平和への祈りも
「
「
教員は生徒よりも集合時間が早い。そのため普段より前倒しで家を出ることになる。
いつもと違う時間に、いつもと違う道のりで。
ただそれだけで何か特別感がある気がする。
目指すは
何気にここ
クリスマスのときの空港? さすがにあれは市内ではないはず……
いやしかし、それほど体力のない
そんな街を縄張りにする
「……ん?」
「あれ?
ホームについてみれば、すでに数人の生徒の姿が見える。
そしてその中には
「2人とも早いねー!」
「それはこっちのセリフなんだが。何でまたこんな時間に」
朝からテンションの高い彼女である。どうせ修学旅行が楽しみ過ぎて、待ちきれずに家を出たのだろう。
「
「まあ普通はそうだろうな」
それでも余裕のある時間なのだ。気持ちは分かるが、あまり早く来すぎても引率の負担になるだけである。
ちなみに
というのも修学旅行の間はポーラが1人残されることになるため、ならばと小野寺家で預かってもらうことになった。それで昨日の夕方に
「私もお姉ちゃんのとこに泊まりたかったのに……」
「旅行の準備がなんもできてなかったお前が悪い」
そんな話をする2人に、他の教員との打ち合わせが終わった
女子は
「分かってたけどあんたって……」
「中学のときもこんなだったんだよな……」
イベントなどでテンションが上がると、どうしても特別に仲の良い者同士で盛り上がってしまうものだ。
特別に、どころか普段から仲が良い男子生徒というものが居ない彼は、こういう時にどうしてもその輪の中に入っていけないのだ。
とはいえ中学のときも1人だったわけではない。
修学旅行のあった2年生のときには、彼にも友人ができていたのだ。
「あんときも小野寺と……」
「私がどうかしたの?」
背後からの突然の襲撃に、
「あっ!
「
キャッキャッと手を取り合ってはしゃいでいる
「一条がこんなに大勢の女の子に囲まれているなんて」
「成長したわね、一条君」
「さすがは一条様です」
「………………好き放題言いやがって」
ようやく落ち着きを取り戻し、こっちにはツッコミを返すことができた。
「……で、その両手の袋は何だ?」
「もちろん駅弁だよ。とりあえず全種類制覇してみました」
「地元の駅弁って、こういう時じゃないと食べないから楽しみね」
「このために朝は軽くつまむ程度に抑えましたからね」
同時に周りが女子ばかりだった居心地の悪さも、いつものノリのお陰で解消する。
仲の良い者同士で集まるのは不安を紛らわせるためというのもある。
今の彼の状況はそれに少し近い。
「…………
そしてそんな油断した彼のもとに、最後の刺客が現れる。
周囲の生徒たちが思わず後ずさるほどの瘴気とともに。
「……見えましたわ、シャイニングロードが!」
手には1枚の紙を持ち、目の下には濃い隈を作った橘
これなら70
「スゲーけど、あまり褒めたくないのはナゼなんだろうな……」
彼女の差し出す紙、京都の地図に描かれた軌跡を見るだけでお腹いっぱいな
つーかこんなにあるんか、という呆れもある。
「
「ホント、すごいわね」
が、睡眠不足のせいだろうか。目を閉じた拍子に意識も飛びそうになってふらついている。
「巡回セールスマン問題というかナップサック問題というか……」
「素直に凄いと思うわ」
「さすがの執念ですね」
「セールスマン?」
いきなり関係のない単語が出てきて首をひねる
「数学の分野に、そういうのがあるんだよ」
組合せ最適化問題と呼ばれるものである。今回の場合、限られた時間内に訪問できる神社の数を最大化しよう、という感じである。
一見簡単そうに思えるが、実は一番良い答えは総当たりで探す羽目になるという、中々に難問なのだ。
「実際に運送業とか似たような状況はあるし、何なら『遠足のおやつは○○円まで!』ってのもそうだよね」
「なるほど、言われてみれば」
小さい頃に組み合わせで悩んだことを思い出す。消費税を考えてなくて破綻したとか。
黙っていればバレないので気にしなくてもいいのだが、この手のモノは制限を守った方が楽しいのだ。
「まあ普通は良い感じの答えが出た時点で妥協して、それほど計算に時間をかけないんだけど……」
「橘だしなあ……」
ベストを尽くすその姿勢は尊敬するが、正直なところその時間と労力を他に向けた方が、と思わなくもない。
分刻みどころか秒刻みの行軍表とか、修学旅行では見たくなかった。
「スタートがココで、なるほどこんな所にショートカットが……って、あら?」
「どうかしましたか?」
一緒になって地図を覗き込んでいたるりが、自分の端末を開いて何やら調べ始めた。
彼女の声に反応して同じく地図に目をやった
「んー?」
「つぐみちゃん、どうかしたの?」
そんな
何か問題があるのかと、自分でも地図をなぞってみる。
スタートとなる旅館を10時に出発して、まずは一番近い神社へ。
そこから蛇行しつつ市内にある寺社を網羅し、
最終的に京都市外にまで到達するが、しっかりと時間内に収まっている。
さすが
「あれ? これだと門限までに旅館に戻れないよね?」
「え?」
制限時間ギリギリに市外の神社に到達するのでは当然間に合わない。
「しかもそれぞれの寺社で参拝する時間が含まれていませんね」
「……え?」
秒数まで刻まれている移動時間を見ると、縁結びのための行動に割く時間が確保できていないのが分かる。
「そもそも途中から営業時間を過ぎてるわね」
「…………え?」
るりの指摘に
寺社の営業形態にもいろいろとあり、夕方には入り口が閉じてしまう場合もある。もしくは中には入れるものの、縁結びグッズの販売が終了している場合なんかもあり得る。
「昼食と夕食の時間も無いし、10時間も移動し続けるなんて無理でしょ」
「………………えぇ」
体力のない彼女では10時間の連続稼働は耐えられないのだ。
「
「橘……」
そもそも完璧なスケジュールを立てたところで、皆がそれに従うはずもなく。