本当にせこい   作:七九六十

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10-04 (らく)の家 餃子

 

 

 

 さて、朝から10人近い来客のあった一条家。

 本日は組員旅行ということで(らく)(ユイ)(イエ)の3人が残っているだけである。

 

 理由はともあれ、せっかく集まったのだからガッツリ遊びたいと思うのは高校生の(さが)

 旅館の宴会場かと思うほどの畳敷きの広間に座り、まずはある程度の予定を立てようとなったのだが。

 

「もちろん今日は泊まっていきますわ!! 2人きりになどさせるものですか!!」

 

 極一部からの強い要望により1泊、というより徹夜で遊び倒すことになった。

 大人数で遊べるカードゲームやボードゲームの(たぐい)は豊富にあるため、極一部の体力以外は問題ない。

 

「まあ橘さんだけ泊まるよりも、みんなで時間を忘れて遊んでました、って方がいいでしょ?」

「確かに……って、なんで岬はサイコロとツボを構えてんだよ」

「え?」

 

 舞斗(まいと)は不思議そうな顔をして(らく)を見やる。

 

「チンチロリンのほうが良かった?」

「そうじゃねーよ、もっと健全なものにしてくれ」

 

 場所が場所だけによく似合っているのだが。

 

 舞斗(まいと)はツボに2個のサイコロを放り込み、盆茣蓙(ぼんござ)の上に伏せる。

 そしてツボを開くと、サイコロの上にもう片方のサイコロが乗っていた。

 

「なんでだよ」

 

 (らく)のツッコミに構わず再度ツボを伏せ、開く。

 サイコロは見事4個に増え、タワーを形成していた。

 

「おいコラ」

 

 (らく)のツッコミに構わず再度ツボを伏せ、開く。

 サイコロは見事8個に増え、タワーを形成していた。

 

「ちょっと待て」

 

 (らく)のツッコミに構わず再度ツボを伏せ、開く。

 サイコロは見事16個に増え、タワーを形成していた。

 

「いや、明らかにツボのサイズと合わないだろ」

「えー?」

 

 32個のタワーを作った舞斗(まいと)は周囲からの拍手喝采に応えながら彼のツッコミにも答える。

 

「ほら、万国旗を出す手品と一緒だよ。何でこんな大量に、って思わせたら勝ちってヤツ」

「なるほど………………なるほど?」

 

 (らく)も納得したため、では何で遊ぼうかと話を始めたところ、おもむろに(ユイ)が立ち上がった。

 

「これだけの人数だと、お昼ご飯の準備も先にしておいた方がいいわね」

 

 そういって彼女は部屋を出ようとする。

 

「え、別に出前かなんかでも……」

「いいよ、私が作るから」

 

 にこやかにそう告げられると(うなず)くしかない。

 彼女は上機嫌に台所へと向かっていった。

 

「……ところで(らく)(ユイ)姉って料理のほうはどうなの?」

「あ? そういや知らねぇな」

 

 近づいてきた(しゅう)の言葉に反射的に返した(らく)であったが、少し不安になる。

 脳裏に現在の女子メンバーの料理の腕を思い浮かべる。

 

 まずは料理の出来る組。

 小野寺に岬、つぐみ、橘、そして(はる)ちゃんも出来たか。つまり計5人、と。

 

「本田さんと(イエ)ちゃんもできるから7人だよ」

「おおサンキュー」

 

 ……ナチュラルに考えを読まれたが、今さら(コイツ)のやることで取り乱すほどヤワではない。

 

 次に料理の出来ない組。

 千棘(ちとげ)と……

 

「宮本は?」

「私は食べる専門よ」

 

 納得の答えが返ってきた。

 

「ポーラは?」

「私は食べる専門よ」

 

 納得の答えが返ってきた。

 

 つまり、料理の出来ない組は千棘(ちとげ)、宮本、ポーラの計3人。

 ……『出来ない』と『出来るけどやる気がない』を同列にしていいかは、この際気にしない。

 

 さて、この結果を踏まえると(ユイ)姉は……

 

「順当にいけば出来ない組だよね」

「不吉なことを言うな」

 

 まあ悩んでいても答えは出ない。気になったのなら見に行けばいい、ということで皆で台所へと向かう。そもそもこの人数の昼食を作るのは大変だろうから、そのヘルプの意味もある。

 いや、人数以上に千棘(ちとげ)とるりが居ることが問題か。

 

「あれ? (らく)ちゃん、どうしたの?」

「ちょっと手伝いに来たんだよ」

 

 偵察に来たとは言えない。

 そっと周囲を(うかが)うが、今のところ異常は見られない。おかしな臭いもしない。

 

「私と(イエ)ちゃんでやるから大丈夫だよ?」

「いや、たぶん量的に大丈夫じゃないと思うから」

「?」

 

 (らく)以外にも全員がこの場に居ることに驚く(ユイ)だったが、話している間にも手は止めずに何かの下拵(したごしら)えをしている。

 

「で、何を作ろうとしてるんだ?」

「餃子だよ」

 

 とすると粉を混ぜているのは、皮から手作りする気なのだろう。

 その手際の良さと材料の選び方を見るに、料理の腕には問題が無いようだ。

 

「焼き餃子に水餃子、揚げ餃子に梅餃子、チーズ餃子……」

「……ん?」

 

 彼女が列挙する品と、用意されている素材の量。

 (らく)は少し不安になる。

 

「もしかして……」

「いやぁ私、餃子以外は作れなくって」

 

 照れながらそう告げてくる(ユイ)に、逆に安堵する。一見完璧に見える姉にも欠点のようなものはあったのかと。そしてその欠点が致命的ではない事に。

 

「にしても、餃子か……」

 

 さて餃子だけを食べる場合、一人前とはいくつなのだろうかと(らく)は考え込む。

 

 行きつけのラーメン店では一口サイズのものが5~6個で出てくるが、あれは付け合わせポジションだ。メインとして考えると全然足りていない。

 食べ盛りの男子高校生である自分と(しゅう)は30、40食べてもおかしくはない。

 それを基準にしても数倍は食べる千棘(ちとげ)と宮本が居る。

 

 この時点で400、いや500は必要か?

 残りのメンバーは小食だとしても人数が多いから、最低600?

 

「餃子か~、よくチャレンジ系でジャンボ餃子とか食べるのよね」

「私もそうね。ただ近場のは顔を覚えられてるから、もう賞金の(たぐい)は出してもらえないんだけど」

 

 ……足りないかもしれない。

 

 千棘(ちとげ)とるりがお代わりのタイミングや、付け合わせに何を食べるかを話す声を耳から締め出し、少し現実逃避する。

 

 材料は問題ないだろう。

 集英組(ここ)は男ばかりの大所帯のため普段から食材は大量に仕入れている。

 

 問題は作る方である。

 餃子は皮を丸く成形するのもそうだが、包むのにも時間と手間がかかる。それを数百回も繰り返すのだ。めまいがする。

 

「大丈夫だよ一条」

 

 そこに声を掛けられ振りむけば、いつの間にやら完成させた生地の塊を手にした舞斗(まいと)が居た。寝かせる時間を省略できた理由については、今さら気にしても仕方ない。

 

 彼は幅150cmほどの台の上に打粉をするとそこに生地を乗せ、麺棒で広げていく。

 そして包丁で格子状に切り分け、それぞれの中央に餡を乗せていく。

 ここまでわずか数秒の出来事である。

 

「餃子の皮って、棒状にした生地を切り分けて、それから丸めて潰してって流れだったはずじゃ……」

 

 実際に作ったことは無いが、TVなどで作業風景を見た記憶はある。

 そんな(らく)の認識から外れ、どちらかというと洋菓子の作業工程にすら見える。

 

「では仕上げを」

 

 そうして舞斗(まいと)は振り上げた拳を台に叩きつける。

 その衝撃は凄まじく、生地がすべて台から空中へと浮き上がってしまった。

 

「えっ、な?!!」

 

 驚く(らく)を尻目に舞斗(まいと)は生地を空中で握りしめ、包みを仕上げてしまう。

 左右の手がそれぞれ別の生地を握り、今にも『カカカカカカ──ッッ』と笑い出しそうな勢いで餃子を完成させてしまった!

 

「岬先輩すごい!」

「マイちゃん様すごい!」

 

 (はる)とポーラが目を輝かせて喜んでいる。

 

「えー……?」

 

 万里花(まりか)(ユイ)が信じられないものを見たという表情で固まっている。

 

「さすがはマイちゃん様。見事な『にぎり』です」

「まさか生で見られるなんて……お姉ちゃん凄い!」

「私も百蘭王(パイランワン)の『にぎり』はできるけど、そんなにたくさんはできないんだよね」

小咲(こさき)は貧弱すぎるのよ」

 

「いやちょっと待て、なんだよ『にぎり』って。餃子作るのになんで必殺技っぽいのが出てくるんだよ」

 

 さすがにこれは流せず、(らく)はツッコミを入れてしまう。

 (はる)とポーラ、千棘(ちとげ)はよく舞斗(まいと)からマンガを借りているため、元ネタを知っていたようだ。

 

 ちなみに舞斗(まいと)は『秋山(ジャン)式ギョーザ包み改』に少し手を加えている。

 百蘭王(パイランワン)式も含め『にぎり』の弱点は、空中で包んだ後を自由落下に任せている部分にある。つまりは台に落ちた餃子が折重なって、見苦しいのだ。包みが破損する危険性もある。

 

 そのため包んだ後に台の上にキレイに並べて配置する、という工程を加えているのだ。

 まあそのせいでオリジナルより腕を動かす速度と正確性が倍以上必要になるという、使い手を選ぶ技になってしまったが。

 

「一条先輩、私もギョーザ作ってみたいです!」

「ん?」

 

 右手をあげて主張してくる(はる)の姿をみて、ふと思う。もういっそ、皆で作ってしまえばいいんじゃないかと。何もゲームして遊ぶだけが今日の目的ではない。ならば午前中は餃子作り教室としてしまうのはどうだろうか。

 子供たちにも楽しんでもらいたいし。

 

「というわけで(ユイ)姉、先生役をお願いしてもいいか?」

「うん、いいよー!」

 

 (らく)が頼むと(ユイ)はあっさり(うなず)いた。

 そして(イエ)をサポートにして、早速『ゆいせんせーのギョーザきょうしつ』という垂れ幕を掲げて生徒を募集する。

 

 そこに集まった参加者は以下の通り。

 純粋に餃子作りをやってみたい千棘(ちとげ)(はる)、ポーラ。

 本場の技を間近で体験したい小咲(こさき)(つぐみ)

 そしてライバル意識と(らく)に食べさせるための分を作成しようと万里花(まりか)が別口で作業する。

 

 (らく)舞斗(まいと)は餃子以外を担当することにした。米を研いだりタレを作ったり、中華スープを作ったりしながら教室の様子を見守る。

 おまけとして舞斗(まいと)は作業と並行し、餃子の皮や餡の材料を寝かせたものや粗熱を取ったものに変換していたりもする。

 

「宮本は?」

「味見なら任せて」

「……そうか」

 

 2人の調理補助として役立っているので文句は無いが。

 

 

 

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