本当にせこい   作:七九六十

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02-02 調理実習

 

 

 

 クラスであまり話したことのない人と接する機会、例えば調理実習。

 

「今日の課題ってケーキでしょ? みんなもびっくりするような美味(おい)しいケーキが出来れば、お友達なんて向こうからやってくるってものよ!」

「そんな上手くいくか~?」

 

 向こうからやってくるお友達というのは、どう考えても詐欺師だろ。

 

 そんなツッコミを口元で押さえた(らく)は大きなリボンにフリルまでついたエプロンを着ている千棘(ちとげ)に呆れつつも、友達ができるか不安でつい気になってしまう。

 薄力粉の袋を何のためらいもなく逆さまにする姿に、別の意味でも不安になってしまう。

 

 そんな彼をよそに何やらクラスの一部が盛り上がっていた。

 

「おやおや? なんだ知らないのかね、一条君は」

 

 タイミングよく近づいてきた(しゅう)が勝手に説明を始めた。

 こういう形で情報を提供してくれるのはありがたいが、日頃の行いのせいでつい警戒してしまう。

 

「今、クラスで今日のケーキを好きな奴に渡すっていう流れができてんのさ。

 おかげ様でバレンタインよろしく、男子は皆そわそわしてるってわけ!」

 

 その言葉を聞き小咲(こさき)の方に目を向ければ、割烹着(かっぽうぎ)姿の彼女に群がる黒山の人だかり。その内の幾人かは直接的にケーキを催促しているようだ。

 自分にもそんなセリフを(くち)にできる勇気があれば、と考えなくもない。

 そしてそんな勇気がないからこそ、小咲(こさき)が誰にケーキを渡すのか気になってしまう。

 

「お~! さすが小野寺。早速モテモテだなぁ」

 

 これまた説明してくれた(しゅう)によると、男子からの人気は千棘(ちとげ)に次ぐ2番目らしい。

 ……転校してきてからの千棘(ちとげ)に、何かクラスメートから人気の出る要素があったのだろうか?

 

 まあそれはさておき、それを聞いてますます小咲(こさき)がケーキを渡す先が気になるも、千棘(ちとげ)が頻繁にやらかす失敗に気を取られそれどころではない。

 力を入れすぎてボールの中身が空を飛び、フライパンが火柱をあげ、エプロンに火が燃え移り、クリームをぶちまける。

 

 まずはコチラを片付けたほうがいい。

 そう判断した(らく)は、無理やりにでも千棘(ちとげ)の作業に割り込むのであった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ、話題の小野寺小咲(こさき)はといえば……

 

「どうでしょうか、師匠」

「うむ……」

 

 黒山の人だかりを無難に(さば)きつつ、既にケーキを作り終えていた。

 舞斗(まいと)との特訓で料理スキルが上がったため、これくらいは朝飯前である。

 

 そしてその腕前の上達具合を見てもらおうと、メイド服を着た舞斗(まいと)にケーキを差し出していた。

 

 ちなみに彼は最初、自作の鉄のまえかけ柄エプロンだったのだが、クラスメートの差し出したメイド服を見て『その手があったか』と着替えたのだ。

 他人を傷つけずに、自分で笑いを取る。彼はそんなネタに対して積極的になるタイプなのだ。

 

 本人は女装部分がネタだと思っているが、周囲はエプロンではなくメイド服であることがネタだと思っているので、少々すれ違っているが。

 

「見た目はいつも通り素晴らしい」

「ありがとうございます!」

 

 彼女が作ったのは直径10cmほどのミニケーキ。

 イチゴの赤とクリームの白のコントラストが美しく、デコレーションが立体的に目を楽しませる。

 彼女は手先が器用なため、昔からこういった分野に抜きんでた才能を示している。

 

「さて、肝心の味の方は……」

 

 切ったときに断面を見て分かったことは、土台にビスケットを用いたチーズケーキであること。

 単純なスポンジケーキではなく、工夫を凝らしてきたようだ。

 

「ふむ……」

 

 イチゴとチーズの酸味と甘みがそれぞれ絶妙に作用し、ビスケットの薄い塩味、クリームのまた一味違った甘さが混ざり合う。

 主張の強い食材が味のバランスを崩すかと思ったが、しっかり調整されているためにむしろお互いを引き立てる存在に昇華されている。

 

「……よくぞここまで成長した。免許皆伝じゃ」

「!」

 

 その言葉を聞き、小咲(こさき)の目に涙がにじむ。

 

「ししょー!」

「でしよー!」

 

 感極まって抱き合う2人。今までの努力が報われた瞬間である。

 

「え? 何やってんの2人とも」

 

 ノリについて行けず、るりは困惑する。

 

「るりちゃんー!」

「るりちゃんー!」

「ぐぇ」

 

 が、それも束の間。

 2人に左右から抱き着かれ、乙女が出してはいけない声とともにつぶされてしまった。

 実に仲の良い3人組である。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「出来た~!! 桐崎特製ショートケ~~キ~~…………」

 

 妙なコントはさておき、(らく)千棘(ちとげ)の方もケーキが完成した。

 無理やり上げた(らく)のテンションが秒で(しぼ)むほどの、『煙が立ちのぼり、クリームの白の面影が一切ない黒い物体』がケーキだとすれば、だが。

 

 料理が得意だと自負する自分が協力してなおこのような物体を作り出した才能に畏怖する(らく)だが、ケーキを見て涙目になっている千棘(ちとげ)を前にして下手なことは(くち)にできない。

 

「当然お前は食うよな!? 愛しの恋人のケーキだもんな!?」

 

 こちらも無理やりテンションを上げている(しゅう)が言う通り、(くち)にすべきは黒い物体(ケーキ)である。

 

「……当たり前だろ!!」

「おお!」

 

 一条(らく)の美点の一つは、こういう時(女の子のため)に行動を起こせることだろう。

 誰に対しても全力になることについては、美点でもあるし欠点でもあるが。

 

 彼が黒い物体(ケーキ)(くち)に含む姿を、周囲の人々は固唾を飲んで見守る。

 

「…………うめえ!!」

「!!?」

 

 言葉を発した自分自身()ですら驚くような感想が飛び出す。

 それを受けて疑いの声が上がるも、続けて黒い物体を(くち)にした千棘(ちとげ)のおいしいとの声に、クラスメートが押し寄せる。

 

「ホントだ、うめー!」

「なんで!? こんな焦げてんのに……」

「すげーうまいよ、桐崎さん!」

 

 クラスの一員として盛り上がる。

 

 それは、千棘(ちとげ)が予定していた光景ではなかった。

 しかし、望んでいた光景だった。

 だからであろうか。

 

「ありがと……」

 

 (かす)れるような声であったが、そう言えたのは。

 

「……似合わねー」

 

 それに対する引きつった顔の(らく)による一言で台無しになってしまったが。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 ちなみに。

 

「あのさ、小野寺。えーっと、その、ケーキは、誰に……」

「マイちゃんとるりちゃん、それから家族に作ったよー」

 

 気持ちのいい笑顔とともにそう答える小咲(こさき)に、自分じゃなかったことへの落胆と、好きな相手にとかじゃなくて良かったという安堵を味わった(らく)であった。

 

 ……これは付き合いたてのカップルの邪魔になっては悪いと遠慮した結果であるため、もし千棘(ちとげ)が居なければ、もしくはもっと時間がたってからであれば、彼にもケーキを渡していたのだが。

 なんとも間の悪い2人である。

 

 まあそれはともかく。

 ()()として仲の良い2人である。最近のごたごたのせいで久しぶりというのもあって、話が弾む。

 千棘(ちとげ)がやらかしたこと、小咲(こさき)たちが変なコントをしていたこと。

 

「それとマイちゃんに三不粘(サンプーシャン)を作ってもらったんだよ」

「さんぷ、え?」

 

 課題のケーキを作り終えて暇だった舞斗(まいと)小咲(こさき)、るりの3人。

 余った材量を見ているうちに、ネタに走ってしまったのだ。

 こちらはさすがに持ち帰るわけにもいかないのでその場で食べたが。

 

「またよく分からないモノを……」

 

 しかし楽しそうである。

 本来なら自分もその輪の中に居たはずなのにと、少しやるせない思いが湧いてくる。

 

 彼とズッコケ3人組は中学2年のときに同じクラスになり、仲良くなった。

 それ以来、巻き込まれるような形で騒がしくも楽しい日々を過ごしていたのだが、今は千棘(ちとげ)のことを優先しているためにそれもできず、淋しさを感じている。

 

 千棘(ちとげ)も友人として加わるのであれば何も問題無かったのだが、なんせ『今後話しかけるな』と言ってくるほど嫌われているのである。

 そんな男の友人とは関わりたくないだろうと、彼の方からは特に紹介することも無かったのだ。

 

 さらに転校初日の騒動でペンダント探しを手伝ってくれた小咲(こさき)に対して、千棘(ちとげ)が特にアクションを起こしていないことも関係している。

 せっかくの接点を利用しないのは一条(らく)の関係者だから避けられているのか、それとも単に友人とするには値しないと判断したのか。

 

 とはいえそろそろ紹介くらいはしておかないと、何で黙っていたと癇癪(かんしゃく)を起こす可能性もある。

 面倒だが、今日のクラスの反応に合わせてサラッとやってしまうか。

 

 早く元の日常に戻りたいと願う彼は、そんなことを考えるのだった。

 そしてラブラブカップルの誤解を解く絶好のチャンスだったことに、後から気付くのであった。

 

 

 

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