本当にせこい   作:七九六十

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11-06 旅館でバイト 後編

 

 

 

 そんな感じの3人だが、手を動かすことも忘れてはいない。小咲(こさき)を主軸にして次々に料理を仕上げ、また返却された食器を手際よく片付けて行く。

 そして翌朝の仕込みを終わらせる頃にはすっかり夜も更けていた。

 

 3人はまだ未成年、高校生である。

 これまではある程度の時間で帰宅できるように働いていたのだが、今回は厨房を担当したことで遅い時間になってしまった。今から帰宅させようにもバスは無くなっており、タクシーで帰るには料金が高くつく。そもそも未成年をこんな時間に出歩かせるのは問題だというのもある。

 

 ということで今日はこのままお泊りである。

 

「マイちゃんマイちゃん、お風呂行こ?」

 

 小咲(こさき)舞斗(まいと)の腕を取って催促してくる。

 当旅館の目玉である露天風呂はすでに宿泊客の利用できない時間帯になっており、女将(おかみ)の厚意により3人の貸し切り状態にしてくれているようだ。

 

「何気にココのお風呂は初めてです」

 

 (はる)も腕を引いてくる。

 何度か手伝いとして訪れていた姉妹であるが、利用はもちろん風呂周りの仕事も担当したことが無いため、どのようなものなのか興味があるようだ。

 

 姉妹が温泉を楽しみにしている以上、舞斗(まいと)が断るはずもなく。3人は連れ立って風呂場へと向かう。

 ゆっくりと疲れを癒したいので舞斗(まいと)は風呂場以外の時間を凍結するのも忘れない。これで時間を気にせずに入浴できるし、どれだけ騒いでも問題ない。無いとは思うが、覗き防止にもなる。

 

 

 

 昔ながらの(とう)かごの置かれた脱衣所を抜けると、これまた竹壁で囲われたザ・露天風呂とでも言うべき昔ながらの露天温泉が出迎えてくれる。

 タオル片手に乗り込んだ3人は入り口で足を止め、周囲を見回す。

 

「へー、こんな風になってたんだ……」

 

 小咲(こさき)は以前、林間学校で利用した露天風呂を思い出す。

 あちらとの違いは湯舟に大きな岩がいくつもあるところだろうか。それもあって少し狭く感じる。

 

 そしてあちらと同じく旅館から見下ろせる配置になっているのだが、すでに舞斗(まいと)が時間を止めて対処しているので問題ない。

 

「わー……あ?」

 

 小咲(こさき)と一緒に周囲を見渡していた(はる)は、おかしなものを見つける。

 それは木製の看板、いやこの場合は立札というべきか。

 

 

 

『ここは()()です』

 

 

 

「いや、それは内じゃなくて外に書くべきじゃないかな?」

 

 ラブコメのお約束ではあるのだが、舞斗(まいと)としてはツッコまざるを得なかった。

 姉妹が風呂場担当にならないのも納得である。

 

「……今後も利用することは無いかなー」

「ねー」

 

 通常の時間帯、宿泊客として利用することもそうだが、従業員用の時間帯であっても利用は無理だろう。

 今回のように舞斗(まいと)がいれば話は別だが、従業員にだって男はいるのだ。

 

「身体を洗ったら出よっか」

「うん……」

 

 別に潔癖症というわけではないが、こういった他人の性衝動の産物には忌避感を抱くものである。

 いくら混浴でもそれは無いと思いつつも、もしかしたら他人がハッスルしていたかもしれない湯は、年頃の少女たちにとっては受け入れられないものなのだ。

 

「温泉……」

 

 楽しみにしていたところにコレである。

 気落ちした(はる)舞斗(まいと)にギュッと抱き着く。

 

 そんな彼女をよしよしと撫でつつ、舞斗(まいと)は考える。

 

「んー、じゃあ家のお風呂をリフォームしちゃおうか。天然温泉引っ張ってきて、露天風呂にもなるようにとか」

 

 帰りに別の温泉に行くことも考えたが、3人でゆっくり、とはいかないだろう。

 ならばいっそ自宅に設置してしまえば、好きな時に好きなだけ入れるではないか。

 

「いいの?」

 

 小咲(こさき)の疑問が『そんなことできるのか』ではないところに慣れを感じる。

 

「拡張するためのスペースは余ってるし、それにちょうど今のお風呂が手狭に感じてきたところだったから、問題ないよ」

 

 中学への入学を機に現在のマンションへと移り住んだ舞斗(まいと)

 最初は彼のみであったため、広大なフロアを男子大学生のワンルーム的な使い方しかしていなかった。

 

 やがて小咲(こさき)とるりの2人が友人となり、彼女たちが遊びに来るようになって部屋の拡張が始まった。

 特にるりは母親が出産直後で弟を連れて実家に戻っていたこともあり、ほとんど舞斗(まいと)宅で過ごしていた。そのため彼女専用の部屋を用意することになった。

 

 バレンタインの惨劇のあとは小咲(こさき)の料理修行のため、複数人で作業できるよう広いキッチンを用意した。

 

 そして全寮制の中学に行った(はる)のために、簡単に会いに来れるよう寮の部屋とマンションの一室を空間的に接続し。

 高校に上がり、例の事件の後は小咲(こさき)の自宅の部屋とも接続するようになって。

 

 さらには転校してきた(つぐみ)のために部屋を用意して、翌年には桐崎邸から移ってきたポーラの分も追加して。

 

 

 

 これまでも舞斗(まいと)の人間関係に合わせて改築を行ってきたマンションである。

 当然風呂場もそれに合わせて広げてきた。今回もその一環である。

 

 

 

「確かに、湯舟はともかく洗い場と脱衣所はもう少し広い方がいいかも」

 

 小野寺姉妹とるりは自室がマンションとつながってはいるが、それぞれの家族と夕食を共にすることが多い。

 (つぐみ)とポーラは仕事で出ていることも多い。

 

 そのためそれぞれのタイミングで入浴することになり、全員で入浴することはそれほど多くは無く、なんとなく今のままでいいかなと放置していたのだが。

 千棘(ちとげ)が泊まりに来たときなどに皆で一斉にとなると、少し不便だったのも事実である。

 

 なのでこれを機に、10人くらいが一度に利用できるサイズに拡張するのもいいだろう。

 

「ところでマイちゃん、温泉の効能って何にするの? 子宝に恵まれるとか?」

「そこは美肌とかにしとこうよ」

「温泉……」

 

 先ほどの沈んだものとは違い、(はる)の声に活力が戻っている。

 ついでに舞斗(まいと)の背中に回した腕にも(ちから)がこもっている。

 

(はる)ちゃんも元気になったことだし、そろそろ体を洗いに行こうか」

 

 いくら外気温を操作して暖かくしているとはいえ、いつまでも裸でタオル片手に立ち話しをするわけにもいかない。

 そういうわけで3人で連れ立って洗い場へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 さくっと髪を洗った後にはこういう時のお約束として、お互いに背中を流すことになるのだが。

 

「お姉ちゃんの背中は私が!」

 

 (はる)はもちろん小咲(こさき)の横で主張する。

 

「じゃあ私はマイちゃんを」

 

 小咲(こさき)はいつものように舞斗(まいと)の横に付く。

 

「ならば(はる)ちゃんを洗ってあげよう」

 

 舞斗(まいと)はそう言うが、肝心の(はる)小咲(こさき)を挟んだ反対側に居る。

 

「どうやって洗うんですか? 三角形に並ぶのは……」

「もちろん、こうやって」

「ぅひゃうっ?!」

 

 当然の疑問を(くち)にする(はる)であったが、突然の背中への感触に変な悲鳴を上げてしまう。

 

 慌てて振り返ってみれば、背後には舞斗(まいと)小咲(こさき)の姿。

 さらには2人の陰に自分の後頭部も見える。

 

「んー?」

 

 前に向き直ってみれば、小咲(こさき)舞斗(まいと)の後ろ姿。

 さらには2人の陰に自分の後頭部も見える。

 

「んー??」

 

 よく分からない状況である。

 

「単に空間をつなげただけだよ」

「なるほど……便利ですね」

 

 凝った髪型にするときとかに使いたい。

 そんなことを考えながら姉の背中を流す。

 

 特に技法なんかがあるわけではないので、すぐに終わってしまって物足りない。

 

「じゃあ前も洗いましょうね~」

「ぅひゃうっ?!!」

 

 突然舞斗(まいと)に身体の隅々まで洗われて、思わず変な悲鳴を上げてしまう。

 気が付けば全身泡まみれである。むしろ泡の中に埋もれている感じになっている。

 

「おお~?」

 

 ふわふわとした感触が実に心地良い。

 

「マイちゃんマイちゃん、私も」

「はいはい」

 

 小咲(こさき)に催促され、彼女の身体も泡まみれにする。

 それが終われば手早く自分の身体も洗う。

 

「あ、マイちゃんダメだよ」

「そうですズルいです。次は私たちの番です」

「いや、2人に任せると洗ってキレイになるどころか汚れるじゃないか」

 

 それに後片付けもあるから早く上がらないと、と彼は続けるが。

 前に小咲(こさき)、後ろに(はる)が張り付いて拘束されてしまう。

 

「さっき時間を止めてるって言ったよね?」

「ふっふっふ~、逃がしませんよ~?」

 

 

 

 メインである温泉に入れなくとも、十分に楽しんだ3人であった。

 

 

 

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