本当にせこい   作:七九六十

44 / 82
10-03 (らく)の家 導入

 

 

 

 とある休日の早朝。

 

 

 

『おっはよー! 皆大好き

 舞子(しゅう)だよ!

 

 突然だけど(らく)の奴今日は家で

 (ユイ)姉と2人っきりなんだって!

 いきなりなんの話だよ!って感じだね!

 テヘペッッロー!

 

 んじゃっねー☆彡』

 

 

 

 

「マイちゃん、なんか怪文書が届いた……」

「ん?」

 

 困惑した小咲(こさき)に見せられたメールを一読した舞斗(まいと)は状況を察する。

 

 宛先には小咲(こさき)の他に千棘(ちとげ)万里花(まりか)の名前があるので間違いないだろう。

 

「相変わらず趣味が、というより性格が悪いなあ……」

「?」

 

 これで親友の恋路を見守っているつもりなのだから、何とも言えない。

 

 腕を引いて説明を催促してくる小咲(こさき)にどう答えたものかと悩んでいると、舞斗(まいと)の端末に電話がかかってくる。

 相手は千棘(ちとげ)のようだ。

 

『お姉ちゃん、なんか怪文書が届いた……』

「ん?」

 

 困惑した声で千棘(ちとげ)が告げてくる様子に既視感(デジャヴ)を覚えつつ、電話に応対する。

 

「こっちも小咲(こさき)ちゃんに見せてもらったから把握してるけど、舞子のいつもの悪ふざけだよ。相手すると喜ぶだけだから無視するのが一番だけど……」

『でもこれ、万里花(まりか)にも送られてるのよね……』

 

 そこがネックなのである。

 彼女の事だ。既に一条家に向かって直進行軍していてもおかしくはない。

 

万里花(まりか)のことだから、また自爆しそうなのが心配で』

「だよねー」

 

 舞斗(まいと)の見立てでは万里花(まりか)(ユイ)の相性はよろしくない。

 と言っても険悪とかの悪い意味ではなく、万里花(まりか)では(ユイ)に勝てないという意味である。

 

 空回りする万里花(まりか)と、それをのん気に笑いながら相手する(ユイ)の姿が目に浮かぶ。

 

『お姉ちゃん……』

「分かった。じゃあ、助けに行こうか」

 

 これ以上の自爆は止めてあげたいし、巻き込まれる(らく)も心配である。

 

 そんな千棘(ちとげ)の想いに応えることと、一切を無視して(しゅう)思惑(おもわく)を邪魔すること。

 どちらが小咲(こさき)の喜ぶ選択肢かというのは、考えるまでもない。

 

「というわけでやってきました一条家」

「うぁおっ?!! って岬かよ。お前どこから……」

 

 自宅で(くつろ)いでいたところに突如として現れた集団に驚く(らく)であったが、正体が分かればなんてことはない。完全に不法侵入なのだが、舞斗(まいと)から状況の説明(メールの件)を受け、納得したので問題ないのだ。行間とかコマとコマの間に明確な時間や空間の定義が無いため、それを利用すると移動が大変便利である。

 

「さすがお姉ちゃん、サラマンダーより、ずっとはやい!!」

「なんだ千棘(ちとげ)も……、って誰だこんなネタを教えたヤツは!?」

「え? るりちゃんとつぐみが、こういう時にピッタリのセリフがあるって」

 

 目をそらす2人に、(らく)の呆れた視線が突き刺さる。

 

「そのセリフは危険だから、使わない方がいいぞ」

「? 分かった」

 

 元ネタを知らないため特に(こだわ)ることもなく、素直に(うなず)千棘(ちとげ)

 

 ちなみにこのネタ。サラマンダーを人名だと勘違いして、相手を早撃ちマックだと(あお)るセリフだと思っている人もいるらしい。

 

「ヨヨはキャラとしては嫌いじゃないんだよね。最初から思い入れが無かったせいかもしれないけど」

「マイちゃんって『この人がヒロインです!』って押されると、サブキャラのほうに行くよね」

「ヒロインがヒロインであるだけの魅力を持っていれば、そんなことはないよ」

 

 小咲(こさき)の言葉を少し訂正する。

 まあそういう作品は少ないのだが。

 ちなみにPC版もPS版も、マルチ(サブ)よりあかり(メイン)派である。志保も先輩も良い。

 

「あれはヨヨもそうだけど、マテライトとセンダックが出しゃばりすぎて、学芸会を眺める観客の気分になったのが失敗だったわね」

「ビュウの立ち位置が『元は国の要職にあったけど、今では反乱軍のリーダーです』じゃなくて、『反乱軍やってる国のお偉いさんたちにこき使われる下っ端』なイメージでしたからね」

 

 戦闘に加わる一般人との間に挟まる中間管理職的な気分だったり。

 

 そのせいでダメージが無かったとも言えるので、良かったのか悪かったのか。

 ヨヨとの子供の頃の思い出も無理に付き従う下男(げなん)的な立場で見てしまって、思い出の教会のくだりをパルパレオスと上書きするときも『あー、いるいる、こんな人』という感じで笑って見ていられたし。

 

「ゲーム的には楽しかったしね。ビュウとプチデビルで突っ込んで、ドラゴンとウィザード部隊でダメ押しとか。

 他は余ったライトアーマーと組ませてアイテム回収してたけど」

「音楽も良かったし、ドット絵もさすがはスクウェアって感じだったよね」

「やけに生々しい女性陣のセリフとか、ちょっとおバカな男性陣のノリとか」

「ドラゴンの育成も楽しかったですよね。うにうになんかは絶対にドラゴンの見た目ではありませんでしたが」

 

 散々ネタにされているが、割とおもしろいゲームなのだ。

 

「お前ら……、もうちょっと子供らしい素直な気持ちで楽しめないのかよ」

 

 (らく)の言葉に、舞斗(まいと)は顔を伏せて答える。

 

「ねぇ……(らく)。おとなになるって、かなしいことなの……」

「やかましい」

 

 まあそんなやり取りはともかく。

 (らく)は改めて橘万里花(まりか)救援隊のメンバーを見渡す。

 

 すると今まで会話に加わっていなかったため気付かなかったが、(はる)とポーラの姿がある。しかし(はる)の様子がおかしい。何故か顔を赤くして、あわわと分かりやすく動揺している。

 

 (らく)に見られていることに気付くと、舞斗(まいと)の背中に隠れてしまった。

 

(はる)ちゃんは、一体どうしたんだ?」

「ああ、(はる)はね。和菓子だけじゃなくて、着物とか和風のもの全般が好きなのよ」

 

 (らく)は普段から着物を部屋着にしている。今も羽織と袴のない、いわゆる着流し姿である。

 高校生なのに着慣れているのも相まって、彼女のツボに入ったようだ。

 

「……なるほど」

 

 小咲(こさき)がニコニコしながら『カワイイでしょー?』という感じで教えてくれる。

 一瞬『小野寺のほうが……』と言いそうになるも、グッと(こら)える。

 

「もしかして、この間の花火大会ではしゃいでたのって」

「半分は周りの浴衣のせいだね」

 

 迷子にならないよう終始誰かに手を引かれていた(はる)の姿を思い出す。

 仲のいいメンバーと遊べて楽しかったというのも勿論あるが、周囲に浴衣姿の人が多くて浮かれていたというのもある。

 

(らく)ちゃー……って、あれ? 皆いつの間に?」

 

 と、そこに現れたのは一条家に居候(いそうろう)している(ユイ)である。横にはやけに疲れた顔をした(イエ)の姿もある。

 

 実は今まで、突如として屋敷内に人の気配が増えたことを察知した(イエ)によって、一時的に退避させられていたのだ。実に優秀な護衛である。

 

 その後、気配の正体が舞斗(まいと)だったことを察知した(イエ)は、半ば諦めの境地で(ユイ)を解放したのだ。実に憂愁な護衛である。

 

 そんな(イエ)に同じく千棘(ちとげ)の護衛である(つぐみ)が近づく。

 

「マイちゃん様の関係者になった以上、我々が必要になるような事態は絶対に起こりえませんから、もっと気楽に構えたほうがいいですよ?」

「…………そうするね」

 

 先達(せんだつ)からの、ありがたい教えであった。

 

 ちなみにこの場合の関係者の中に、厳密には(ユイ)は含まれていない。

 友人である一条(らく)の姉だから、(イエ)の護衛対象だから守られているだけで、今のところ舞斗(まいと)と彼女個人の関係は『生徒と担任』でしかないためである。

 

「それで、皆は遊びに来てくれたの?」

 

 (ユイ)はニコニコと機嫌が良さそうだ。

 

「まあ遊びにというか、なんというか。

 それに、もう一人来るはず……って丁度いいところに」

 

 (らく)が言葉に詰まっていると玄関で呼び鈴が鳴らされる。

 ぞろぞろと皆で連れ立って向かうと、膝に手をついて息も絶え絶えといった様子の万里花(まりか)が居た。

 

 よっぽど急いで来たのであろう、と言いたいところだが。本田の運転する車でやってきて、一般家庭よりも広いとはいえ玄関までのほんの数メートルを走っただけでこの有様(ありさま)である。

 50mを完走できないのは伊達ではない。

 

「ご無事ですか(らく)様!!?」

「ん!!?」

 

 しかし、その目に宿る光は少しも衰えていなかった。

 (らく)は思わず気圧されてしまう。

 

「フフ……この橘万里花(まりか)の目の黒いうちは、あなたの好きにはさせませんわよ(ユイ)姉さん。

 誰があなたと(らく)様を2人っきりになど……!」

「あー、うん、橘。まずは落ち着いて……って『(ユイ)姉さん』?」

 

 いまだ呼吸の荒い彼女を気遣う(らく)であったが、そのセリフの中に聞き捨てならないフレーズを発見する。

 

「もしかして、2人は知り合いだったのか? 学校では、そんな素振(そぶ)りなんて無かったのに……」

「……ふふっ、実は昔、ね?」

 

 (ユイ)のほうからは思わせぶりな言葉を返される。

 万里花(まりか)のほうからは苦虫を噛み潰したような表情が返ってくる。

 

 実は(ユイ)万里花(まりか)は知り合いなどというレベルではなく、千棘(ちとげ)小咲(こさき)(つぐみ)(はる)を含めた『10年前の約束』の関係者だったりする。

 今は部外者も居るため詳細は語らない事を選択したようだ。

 

 しかし『10年前の約束』については舞斗(まいと)が独自に調査を行っており、るりもその結果を聞いているため、この場で純粋に知らないのはポーラだけだったりする。

 

「まあいつまでも玄関で話してるのもなんだし、橘も上がってくれ」

 

 そうして万里花(まりか)を加えた一行は、再びぞろぞろと移動を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「って、おーい(らく)くーん? 誰かお忘れじゃないですかー?」

「えっ? って居たのか(しゅう)

「ヒドッ?!!」

 

 玄関に寄りかかってポーズを決め、この騒ぎの発端として注目を浴びるのを待っていた(しゅう)から声がかかった。

 

 面倒だから関わらないでおこうと視界から外していた舞斗(まいと)たちと。

 見ちゃいけませんと保護者によって目隠しされていた(はる)とポーラと。

 そもそも視界に入れても認識すらしていなかった(らく)万里花(まりか)(ユイ)と。

 

 様々な偶然が重なって、(しゅう)の存在は無かったことにされたのだ。

 まさに、奇跡のような出来事であった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。