本当にせこい   作:七九六十

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10-05 (らく)の家 姉

 

 

 

「で? マイちゃんは何を悩んでるの?」

「うーん、悩むというか何というか……」

 

 るりの言葉に反応し、チラリと(ユイ)の方を見やる。

 つられて(らく)も目線を向けてみれば、どうやら彼女はポーラに包み方を教えているようだ。

 

『ポーラちゃん、それはちょっと盛り過ぎかなー? それだと包めない……2枚目を上に被せても無理だと思うよー?』

 

「相変わらずのお子様感が……」

「カワイイでしょ? まあ今回の本題はそっちじゃなくて、秦倉先生のほうね」

(ユイ)姉がどうかしたのか?」

 

 (ユイ)が絡む話題、しかも特に接点のない舞斗(まいと)がとなると、(らく)には心当たりが無かった。

 

「秦倉先生の本心がどの辺りにあるのかなって。それと、本人が自覚してるのかなって」

「どういう事だ?」

 

 彼女は(らく)と一緒の学校に通いたいから、教師になった。

 

 嘘ではないだろうが、それだけのために日本にやってきたのだろうか。

 

 恐らく(ユイ)の現状を一番知っているであろう護衛の(イエ)によると、秦倉(ユイ)は両親を失って天涯孤独の身である。また飛び級を繰り返すことで同年代の友人すら作れない状態だった。

 そのため精神的に追い詰められている様子が見られる、と。

 

 それを考えると、(らく)と一緒に居たい、というのはどういう気持ちなのか。

 飛び級する中でわざわざ教員免許を取ったのは、どういう気持ちの表れなのか。

 

「ねえ一条、いつも皆に頼られる人って、どんな人だと思う?」

「え? ……やっぱり、能力の高い人じゃないのか?」

 

 彼にとっては目の前に居る舞斗(まいと)(ユイ)が真っ先に思い浮かぶ。

 

「それは『いつも』『皆に』頼られる人? 能力の高い人は誰でも頼られてる?」

「……いや、そうじゃないな」

 

 舞斗(まいと)は頼りになるが、実際に頼るのは『いざという時』か『特定の人たち』だけである。

 (ユイ)は『いつも』『多くの人に』頼られているので、条件に合うはずだ。他の教師も頼っている姿を見たので、彼女が教師だからというわけではないだろう。

 他にも千棘(ちとげ)小咲(こさき)など、特定分野の能力が高い者はいるが、そこまで頼られてはいない。

 

「これは個人的な意見なんだけど、『頼まれたときに断らない人』がそうなんじゃないかなって思うんだよね」

 

 頼み事をしたときに一度断られると、次に頼むときにまた断られるのではないかと躊躇(ちゅうちょ)してしまう。

 場合によっては最初から別の人に頼むようになり、頼りになる人というカテゴリから外してしまうことすらある。

 

「それが分かってるから、周りから人が離れていくことが怖くて断れないんだよね」

 

 ビジネスの場合でもよくある話で、下請けが無理する理由がここにある。一度断ってしまうと、次から別の会社に発注されて売り上げが落ちてしまうのだ。

 

「人間には限界があるから、あれもこれもと引き受けていればいつか破綻する。そして一気に人が離れていって、それが深い心の傷になる」

 

 まあ、極端な例だが。

 

「……無理させないようにすれば大丈夫か?」

「それはそれでストレスになるからやめた方がいいと思う。自分で緩められるようにしないと」

 

 他人に頼られることで自分を保っているような場合、制限をかけるのは逆効果だ。

 というわけで根本的な解決を目指す。

 

「一条君を目当てに学校まで来たんだから、一条君を生贄にすれば良いんじゃない?」

「おい、宮本」

「一条()()が目的だったら、それで良かったんだけどね」

 

 (らく)と2人きりの休日に大勢で押しかけたこの状況の反応を見る限り、そこまでではないように見える。もし依存するようなタイプであれば、追い出されるとまではいかなくとも、不機嫌になるくらいはあっただろう。

 

「橘さんタイプじゃなくて、千棘(ちとげ)ちゃんタイプじゃないかな?」

「橘さんが2人になったら面白かったのに」

「宮本、お前は他人事だと思って……」

 

 転校してきたばかりの千棘(ちとげ)のように、友人を作りたいから手当たり次第に仲良くなろうとする感じである。

 ただ違うところがあるとすれば……

 

「どうも、既に線引きがされているような気が」

「線引き?」

 

 普通であれば大勢と仲良くするのは無理があり、結局は気が合う人や友達になりたい人に絞って付き合いを深めていくようになる。この段階に踏み出せたなら自然と頼まれごとに優先順位が付けられ、過度に人に頼られることは無くなるだろう。

 

 学校での(ユイ)は教師ということもあり、生徒や他の教師に分け隔てなく接しているように見えるが、実際は特定の人物たちに視線が向けられている。

 それが現在『ギョーザきょうしつ』に参加しているメンバーである。

 

 舞斗(まいと)の視線を追った(らく)は、ポーラが餃子を片手に自慢げな顔をしているのを見つける。

 どうやらキレイに包めたようで、周囲の人に見せているようだ。

 

「カワイイでしょ? まあ今回もそっちじゃなくて。

 あそこに居るのって一条の『約束』の関係者でしょ?」

「やくそく? ………………やくそく?? …………………………あっ」

 

 そういえばそんな物もあったなと思い出す。

 そして言われてみれば、ポーラを除けば『10年前』のメンバーである。

 

「もしかして、忘れてたの?」

「一条君……」

「いや、だって、最後にその話題が出たのいつだよ!? ここ1年くらい欠片も出てこなかったじゃないか!」

 

 るりの視線に居たたまれなくなった(らく)は、必死に言い訳を考える。

 仲の良い友人たちと遊ぶのが楽しくて、頭の片隅にも残っていませんでしたとは言えない。

 

 そんな主人公にすら忘れられたメインテーマであるが、話のどこかで欠片くらいは出たような気がしないでもない。

 

「ってちょっと待て、ということはもしかして(ユイ)姉も?!」

「何を今さら」

「教室での橘さんの反応を見てれば、部外者でもそれぐらいの予想は立てられるのに……」

 

 過去の出来事を唯一覚えている橘万里花(まりか)は、なぜか秦倉(ユイ)と目線を合わせないようにしており。

 秦倉(ユイ)の方はそんな橘万里花(まりか)と桐崎千棘(ちとげ)にチラチラと視線を送っており。

 

 どう考えても関係者である。

 そして実は『(かぎ)』を持っているレベルの関係者なのである。

 本人がそれを(らく)に伝えていないため、舞斗(まいと)もそれについては(くち)にしなかったが。

 

「昔のように仲良くしたいけど、みんな忘れてるようだしどうしよっか、ってところかな?」

「あなたたち、ちょっと忘れすぎじゃない?」

「それを言われると、返す言葉も無いんだが……」

 

 その意味では昔を覚えていて、さらにイイ反応を返してくれる万里花(まりか)が気に入られるのも納得である。

 

「………………このことは、千棘(ちとげ)や小野寺には」

「教えてないよ」

 

 (らく)が知らない状態で周りが知っても、意味が無いどころか無用な混乱を招くかもしれない。

 そう判断した舞斗(まいと)は、自分からは話をしない、するなら(らく)から先にと決めていたのだ。

 

「…………………………」

 

 (らく)は考える。

 

 (ユイ)は淋しがっている。

 (ユイ)は昔のように千棘(ちとげ)たちと仲良くなりたいと思っている。

 いや、昔のようにといっても憶えていないからよく分からないが。

 

 そんな姉のために、弟ができることは……

 

 

 

 

「…………よし、だったら今日、皆が(ユイ)姉と仲良くなればいい」

 

 (らく)自身も(ユイ)との距離感を見定めるため。

 他のメンバーも生徒と教師の関係から、もっと親密なものにするため。

 一緒になって体力が続く限り遊び倒すのだ。そしてお互いを知ればきっと仲良くなれるはず。

 

 昔のようにではないが、今の自分たちで新しい関係を築くのだ。

 そうすれば(ユイ)の孤独も癒され、無茶もしなくなるだろう。

 

「オレたちは『10年前』なんて関係なく仲良くやってんだ、(ユイ)姉だって大丈夫だ」

 

 

 

 

 

 

「おかしいなぁ。カッコいいこと言ってるはずなのに、今一つ納得できない」

「やっぱり『乗り越えた』じゃなくて『忘れてた』のがダメなのかしら」

「……そこは見逃してくれ」

 

 勢いで乗り切ろうと思ったがダメだったようだ。

 

 まあ彼の案は受け入れられたようで、今後について3人で話し合う。

 

「とはいえ、余計な事しなくても仲良くなれそうだけどね」

「だな」

 

 現在の『ギョーザきょうしつ』でも既に、十分に盛り上がっている。

 その表情から(ユイ)も楽しんでいることが分かる。

 ならば何も考えずに強く当たって、あとは流れで問題ないだろう。

 

 そう結論付けた3人は、彼女たちを優しく見守るのであった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 なお餃子を食べた後、皆でトランプやUNO(ウノ)で遊んだのだが。

 

 初戦で(ユイ)が持ち前の知力を発揮し、余裕を持って遊んでいるのを舞斗(まいと)に見られたのが運の尽き。

 そういう人を引っ掻き回すのが大好物な彼にターゲットにされた後は段々と余裕を失い、仕舞いには涙目で悲鳴をあげるほどになっていた。

 それはもうポーラとギリギリの心理戦を行うほどに追い詰められ、勝利の際には渾身のガッツポーズが出てくるほどであった。

 

 まあ他のメンバーも似たり寄ったりの状態だったので、彼女だけが目立つということは無かったのだが。

 

「テンパる(ユイ)姉とか、すっげー久しぶりに見た」

 

 とは、某弟の談である。

 

 結局彼らは当初の予定通り体力の続く限り遊び続け、日付が変わる頃には舞斗(まいと)を除く全員が撃沈するのであった。

 

 

 






金関「(ユイ)先生と(らく)君のプロポーズまがいの三者面談、そして同衾(どうきん)……」

金関「やはり先生の話は質が違いますね。教師と生徒というインモラルな関係もあって、他の()には無い魅力がありますね」

横綱「……」

横綱「金関は、本当に秦倉先生が好きなんだねぇ……」

横綱「ただ……、彼女に入れ込むのはほどほどにしとけよ。
   教師と生徒の恋愛は禁忌(タブー)扱いだからな」





金関「え……?」

横綱「何驚いてんだよ、当たり前のことだろ」



横綱「確かに彼女に惹かれるのはわかる。秦倉先生の()れた身体は魅力的だからねぇ。
   だが先生とのその先の話は、ここ(ジャンプ)じゃあできねぇんだ。諦めな」





金関(──どうしてそんな事を言うんだ刃皇(じんおう)関……! あなたの考えは時代遅れだ!
   今や恋愛の形は多種多様、ボーイミーツガールだけではないのだ!)



金関(私はまだ、(ユイ)先生エンドを諦めてはいない……!!)

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