ずかしい。出なかったら悲しい。

 

 今日はこのまま2人きりにした方が良いだろう。

 教室に置いていた荷物は舞斗(まいと)取り寄せ(アポート)したので、(らく)にはメールで伝えてこのまま帰路につく。

 というか一気に舞斗(まいと)のマンションまで移動(テレポート)する。

 どうも小咲(こさき)の様子がおかしいので、行間とかコマの間を駆使することで時間をかけずに自宅へと連れ込んだのだ。

 

 荷物を降ろし、一息つく。

 オロオロと当人よりも落ち着きのないるりを(なだ)めつつ、様子を見守る。

 

「……やっぱり、一条君と桐崎さんはお似合いのラブラブカップルだったね」

 

 やがて小咲(こさき)は少し淋しそうに(つぶや)く。

 2人の仲睦(なかむつ)まじい姿を見ると、今は偽物(ニセコイ)でもいずれ本物になることは容易に理解できる。

 分かっていたことではあるが、(つら)さを感じたようだ。

 

 その姿があまりにも(はかな)げだったため、るりは心配になってその腕を取る。

 

小咲(こさき)、今からでも……」

「一条君は優しいから、桐崎さんのことを優先すると思うよ? そういう人だし、そういう人でいて欲しいし……」

 

 るりの身体をギュッと抱きしめ、彼女は続ける。

 

「……縁が無かったって、こういうことを言うのかな」

 

 小野寺小咲(こさき)は、一条(らく)と桐崎千棘(ちとげ)の2人に対して相性が悪い。

 

 問題を表面化させるが解決はできない桐崎千棘(ちとげ)

 表面化した問題に対して一直線の一条(らく)

 問題を表面化させずに抱え込む小野寺小咲(こさき)

 

 また家庭環境についても同様である。

 

 ギャングの娘である桐崎千棘(ちとげ)

 ヤクザの息子である一条(らく)

 和菓子屋の娘である小野寺小咲(こさき)

 

 桐崎千棘(ちとげ)と一条(らく)の相性は最高であり、小野寺小咲(こさき)は最悪である。

 高校入学までに決着を付ければという話もあるが、恐らく上記の違いで長続きしなかっただろう。

 後から現れた桐崎千棘(ちとげ)に奪われていた可能性が高い。

 

 小野寺小咲(こさき)には、一切の勝ち目が無かったのだ。

 

「確かに、一条と恋人になるって縁は無かったのかもしれないね」

 

 舞斗(まいと)は敢えて現実を突き付ける。

 しかしそれだけではない。

 

「でもね、友達としての縁はある」

 

 今から2年と少し前に始まり、これから先も続いていくだろう。

 そんな縁がしっかりと存在していることを認識させる。

 

「それに俺とるりちゃんの縁は、小咲(こさき)ちゃんにしっかり結ばれている」

 

 だから大丈夫だと、小咲(こさき)の頭を優しく撫でながら言い聞かせる。

 

「マイちゃん……」

 

 

 

 精神的なダメージは初回ほどでは無かったのだろう。

 舞斗(まいと)とるりの2人掛かりで慰めることで、今回は短時間で立ち直れたようだ。

 その後は気分を落ち着かせるため蜂蜜入りホットミルクと、お茶請けとしてクッキーを摘まみつつ談笑する。

 

「それにしても桐崎さん、大丈夫かな?」

 

 ふと先ほどの教室でのやり取りを思い出し、小咲(こさき)が不安げに問いかける。

 もはや怨敵とも言える少女の事なぞ放っておけばいいものをと思うも、小咲(こさき)ちゃんらしいと苦笑しつつ舞斗(まいと)は答える。

 

「大丈夫だって。一条がどうにかしてくれる」

「どうしてそう思うのよ」

 

 るりが反射的に返してしまうほどに、実にのん気な様子だ。

 

「一条がドタバタやってるうちに周りが桐崎さんのことを知って、自然と友だちができるよ」

 

 それに、と舞斗(まいと)は続ける。

 

「あれだけ『男らしさ』にこだわる一条だよ?

 男は、自分の女のためなら何だってできる生き物だからね」

 

 

 

 

 

 

「え? マイちゃん、何でもしてくれるの?」

小咲(こさき)ちゃん、赤くなって(もだ)えてるのはカワイイけど空気読んで。せっかくカッコよく締めたんだからさ」

「マイちゃん、私にも」

「はいはい、るりちゃんも分かったから腕をひっぱるんじゃありません」

 

 

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