本当にせこい   作:七九六十

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09-06 お見舞い

 

 

 

「皇帝が死んだ?」

 

 さすがに呆然とした表情を浮かべて配下の諸将を眺めながら、舞斗(まいと)は心の奥で(つぶや)いた。

 

「心臓疾患だと……自然死か。あの男にはもったいない」

「マイちゃん、皇帝じゃなくて一条君だよ」

「それに死んでもいないわね」

「虫垂炎で入院してただけですね」

 

 諸将からツッコミが入る。

 黄金樹(ゴールデンバウム)集英組(ヤクザ)も倒れてはいない。

 

 

 

 現在は夏休み。

 今年も彼らは花火大会に行ったり、(つぐみ)の誕生会を開いたり、水族館に行ったり、るりの部活の応援に行ったり、勉強会をしたりと存分にイベントを満喫していた。

 

 そして昨年と同じく泊りで海に行こうと計画していたのだが、

 

「まあ、一条がこんな状態だと中止かな?」

 

 昨日の千棘(ちとげ)とのデート中、いきなり腹痛を訴えたと思ったら気を失って救急車で運ばれたとのこと。

 そして虫垂炎だと判明し、そのまま手術と相成(あいな)ったわけである。

 

「そうだね。やっぱり皆で行きたいもんね」

 

 入院している(らく)を置いて楽しめるようなメンバーではないため、素直に中止でいいだろう。

 

「しばらく運動も控えたほうがいいだろうから、今年はBBQ(バーベキュー)だけかな?

 お見舞いがてら、そこら辺を話し合いに行きますか」

「マイちゃん様、それがですね……」

 

 準備のために席を立った舞斗(まいと)(つぐみ)が止める。

 

「一条様は現在、面会謝絶となっております」

「え? そんなに重傷だったの?」

 

 虫垂炎は俗に言う『薬で散らす』のイメージからか、かなり扱いが軽い。日帰りの手術もあるくらいなのだから、それも間違っていない。

 とはいえ症状が本人にすら分かり辛く、手遅れになって重症化することはある。

 

「いえ、集英組の方が大勢押しかけて騒いだらしく……」

「えぇー……」

 

 面会謝絶と聞いて慌てた千棘(ちとげ)のために、(つぐみ)が事情を確認しに行ったところ。

 どうやら面会謝絶というよりも隔離処置に近いものだったとか。

 

「となると解禁と同時に退院とかなりそうだね」

「お見舞いに行くタイミングあるのかな?」

「おススメの小説を持っていこうと思ってたのに……」

「宮本様、ペリー・ローダンをどうやって持っていく気ですか」

 

 巻数が多いので暇つぶしにはなるだろう。内容については……

 

「学生らしいお見舞いの品ってなんだろ?」

「定番だと、千羽鶴とか?」

「橘さんと被りそうね。彼女なら1人で折ってきそう」

「なら差別化のために足でも生やしますか?」

 

 首を増やすのもいいかもしれない。

 

 そんな感じで見舞いの品を見繕っていた舞斗(まいと)たち。

 まあ無難に小咲(こさき)の店の和菓子で日持ちするやつを持っていこうと決めて待機していたのだが。

 

 

 

「マイちゃん様、お嬢から一条様の面会が可能になったと連絡がありました」

「まさかこんなにかかるとは」

 

 (らく)が病院に運び込まれてから5日後のことである。

 ちなみに退院まであと3日ほどかかるらしい。虫垂炎としては重症なのだろうか?

 

「じゃあ早速行く? (ウチ)によって詰め合わせ持ってくるけど」

「いや、明日にしようか」

 

 千棘(ちとげ)も久しぶりだからもっと話したいだろうし、恐らく万里花(まりか)が押しかけているだろう。

 そう予想した舞斗(まいと)は、(らく)に明日皆で見舞いに行くとメールを送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「というわけで、1年生組も誘っての計7人で押しかけました」

「いや、病室に1人って(さび)し暇だからありがたいんだが」

 

 少し本音が漏れそうになった(らく)である。

 

「ちゃんと、一条君のお見舞いですってアピールしてきたから」

「…………おい待て、何か嫌な予感がするんだが」

 

 舞斗(まいと)の一言に、急に言い知れぬ不安が押し寄せてくる。

 ヤツが良い笑顔のときは何かが起きる前兆である。

 

「彼女とデート中に運び込まれた男子高校生。手術が終わると押し寄せてきた、その筋の人たち」

「昨日は万里花(まりか)ちゃんも来てたんでしょ?」

 

 小咲(こさき)はサイドテーブルに置かれている千羽鶴を見やる。

 自称婚約者としては見舞いに来るのは当然である。

 

「三角関係くらいまでなら、まあよくある話でしょうけど」

「さらに追加でこの人数の女の子たちがお見舞いに、ですからね」

 

 るりと(つぐみ)の話を聞いて、段々と状況を察してしまう。

 

「看護師って、どこの病院でもウワサ好きだよね」

「お前、なんつーことを……」

 

 ちょっとしたお茶目である。

 

「でも一条君、既に相当な恨みを買ってるようじゃない」

「え?」

 

 るりの突然の指摘に(らく)は驚く。

 彼女の視線の先には病室の一角を占拠している大量の花がある。

 

「見舞いに持って行ってはダメな種類の花が、鉢植えで、しかもこんなにたくさんだなんて」

 

 菊のような葬式などで特殊な使い方をする、縁起が悪いもの。

 シクラメンなどの名前が死や苦を連想させる、縁起が悪いもの。

 椿などの花がボトリと落ちる様が首が落ちるそれを連想させる、縁起が悪いもの。

 このような花は避けるべきである。

 

 そして鉢植えは根を下ろしている様子が『寝付く』『病気が根付く』を連想させるので、同じく避けるべきである。

 

 あとは病室に大きな花や、匂いの強い花は避ける気遣いが欲しいところである。

 

「………………これ、集英組(ウチ)の連中が持ってきたものなんだが」

「ヤクザの方がそういうことにうるさいイメージがあるんだけど」

 

 舞斗(まいと)はそう言って(つぐみ)を見やる。

 

「ええ、この業界では相手に口実を与えたら負けですからね」

 

 言いがかりのような理由ですら力尽くで通す世界である。(いわん)や社会通念をや。

 

「それに、知らないと恥をかきますからね」

 

 祝いの席に菊の花を贈られて、その意味を理解せずにそれを受け取ってしまったら。物を知らないやつだとバカにされたり、ケンカも買えないチキン野郎と言われても仕方のないことである。

 そこは俺式ファイナルヘヴンで叩き返すのが正しい作法である。

 

「うーむ……」

「そういう決まりだと思うと『全部覚えなきゃ』ってなっちゃうから、単に『相手のことを考えよう』ってだけで9割方うまくいくよ」

 

 花を受け取る側がマイナスのイメージを抱かないようにしよう、相手の都合を考えよう、という訳である。気持ちがこもっていれば何でもいい、というのは贈る側のセリフではないのだ。

 食べ物を贈るときは自然と相手の好き嫌いやアレルギーを考慮するのだから、それと似たようなものである。

 

「ちなみに、残りの1割は?」

「その地方独特の風習とかだと、ちょっと対応が難しいかな。あとはマナー講師がオリジナリティを出そうと捏造したものもあるから、それは無視してもいいし」

 

 何事も完璧にとはいかないので、受け取る側の理解も必要である。

 

「がんばれ二代目」

「おう、っていやオレは公務員になるんだよ!」

 

 (らく)は思わず(うなず)いてしまったが、すぐに否定する。彼の将来の夢は一流大学を卒業して堅実な公務員になることである。

 まあ一流大学というには少しばかり成績が足りていないが。

 

 

 

「この流れでなんですが一条先輩、これお見舞いの品です」

「日持ちするものを選んであるから、退院してからでもゆっくり食べてね?」

 

 代表して小野寺姉妹が実家の和菓子の詰め合わせを手渡す。

 

「おお、ありがとな」

 

 昨日は万里花(まりか)千棘(ちとげ)からリンゴをイヤと言うほど剥いてもらった(らく)

 さすがにしばらくリンゴは遠慮したいほど食べたところだったので、和菓子が出てきたことに喜ぶ。

 

「ついでにオマケとして今週号のジャンプもあげよう」

「おお!」

 

 病院の1階にある売店でも扱っているのだが、発売日はまだ歩けるほど回復しておらず、かといって面会謝絶だったために買ってきてもらうこともできず、そうこうしているうちに買いそびれてしまったのだ。

 そんな状況を予想できていた舞斗(まいと)は余分に1冊買っておいたのだ。

 

 面会時間が終わって1人になる夜は暇なので、これで一安心である。

 

「って、そういえば人数分の椅子が無いな」

 

 部屋に備え付けのパイプ椅子はあるが、7人が座れるほどの数が無いことに(らく)は気付く。

 

「大丈夫だよ、こっちで用意するから」

 

 舞斗(まいと)はそう言って、膝から腰の高さで腕を動かし始める。

 すると徐々(じょじょ)に半透明の、薄っすらと白い(もや)の塊が姿を現す。

 

「………………何だ、それは?」

「何って、空気椅子だよ?」

「空気椅子は空気でできた椅子のことじゃねーよ」

 

 圧縮空気を成形し、くの字型の長椅子にしている。これで全員が座れるようになる。

 

「じゃあエアークッション」

「そっちも違う」

 

 背もたれもあるため、クッションよりは椅子のほうが近いと思われる。

 

「あ、柔らかくて気持ち良い」

「これ良いわね」

「さすがはマイちゃん様です」

 

 慣れている者たちは躊躇(ためら)いもなく座っていく。

 

「あれ(フウ)ちゃん、座らないの?」

「え? え、えー?」

「この程度で取り乱すとは、まだまだね」

 

 慣れていない者の反応はこんなものである。

 何故かポーラが勝ち誇っているが。

 

 

 

 そんなこんなで全員が腰を下ろし、一息つく。

 学校でもそうだが、絵面だけ見れば一条(らく)のハーレムである。

 

「むしろ入院を機に隠し子が発覚して修羅場ってる感じ?」

「認知してもらわないと遺産相続できないからね」

「この場合、全員親の立場なの? それとも子供も混じってるの?」

「ヤクザの二代目ですからね。将来ありえそうです」

「ねーよ」

 

 好き勝手に想像を膨らませる舞斗(まいと)たちに、すかさずツッコミを入れる(らく)

 いつも通りである。

 

「超絶美人の彼女がいるにも関わらず、多数のキレイな女の子を従えてる一条先輩……」

(はる)が信じてたウワサだね」

「……あれ? もしかして今は私たちも?」

「そのウワサ、まだ消えてねーのかよ」

 

 特別ゲストの1年生たち。もちろん今では彼女たちも一条ハーレムの一員である。

 (らく)の気苦労は絶えない。

 

「大丈夫だよ、一条君は千棘(ちとげ)ちゃん一筋だって、みんな分かってくれるよ!」

「お、おう……」

 

 まぶしい笑顔でそう言ってのける小咲(こさき)には、ひきつった笑顔を返すしかない。

 彼女は(らく)千棘(ちとげ)関係(ニセコイ)を知っているが、1年生組は知らないのでそう言うしかなかったのだろう、きっと。

 

 いやでも小野寺のことだから、もしかしたら忘れてるかも……

 

 (らく)の脳裏に一抹の不安がよぎる。

 

千棘(ちとげ)ちゃんと言えば、旅行の件は聞いたと思うけど」

「ああ。スマン、オレのせいで中止に……」

「突発的な病気だったんだから、それは仕方ないよ」

 

 旅行中じゃなくて良かったとも考えられる。

 

「で、その代わりにBBQ(バーベキュー)だけでもと考えていてね。豪勢にやろうと思うから、一条が腹一杯食べられるようになったら日程を決めたいんだよ」

「今度は近場でやるから、前日から仕込みが必要なものとかも用意できるしね!」

「なるほど……」

 

 小咲(こさき)が日頃の成果を発揮するチャンスを得て、(こぶし)を握って闘志を燃やしている。

 (らく)も得意の料理の腕を振るうことで今回の埋め合わせができるチャンスだと気付く。

 

「それに、マイちゃんが買ったダッチオーブンやスキレット、燻製器なんかをちゃんと屋外用として使えるし」

「………………キャンプ系の番組を見てたら、つい」

「分かる」

 

 (らく)も男である。

 初手の中華鍋を皮切りに『ちょっと不便だけど、それがいい』系の道具を徐々(じょじょ)に増やしつつある。

 

 ちなみに初手が圧力鍋の場合、ホームベーカリーやコーヒーメーカーなどの機能系に走る人が多い気がする。

 

「そういえば岬先輩、昨日も何か宅急便で受け取ってましたね」

「キッチンに持って行くから、てっきり美味しいものだと思ったのに……」

「…………マイちゃん?」

 

 (はる)とポーラの発言を聞いた小咲(こさき)からの圧力に、舞斗(まいと)は顔を背けてしまう。

 

「マイちゃん?」

「………………溶岩プレートを買いました」

 

 小咲(こさき)の手によって顔の向きを修正され、正面から受けた圧力に観念して罪を告白する。

 

「だって遠赤外線が……」

「だってじゃありません」

 

 顔に添えていた手で舞斗(まいと)(ほお)をムニムニしている彼女も、別に怒っているわけではない。

 何となく流れでそうなっただけで、要はただ2人でじゃれ合っているだけである。

 

「……溶岩プレート?」

「名前の通り溶岩が冷えた後の石を、ホットプレートみたいに使えるよう加工したものよ」

「なんでも蓄熱性があるからゆっくり火を通すことができて、しかも気泡に余分な油が落ちるとか言ってましたね」

「なるほど、良いな……」

 

 (らく)が食いついてしまった。

 

「明日にでも実際にお肉を焼いてみようと思います」

「おおー」

「わー」

 

 舞斗(まいと)の宣言に盛り上がる(はる)とポーラの姿に、保護者たちもニコニコである。

 

「肉か……いいなぁ」

 

 (らく)も思わず反応してしまう。

 食べ盛りの男子高校生が何日も肉抜きで過ごすのは辛いものがある。

 

「一条先輩はまだご飯食べられないんですか?」

「固形物は腹に負担がかかるからって、まだ許可されてないんだよな」

 

 リンゴも摩り下ろしならと言われているのに、昨日は千棘(ちとげ)万里花(まりか)のカットしただけのものを食べていたりする。

 固形物が恋しかったとはいえ、よく噛んで食べていなかったら危ないところだった。

 

「手術なんて生まれて初めてだったけど、むしろ術後のほうが大変でな」

 

 彼はしみじみと語り始める。

 

「麻酔が切れたときとか最悪だったし、しばらくメシも食えねーしロクに動けねぇしで……」

 

 腹を切ったことなんて大したことないという風の彼に、(はる)とポーラは『コイツすげー』な感じの眼差しを向ける。

 そしてそれに気を良くした(らく)はさらに言葉を進める。

 

「……なんか、小学校でたまに見る光景のような」

 

 るりにはそんな3人が年齢よりも幼く見えてしまう。

 

「まあ、本質的には変わらないからね。高校生なんて小学生に毛が生え……おっと」

「ねえマイちゃん、どうしてこっちを見て言葉を止めたのかしら?」

 

 今度はるりの手が舞斗(まいと)の顔に添えられる。

 

「大丈夫だよ、るりちゃん。みんな似たようなものだよ」

「創作物のお約束というやつですね」

「0と1の差は大きいのよ」

 

 小咲(こさき)(つぐみ)のフォローもなんのその。るりの手は舞斗(まいと)(ほお)をムニムニする。

 彼女も別に怒っているわけではない。何となく流れでそうなっただけで、要はただ2人でじゃれ合っているだけである。

 

「次は私の番ですよね?」

「ふむ」

 

 るりが満足して手を離すと、次は(つぐみ)がワクワクしながら待機している。

 

 その様子が可愛らしかったので、舞斗(まいと)は彼女の(ほお)をムニムニする。

 

「えへへー」

 

 (つぐみ)も別に自分がやりたかったわけではない。

 何となく流れでそうなっただけで、要はただ2人でじゃれ合っているだけである。

 

 

 

 騒がしくして病人の負担にならない程度に賑やかに。

 実に平和な、夏休みの一幕であった。

 

 

 






百関「せっかく和菓子屋の制服をビキニにする流れがあったのだから、
   菜々子ママにビキニを着せるイベントがあってもよかったんじゃないかとボクは思うのね」

景勝「そうだな……」

景勝「だがビキニを着せる話なら(らく)が先だろう。
   その体験を機に、身体(カラダ)精神(ココロ)も女に堕ちて……」


巨兜(何なのコノ会話……)

巨兜(しかも第101話ケーキヤ(その話)はカットされてるし……)

巨兜(そもそも小野寺母のビキニ姿なんてドコに需要が……)



百関「『ドコに需要が』……?」

百関「作者サンの頭の中にそういう構想が少しはあるのは間違いないはずなのね。
   菜々子ママの接客態度が悪いのは、その逆転の一手への布石だからというのが何よりの証拠なのね」

巨兜「……!?」

巨兜(思考が……読めるのか? マズイ……)



百関「……ボクの願望はただ一つ。
   人妻たちのカワイイ表情(カオ)が見たいだけなのね」

百関「ボクの相撲で作者サンのリビドーが解放されるなら、いつだって(ちから)になりたいと思ってるのね」



百関「()れた人妻たちが、年甲斐も無い格好で様々な反応を見せるシチュエーション……
   ウケるかどうかなんて実際にやってみるまで分からないものなのね」



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