本当にせこい   作:七九六十

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12-04 修学旅行 1日目

 

 

 

 気絶した万里花(まりか)を背負った本田を加えて8人となった一行は、新幹線の一角を占拠する。

 

「じゃあさっそく駅弁を」

「ちょっとお行儀が悪いけど」

 

 複数の弁当を統合し、沢山の味を楽しめるように組み直す。小咲(こさき)の優れた盛り付け技術により、元の弁当よりも見た目が豪華なものが出来上がる。

 ちなみに供給過多な米についても、るりと千棘(ちとげ)が食べるので問題ない。

 

「オレまでもらって良かったのか?」

「いーのいーの、こういうのは皆で楽しまないと」

 

 (らく)も弁当箱半分ほどのお裾分けをもらう。男子高校生であれば朝食をしっかり食べていても、これくらいなら余裕である。

 そしてそんな彼の横には気絶した万里花(まりか)が配置されている。こんなこともあろうかと本田が持参した薄手の毛布で(くる)まれて。

 

 ……この配置に深い意味は無い。

 あまりにも哀れだったからとか、そういう訳ではない。

 

「はい、本田さんも」

「ありがとうございます」

 

 (らく)の正面には舞斗(まいと)と、その横には本田が座る。

 そして通路を挟んだ4人席には小咲(こさき)たちが座っている。

 

「釜めしをまたずにこれを買ってよかった」

「お前は突然何を言い出すんだ」

「……岬様、今の若い人に『夜行(やこう)』ネタは通じないのでは?」

 

 ちなみに本田も世代ではない。

 

凡矢理(ぼんやり)市に駅弁に出来るような名物ってあったか?」

「まあそこは、有名店の作った駅弁ってことで」

 

 こういうのは地方のほうが分かりやすい特色が出ている。農業や漁業が盛んな場合、それをメインに組み立てやすいというのもあるが、地元の特産品をアピールするためでもある。

 そういった意味だと都会の駅弁は『美味しいけど、駅弁じゃなくていいよね?』という場合が多い。

 

「東京駅だと地方の駅弁も売ってるけどね」

「それはそれでどーなんだ」

 

 行先とは逆方向の駅弁を買うというのも楽しい。今回のように西に向かう場合、東北や北海道のものを選ぶのだ。

 

「ってオイ、なんでシウマイ弁当が増えてんだよ」

「そりゃあ新横浜で追加したからだよ」

 

 分身の術って便利だよね~と軽く返されてしまう。座席に座っていながら駅弁の補給ができるのだ。

 

「いやお前は何を、って本田さんも(うなず)いてるし……」

「以前、岬様より伝授いただきました」

 

 護衛兼お目付け役としては非常に便利な術である。

 

 そんな話をしながらそれぞれの駅弁を食べ比べていく。

 中にはハズレもあるが、それもまた旅の醍醐味(だいごみ)である。

 

「福岡ですと『かしわめし』でしょうかね。ご飯に鶏肉と錦糸卵、刻み海苔を盛り付けたものです」

「へー、それも美味(うま)そうだな」

 

 (らく)たちの通う凡矢理(ぼんやり)高校は普通の公立高校のため越境入学者はほぼおらず、他の地域について語れる者が居ない。せいぜいが旅行で訪れたとか、両親の実家に帰省したときの話くらいである。

 そのため関東から遠く離れた地である九州について語れる本田は、貴重な存在である。

 

 進学や就職で地元を離れる場合、こういった故郷の特産品を語れると話が弾む。

 そしていろいろと語った後に帰省すると、何故か新鮮な気持ちで再び地元を楽しめるようになるのがおもしろい。

 

 ……それはともかく、本来ここは本田ではなく万里花(まりか)が活躍する場面なのだが。

 

「はい、デザート」

「……あれ? 赤福って伊勢名物じゃなかったか?」

「先ほどの名古屋駅に売っていましたね」

 

 細かいことを気にしてはいけない。

 

「見かけるたびについ買っちゃうんだよね」

「分かる。餡子と餅の組み合わせなんて何処にでもあるのにな」

「博多名物『ぶらぶら』なんてものもありますね。あちらは求肥餅ですが」

 

 甘さや食感に工夫があって、似てるようで似ていない、しっかりとした個性があるのだ。

 まあ中には名前とパッケージが似ているだけの(まが)い物もあるのだが。

 

「あれ? 名古屋を過ぎたってことは……」

「もうすぐ京都に着くよ」

 

 凡矢理(ぼんやり)市を出て2時間ちょっと、ついに彼らは目的地である京都に到着する。ここからはクラス単位で複数のルートに分かれ、市内にある歴史的な建造物を巡ることになる。

 そして2日目の午後に東映太秦(うずまさ)映画村で合流して自由時間という日程である。

 

「前に来た時とは、だいぶ街並みが変わってるなー」

「マイちゃんは京都に来たことあったの?」

 

 京都に到着した一行は新幹線から降り、座りっぱなしで固まった身体を(ほぐ)す。

 

「10数年前の修学旅行と、それとは別にラーメンの屋台を出すためで2回ほどね」

「そーなんだー」

「いや小野寺、そこは流していいのか?」

 

 自分の理解出来ない発言を受け入れている小咲(こさき)に、思わずツッコミを入れる(らく)だった。

 

「……あれ? よくよく考えるとあの時はまだ平安京って呼ばれてたから、京都の訪問は厳密には1回だけ?」

「いやあの時っていつだよ」

 

 西暦904年、延喜4年。

 前年に没した菅原道真の祟りだとかで、色々と騒がしかったころである。

 

 まあそれはともかく。

 京都は駅からの徒歩圏内にもそこかしこに観光名所がある。新幹線に2時間も座っていたせいで元気の有り余っている高校生たちは、それを次々に制覇していく。

 といっても……

 

「あー、あれがかの有名な……」

「教科書で見たヤツだねー」

「写真とソックリだねー」

 

 という感想がほとんどだ。写真とそっくりというのもおかしな表現ではあるが、そうとしか言いようが無いのだ。

 高校生ならこんなものである。

 

「おー、ココがウワサの三十三間堂!」

「仏像と通し矢で有名だよね」

「それとココを全力で走り抜けると、神の領域に近づけるかもしれないんだよね」

「……え?」

 

 千棘(ちとげ)小咲(こさき)に続いて理解不能な発言が飛び出してきたため、(らく)の思考が停止する。

 

「……岬様、今の若い人に『究極超人あ~る』ネタは通じないのでは?」

「さらに元ネタの『スプリンター』が通じる人っているのかしら?」

サンデー作品(他紙のネタ)ですからねえ」

 

 ちなみに本田もそうだが、るりも(つぐみ)も世代ではない。

 そして本田に背負われたまま絶賛気絶中の万里花(まりか)からの発言は無い。

 

「……橘じゃなくて、本田さんが班員みたいになってねーか?」

「私は楽しめているので問題ありません」

「……そうですか」

 

 まあ橘だったら参加できなかったことなど気にもしないだろう、とも思うし、だったら一緒に楽しめる本田さんのほうがいいのでは、なんて思ってしまう(らく)であった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで無難な1日目を終えて旅館へとたどり着いた一行。

 さすがに入浴は男女別のためその時だけは1人になった(らく)であったが、それ以外は基本的に班で固まって行動しており、引き続きいつものメンバーで騒いでいる。

 これまでも夏休みに泊りで海に行ったり、(らく)の家で夜通し遊んだことはあったが、修学旅行はそれらとはまた違った楽しさがある。

 

「結局、食事も入浴も本田さんが代わりを務めてしまったな」

「堂々としていれば、人は意外と気にしないものです」

 

 万里花(まりか)は気絶中のため部屋の隅に寝かされている。そこに舞斗(まいと)が遮音・遮光の結界を張っているので、どれだけ騒いでも問題は無い。なので消灯時間までの自由時間、彼らはトランプで遊んでいたのだ。

 今は途中の休憩タイムである。

 

万里花(まりか)、明日は大丈夫なのかしら?」

「念のため背負っていきますが、恐らくは目を覚まさないでしょう」

 

 単なる睡眠不足で寝ているだけなので、起きたならそこから合流すればいい。

 これが持病から来る体調不良であればそのまま宿で寝かせていただろうが。

 

「ほんと、力の入れどころを間違えてるというか……」

「まあそれが持ち味ですからねえ」

 

 るりと(つぐみ)にとっては完全に他人事なのだが、それでももう少しどうにかできないのかという気持ちになる。

 

 それは本田としても同感なのだが、恋愛に関しては当人の本質に沿ったやり方で通さないと意味が無いのだ。他人からのアドバイスにより自分を捻じ曲げた結果で上手くいったとしても、長続きしないからである。失敗したときはさらに悲惨な状態になるというのもある。

 そのため万里花(まりか)のやり方が彼女の本質から逸脱しない限り、見守るしかない状況なのだ。

 

 ちなみに本田の見立てとしては、一条(らく)を墜とすのは簡単である。

 まずは友人として仲良くなって、自分たちが付き合ったとしても周りの人間関係が壊れないことを理解させて、そのうえで告白するのだ。

 彼はまだ友情のほうに重きを置いているため、それを尊重してやればいい。

 

 そういう意味では傍観者のるりと(つぐみ)のほうが、万里花(まりか)よりも可能性があると見ている。彼女たちにその気は無いが、すでに気安い友人としての関係ができているのに加え、(らく)自身も美人だと認めているのだ。可能性は高い。

 もちろん小咲(こさき)が出れば一発だが。

 

「ジュース買ってきたよー」

「お待たせ~」

 

 そんな事を考えていると、席を外していた舞斗(まいと)小咲(こさき)が戻ってきた。2人は先ほどのトランプの罰ゲームとして飲み物の補充に行っていたのだ。なお罰ゲーム対象者は最下位ではなく、ゲーム後に1位の人が引いたトランプの数字によって決まる。

 

「はい、一条の炭酸飲料」

「おおサン……ちょっと待て、生八ツ橋コーラってなんだよ」

「せっかくだし、限定品のほうが良いかなって」

 

 瓶のせいで色がそもそもコーラのモノではないことが見て取れる。

 ちなみに舞斗(まいと)も同じものを買ってきており、早速開けている。

 

「……あれ、意外と美味しい」

「なんでちょっと不満そうなんだよ」

 

 ためらいもなく飲んだことを少し尊敬しつつ、興味が湧いたので自分も飲んでみる。

 ……確かに意外と美味しい。色物として飲むと肩透かしを食う感じだ。

 

(らく)、私にも」

 

 千棘(ちとげ)がワクワクしながら待機していたので、そちらに渡す。見ればもう1つのほうは小咲(こさき)たちの試飲で既に無くなったようだ。値段の割に量が少ないのは、この手のモノとしてはお約束である。

 

「……あ、生八つ橋」

 

 以前に皆で行った大麻呂デパートの和菓子フェスタで食べた味を思い出す。

 彼女も1年以上を日本で過ごしているので、いろいろと体験しているのだ。

 

「笑える不味さで盛り上がってさあ後半戦だ、とか思ってたのに……」

「名前の割に、普通だったね」

「期待していたインパクトは無かったわね」

「味だけ考えれば、商品開発としては成功なんでしょうが……」

 

 ネタとして買うと、上がっていたテンションが急に冷めて真顔になってしまう感じである。人によっては美味しいのかなという、無難な感想に落ち着くような。常飲するには入手しづらく、量が少ないうえに高いというのは、飲料水としてはちょっと致命的な感じがする。

 値段だけ見れば缶コーヒーも同じようなものだが、そちらに食い込むのはちょっと考えられない味である。

 

「長崎のカステラサイダーも似たような感想でしたね」

「……なんだろう、確かに今とまったく同じ反応になりそうな予感がする」

 

 本田の言葉に卵風味の炭酸を想像する(らく)は、とりあえず千棘(ちとげ)の残した生八つ橋風味の炭酸を飲み干すのだった。

 

 

 

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