本当にせこい   作:七九六十

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11-02 文化祭 お化け屋敷

 

 

 

 ひとしきり(はる)を愛でて満足した(こさき)が一息つくと、場もようやく落ち着きを取り戻す。

 

「そういえば(はる)ちゃんと(フウ)ちゃんは何でコスプレしてんだ? オレたちと同じようにコスプレ喫茶なのか?」

 

 (らく)はふと気になった疑問を投げかける。

 

「私たちはお化け屋敷です!」

「ちなみにお分かりでしょうが、(はる)が魔法使いで私がヴァンパイアです」

 

 それに元気よく答える2人はようやく本来の目的を思い出し、営業をかける。

 

「お、お化け屋敷かぁ~」

 

 それを聞いて2人ほど顔が引きつっている。

 言うまでもなく、小咲(こさき)(つぐみ)である。

 

 2人は怖がりのため、できればお化け屋敷は遠慮したいところである。

 しかし妹の、後輩の誘いを断るのも難しく……

 

「マイちゃんが一緒なら……!」

「そうです、マイちゃん様が一緒なら大丈夫です!」

 

 林間学校の肝試しでも舞斗(まいと)が一緒であれば大丈夫だったのだ。

 文化祭の出し物でも大丈夫だろう。

 

「……あれ? そういえば岬先輩がいませんね」

 

 (はる)はキョロキョロと辺りを見回すが、珍しく舞斗(まいと)の姿は無い。

 いつもであれば解説にボケにツッコミにと、かなり出しゃばってくるのだが。

 

「ああ、岬なら少し前まで設営の方を手伝ってたから、まだ着替えてる最中じゃないかな? もうすぐ終わると思うけど……」

 

 見にいくわけにもいかないので、推測でしかないが。

 (らく)は教室のほうを見やりながら、そう事情を説明する。

 

「ちなみに岬先輩はどんなコスプレなんですか?」

「桃太郎だったな」

 

 千棘(ちとげ)のアリスと同じく、モチーフのあるコスプレのようだ。

 

「……岬先輩だと、なんか小学生の劇のような感じになりますね」

 

 彼女の好きな和風であるが、どうやら微妙なようだ。

 どうも身長が足りないのがお気に召さないらしい。

 

「マイちゃんなら男塾一号生筆頭とかやりそうだよね」

「あり得るわね」

「いや、確かに先輩も桃太郎だが……」

 

 学ランにサラシ。どちらにせよ体格的に似合わない。

 

「お、ウワサをすれば…………………………なんで身長が伸びてんだよ」

 

 教室の隅に用意された女子の更衣スペースから出てきた舞斗(まいと)を見て、(らく)は思わずツッコミを入れてしまう。

 格好こそ鎧に鉢巻、陣羽織に刀と、基本的な桃太郎の姿ではあるのだが。

 普段は自分より頭1つ分は小さいその体格が、今は見上げるような巨躯になっている。

 

「も、もしや、いや間違いない!」

 

 これには(はる)も激しく反応してしまう。

 

 

(まれ)なる肉の(みなぎ)り』

 

 

『姉を献上してもかまわぬ! いや私を捧げても良い!』

 

 

『武人などという言葉では、物足りぬ!』

 

 

『超人にして、軍神!』

 

 

 

神州無敵 桃太郎

 

 

 

「は、(はる)ー? 落ち着いて、なんか凄いことになってるよー?」

 

 残念ながら(すず)の言葉は届かない。

 (はる)の意識は桃太郎卿(まいと)に釘付けである。

 

「あ、マイちゃん。あのね、(はる)のクラスのお化け屋敷、一緒に行こ?」

「え?! 小野寺は岬のこの状態をスルー?!!」

 

 小咲(こさき)にとっては特に驚くほどの事でもない。

 そして舞斗(まいと)にとっては小咲(こさき)のお願いを断るはずもない。

 

(はる)ちゃん」

 

 そして(おもむろ)(くち)を開く。

 何故か目線は真っ直ぐに(すず)を向いたままである。

 

「世に“神州無敵の鬼退治”と称される(くだり)血眼(ちまなこ)しておろがむが良い」

 

「うほおお!」

「は、(はる)!? 思ったよりヒゲになってるよ、戻って来てよー!?」

 

 残念ながら(すず)の言葉は届かない。

 (はる)の意識は桃太郎卿(まいと)に釘付けである。

 

「マイちゃん様、孤剣での鬼退治。(つぐみ)胸中(むね)はきゅんきゅん丸にござるよ」

「……もしかして(つぐみ)ちゃん、それを言いたかったから箱背負ってるの? でもそのエレキテル、鬼退治用じゃなくてホワイトハウス襲撃用じゃない?」

「なんと」

 

 そんなお気楽な会話をする(つぐみ)とるりの横で、冷や汗を(ぬぐ)うものが一人。

 先ほどから気になるキーワードが飛び交っている。

 

「……鬼退治? ってもしかしてヴァンパイアって……」

 

 視線が自分に向いているのはもしや、とスズメもとい(すず)は気付いてしまう。

 (ヒゲ)とセットなのも不味い。

 

「さ、さあ、早く行きましょう!? ウチのお化け屋敷は凄いですよ!!」

 

 目的は鬼退治ではなくお化け屋敷だと、それがダメでもせめて自分はただの案内役だと思ってもらわねばと、必死に誘導する。

 

 そんな彼女の頑張りが実を結んだのか、それとも両腕にしがみついている小咲(こさき)(つぐみ)のお陰か、無事お化け屋敷の前にたどり着いた一行。

 ちなみにシフトの都合で(らく)千棘(ちとげ)は居残りである。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 薄暗い教室の中。

 石畳に下草があるかと思えば、壁に怪しげなお札に赤い手形。

 屋外なのか屋内なのかコンセプトの分からない通路が作られている。

 

 まずは定番、糸で吊るしたこんにゃくが左右からいくつも飛来する。

 しかし舞斗(まいと)は慌てず、犬のぬいぐるみを手首のスナップだけでその中に投げ入れる余裕を見せる。

 右腕には小咲(こさき)がしがみついているため、手首しか動かせないという事情もあるが。

 

「桃太郎卿、ご無事か!?」

「安泰じゃ」

 

 (ヒゲ)の問いかけにも泰然とした声が返ってくる。

 

「綿をつめたぬいぐるみを投げ入れて、蒟蒻(こんにゃく)を絡め捕ったゆえ」

 

 見ればぬいぐるみに糸がからまり、吊るされたこんにゃくはすべて空中に静止している。

 

 今回は無事だったようだが、小咲(こさき)(つぐみ)に両腕を取られ物理的な手段に制限のある状態で、この先を切り抜けることはできるのであろうか。

 

「ア゛ァー!!!」

 

 そんな彼らに文字通り次の一手が襲い掛かる。

 叫び声と共になんと壁から腕が突き出てきたのだ。

 

「ご無事か!?」

「押すか引くかしなければ意味は無い。安泰じゃ」

 

 しかし今回も舞斗(まいと)は余裕をもって対応している。

 瞬時にして間合いを見切り、腕の届かない位置に2人を連れて移動している。

 

 とはいえ小咲(こさき)(つぐみ)には十分にダメージがあったようで、ギュッと目をつぶって震えている。

 ならばと彼は小咲(こさき)(ふところ)に抱き寄せ、右腕を自由にする。

 

「桃太郎卿、抜いてくださいまし! 今こそ伝説の宝剣(つるぎ)を!」

 

 (ヒゲ)が願望も混じった叫びをあげるが、取り出されたのは化身鳥獣召喚笛(ちょうじゅうよびよせのふえ)であった。

 

「な、笛とな!?」

 

 (ヒゲ)の困惑を他所に、舞斗(まいと)は笛に(くち)を当てる。

 

 

 ぴょろるるる~~~

 

 

 周囲に笛の音が木霊すると、獣のような少女が現れる。

 

「オホ! あれがかの鬼退治三柱(みはしら)の神獣!」

 

 (ヒゲ)は大興奮である。

 

「ねえ、あれってポーラちゃん?」

「はい。耳と手足に尻尾、あとは3本ひげもあります」

 

 るりと共に彼らの後ろについてきている(すず)の解説が入る。

 

 ちなみにポーラも見た目がいいので、(はる)(すず)と共に呼び込み要員である。

 怖がりなので薄暗い教室の中に居られなかった、というのは関係ないはずである。今も入り口付近で舞斗(まいと)に呼ばれたからやってきたものの、顔見せだけして直ぐに外に出てしまった。

 

 まあ彼女のカワイイ姿を見て気力を回復した者もいるので、良しとする。

 

 

 

 気を取り直して。

 お化け屋敷もここからが本番である。

 

 怪物に扮する脅かし役が直接襲い掛かる。

 死装束に三角頭巾(天冠)を付けた幽霊、血で汚れたシャツを着た動く死体、包帯でぐるぐる巻きにされたミイラなど、総力戦である。

 

「桃太郎卿!?」

「幽体はこちらに物理的な干渉はできぬ」

 

 なるほど、であれば大丈夫かと安堵する。

 が、すぐに(ヒゲ)は気付いてしまう。

 

「ゾンビは生身(なまみ)……!」

 

 しかし舞斗(まいと)は慌てない。

 

死人(しびと)化人(けひと)も、間合いに入れなければ安泰じゃ」

 

 いつの間にか光り輝く結界が彼を中心に張られており、悪しき魂の侵入を許さない。

 それどころか結界の移動に合わせ、彼らは押し退けられてしまう。

 

「……相変わらず無茶苦茶ですね」

「それがマイちゃんよ、慣れなさい」

 

 あまり絡み(出番)のない(すず)には、受け入れがたい光景のようだ。

 

 

 

 そんなこんなで無事にお化け屋敷を制覇した一行。

 ようやく一息ついた小咲(こさき)(つぐみ)、そして合流したるりを連れて、舞斗(まいと)は去っていく。

 

(はる)ちゃん! 片付けておけ!」

「恐れ入り(たてまつ)りまする! 神州万歳!」

 

 最後まで(ヒゲ)はヒゲだったが、果たして元に戻るのだろうか。

 

 一抹の不安を抱きながら、(すず)は4人を見送るのだった。

 

 

 

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