本当にせこい   作:七九六十

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原作:第118話ネエサン~第128話ツナイデ まで

(ユイ)姉ちゃん登場。一番遅く登場して、一番早く退場した不遇な人。
(らく)のキャラ造形的に、一度家族として認識されてしまったらアウトだと思う。
 なので話を広げられなかったのだろうか。
・そしてやっと金関が出せる……




10 - センセイ
10-01 (ユイ)登場


 

 

 

 夏休みも終わり、いよいよ新学期である。

 

「今日からこのクラスの担任をする事になりました秦倉(ユイ)です!」

 

 それと同時に担任も決まった。前任者が5月末に寿退社して以来、ずっと空席だったのがようやく解消される。

 ……普通、副担が繰り上がって新任が副担という流れではないだろうか。

 

 まあ漫画的なお約束ということで。

 若い、というよりも若すぎる女性が壇上に立って自己紹介をしている。

 

「おお~、ようやくこのクラスも担任決定かあ~」

「ずっと副担が回してたもんね~」

「しかも美人!!」

「このクラス、ホントついてるよな~!!」

 

 クラスメートからも好意的に受け取られている。

 が、忘れていないだろうか。今までこの流れの後にどうなったかを。2度あることは3度あるのだ。

 

「ちょっ、ちょっと待て姉ちゃん!」

 

 (らく)が立ち上がって叫ぶ。

 

「でもオレたち、2つしか歳違わないハズじゃあ……!」

 

 ざわついていた教室が静まり返る。

 今の発言からすると……

 

「……も~、(らく)ちゃん」

 

 男子生徒の祈りもむなしく、新任の教師からは親し気な空気が感じられる。

 

「今は教師と生徒なんだから、ちゃんと先生って呼ばなきゃダメだよ?」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 男子生徒による(らく)の吊し上げの結果、分かったことは。

 

「……つまり、この美人の秦倉先生と一条は、幼馴染である……と」

「……そういう事になるな」

 

 3度目の正直ではなかった、ということである。

 

「いいかげんにしろよてめー!! なんだ幼なじみの美人教師って……」

「毎度毎度世の中ナメてんのか───!!?」

「知らん知らんオレは知らーん!!」

 

 そんな大騒ぎの教室の一角で、騒ぎを遠巻きにしている者も居る。

 

「マイちゃん様、あの方は叉焼(チャーシュー)会の首領(ドン)では?」

(つぐみ)ちゃん正解」

「チャーシュー?」

「なんだか美味しそうな名前ね」

 

 名前は美味しそうだが、中身は物騒である。

 なんせ世界でも指折りの大組織であるチャイニーズマフィアなのだから。

 

「そういえば、クロードたちもなんか騒いでたわね」

 

 千棘(ちとげ)の実家もギャングであるため、自分たちよりも大きな組織の動きは当然掴んでいる。

 とはいえ友好関係にあるため、特に警戒等はしていないが。

 

「一条君の幼馴染なのに、なんで秦倉先生は中国で偉い人になってるの?」

「ああそれなら、叉焼(チャーシュー)会は世襲制で(ユイ)姉ちゃんしか継げる人が居ないとからしい」

 

 小咲(こさき)の疑問には、ようやく解放された(らく)が答える。

 どうやら男子生徒たちの興味は、同じく幼馴染であった(しゅう)のほうに移ったようだ。

 

(はね)ねーちゃん……」

「マイちゃん、初代Diabloじゃないから大丈夫だよ」

「初心者が和製RPGの勇者感覚でWarriorを選んで、泣きを見るところね」

「いきなり弾幕シューティングになりますからね」

 

 集団で現れて遠距離攻撃、しかも追うと凄い勢いで逃げていくという。

 あれ以来、この手のゲームの初回はリソース管理の楽な遠距離キャラ、弓職を選ぶようにしている。

 で、MP管理の目途と強いスキルの当たりが付いたら魔法職で本格的に攻略する、と。

 

 近接? クリア後の縛りプレイ担当でしょ?

 

「まあそれはともかく……」

 

 舞斗(まいと)はそう言って、窓の外に目をやる。

 

(イエ)ちゃん、やっほー」

「出たな妖怪(バケモノ)

 

 笑顔でひらひらと手を振る彼とは違い、教室の窓近くの木の上には心底嫌そうな顔をする、中華風の服装をした小さな子供の姿がある。

 

「お姉ちゃん、その子は?」

「んー、千棘(ちとげ)ちゃんでいうとクロード的な立場の人かな」

 

 要は護衛兼お目付け役である。

 (ユイ)叉焼(チャーシュー)会の首領(ドン)なので、この手の人が当然のように付いている。

 担任である(ユイ)はまだ生徒に囲まれている状態なので問題無いだろうと、彼女を教室に招き入れる。

 

「へー、こんな小さな子が……」

「……私の見た目と歳、少し違うよ」

 

 迂闊(うかつ)な発言をした(らく)をギロリと見ながら少女、もとい(イエ)(くち)を開く。

 

「これでも首領(ドン)の護衛任されてるね。お前くらい3秒あたらバラ肉に出来るよ」

「ヒィ!!?」

 

 その物騒な物言いに(らく)の腰が引ける。

 

「ちなみにマイちゃん様が相手なら?」

「……私は対人が専門ね。怪獣の相手は奥特曼(ウルトラマン)に任せるよ」

 

 (つぐみ)の物騒な物言いに(イエ)の腰が引ける。

 遠い目をした彼女とは対照的に、舞斗(まいと)のほうは実にイイ笑顔である。

 

「……お前は何をやったんだよ」

「昔ちょっとね」

 

 (らく)胡乱(うろん)な目を向けるが、舞斗(まいと)は笑ってごまかす。

 (つぐみ)や本田のときと同じく、単に(らく)のペンダントを調査する過程で知り合っただけなのだが、ちょっと物騒なファーストコンタクトだったのだ。

 

 というのも当時すでに(ユイ)叉焼(チャーシュー)会の首領(ドン)に就任していたため、その周囲を嗅ぎまわっている怪しい人物が補足されないはずもなく。

 正面から堂々と探ってくる舞斗(まいと)(おとり)だと判断した叉焼(チャーシュー)会は、その背後関係を吐かせようと彼に襲い掛かったのだ。

 

「今では仲良しだから大丈夫だよ」

「…………それ以外の選択肢なんて無いよ」

 

 そもそも舞斗(まいと)に敵対する意思はなく、人的にも物的にも被害は出さなかったので特に(こじ)れることもなく和解できている。

 なお精神的な疲労は考慮しないものとする。

 

「……一条君はヤクザで千棘(ちとげ)ちゃんがギャング、橘さんが警察で秦倉先生がマフィア。

 こうして見ると、小咲(こさき)だけ後ろ盾が何も無いのね」

 

 るりが(らく)とその周囲に(はべ)る女の子たちを並べてみると、『この中にひとり、一般人がおる。お前やろ』状態になっていることに気付く。

 

「大丈夫、俺がついてるよ」

「マイちゃんっ」

 

 ヒシと抱き合う舞斗(まいと)小咲(こさき)

 不幸の星のもとに生まれた地道な少女が勝ち取ったハッピーエンドである。

 

「私たちは傘を投げて祝えばいいんですかね?」

「やめなさい。何年かぶりに近隣住民からの苦情をうけることになるから」

 

 それに2か月の間、流行語が猛威を振るってしまう。

 愛は勝つのだ。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 そんな騒動のあった翌日。(らく)が目の下に隈を作って登校してきた。

 

「どしたの?」

「いや、昨日姉ちゃんが寝ぼけて人の布団にもぐり込んで来たんだよ……」

「そういえば一条の家に居候(いそうろう)するって言ってたっけ」

「小さい頃のクセが、直ってなかったみたいでな……」

 

 (らく)は心底疲れたように語るが、それを聞いた周囲の男子生徒からの視線は熱い。

 

「気持ちよさそうに寝てるから起こすこともできず、部屋の隅に座ったままウトウトしてたらもう朝で……」

「ヘタレめ」

 

 (らく)は心底疲れたように語るが、それを聞いた周囲の生徒からの視線は生温かい。

 

「まあ久しぶりに実家に帰ると親に甘える感じで精神年齢が下がるって言うし、小さい頃のクセが出たってことはそれだけリラックスしたってことじゃない?」

「そんなもんか?」

「飛び級して大学を出てマフィアの首領(ドン)やって、今は兼任で教師もやってるけど、まだ19歳だよ?」

「………………」

 

 言われてみれば、この時の基準でまだ成人前である。『大きく成長して帰ってきた姉』だったため大人だと思っていたが、冷静に見ればはしゃいでいる子供のようでもある。

 

「ここで自然に甘えさせてあげられるのが、大人のみりきってヤツだよ」

「みりき?」

 

 妖精さん、もとい(らく)からツッコミが入る。

 

 そんな話をしていると、舞斗(まいと)の背後から手が伸びてきてギュッと抱きしめられる。

 

「甘えに来ました」

 

 どうやら小咲(こさき)に聞かれていたようだ。

 

「のりこめー」

「わぁい」

 

 るりと(つぐみ)も続く。

 

 そんないつも通りじゃれ合っている4人を見て思う。

 年齢を考えれば、(ユイ)はここに混ざっていてもおかしくないのだ。

 

『それにしても、なんでわざわざ先生なんか?』

『一度やってみたかったのもあるけど、本当は(らく)ちゃんと同じ学校に通ってみたかったんだ』

 

 

『もう少し早く日本に来れてたら、同じ生徒として編入できたんだけど。仕方ないから無理矢理先生になっちゃった』

 

 

 昨夜、引っ越しの手伝いをしていたときに聞いた言葉。あれは、自分が考えているよりも重いものだったのではないだろうか。

 

(あんた)にもお姉ちゃんの100分の1でいいから頼りがいがあればねえ」

「へえへえ」

 

 千棘(ちとげ)の言う通り、同級生に頼られている岬にすら及ばない。

 そんな自分が、年上の(ユイ)姉に頼られるのか?

 

 そんな弱気になった(らく)だったが、教室に入ってきた(ユイ)の姿を見て、ある過去の記憶がよみがえる。

 

 

 

『姉ちゃんはオレが守るって言ったろ?』

 

 

 

 それは小学生の、まだ幼いころの自分の発言(セリフ)

 同じく小学生の(ユイ)に向かってこう言ったのだ。

 

 

 

『姉ちゃんは、大事な姉ちゃんだからな』

 

 

 

 

「………………そうだよな。オレの、大事な姉ちゃんだからな」

 

 自分にやれるか、ではない。自分がやるのだ。

 弟である、自分がやるのだ。

 

「頑張りなさいよ?」

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

「どうしたのマイちゃん? そんな『あちゃー』な顔して」

「んー、秦倉先生ごめんなさいというか、でも本人が勘違いしてるだけでこっちですよね的な……」

「?」

 

 

 

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