本当にせこい   作:七九六十

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09-05 七夕

 

 

 

「願い事ねぇ~、まさか高校生にもなって短冊を書く事があるとは」

「まぁまぁ。テキトーにちゃっちゃと済ませよーぜ」

 

 凡矢理(ぼんやり)高校では七夕大会と称して笹に願い事を書いた短冊を下げるイベントがある。

 ちなみに3年に1度なので在学中に1回しかないレアなものである。

 決して、今思い付きで発生したイベントなうえにセリフ回しのせいで『じゃあ去年は?』となったことへの辻褄合わせではない。

 

 短冊を前に悩む(らく)と、お気楽な(しゅう)

 しかし(らく)は何を書こうかと悩んでいるのではなく、この願いを書いていいものかと悩んでいたりする。

 

「おやおや~ん? 一条君はどんなお願いをするのかな~?」

「ん!? いや別に!?」

 

 それを察した(しゅう)揶揄(からか)われてしまう。

 

「お母さんが『短冊に書いた願いが超高確率で叶うって評判なんだよ。意外と知られてないんだけど』って言ってたよ」

「評判なのか知られてないのか、どっちなのよ」

 

 小咲(こさき)とるりも短冊を手に話している。

 今回使用する笹は近所の神社で用意されたもので、そこの神主は地元では有名な凄腕の霊能士である。

 きっとそれもあって3年に1度なのだろう。

 

「ちなみに皆は、どんな願い事にしたんだ?」

 

 (らく)はとりあえず自分のことは棚に上げ、いつものメンバーに質問してみる。

 

 

 

『ギガ肉ラーメン 復活求む!! 桐崎千棘』

 

「私はコレね」

「ああ、お前あのラーメン気に入ってたもんな」

 

 千棘(ちとげ)が店主に直接言ったら即座に叶いそうな願いである。

 

 

 

 

『お嬢が平穏無事でありますように 鶫誠士郎』

 

「私は特に思い付かないので」

「つぐみらしい……のか?」

「……あんた、こういう時くらい自分の事書きなさいよ」

 

 (ポーラ)のことじゃないだけ良かったというべきか。

 

 

 

 

『三億円当たれ 宮本るり』

 

「宝くじ買ってないけどね」

「どストレートに来たな」

「でも、当てる気が無いのがるりちゃんらしいわね」

「むしろ当てられるものなら当ててみろと言わんばかりですね」

 

 自立のためにお金を稼ごうとは思うが、そこそこ裕福な家庭である。

 

 

 

 

『裁縫が上達しますように 小野寺小咲』

 

「ナポリ仕立てを勉強中です!」

「ナポリ? ってイタリア?」

「ナポリ仕立てってスーツの? 小咲(こさき)ちゃんはどこ目指してるの?!」

乞巧奠(きこうでん)とはまた懐かしいですね」

「平安時代を懐かしむんじゃない。マイちゃんじゃあるまいし」

 

 手先が器用なので割とイイ感じに進んでいたりする。

 

 

 

 

『未来に希望が ありますように 岬舞斗』

 

「やっぱ願い事といったらコレだよね」

「岬にしては普通だな……?」

 

 この願いが叶いませんように、とかやってくるのかと思ったが。

 

「そんなありきたりな事はしないよ。ちなみにコレが続きね」

「……続き?」

 

『願わくば 消えてなくなれ 魔神の手』

 

「なんで俳句なんだよ」

(らく)、季語が無いからコレは川柳よ」

「そもそも通じますかね、このネタ?」

「元ネタの猿の手は有名よね」

「同じジャンプ作品だし、大丈夫だよきっと」

 

 後楽園もとい後悔覚悟で魔神の手(ぼく)と握手!

 

 

 

 

「…………あれ? オレのは見ないの?」

「テキトーにちゃっちゃと済ませたヤツのは参考になんねーからな」

 

 (しゅう)の短冊はスルーされてしまった。

 

 

 

 

「そういえば、橘は?」

万里花(まりか)なら、ほら」

 

 いつものメンバーということで、(らく)は最後の1人の姿を探すが見つからない。

 千棘(ちとげ)が指差すのは窓の外。相変わらず間の悪い彼女は、1人校庭に居た。そして段ボール数箱にもなる短冊をせっせと笹に吊るしている。笹は大量の短冊の重みに負け、危険なしなり具合である。

 

『コラー、誰だこんなに短冊吊り下げたの!!』

『短冊は1人1枚!!』

 

「あ、先生に怒られてる」

「何やってんだ、あいつは……」

 

 まあ流石に他の生徒の邪魔になるし。

 

「えーと、(らく)様と遊園地に行きたい、(らく)様とデートしたい、(らく)様と水族館に行きたい……」

 

 千棘(ちとげ)万里花(まりか)の短冊を読み上げる。

 予想通りの内容である。

 

「何でこの距離で見えるんだよ」

「私の視力は10.0よ」

 

 得意気な彼女はさらに読み上げを続ける。

 

「他には、出番が欲しい、メイン回が欲しい、サブでもいいから目立ちたい……」

 

 そしてすぐに後悔する。軽々しく触れていい話題では無かったようだ。

 

第104話ラクサマ(1つ前)もカットされましたからねぇ」

「マイちゃん、なんでカットされたの?」

「いや、話の趣旨がよく分からなくて」

 

 オウムの名前を『(らく)様』じゃなくて『万里花(まりか)』にすれば自分の名前を一条の声でサンプリングできただろうに、とか。

 最後の唐突な『マイスウィートハニー万里花(まりか)』なんて呼びかけは、それこそオウムの名前を万里花(まりか)にしないと成立しないだろとか。

 

「……まあ橘さん本人の出番は少ないし、そこまでメイン回とも言えなかったから大丈夫じゃない?」

 

 そういう訳で手を入れることができませんでした。

 

「それにココでの扱いが悪いだけで、世間では人気なんだよ?」

 

 2回目の人気投票の結果は以下のようになっている。

 

 第1位 5110票(前回1位  +217票) 小野寺小咲(こさき)

 第2位 4518票(前回4位 +1824票) 橘万里花(まりか)

 第3位 4341票(前回2位    +3票) 桐崎千棘(ちとげ)

 第4位 2902票(前回5位 +1931票) 宮本るり

 第5位 2889票(前回3位   -93票) (つぐみ)誠士郎

 

「それでも小咲(こさき)ちゃんには勝てないんだけど」

「落書き版が14位?」

 

 原作では見せ場を奪われている割に人気は高い。

 特殊な小咲(こさき)ちゃんシリーズの中で一番人気なのが『落書きになった小野寺』なのがいとをかし。

 

「……あれ、私って万里花(まりか)に負けたの?」

「頑張れメインヒロイン」

 

 原作では見せ場がたくさんある割に票が増えていない。

 停滞と後退は同義である、とか言われそうである。

 それよりも問題なのは、結果発表ページにおける扱いの小ささである。原作者のお気に入りだったはずでは?

 

「いえーい」

「得意気な顔してピースしてるるりちゃんは可愛いけど、何があった?」

 

 前回の3倍近い票数である。

 確かに人気(にんき)の出る脇役の造形ではあるが、あからさまなカップリングが足を引っ張ると思っていたのだが。

 

「私だけマイナス……」

(つぐみ)ちゃんはこんなに可愛いのに、なんでだろうね?」

 

 順位は問題ないが、全体の票数が増えているのに1人だけマイナスになっているのは……

 しかも扱いも小さい上にセリフすらないとは。ココとは違ってメイン回だってそこそこあるのに。

 

 

 

 

 

 

「……よし、オレはコレに決めた!」

 

 外野が脱線して微妙な話をしている中、1人まじめに考えていた(らく)

 ちなみに第7位662票(前回6位 +2票)である。カップルで停滞気味とか言ってはいけない。

 

「って、つぐみは何かあったのか?」

 

 気が付けば(つぐみ)舞斗(まいと)にギュッと抱き着いており、背中を撫でられている。

 

「つぐみちゃんは、ちょっと悲しいことがあったの……。だから、そっとしておいてあげて?」

「お、おう」

 

 小咲(こさき)が目元の涙をぬぐいながら教えてくれるが、それでもサッパリである。

 

 まあそれはさておき。

 皆の願い事を参考に、彼は1つの願いを短冊に込める。

 そして遂に書き上がった短冊の中身とは。

 

 

 

『飼育小屋の連中に死ぬほどなつかれますように!! 一条楽』

 

 

 

 

「……叶うと良いわね」

 

 同じ飼育委員として、日頃から親身になって世話をしている彼の姿を見ている千棘(ちとげ)

 なのに引っ掻かれ、(かじ)られ、(つつ)かれていることを知っているだけに、涙の1つも出るというものだ。

 

 

 

 ちなみに。他のメンバーも彼を手伝って飼育小屋を訪れることがあるが、以下のような感じである。

 

 小咲(こさき)はすべての動物に懐かれている。どんなに凶暴な性格をしていても、彼女の前では子犬のようになる。

 

 るりは特に変わった反応をされることもなく、そこそこに警戒される中、淡々と作業をこなしている。千棘(ちとげ)の良い手本となった。

 

 (つぐみ)は可愛がるのに夢中になり、世話がおろそかになることが多い。ワニなどの危険な生物も恐れないので、頼もしい部分もあるが。

 

 舞斗(まいと)の場合は謎である。一切警戒されることなく、動物たちはされるがままになっているが、懐いている様子は見られない。

 

 

 

 それはともかく。

 こうして全員が短冊を書き終えたので、校庭にある笹に吊るしに行く。

 

 万里花(まりか)の短冊もすべて撤去され、他の生徒たちが思い思いの場所に吊り下げている。

 その中には1年生組のものも見受けられる。

 

 

 

『和菓子作りがもっと上手くなりますように 小野寺春』

 

「うん、(はる)ちゃんらしいね」

「新作を考えるのが楽しくなったみたいで、もっと作りたいって言ってたよ」

小咲(こさき)は和菓子以外の道に()れていったから、実家は(はる)が継ぐのかしら」

「食の後が衣なので、次は住でしょうか?」

 

 小咲(こさき)は、いったいどこで道を間違えたのだろうか。

 

 

 

『カレーが食べたい。ハンバーグが食べたい。オムライスも食べたい。 ポーラ・マッコイ』

 

「うん、ポーラちゃんらしいね」

「これはオムカレー、ハンバーグ付きってことかな?」

「……これでいいの? ヒットマン」

「宮本様。こんな緩い世界で、何を今さら」

 

 楽の家業(ヤクザ)千棘の家業(ギャング)が『怖がられて友達ができない』くらいの舞台装置にしかなっていない現状。

 代表取締役の個人年収が数百億ドルなんていうおかしな規模の多国籍企業(フラワーコーポレーション)が、代表取締役の夫(ギャング)の人脈で商売しても許されるのだ。

 一条楽(ヤクザの二代目)が公務員になるくらい、なんてことはない。

 

 

 

 

 

「なんか右下のコマの笹に、クリスマスツリーでよく見るモールみたいなものが」

「……気のせいだろ」

 

 (らく)脚立(きゃたつ)に乗り、笹の上部に短冊を吊り下げる。

 ちなみに脚立(きゃたつ)は昇降面と作業面を正対させ、梯子(はしご)部分や天板に足などの体の一部を当てて使用するものらしい。

 天板に乗るのも座るのも(また)ぐのも危険なので禁止されているとか。

 

 そんな脚立に対抗し、るりを肩車した舞斗(まいと)が笹に近づく。

 

「……それでも一条君に負けてるわね」

 

 このメンバーの中、に限らずとも身長の低い2人が合体したのでは、脚立(きゃたつ)の上の(らく)には届かない。

 

「ならば奥の手を」

 

 そう言って舞斗(まいと)は宙に浮かぶ。

 

「…………待って、そこで飛ぶなら何で私を肩車したの?」

「そりゃあもちろん、るりちゃんの生足(なまあし)を堪能するために決まってるじゃないか」

 

 何を当たり前のことを、と舞斗(まいと)は返す。

 水泳で鍛えられた、しっとりすべすべの太もも、ふくらはぎに(はさ)まれるのである。

 男ならそりゃあやるでしょ。

 

 そしてその言葉にハッとした小咲(こさき)

 

「るりちゃんは確か、水泳の大会で『凡矢理(ぼんやり)高校のマーメイド』って二つ名で呼ばれてた……!」

「なるほど。ナマ足魅惑なんですね」

「2人とも、ネタが古いわよ」

 

 小咲(こさき)(つぐみ)得心(とくしん)が行ったとばかりに(うなづ)くが、るりにすぐさまツッコまれてしまった。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで全員分の短冊を吊るし終わったのだが。

 

「んで、橘はどーすんだ?」

 

 2枚の短冊を手に、(うな)り声を上げながら悩み続けている万里花(まりか)

 右手には『(らく)様とデートしたい』が、左手には『出番が欲しい』が握られている。

 

「あの橘万里花(まりか)がここまで悩むとは」

「がんばれ、万里花(まりか)ちゃん」

「原作では人気投票2位、二次創作ではメインヒロインになることだって多いのに、ココでは出番に悩むなんて……」

「今後、(らく)様要員として以外に出番があるか怪しいですからね……」

 

 それぞれの初登場回ではキャラを掴むため、それなりに出番を与えるのだが。

 ココはそもそも『小咲(こさき)ちゃんをどうにか幸せにしたい』と思って始めたものである。小咲(こさき)が絡まない話は、よほどのことがなければカットされてしまう。

 

 なので右手と左手を合わせて合体魔法『(らく)様とデートする話が欲しい』は、叶えられそうにない。

 

「………………決めましたわ! (わたくし)の願いはコレです!」

 

 そうして彼女が選んだのは、右手の『(らく)様とデートしたい』だった。

 葛藤があった。未練もある。しかし彼女は、初志を貫いたのだ。

 

「流石は万里花(まりか)。それでこそ我がライバルに相応(ふさわ)しい……」

 

 腕組みしてそう(つぶや)く、千棘(ちとげ)も満足そうであった。

 

 

 

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