本当にせこい   作:七九六十

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11-04 文化祭 フォークダンス

 

 

 

 楽しい時間も、いつかは終わるものである。

 ミスコンが終われば文化祭も終了し、撤収作業に移る。

 

「あ、一条君。お疲れ様」

「おう」

 

 ミスコンに特別審査員として参加していた(らく)が教室に戻ってくる。

 既にコスプレ衣装からジャージ姿に着替えている小咲(こさき)を見て、少しがっかりしているが。

 

「お疲れとはいったものの、あまり疲れている感じではないね。てことは何事も無かった?」

「ああ、問題無かったぞ。橘も失格になったし、優勝は順当に3年の先輩だったし」

 

 同じく出迎えた舞斗(まいと)は、(らく)の様子から察してしまう。

 万里花(まりか)はやはり今回もダメだったようだ。

 

 まあそれはそれとして撤収作業である。

 この後は校庭でフォークダンスを行うため、間に合うようにさっさと終わらせる必要がある。

 

「昨年はあんな(バトル)の後だったから、みんな参加する余力が無かったんだよね」

「結局教室で打ち上げしてたからな。あれはあれで楽しかったけど」

 

 劇の場合は後続がミスコンのために、すぐに体育館を明け渡す必要がある。

 そしてその流れで周りより一足先に撤収作業が完了するため、今回の舞斗(まいと)たちのようにミスコンの裏で暇している飲食系の模擬店から物資を仕入れ、教室で打ち上げを行っていたのだ。

 

 疲れた後に一度腰を下ろして飲み食いを始めてしまうと、まあ立ち上がる気力が中々湧いてこないもので。

 そのまま教室からフォークダンスを眺めつつ過ごすことになってしまったのだ。

 

「今年は絶対にフォークダンスに参加します!」

 

 そんな話をしていた2人の背後から、力強い宣言が聞こえてきた。

 振り向くと千棘(ちとげ)が両の拳を握ってこちらを見ている。

 

「一条、ご指名が入ったよ」

「へいへい」

 

 フォークダンスはペアで行うため、必然的に多くのカップルが集まってくる。

 つまりは選ばれた人間のみが参加できる催しなのだが、彼らには十分にその資格がある。

 

「私、こーゆーの初めてだから、すっごく楽しみだったんだよねー!」

「あれ? アメリカではダンスパーティとか無かったのか?」

 

 (らく)の不注意な一言により、千棘(ちとげ)の表情が凍り付く。

 

「………………もちろんあったわよ、ダンスパーティ。

 ──────────でもね、独りじゃ、参加できないのよ?」

 

 アメリカはヨーロッパを源流としているだけあって、パーティが良く行われる。そしてその中には男女ペアによるダンスもある。ダンスパーティとして有名なのは、高校のプロムだろうか。特に卒業時に開かれるものが日本でも知られているだろう。

 もしあのままアメリカに残ってたら今頃は……

 

 彼女の瞳は、深い闇に包まれている。

 

「……スマン」

 

 ギャングの娘とヤクザの息子。

 どちらも友人を作ることができずに苦労したのだ。独りの辛さは、よく分かる。

 

 

 

 まあそういうわけで校庭へとやってきた一行。

 人の背丈を優に超える高さまで組まれた木材は、どう考えても過剰な火力で燃え盛っている。

 しかもそれが一ヶ所ではないというのだから驚きだ。消防車が数台待機していてもおかしくない規模である。

 

 そしてその周りではのん気な音楽と共に生徒たちが踊っている。

 (らく)千棘(ちとげ)も手を取り合い、ダンスの輪の中へと加わる。

 

「マイちゃん、私たちも参加だよ」

「ポーラたち1年生組もすぐに合流するそうです」

「……橘さんはどうしたのかしら?」

 

 小咲(こさき)(つぐみ)舞斗(まいと)の腕を取り、るりが背中を押す。

 女子の場合は彼女たちのように、仲の良いグループ単位で参加する光景もよく見られる。

 

 ちなみに万里花(まりか)は、ミスコンでの失格(ミス)によるショックでいまだ放心状態である。

 

「……こういう時って、女同士だと参加しやすいよな」

 

 男の場合はカップル以外だと、遠巻きにフォークダンスの輪を眺めるしかなくなる。

 千棘(ちとげ)が居なければ自分もそちら側だったと、(らく)は理解している。

 

「あれ? 一条は、男のペアも参加してほしいの?」

「そーゆーわけでは断じてない!」

 

 そっちではない。絵面的に遠慮したい。

 

 とは言え割合的には極々少数だが、男同士で参加するペアも居る。

 ただし馬の被り物だったり大仏マスクだったりの、色物枠である。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 一通り踊って千棘(ちとげ)が満足したあと、(らく)はダンスの輪の中から外れた。

 千棘(ちとげ)は彼と別れた後は小咲(こさき)たちに合流し、男役、女役を交換しながら楽しんでいる。

 

 そんな彼女たちの姿を見ながら、(らく)はしみじみと感じる。

 自分たちは、本当に良い友人に恵まれたのだと。

 

 

 

 ヤクザの息子、ギャングの娘として生まれたがために、周囲から距離を置かれて親しくなるどころではなかった自分たち。

 

 もちろん友人を作るための努力はした。

 今になってみれば見当違いだったことも含めて、いろいろと頑張ったという自負はある。

 

 しかし、受け入れてもらえるかというのは、また別の話である。

 良い出会いがあったからこそ、そこからクラスメートたちに受け入れられ、今では文化祭を楽しむことができるまでになったのだ。

 

 

 

 …………良い出会い。いやまあ、結果的には良い出会いではあったが、最初は状況がよく分からなかったりする。

 

 そう、あれは中学1年の初冬。

 学校の食堂で昼食を取っているときに、背後で聞こえた女子の短い悲鳴と食器がぶつかる音。そして何故か少量の歓声。

 足でも滑らせてトレイを落としたのかと思い振り向くと、そこには……

 

 1人は頭上に日替わり定食(生姜焼き)のトレイを載せ、右手には中華丼の載ったトレイを持ち、左手では女子生徒を支えている。

 1人は先ほどの通り足を滑らせたのか、体を支えられた状態で放心している。

 1人は特盛の牛丼、親子丼、麻婆丼を載せたトレイを両手で持って固まっている。

 

 よく分からない女子3人組が居たのだ。

 

「そんな出会いがまさか、こんなに長い付き合いになるなんてな」

 

 聞けば小野寺が足を滑らせたらしく、手に持っていた中華丼が進行方向に居た自分の頭にぶつかるところだったらしい。

 平謝りする小野寺と、その小野寺に腕を掴まれたままで頭上にトレイを載せ続ける岬。そしてさっさと食べたいからと自分の居た席の隣に腰を下ろし、牛丼を片手にこちらの様子を眺めていた宮本。

 

 そのまま成り行きで一緒に昼食を取ったことがきっかけで、隣のクラスだった3人組と縁ができて。

 廊下で会ったときに話す程度の仲だったのが、2年で同じクラスになってからは友人と呼べる関係になって。

 …………そして、それが中学時代の唯一の友人で。

 

 この3人と居るようになってからは無用に怖がられることも無くなり、クラスメートとは話をできるようになったのだが。

 それでも何故か友人となるまでは発展せず、クラス外では相変わらずで。

 

 

 だから、高校受験のときはまた独りになることが淋しくて。

 

 

 だから、試験会場で3人と会ったときは嬉しくて。

 

 

 高校入学後も奇跡的に全員同じクラスになり、毎日楽しく過ごすことができた。

 そして転校してきた千棘(ちとげ)が自分と同じ境遇だったと知って、ならば友人ができるよう(ちから)になろうと思ったのだ。

 かつて自分がそうしてもらったように。

 

 ……その結果が何故か、友人ではなく恋人になってしまったのだが。

 

 先ほどはごく当たり前のようにフォークダンスに参加する流れになっていたが、これだって本来はあり得なかった光景かもしれないのだ。

 あのとき3人に出会わなければ。

 その後、友人としての関係が続かなければ。

 

 もしかしたら、千棘(ちとげ)とフォークダンスに参加することはできたのかもしれない。

 ただしお互いの関係がここまで上手く行くとは到底思えず、おそらく形ばかりの、見せかけだけの恋人(ニセコイ)になっていたのではないだろうか。

 

 周りからの助けがあったからこそ、笑顔で楽しめている。

 こうやって輪の外から客観的に眺めていると、改めて気付けることもあるのだ。

 

 他には例えば、あのまま千棘(ちとげ)と一緒に合流していれば、自分も小野寺と踊れたんじゃね、とか。

 

「ああクソ! 失敗したッ!」

 

 なんでオレはあそこで輪の外に出てしまったんだ、と(なげ)くも時すでに遅し。

 今さら合流するのもカッコ悪いため、もはや眺めることしかできない。

 

 

 

 頭を抱えて苦悩する彼を見た何も知らない周囲の生徒たちは、気になる女子を誘えずにいるのだと察して生温かい視線を送る。

 しかしそこに総勢8名の女子生徒が合流した途端一転し、殺意や呪詛や軽蔑に近いものを送るようになってしまったのだが。

 

 

 

 合流した彼女たちに先ほどの痴態を悟られぬよう取り繕う(らく)であったが、どうも1人の様子がおかしいことに気付く。

 

「…………宮本?」

 

 他の7人からは少し離れ、1人でいる彼女に声をかけるが反応は無い。

 

「宮本?」

「一条君……」

 

 何か悩みでもあるのだろうか。思いつめた表情をしている。

 

「ねえ、一条君。フォークダンスといったらマイムマイムよね?」

「え? ああ、そうだな」

 

 いまだ踊り続ける生徒たちに目を向けながら発せられた質問の意図は分からないが、(らく)(うなず)いた。

 もしかしたら悩んでいるのではなく、丼物が食べたくなったのだろうか。

 今は麻婆丼しか製造していないらしいのだが大丈夫だろうか。

 

「マイムマイムは元々イスラエルの曲で、マイム(Mayim)はヘブライ語で水を意味してるの」

「ん?」

 

 どうやら食事の話(うまいどんぶり)ではないようだ。

 

「歌詞を意訳すると、『井戸を掘ってたら水が出てきたぞ、ひゃっほい!』って感じなのよ」

「『ひゃっほい!』て」

 

 その表現はどうにかならなかったのかと、字面に反して表情もテンションも変えない彼女にツッコまざるを得ない。

 

 るりは(らく)を真っすぐに見つめてこう言った。

 

「なんで火を囲んで、水を喜ぶ曲を流すのかしら」

「知らんがな」

 

 そういう話は岬とやってくれ、と目線を向ける。

 どうやらこちらの声は届いていたようで、会話を引き取ってくれた。

 

「フォークダンスだから、って言ってしまえばそれで終わりだけどね」

 

 レクリエーションの一環として楽しめる、ノリのいい楽曲であれば何でも良かったというのはある。非日常ということで、言葉の意味が分からない異国情緒あふれる物が選ばれたのだろう。

 それは海外でも同じで、南国の島で室戸市名物シットロト踊りが選ばれることもあるのだ。

 

「るりちゃんは1つ、忘れていることがある」

 

 水が出て喜ぶというのは、何も井戸を掘ったときだけじゃない。

 

「雨乞いに火は付き物じゃないか」

「なるほど」

「え? 宮本はそれでいいのか?」

 

 すっきりした、とばかりに表情が晴れていく彼女に、逆に納得のいかない(らく)であった。

 

 

 

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