本当にせこい   作:七九六十

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12-02 修学旅行 行動計画

 

 

 

 班決めが終われば続いて班ごとに話し合いの時間である。

 

「ふ、ふふ、ようやくコレの出番ですわね!」

 

 自爆少女(まりか)も無事、同じ班になれたことに安堵していた。そしてお手製の旅のしおりを(らく)に向かって披露している。その厚みは10cmを軽く超えており、彼女のやる気を感じさせる。

 

万里花(まりか)ちゃん、すごーい」

「確かに凄いわね、万里花(まりか)

 

 小咲(こさき)千棘(ちとげ)がパチパチと手を叩いて褒めている。

 ちなみに小咲(こさき)はその量の資料を作成したことに対してであり、千棘(ちとげ)はその量の紙の束を持ち上げられたことに対してだったりするが。

 

()()()の京都巡りのしおり、ね……」

「班行動の修学旅行だというのは完全無視のようですね」

「それよりもあの閉じ方で、ページを開けるのかしら?」

 

 いつもの事である。

 

「京都には様々な恋愛祈願の神社やお寺があるんですよ~」

 

 万里花(まりか)はそう言ってページをめくり、地図を見せつつ一緒に回ろうとアピールに余念がない。

 

「ねえお姉ちゃん、なんで京都にこんなに恋愛祈願の神社が多いの?」

 

 (らく)と一緒に地図を覗き込んでいた千棘(ちとげ)から疑問の声が上がる。

 

「日本史での扱いから考えると、怨霊対策のオカルトスポットじゃないの?」

 

 アメリカ人である彼女からすれば、京都は歴史の教科書に出てくる存在である。

 文化の中心だった時代があるのは知っているが、基本的に焼き討ちに合う対象としか認識していない。

 

「それだとお客さんが来ないからね。縁結びを目玉にした方が客寄せになるんだよ」

「身も蓋もねーな、おい」

「この髪を抜いてな、(かずら)にしようと……」

「るりちゃん、そのネタは若い子には通じないと思うよ?」

「今の教科書からは外されたんでしたっけ」

 

 京都は怨念渦巻く魔都である。そんなところで縁結びとか、正気の沙汰ではない。

 逆に縁切りは効果がありそうだが、何かアウターゾーン的なしっぺ返しがありそうな気がする。

 

「そ、それでも(わたくし)は、(らく)様と縁結びの神社に行くんです!」

 

 万里花(まりか)は強い子である。若干涙目になりつつも、初志貫徹の構えである。

 

「まあ、そこまで言うなら……」

「!!?! でしたらココとココ、次にココで!!」

 

 班行動の希望として受理しようと思ったら、次から次へと湧いて出てきた。京都にある縁結び系の神社を網羅する勢いである。

 

万里花(まりか)、修学旅行は3泊4日よ?」

「しかも自由行動はその中でも限られた時間だけだな……」

 

 千棘(ちとげ)(らく)の言葉は届かない。しおりの中の地図を指差しつつ要望を挙げる彼女は止まらない。

 

「で、橘さん。どの順番で回るの?」

「……え?」

 

 こういう時は否定の言葉は届かなくとも、肯定を含む言葉は聞こえるものである。舞斗(まいと)の言葉によって、思考に空白が生まれる。

 

「回る順番でご利益(りやく)って変わるのかな?」

「食べ合わせみたいなものとかありそうね」

「宮本様は花より団子ですか?」

 

 追加で小咲(こさき)たちから変なキーワードが差し込まれる。

 

「自由行動の時間を最大限に効率よく使うと、いくつ回れるんだろうね」

「……………………」

 

 万里花(まりか)は長考の構えである。周囲の一切を締め出し、深く深く思考を巡らせる。

 

 彼女が静かになったところで、(らく)たちは場所を移して班行動の予定を立て始める。

 代表して千棘(ちとげ)が机に資料を広げ、その周りに各自椅子を持ち寄って集まった。

 

「えーと、決めるのは2日目の映画村での予定と、3日目の京都市内の予定ね」

「だね。どちらも制服着用みたいだから、あまり悪いことはできないね」

「お前は何をするつもりだったんだよ……」

 

 芸者遊びだって立派な文化体験である。

 

 ちなみに2日目の映画村は班行動ではなく完全なる自由行動である。集団行動を学ぶという建前は何処に行ったのだろうか。

 

「えーと、東映太秦(うずまさ)映画村は……」

 

 手元の端末でそれぞれが情報を集める。

 旅行誌とかパンフレットを紙媒体で手に入れていた時代は、皆で回し読みするしかなくて不便極まりなかった。良い時代になったものだ。

 

「マイちゃんは、どこに行きたいの?」

秩父(ちちぶ)山中……」

 

 単独でジャンプ可能なので聞く価値は無い。

 

「主にアトラクションとイベント……つまり和風遊園地ですね」

 

 (つぐみ)に身も(ふた)もない表現をされてしまったが、映画村はその名前の通り映画やテレビ番組の撮影を行うセットでもある。

 就学旅行のときに立ち会えるかは運次第だが、(なま)の撮影現場を楽しむこともできるのだ。

 

「結構いろいろあるのね」

 

 るりは真っ先にレストラン情報を開いており、忍者丼から手裏剣カレーまで幅広いメニューに満足している。

 

「……幅?」

「あ、変身体験だって。私コレやりたい!」

 

 (らく)の疑問は千棘(ちとげ)の声にかき消される。

 

「えーと、洋服の上から着物を……って、これだと飲食とアトラクションの利用ができない!」

「着物レンタルじゃなくて、こっちの時代衣装体験のほうはどうかな? 着替えてどこかで記念撮影して終わりって感じで」

 

 小咲(こさき)が示す方は着物だけではなく時代劇で使用するような衣装を取り揃えており、短い時間で返却するタイプのようだ。

 

「土方歳三とか宮本武蔵の衣装ってのは分かるけど、八百屋お(しち)って……」

「有名な方なんですか?」

「あれ、つぐみも読んでなかったか? あのマンガ」

 

 珍しく(らく)も知っているようだ。

 といってもマンガに登場したからであって、文芸作品や歌舞伎の演目としての知識は無いのだが。

 

「……え? お(しち)ってあのお(しち)ですか?」

「ああ、そのお(しち)だ」

 

 火事になったときに出会った男に再び会いたいがために放火事件を起こし、火あぶりの刑になった少女である。

 

「確かに、もっと他に無かったんですかね? 例えばイカ娘とか」

「いや、それも火あぶり……」

「火炎放射器である! かような芸当ができるのは」

 

 どちらにせよ、ろくなモチーフではない。

 

 まあそれはともかくとして、予定が1つ決まった。

 

「時間的にアトラクションは1つか2つかしら?」

「あ、オレは殺陣(たて)やってたら見たいんだが」

「……ふむ」

「?」

 

 千棘(ちとげ)(らく)のやり取りを見ていた舞斗(まいと)は、おもむろに小咲(こさき)を抱きしめる。

 

小咲(こさき)ちゃん! きみはどこにおちたい?」

「…………」

「いや、普通に行きたいとこ聞けばいいだろ」

 

 小咲(こさき)は答える代わりに舞斗(まいと)をギュッと抱きしめる。

 まるで大気圏に突入しそうな2人に(らく)からのツッコミが入る。

 

「あっ、ほら…… あれ! ながれ星!」

 

 るりは舞斗(まいと)小咲(こさき)を指差し、声を上げる。

 

(つぐみ)ちゃん、なにをいのったの?」

「えへへ、おもちゃのライフル銃がほしいって」

「そこの2人も続けるんじゃない」

 

 

 世界に戦争がなくなりますように……

 

 世界中の人がなかよく平和にくらせますようにって……

 

 

 

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