本当にせこい   作:七九六十

53 / 82
11-07 体育祭 前編

 

 

 

『今日は雲一つない、晴天に恵まれました』

 

「雲あるやん、あっこに」

「ホンマやホンマや」

 

 というわけで、本日は体育祭である。

 平成に入ってからは行事の分散や受験への影響を考慮して春に開催する学校も増えたようだが、凡矢理(ぼんやり)高校では何の代わり映えもなく秋に行われる。

 

 内容としてもシンプルで、スポーツテストの成績によって赤と白の2つに分かれて競うものになっており、普段はクラスメートであっても今日は敵である。

 それぞれの所属する色のハチマキを額に巻いており、例えば身近なところでは以下のようになっている。

 

 

 まずは赤組。

 桐崎千棘(ちとげ)、一条(らく)、小野寺小咲(こさき)

 

「今日は体育祭よ~!!」

「あいつ、やけにテンションが高いんだが」

千棘(ちとげ)ちゃんらしいね」

 

 (こぶし)を突き挙げて叫ぶ千棘(ちとげ)を、呆れた様子の(らく)と笑顔の小咲(こさき)が見守っている。

 

 

 

 次に白組。

 橘万里花(まりか)、宮本るり、(つぐみ)誠士郎。

 

「ギリギリまで交渉しましたが、チーム替えならず、でしたわ」

「橘さんってホント、運が悪いというか縁がないというか」

「そもそも競技に参加できる体力が無いのだから、わざわざチーム替えをしなくてもいいのでは?」

 

 やる気なく座り込んでいる万里花(まりか)に、るりと(つぐみ)が両サイドからツッコミを入れる。

 

 

 

 そして青組。

 岬舞斗(まいと)、小野寺(はる)、ポーラ・マッコイ。

 

「なにゆえもがき、生きるのか?」

「滅びこそ我が喜び」

「死にゆく者こそ美しい」

 

 さあ我が腕の中で息絶えるがよい、とばかりに不敵な笑みを浮かべる舞斗(まいと)と、その両脇で同じく腕を組んで仁王立ちしている(はる)とポーラ。

 

 

 

「話をややこしくするんじゃない」

 

 最初に『赤と白の2つ』って言ったでしょ。るりの手によって青いハチマキは回収されてしまう。

 さらに大将の舞斗(まいと)(つぐみ)の手によって拘束され、エキストラのチビッ子たちが小咲(こさき)特製の報酬(あめ)を渡され帰されたことにより、青組は壊滅したのであった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

(つぐみ)ちゃん(つぐみ)ちゃん、正面からはやめて?」

「え~?」

 

 拘束されている舞斗(まいと)から要望が上がる。

 柔らかくて気持ち良いのだが、周囲と話すには不便である。

 

 (つぐみ)は不満そうだが、それでも背後に回って改めてしっかりと抱き着く。

 すぐに喉をゴロゴロと鳴らしそうな表情になったので、機嫌は直ったようだ。

 

「で、組み分けと言えば、白組的にはそこに転がってる奴らはイイのか?」

 

 (らく)が指差すほうには6人ほどの男子生徒が寝かされている。

 中には白いハチマキの、もっと言うなら体育祭実行委員の、あえて言うなら個体名:舞子(しゅう)も含まれている。

 一応この6人は運動が得意なグループなので、白組の得点源となるはずであった。

 

「ああ、例によって邪悪な(たくら)みを粉砕しただけだから、気にしなくていいよ」

「…………またか」

 

 今回は何やろうとしたんだよ、と(あき)れていた彼に差し出された1枚の紙。予定されていた悪事の計画書である。ちなみに内容が内容のため1年生組(こどもたち)には見せていない。

 

「なるほど、細かい部分を予行練習(演習)から変えようとしていたのか……」

 

 例えばプログラム2番の男女混合2人3脚では、中間ポイントとして『抱きしめ風船割り』を追加する、といった感じである。

 

 一部の男子には受けるのかもしれないが、見世物にされるほうとしては(たま)ったものではない。

 

「マイちゃんっ」

「お姉ちゃんっ」

 

 被害を受ける立場にあった小咲(こさき)千棘(ちとげ)が、助けてくれた彼にひしと抱き着くのもむべなるかな。

 

(しゅう)らしいと言えばらしいんだが……」

「相変わらずの公開セクハラね」

「合コンでやればいいのに、なんで学校行事に組み込もうとするんでしょうね?」

 

 るりと(つぐみ)にしても受け入れがたいものであり、(らく)もフォローはしない。

 思い人を全校生徒の前で(はずかし)める計画に、誰が賛同するというのか。

 

(らく)様とでしたらコレくらい耐えてみせますわ!」

「オレはイヤだぞ」

 

 万里花(まりか)としては(らく)が手に入るのなら他人の目など気にしない。それが彼女の強みだが、(らく)が付いていけないのでは意味が無い。

 こういった性癖の不一致は破局の原因になる事が多いので、注意が必要だ。

 

「女好きだけど、特定の個人を好きになったことが無いとこうなるのかな?」

 

 自分の好きな人に対してこんなことをされたら、と考える想像力があればやらないだろう。

 好きな人は独占したい性質(たち)舞斗(まいと)としては、決して相容れない存在である。

 

「………………なんか昔、(しゅう)の好きな人がどうとか話題になったような」

「え? そんなことがあったの?」

「好きな人が居てコレなの?」

「何だかもう救いようがない感じですねえ」

 

 記憶に引っ掛かりを覚えた(らく)だったが、それによって更に(しゅう)の評価が下がってしまった。

 

 そんなつもりは無かったのだが、きっと(しゅう)なら笑って許してくれるはず。そういうことにしておく。

 遠い空に浮かぶ(しゅう)の笑顔が、そう言っているのだ。

 

「……そうだ、思い出した。1年生の子が(しゅう)のことを好きだからって……」

 

 そこまで(くち)にしてふと思う。

 あれ、これって(しゅう)()好きな人じゃなくて(しゅう)()()()()好きな人のことじゃね?

 あれ、これって他人(ひと)に言っても大丈夫だっけ?

 

『…………………………』

 

 (らく)の言葉に対する反応は、半信半疑どころか不信全疑の視線であった。

 ここに居るものは過去の悪行を知っているため、そうなるのも当然であった。

 

「い、いや本当だって!」

 

 プライバシーを配慮して詳細を語れないため説得力のない彼の発言だが、そんな嘘をつくような人間ではないという信頼と、また何か勘違いしている可能性もあるのではという信頼により、半信半疑くらいには持ち直す。

 

「ってゆーか宮本! お前が持ってきた話じゃねーか!」

「え?」

 

 周りと同じく疑いの目を向けていたるりは、突然話を向けられてきょとんとした表情になる。

 やがて首を(かし)げて考え込むが。

 

「…………………………………………………………………あっ」

「そこまでしないと思い出せないんかい」

 

 普段の彼女が見せない、見た目通りの幼い仕草が可愛らしかったために待ち時間はそこまで気にならなかったが。141話セイジツ(この話)は今年の文化祭の後、つまりつい最近のできごとなのだ。できればすぐに思い出してほしかった。

 

「そういえばそんな事もあったわね……」

 

 事の発端は、水泳部の後輩が彼女に相談してきたことにある。

 曰く、今度舞子先輩に告白しようと思っており、そのアドバイスが欲しい、と。

 

 その後輩はるりと(しゅう)の仲が良いと思って相談してきたのだ。

 当然そんな事は無いため、彼の幼馴染とウワサの(らく)に投げて一件落着とばかりに記憶から追い出していたのである。

 

 るりとしては良く知らない人物の事を聞かれても答えようが無いし、であれば恋愛絡みのプライベートな部分を聞くのは避けた方がいいだろうと、すべてを任せて席を外していたのだ。

 そもそも記憶に残るはずがない。

 

「初対面の子と突然2人きりにされたオレの苦労を」

「あなたもこの短期間で忘れるくらいの苦労だったんだから、大丈夫よ」

 

 手土産としてジュースを渡されたために退けなかったというのもあるが、そんな状態でも相談事に真摯に向き合うのは彼の美徳である。

 

「……まあほとんど(しゅう)に関する話題だったから問題なかったが、宮本への質問もあったから居てくれてもよかったんだが」

 

 それは、とあるウワサの確認である。

 

 舞子(しゅう)には今、付き合っている人がいる。その相手というのが……

 

「え、私??!」

 

 あまりにも身に覚えのない、事実無根の、根も葉もない捏造による虚偽情報に、るりの表情が引きつる。

 ふざけた発言をした(らく)を見る目が徐々(じょじょ)に怒りの色に染まっていく。

 

「い、いやオレじゃなくて、ウワサ! そういうウワサだって!」

 

 必死に弁解し、後輩にはしっかり否定したことを伝えてようやく許される。

 男女の機微に疎いと自覚のある彼だが、(しゅう)はともかく、るりの方にはまったくその気が無いことくらいは理解できている。

 

 るりはまだ怒りが(くすぶ)っているようだが、小咲(こさき)が抱きしめてなだめているので(じき)に収まるだろう。

 

「そーいえば去年の林間学校のとき、似たようなウワサがあったわね」

「え? そんな昔からあったのか?」

 

 懐かしーわー、と千棘(ちとげ)が言う通り、入学して間もないころからウワサになっていたのだ。

 そしてるりを取られてしまうと不安になった小咲(こさき)は、原因である舞子(しゅう)を『最大の敵』とみなして取引を停止していたりする。

 今は手一杯の状態だ。

 

「……るりちゃん、ごめん。俺にもっと魅力があれば……」

 

 舞斗(まいと)は自分の不甲斐なさを痛感する。

 もし彼がもっと周囲に『るりちゃんは俺のモノだ!』と示せていれば、こんな事にはならなかった。るりを墜とす障害にもならないと判断されてしまっているのだ。男として、これ以上の屈辱は無い。

 

 ……まあ正直、見た目の問題である。

 彼女を小咲(こさき)ごと抱きしめている現状でさえ、女の子同士でじゃれ合っているようにしか見えない。

 

「こうなったら、もっとイチャイチャするしかないね」

「……え?!」

 

 彼の打ち出した解決策を理解した途端、るりの顔は真っ赤に染まる。

 怒りによって震えていた身体が、今度は期待と喜びに震える。

 

「あっ、え、その……、やさしくしてね?」

 

 (ほお)を赤く染めて、(うる)んだ瞳の上目遣いでコレである。

 その破壊力は凄まじい。

 

「マイちゃん様、殿中でござる!」

 

 いまだ背中に張り付いていた(つぐみ)に止められなければ、このままお持ち帰りコースであった。

 とは言え明日は振り替え休日。つまり夜も運動会で問題ないのだ。実に楽しみである。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。