本当にせこい   作:七九六十

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12-05 修学旅行 2日目

 

 

 

「それでは皆さん、集合時間まで各自(かくじ)自由行動です。規則をしっかり守って楽しんで来てね~」

 

 というわけで2日目のメインイベント、東映太秦(うずまさ)映画村での自由行動である。昨日から引き続き午前中も歴史的建造物を横目に歩き回っていただけなので、ようやく遊べる状況になった生徒たちのテンションも上がる。

 

「……ねえ、マイちゃん。なんだか人数が増えてるような気が」

「たぶん忍者が変装して紛れ込んでるんだよ」

「たしかウチの学年は200人ちょっとだったはずよね?」

「1列の人数と列数から見て、2クラス分くらい増えてそうですね」

 

 一部で不穏な会話があったが、入り口前に整列していた生徒たちは担任の案内に従って映画村に入場していく。

 団体行動を学ぶはずの修学旅行でなぜか単独行動のイベントだが、(らく)たちはそのまま班で行動を開始する。事前に計画していた通り、貸衣装に着替えて記念撮影である。カツラやメイクは付けず、衣装のみにしている。でないとパッと見で誰が誰だか分からなくなるからだ。

 

「お正月の振袖とはまた違うのね」

千棘(ちとげ)ちゃんは赤が似合うよね」

「なんで私は子供用なのかしら」

「………………」

 

 まずは町娘に扮する4人、千棘(ちとげ)小咲(こさき)・るり・万里花(まりか)(気絶中)である。

 原色の派手目な着物ではあるが、御目見得以下娘(おめみえいかむすめ)ほどには着飾っていない。多少は歩き回れる衣装となるとここら辺りが無難だと選んだ感じだ。

 

「こういう時って、馬子にも衣裳とか言って顰蹙(ひんしゅく)を買うのがお約束なんだけど……」

「オレに何を期待してんだよ」

 

 着飾った彼女たちに見とれていた(らく)であったが、舞斗(まいと)の言葉で正気に戻る。

 自宅では普段から着流し姿の彼は、今回は少し気合を入れて暴れん坊将軍的な衣装を選んでいる。髪も普段のボサボサ状態ではなく、千棘(ちとげ)ママの下で働いていた時のように固めて後ろに流している。

 なお額の傷跡は見当たらない。愛と誠までとは言わないが、たまには出てきて欲しいものである。

 

「一条様」

 

 (つぐみ)が真剣な声色で呼びかける。

 何事かと緊張が走る。

 

「一条様は町娘の格好のほうが……」

「いや、何でだよ」

 

 元日本人最強大関、大景勝(だいけいしょう)からのリクエストである。

 オマケ程度の立ち位置なのに割と酷い性癖をぶちまけている人だったりする。

 

 実妹推しの草薙(くさなぎ)、人妻推しの百乃花(もものはな)、ハーレム推しの獅童(しどう)、先生推しの金鎧山(きんかいざん)

 

 あの横綱から『最早まともな奴なんて誰もいねえ』と言われる現役大関たちですら、彼に比べるとマシなのではと思えてしまう。

 

「で、つぐみは町娘じゃないんだな」

「素浪人がコンセプトです」

 

 白い着物に青い袴、白い足袋(たび)。そして腰には一本の刀。

 実にシンプルにまとめている。

 

「一条君」

 

 るりが真剣な声色で呼びかける。

 何事かと緊張が走る。

 

(つぐみ)ちゃんにお酒はダメよ」

「いや、何の話だよ」

 

 (らく)には通じなかったようだ。

 

「これなら分かるでしょ」

 

 そう言って(つぐみ)の横に舞斗(まいと)が立つ。

 その姿は……

 

「ピンクのミニ丈チャイナドレス? そんなものあったのか?」

 

 腕の部分は白く、袖口は広がっている。

 腹部には白い布が巻かれ、背中側に武器となる棒が差してある。

 

 貸衣装にこんなものは無かったはずなのだが。

 

「………………」

 

 それにしても、丈が短い。

 普段は万里花(まりか)と同じく膝丈のスカートなので、こうして太ももが見えるだけで……

 

「一条君」

 

 小咲(こさき)が真剣な声色で呼びかける。

 ヤバい視線の先がバレたかと緊張が走る。

 

「草木豊かな大陸生まれ 使う拳法猫鉄拳(ねこてっけん)だよ」

「いや、何の話だよ」

 

 泣く子も黙る正義の美人である。

 

「ちなみに2000年ごろのネタなんだけど」

「いや、オレらまだ物心つく前じゃねーか」

 

 分かるはずがない、と次に話題を移す。

 

「本田さんは……坂本龍馬?」

「正解です」

 

 紋付きの黒い半着に薄墨色の袴、そして大小2本の刀。

 何気にこの中では一番の長身(176cm)なのも相まって、妙に迫力がある。

 

「でも、何で靴なんですか?」

「え?」

 

 ただし足元はリーボックのスニーカーである。

 

「坂本龍馬、記念撮影、高校生。ここまで揃えばスニーカーが必須では?」

「え?」

 

 (らく)は本田の発言が理解できない。

 

「……岬様、どうしましょう。一条さんに伝わりません」

「うーん、まさかコレも通じないとは……」

「え? オレが悪いの?」

「お姉ちゃん、私も分かんない」

千棘(ちとげ)ちゃんはアメリカ育ちだからねー」

 

 同じ境遇の(つぐみ)が理解できているのは、日々の調教もとい教育の賜物である。

 

「ちなみに1994年ごろのネタなんだけど」

「いや、オレらまだ生まれる前じゃねーか」

 

 分かるはずがない、と次に話題を移す。

 全員分の衣装の紹介は終わったので、記念撮影である。

 

「橘はどうすんだ?」

 

 絶賛気絶中の万里花(まりか)である。

 本田が背負ったまま撮影するのはどうかと思い、(らく)はどうするのかと問う。

 

「ご心配なく」

 

 (つぐみ)万里花(まりか)を支え、本田は彼女の身体に糸を括り付けていく。

 そして準備が終わると少し距離を開けて立つ。

 

「太郎丸!!」

 

 勢いよく両手を動かすと、それに合わせて万里花(まりか)が起立し、姿勢を正す。

 その人形染みた動きは、すこし不気味である。

 

「え……?」

「本田さん、そっちは座って操作する方だよ」

「そうでした」

 

 他紙ネタのため状況を理解できない(らく)を置き去りに、テイク2である。

 もう一度(つぐみ)万里花(まりか)の身体を支える。

 

「あるるかん。」

 

 本田が振り上げた両手の動きに合わせ、再び万里花(まりか)が大地に立つ。

 

(セント)ジョージの剣。」

 

 さらに糸を繰ると万里花(まりか)の右腕から折り畳み式の刃が飛び出す。

 大振りのギザギザとした凶悪なヤツである。

 

「……………………おい」

「失礼しました。つい勢いで」

 

 少々アクシデントはあったが無事に記念撮影を終え、一行は引き続き映画村を満喫するのであった。

 

 

 

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