本当にせこい   作:七九六十

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11-08 体育祭 後編

 

 

 

(しゅう)には悪いが、宮本に脈があるようにはまったく見えないんだよな。なんでそんなウワサになってんだ?」

「ウワサなんてそんなものだよ、って言ってしまえばそれまでなんだけどね」

 

 るりを胸元に抱き、その背中を撫でつつ舞斗(まいと)は苦笑する。

 

「まず、やっぱり名前呼びってのは特別だってこと」

 

 (らく)としてもそれは理解できる。ちらりと目線をやれば、向こうも同じことを考えていたのか、千棘(ちとげ)と目が合う。少しの気恥ずかしさを感じつつ、目線をそらす。

 

 そのやり取りを見ていた舞斗(まいと)は『原作のタイトルを言ってみろ!』とツッコミたくなるのをグッと(こら)える。

 

「……(しゅう)が名前で呼ぶのって、宮本の他にはつぐみと、あとは橘か?」

(わたくし)(らく)様一筋ですわ!!」

 

 興味のない話題であったため特に参加することも無く近くに居るだけだった万里花(まりか)であるが、これには即座に反応する。対応を間違えると変な誤解を招く恐れがあるからだ。

 こういうときに即座に立ち位置を明確にできる彼女は強い。自爆するだけの女ではないのだ。

 

「一条が挙げた3人には共通点がある」

「共通点とな?」

 

 それは3人が周囲より1歩引いた立場で物事を見ていることである。

 

「例えば舞子が何か騒動を起こした場合、小咲(こさき)ちゃんや千棘(ちとげ)ちゃんを含んだほとんどの人は、その騒動自体に反応するでしょ?」

「まあ、そうだな」

 

 これまで(しゅう)が幹事や実行委員を務めたイベントを振り返りながら思う。

 いつの頃からか彼は学校行事だけでなく、例えばクリスマス会などを独自に企画して推進するようになった。今回の体育祭のように余計なモノを盛り込むのが玉に瑕だが、皆が楽しめるよう盛り上げてきたのだから、本当に凄いヤツである。

 

「でも3人は、騒動を引き起こした舞子に反応する」

「ツッコミ担当だしな」

 

 自身もツッコミ担当であるため、役職がよく被るので分かりやすい。

 

 ……自分とは違い、ボケ役にも回るから困るのだが。

 特に強烈なボケ役(めのまえのやつ)への対処のためにも、ツッコミ担当でいて欲しいと切に願う。

 

 まあそれはともかく、今は(しゅう)のことである。

 彼女たちがツッコミ担当だと、どうなるというのだろうか。

 

「つまり、構ってもらえて嬉しいんだよ、きっと」

「……え? そんな理由?」

 

 (らく)も納得したところで、次はこの3人を個別に分析してみよう。

 

「橘さんはまあ、こんな感じだから分かると思うけど、そもそもウワサの相手にはならない」

「ふっ、当然ですわ!」

 

 良くも悪くも万里花(まりか)は目立つ。

 その彼女が向いている先というのは分かりやすく、そのため誰かが悪意を持って広めたならともかく、自然発生のウワサでは(しゅう)が相手にされることは無い。

 

「ただそれとは別に、舞子本人から『隙あらば』って気配がするのは気になるけど」

「……確かに、そんな感じはありますわね。何やら思わせぶりな態度で接してきますし」

 

 本人にその意図があるのかは分からないが、これが青年誌だったら裏でドロドロの展開が起こる伏線になっていただろうレベルのものがちらほら見受けられる。

 まあいざとなれば彼女の護衛(本田)が武力によって鎮圧するので問題ないだろう。

 

「で、次に(つぐみ)ちゃんだけど……」

「私はマイちゃん様一筋です」

 

 (つぐみ)舞斗(まいと)の背中に張り付いたまま主張する。

 

 余談だが、先ほどから舞斗(まいと)は最大と最小に挟まれている。

 

「基本的に(つぐみ)ちゃんって優先順位がはっきりしてるから、相手にされてないのが分かってるのか『あわよくば』って感じのちょっかいをかけるだけなんだよね」

 

 そのため(しゅう)の本命には見えず、コチラもウワサの相手にはなっていない。

 ……(つぐみ)はウワサ話の主体となる女子からの特殊な人気(にんき)が高いから、とかではない。ファンクラブの存在についても特に関係は無い。

 

「で、問題のるりちゃんだけど」

「私もマイちゃん一筋なのに……」

 

 ため息を吐く彼女の頭を、小咲(こさき)はよしよしと撫でている。

 

「同じ中学だった気安さがあるのか、前2人とは明らかに扱いが違う、と」

 

 るりにとっては迷惑な話である。

 

「さらにウワサになる理由の2つ目にもかかるんだけど、るりちゃんへの対応が『男子小学生が好きな子の気を引くために意地悪する』ってヤツそのままなのが面白くて」

「ああ……、確かに宮本に絡むときの(しゅう)ってかなり子供(ガキ)っぽいよな」

 

 構ってアピールが凄いのである。

 ここまであからさまだと女子にネタにされ、それが周囲に広まった結果が現状なのである。

 

 2人を実際に知っているのであれば冗談だと分かるネタでも、クラスや学年が異なる人にとってはどうなるか。

 まあウワサというのは、こんなモノである。

 

 

 

 余談だが、(しゅう)がそのスペックの割にモテない理由がココにあったりする。

 

 学力は試験で常に上位、運動も専門職ほどではないが得意、見た目もそこそこ良く、そして何よりイベント事で常に目立つ立ち位置に居る。

 これだけ(そろ)っていれば普通はかなりモテるものである。

 しかし実際は、彼のことを良く知らない人からなら少しは、程度になっている。

 

 高校生ともなれば少し大人のお付き合いに憧れるようになる。

 男子小学生そのものの恋愛をしている(しゅう)では、オママゴトにしかならないと見切りを付けられているのだ。

 

 その点では実は、(らく)の方が女子からの評価が高かったりする。

 少し子供っぽいとはいえ、誰が見ても美少女である千棘(ちとげ)と1年以上も交際を続け、小咲(こさき)たちのグループと頻繁に遊びに出かけるくらいに女慣れしているのだ。

 

 ヤクザの息子だったり周りを固める少女のレベルが高かったりで、声をかけるなんてことはとてもできないが、意外なところで評価されているのだ。

 

 

 

 

 

 

「…………ん? そういえばその後輩の子は、2人が付き合ってるってウワサを知ったうえで、るりちゃんに相談してきたの?」

 

 舞斗(まいと)が変なところに気付いてしまう。

 

「もしウワサが本当でも、るりちゃんが相手なら勝てるって算段があったのかな?」

「いくら何でもそれは……」

 

 自分と相手を比較して、どこか1点でも勝っていれば自分の方が上だと思う人は案外多いものである。

 るりは小柄な上に細身であるため、見た目の女らしさという明確な弱点がある。そこを突かれた可能性は高い。

 

「恋は戦争、弱肉強食の世界ですわ」

 

 そこに現れたるは自称・恋する乙女の第一人者、橘万里花(まりか)だ。

 よく自爆している彼女であるが、その戦う姿勢については皆が認めるところである。

 

「意中の人を手に入れるためであれば、女は修羅にだって成れるんです!」

 

 男は修羅には慣れないから、ドン引きですがな────

 

 (らく)舞斗(まいと)の2人から声なき声が聞こえる。

 

「というわけで(らく)様」

「何が『というわけで』だ」

 

 流れで抱き着こうとした万里花(まりか)であったが、(らく)に頭を押さえられたために近づくことができなかった。

 彼女は身長が低いためリーチの差は如何(いかん)ともし難い。

 今はジタバタともがいているが、すぐに体力も尽きて大人しくなるだろう。

 

 と言ってるそばからダウンしてしまった万里花(まりか)を、いつものように本田へと預ける。

 

「白組がまた1人、脱落しちゃったね」

「あっ」

 

 まあコチラは体力が回復すれば復活するので、問題ないだろう。

 

 

 悪が滅びた後の体育祭は、実に平和に進行していくのであった。

 

 

 






童子「若頭の竜は叉焼(チャーシュー)会とビーハイブのどっちに付くか言うとりましたが、
   別に1人じゃなくて全員を嫁にすればええやないですか」

景勝「お、おう……しかしだな童子切。ハーレムエンドなんて夢のまた夢の話だぞ。
   (ユイ)先生だけでも厳しい状況なのに、その先生を含んでハーレムを成立させるなんて……」



大和「その信念があったからお前は今の地位までこれたのだろう。だがな童子切……
   ヒロインの中に実妹がいない事に絶望して心が折れた草薙の件は、お前も知っているだろう?」

大和「身近な人物がそういう状態になったと知ってもなお、分の悪いハーレムエンドに(こだわ)るその理由は何だ?」


童子「……」


童子「俺は幸せな結末っちゅうのが好きなんですわ」

童子「全員と結ばれるハーレムエンドなら、皆が幸せになれる。
   誰も悲しい思いをする事はない」

童子「この漫画のヒロインたちは絵本がモチーフなんやろ?」

童子「『お姫様と天使様たちは王子様と皆仲良く幸せに成りましたとさ』」



童子「こういう絵本のようなハッピーエンドっちゅうのも、たまにはええやないですか」


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