「皇帝が死んだ?」
さすがに呆然とした表情を浮かべて配下の諸将を眺めながら、
「心臓疾患だと……自然死か。あの男にはもったいない」
「マイちゃん、皇帝じゃなくて一条君だよ」
「それに死んでもいないわね」
「虫垂炎で入院してただけですね」
諸将からツッコミが入る。
現在は夏休み。
今年も彼らは花火大会に行ったり、
そして昨年と同じく泊りで海に行こうと計画していたのだが、
「まあ、一条がこんな状態だと中止かな?」
昨日の
そして虫垂炎だと判明し、そのまま手術と
「そうだね。やっぱり皆で行きたいもんね」
入院している
「しばらく運動も控えたほうがいいだろうから、今年は
お見舞いがてら、そこら辺を話し合いに行きますか」
「マイちゃん様、それがですね……」
準備のために席を立った
「一条様は現在、面会謝絶となっております」
「え? そんなに重傷だったの?」
虫垂炎は俗に言う『薬で散らす』のイメージからか、かなり扱いが軽い。日帰りの手術もあるくらいなのだから、それも間違っていない。
とはいえ症状が本人にすら分かり辛く、手遅れになって重症化することはある。
「いえ、集英組の方が大勢押しかけて騒いだらしく……」
「えぇー……」
面会謝絶と聞いて慌てた
どうやら面会謝絶というよりも隔離処置に近いものだったとか。
「となると解禁と同時に退院とかなりそうだね」
「お見舞いに行くタイミングあるのかな?」
「おススメの小説を持っていこうと思ってたのに……」
「宮本様、ペリー・ローダンをどうやって持っていく気ですか」
巻数が多いので暇つぶしにはなるだろう。内容については……
「学生らしいお見舞いの品ってなんだろ?」
「定番だと、千羽鶴とか?」
「橘さんと被りそうね。彼女なら1人で折ってきそう」
「なら差別化のために足でも生やしますか?」
首を増やすのもいいかもしれない。
そんな感じで見舞いの品を見繕っていた
まあ無難に
「マイちゃん様、お嬢から一条様の面会が可能になったと連絡がありました」
「まさかこんなにかかるとは」
ちなみに退院まであと3日ほどかかるらしい。虫垂炎としては重症なのだろうか?
「じゃあ早速行く?
「いや、明日にしようか」
そう予想した
◆
「というわけで、1年生組も誘っての計7人で押しかけました」
「いや、病室に1人って
少し本音が漏れそうになった
「ちゃんと、一条君のお見舞いですってアピールしてきたから」
「…………おい待て、何か嫌な予感がするんだが」
ヤツが良い笑顔のときは何かが起きる前兆である。
「彼女とデート中に運び込まれた男子高校生。手術が終わると押し寄せてきた、その筋の人たち」
「昨日は
自称婚約者としては見舞いに来るのは当然である。
「三角関係くらいまでなら、まあよくある話でしょうけど」
「さらに追加でこの人数の女の子たちがお見舞いに、ですからね」
るりと
「看護師って、どこの病院でもウワサ好きだよね」
「お前、なんつーことを……」
ちょっとしたお茶目である。
「でも一条君、既に相当な恨みを買ってるようじゃない」
「え?」
るりの突然の指摘に
彼女の視線の先には病室の一角を占拠している大量の花がある。
「見舞いに持って行ってはダメな種類の花が、鉢植えで、しかもこんなにたくさんだなんて」
菊のような葬式などで特殊な使い方をする、縁起が悪いもの。
シクラメンなどの名前が死や苦を連想させる、縁起が悪いもの。
椿などの花がボトリと落ちる様が首が落ちるそれを連想させる、縁起が悪いもの。
このような花は避けるべきである。
そして鉢植えは根を下ろしている様子が『寝付く』『病気が根付く』を連想させるので、同じく避けるべきである。
あとは病室に大きな花や、匂いの強い花は避ける気遣いが欲しいところである。
「………………これ、
「ヤクザの方がそういうことにうるさいイメージがあるんだけど」
「ええ、この業界では相手に口実を与えたら負けですからね」
言いがかりのような理由ですら力尽くで通す世界である。
「それに、知らないと恥をかきますからね」
祝いの席に菊の花を贈られて、その意味を理解せずにそれを受け取ってしまったら。物を知らないやつだとバカにされたり、ケンカも買えないチキン野郎と言われても仕方のないことである。
そこは俺式ファイナルヘヴンで叩き返すのが正しい作法である。
「うーむ……」
「そういう決まりだと思うと『全部覚えなきゃ』ってなっちゃうから、単に『相手のことを考えよう』ってだけで9割方うまくいくよ」
花を受け取る側がマイナスのイメージを抱かないようにしよう、相手の都合を考えよう、という訳である。気持ちがこもっていれば何でもいい、というのは贈る側のセリフではないのだ。
食べ物を贈るときは自然と相手の好き嫌いやアレルギーを考慮するのだから、それと似たようなものである。
「ちなみに、残りの1割は?」
「その地方独特の風習とかだと、ちょっと対応が難しいかな。あとはマナー講師がオリジナリティを出そうと捏造したものもあるから、それは無視してもいいし」
何事も完璧にとはいかないので、受け取る側の理解も必要である。
「がんばれ二代目」
「おう、っていやオレは公務員になるんだよ!」
まあ一流大学というには少しばかり成績が足りていないが。
「この流れでなんですが一条先輩、これお見舞いの品です」
「日持ちするものを選んであるから、退院してからでもゆっくり食べてね?」
代表して小野寺姉妹が実家の和菓子の詰め合わせを手渡す。
「おお、ありがとな」
昨日は
さすがにしばらくリンゴは遠慮したいほど食べたところだったので、和菓子が出てきたことに喜ぶ。
「ついでにオマケとして今週号のジャンプもあげよう」
「おお!」
病院の1階にある売店でも扱っているのだが、発売日はまだ歩けるほど回復しておらず、かといって面会謝絶だったために買ってきてもらうこともできず、そうこうしているうちに買いそびれてしまったのだ。
そんな状況を予想できていた
面会時間が終わって1人になる夜は暇なので、これで一安心である。
「って、そういえば人数分の椅子が無いな」
部屋に備え付けのパイプ椅子はあるが、7人が座れるほどの数が無いことに
「大丈夫だよ、こっちで用意するから」
すると
「………………何だ、それは?」
「何って、空気椅子だよ?」
「空気椅子は空気でできた椅子のことじゃねーよ」
圧縮空気を成形し、くの字型の長椅子にしている。これで全員が座れるようになる。
「じゃあエアークッション」
「そっちも違う」
背もたれもあるため、クッションよりは椅子のほうが近いと思われる。
「あ、柔らかくて気持ち良い」
「これ良いわね」
「さすがはマイちゃん様です」
慣れている者たちは
「あれ
「え? え、えー?」
「この程度で取り乱すとは、まだまだね」
慣れていない者の反応はこんなものである。
何故かポーラが勝ち誇っているが。
そんなこんなで全員が腰を下ろし、一息つく。
学校でもそうだが、絵面だけ見れば一条
「むしろ入院を機に隠し子が発覚して修羅場ってる感じ?」
「認知してもらわないと遺産相続できないからね」
「この場合、全員親の立場なの? それとも子供も混じってるの?」
「ヤクザの二代目ですからね。将来ありえそうです」
「ねーよ」
好き勝手に想像を膨らませる
いつも通りである。
「超絶美人の彼女がいるにも関わらず、多数のキレイな女の子を従えてる一条先輩……」
「
「……あれ? もしかして今は私たちも?」
「そのウワサ、まだ消えてねーのかよ」
特別ゲストの1年生たち。もちろん今では彼女たちも一条ハーレムの一員である。
「大丈夫だよ、一条君は
「お、おう……」
まぶしい笑顔でそう言ってのける
彼女は
いやでも小野寺のことだから、もしかしたら忘れてるかも……
「
「ああ。スマン、オレのせいで中止に……」
「突発的な病気だったんだから、それは仕方ないよ」
旅行中じゃなくて良かったとも考えられる。
「で、その代わりに
「今度は近場でやるから、前日から仕込みが必要なものとかも用意できるしね!」
「なるほど……」
「それに、マイちゃんが買ったダッチオーブンやスキレット、燻製器なんかをちゃんと屋外用として使えるし」
「………………キャンプ系の番組を見てたら、つい」
「分かる」
初手の中華鍋を皮切りに『ちょっと不便だけど、それがいい』系の道具を
ちなみに初手が圧力鍋の場合、ホームベーカリーやコーヒーメーカーなどの機能系に走る人が多い気がする。
「そういえば岬先輩、昨日も何か宅急便で受け取ってましたね」
「キッチンに持って行くから、てっきり美味しいものだと思ったのに……」
「…………マイちゃん?」
「マイちゃん?」
「………………溶岩プレートを買いました」
「だって遠赤外線が……」
「だってじゃありません」
顔に添えていた手で
何となく流れでそうなっただけで、要はただ2人でじゃれ合っているだけである。
「……溶岩プレート?」
「名前の通り溶岩が冷えた後の石を、ホットプレートみたいに使えるよう加工したものよ」
「なんでも蓄熱性があるからゆっくり火を通すことができて、しかも気泡に余分な油が落ちるとか言ってましたね」
「なるほど、良いな……」
「明日にでも実際にお肉を焼いてみようと思います」
「おおー」
「わー」
「肉か……いいなぁ」
食べ盛りの男子高校生が何日も肉抜きで過ごすのは辛いものがある。
「一条先輩はまだご飯食べられないんですか?」
「固形物は腹に負担がかかるからって、まだ許可されてないんだよな」
リンゴも摩り下ろしならと言われているのに、昨日は
固形物が恋しかったとはいえ、よく噛んで食べていなかったら危ないところだった。
「手術なんて生まれて初めてだったけど、むしろ術後のほうが大変でな」
彼はしみじみと語り始める。
「麻酔が切れたときとか最悪だったし、しばらくメシも食えねーしロクに動けねぇしで……」
腹を切ったことなんて大したことないという風の彼に、
そしてそれに気を良くした
「……なんか、小学校でたまに見る光景のような」
るりにはそんな3人が年齢よりも幼く見えてしまう。
「まあ、本質的には変わらないからね。高校生なんて小学生に毛が生え……おっと」
「ねえマイちゃん、どうしてこっちを見て言葉を止めたのかしら?」
今度はるりの手が
「大丈夫だよ、るりちゃん。みんな似たようなものだよ」
「創作物のお約束というやつですね」
「0と1の差は大きいのよ」
彼女も別に怒っているわけではない。何となく流れでそうなっただけで、要はただ2人でじゃれ合っているだけである。
「次は私の番ですよね?」
「ふむ」
るりが満足して手を離すと、次は
その様子が可愛らしかったので、
「えへへー」
何となく流れでそうなっただけで、要はただ2人でじゃれ合っているだけである。
騒がしくして病人の負担にならない程度に賑やかに。
実に平和な、夏休みの一幕であった。
百関「せっかく和菓子屋の制服をビキニにする流れがあったのだから、
菜々子ママにビキニを着せるイベントがあってもよかったんじゃないかとボクは思うのね」
景勝「そうだな……」
景勝「だがビキニを着せる話なら
その体験を機に、
巨兜(何なのコノ会話……)
巨兜(しかも
巨兜(そもそも小野寺母のビキニ姿なんてドコに需要が……)
百関「『ドコに需要が』……?」
百関「作者サンの頭の中にそういう構想が少しはあるのは間違いないはずなのね。
菜々子ママの接客態度が悪いのは、その逆転の一手への布石だからというのが何よりの証拠なのね」
巨兜「……!?」
巨兜(思考が……読めるのか? マズイ……)
百関「……ボクの願望はただ一つ。
人妻たちのカワイイ
百関「ボクの相撲で作者サンのリビドーが解放されるなら、いつだって
百関「
ウケるかどうかなんて実際にやってみるまで分からないものなのね」