クラスであまり話したことのない人と接する機会、例えば調理実習。
「今日の課題ってケーキでしょ? みんなもびっくりするような
「そんな上手くいくか~?」
向こうからやってくるお友達というのは、どう考えても詐欺師だろ。
そんなツッコミを口元で押さえた
薄力粉の袋を何のためらいもなく逆さまにする姿に、別の意味でも不安になってしまう。
そんな彼をよそに何やらクラスの一部が盛り上がっていた。
「おやおや? なんだ知らないのかね、一条君は」
タイミングよく近づいてきた
こういう形で情報を提供してくれるのはありがたいが、日頃の行いのせいでつい警戒してしまう。
「今、クラスで今日のケーキを好きな奴に渡すっていう流れができてんのさ。
おかげ様でバレンタインよろしく、男子は皆そわそわしてるってわけ!」
その言葉を聞き
自分にもそんなセリフを
そしてそんな勇気がないからこそ、
「お~! さすが小野寺。早速モテモテだなぁ」
これまた説明してくれた
……転校してきてからの
まあそれはさておき、それを聞いてますます
力を入れすぎてボールの中身が空を飛び、フライパンが火柱をあげ、エプロンに火が燃え移り、クリームをぶちまける。
まずはコチラを片付けたほうがいい。
そう判断した
◆
一方そのころ、話題の小野寺
「どうでしょうか、師匠」
「うむ……」
黒山の人だかりを無難に
そしてその腕前の上達具合を見てもらおうと、メイド服を着た
ちなみに彼は最初、自作の鉄のまえかけ柄エプロンだったのだが、クラスメートの差し出したメイド服を見て『その手があったか』と着替えたのだ。
他人を傷つけずに、自分で笑いを取る。彼はそんなネタに対して積極的になるタイプなのだ。
本人は女装部分がネタだと思っているが、周囲はエプロンではなくメイド服であることがネタだと思っているので、少々すれ違っているが。
「見た目はいつも通り素晴らしい」
「ありがとうございます!」
彼女が作ったのは直径10cmほどのミニケーキ。
イチゴの赤とクリームの白のコントラストが美しく、デコレーションが立体的に目を楽しませる。
彼女は手先が器用なため、昔からこういった分野に抜きんでた才能を示している。
「さて、肝心の味の方は……」
切ったときに断面を見て分かったことは、土台にビスケットを用いたチーズケーキであること。
単純なスポンジケーキではなく、工夫を凝らしてきたようだ。
「ふむ……」
イチゴとチーズの酸味と甘みがそれぞれ絶妙に作用し、ビスケットの薄い塩味、クリームのまた一味違った甘さが混ざり合う。
主張の強い食材が味のバランスを崩すかと思ったが、しっかり調整されているためにむしろお互いを引き立てる存在に昇華されている。
「……よくぞここまで成長した。免許皆伝じゃ」
「!」
その言葉を聞き、
「ししょー!」
「でしよー!」
感極まって抱き合う2人。今までの努力が報われた瞬間である。
「え? 何やってんの2人とも」
ノリについて行けず、るりは困惑する。
「るりちゃんー!」
「るりちゃんー!」
「ぐぇ」
が、それも束の間。
2人に左右から抱き着かれ、乙女が出してはいけない声とともにつぶされてしまった。
実に仲の良い3人組である。
◆
「出来た~!! 桐崎特製ショートケ~~キ~~…………」
妙なコントはさておき、
無理やり上げた
料理が得意だと自負する自分が協力してなおこのような物体を作り出した才能に畏怖する
「当然お前は食うよな!? 愛しの恋人のケーキだもんな!?」
こちらも無理やりテンションを上げている
「……当たり前だろ!!」
「おお!」
一条
誰に対しても全力になることについては、美点でもあるし欠点でもあるが。
彼が
「…………うめえ!!」
「!!?」
言葉を発した
それを受けて疑いの声が上がるも、続けて黒い物体を
「ホントだ、うめー!」
「なんで!? こんな焦げてんのに……」
「すげーうまいよ、桐崎さん!」
クラスの一員として盛り上がる。
それは、
しかし、望んでいた光景だった。
だからであろうか。
「ありがと……」
「……似合わねー」
それに対する引きつった顔の
◆
ちなみに。
「あのさ、小野寺。えーっと、その、ケーキは、誰に……」
「マイちゃんとるりちゃん、それから家族に作ったよー」
気持ちのいい笑顔とともにそう答える
……これは付き合いたてのカップルの邪魔になっては悪いと遠慮した結果であるため、もし
なんとも間の悪い2人である。
まあそれはともかく。
「それとマイちゃんに
「さんぷ、え?」
課題のケーキを作り終えて暇だった
余った材量を見ているうちに、ネタに走ってしまったのだ。
こちらはさすがに持ち帰るわけにもいかないのでその場で食べたが。
「またよく分からないモノを……」
しかし楽しそうである。
本来なら自分もその輪の中に居たはずなのにと、少しやるせない思いが湧いてくる。
彼とズッコケ3人組は中学2年のときに同じクラスになり、仲良くなった。
それ以来、巻き込まれるような形で騒がしくも楽しい日々を過ごしていたのだが、今は
そんな男の友人とは関わりたくないだろうと、彼の方からは特に紹介することも無かったのだ。
さらに転校初日の騒動でペンダント探しを手伝ってくれた
せっかくの接点を利用しないのは一条
とはいえそろそろ紹介くらいはしておかないと、何で黙っていたと
面倒だが、今日のクラスの反応に合わせてサラッとやってしまうか。
早く元の日常に戻りたいと願う彼は、そんなことを考えるのだった。
そしてラブラブカップルの誤解を解く絶好のチャンスだったことに、後から気付くのであった。