本当にせこい   作:七九六十

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12-06 修学旅行 3日目 前半

 

 

 

 そして修学旅行3日目。

 ついに恐れていた事態が発生する。

 

「橘万里花(まりか)、復活ですわ!!」

 

 朝の支度中に、部屋の中央で仁王立ちして叫ぶ。

 2日ほど気絶するように寝ていたため、体力が完全回復したようだ。

 

「さて(らく)様、本日は──────」

「そういえば先ほど、変な話を聞きまして」

「変な話?」

「はい、何でも10数年前にこの近くで天狗(てんぐ)が出たとか」

「テング? さすが京都だな」

 

 万里花(まりか)が何やら(らく)に話しかけようとしたが、彼は(つぐみ)の持ってきた話題のほうに食いついてしまった。

 

「テングって、日本の妖怪だっけ? 赤い顔で鼻の長い」

「そうね、山伏の格好で一本歯の下駄と羽団扇(はうちわ)が特徴ね。昔は鳥のクチバシをしたカラス天狗(てんぐ)のほうが主流だったようだけど」

 

 由来も含めていろいろな姿の天狗(てんぐ)が居るが、一般的にはこの2種が有名である。イメージキャラクターとして一部で使われていたりするので、千棘(ちとげ)も見たことがあった。

 

 今回の天狗(てんぐ)はどちらなのかと、るりは視線で問う。

 

「それがですね、木刀を持って天使を従えたプロレスラーのような天狗(てんぐ)だったらしくて」

「……テング?」

「それのドコに天狗(てんぐ)の要素があるんだよ」

 

 小咲(こさき)はイメージ化に失敗したようで、首を(かし)げている。

 (らく)も受け入れることはできなかったようだ。

 

「……………………うふふ」

 

 舞斗(まいと)はその特徴を持った3人組に心当たりがあるのだが、そこまで面識があるわけではないのでコメントは差し控えた。

 

「どうやらリゾート開発を強引に進めようとしていたヤクザを()らしめたとかで、感謝を込めてお供え物を捧げている人たちもいるとか」

「…………ヤクザが関係しているなら一条さんの伝手で、真偽を確かめられませんか?」

集英組(うち)はさすがに関西方面の伝手は無い……いや、(ユイ)姉の叉焼(チャーシュー)会ならもしかして」

「──────って、人ん話ば聞いてくれんね!!?」

 

 本田も含めて天狗(てんぐ)について盛り上がっているのを見て、万里花(まりか)は叫び声を上げる。

 まあ彼らからしてみれば、万里花(まりか)の明らかに独り善がりな発言が始まりそうな気配を察知して興味を失っていたのだが。

 

「……で、橘。何の話だ」

 

 周囲から押し付けられたのと、どうせ橘は他の人の話は聞かないだろうという諦めから、(らく)が代表して相手をする。

 

「はい、本日の市内散策ですが、(わたくし)と2人で」

「却下だ。今日は班行動だ」

 

 ようやく(らく)と話ができると喜び勇んで語り始めた万里花(まりか)であったが、出だしで切り捨てられる。

 思ったよりも強い口調に少し(ひる)むも、彼女は止まらない。

 

「なんと言いますか、(わたくし)たちはそれぞれ見たいモノも行きたい場所も違うではありませんか。それでは効率も悪いし、もったいないと思いません?」

 

 理論武装して、再度(らく)に立ち向かう。

 

「ですから、今日は皆さんそれぞれ自由行動に」

「ダメだ。オレは皆と食い倒れツアーに行くんだ」

 

 班行動、というか仲の良いメンバーでの観光というものに(こだわ)(らく)としては、到底受け入れられない提案である。

 その意味では万里花(まりか)の『(わたくし)たちはそれぞれ見たいモノも行きたい場所も違う』というのは合っている。(らく)万里花(まりか)で別行動の方が効率が良い。

 

「あれ? 食い倒れは大阪で、京都は着倒れじゃなかった?」

小咲(こさき)ちゃんの言うことは正しいけど、今日の予定を見てごらん」

「……おかしいわね、いつの間にか飲食系のお店ばかり並んでるわ」

「8割方は宮本様とお嬢のリクエストなんですが」

「え?! わ、私はそんな!?」

「有名な観光スポットも併設されていますので、そちらも楽しめますよ」

 

 併設しているのは逆である。

 

 まあそれはそれとして、その後も手を変え品を変え(らく)を説得しようとする万里花(まりか)であったが、そのすべてに失敗した。割と流されやすい(らく)だが、今回は自分の意見をはっきりと示している。一生に一度の修学旅行なのだから当然と言えば当然ではあるが。

 

 なので万里花(まりか)は最終手段に出た。

 畳の上で正座をし、深々と頭を下げる。

 そして、自分の中では譲歩に譲歩を重ねた提案を行う。

 

「どうか、どうか一ヶ所だけでも、行先に縁結びの神社を加えて……」

「それなら良いぞ」

 

 拍子抜けするほどあっさりと通った。

 

 別にこれは万里花(まりか)の土下座が効いたわけではなく、単に彼女も班員なのだから行先をリクエストする権利がある、というだけである。

 これは事前に他のメンバーとも話し合っており、もし万が一、奇跡的にも班行動として要望を出してきたら受け入れることになっていたのだ。

 

 つまりは班決めのときであれば「ココに行きたい」「いいよー」で済んでいた話なのである。それなのに自由行動の時間をすべて自分のために使おうと欲張った結果が、今回の大惨事を招いたのだ。

 

 

 

 というわけで、縁結びの神社が本日の行先に追加されたのだが。

 

阿波弥大参寺(あわやだいさんじ)……?」

 

 あまりにもな名前に、(らく)は提案を受けたことを少し後悔する。

 まさに橘のことじゃねーか、とまでは(くち)にしなかったが。

 

「縁結び、だよね?」

「厄除けじゃないの?」

「確かに万里花(まりか)には厄除けも必要な気がする……」

「失礼な! 恋愛成就率、奇跡の9割越えの(スーパー)縁結び神社ですわ!!」

 

 小咲(こさき)たちも疑問に思うが、万里花(まりか)は自信たっぷりである。

 寺なのか神社なのか、神仏習合っぷりもイイ感じである。

 

「場所は……マイちゃん様、ちょっとルートから外れるみたいです」

 

 神社の縁結びパワーに興味を持つ輪から外れ、(つぐみ)舞斗(まいと)、本田は予定の再検討を行う。ルートとはいっても、ざっくりとしたエリア分けを行ってそれをどの順番で回ろうか、程度のものなのだが。

 例えば伏見稲荷大社(ふしみいなりたいしゃ)の周辺とか、錦市場(にしきいちば)といった感じである。

 

「んー、一番近いのは昼過ぎに行く予定のとこか……」

「それまで万里花(まりか)お嬢様の忍耐、もとい体力は持ちますかね?」

 

 問題は万里花(まりか)の協調性である。

 道中を一緒になって楽しむのであれば良いのだが、一切の興味を持たずに後ろをついてくるとか、早く行きましょうと急かされるとかだと、舞斗(まいと)たちも観光を楽しむどころではなくなる。

 

 もちろん体力が心配なのも少しはあるのだが。

 

「橘さんにも、修学旅行を楽しんでもらいたいんだけど……」

 

 まあ無理であろう。

 彼女は修学旅行になど興味は無く、自分と(らく)の、いや自分のことしか考えていないのだから。

 

 ならば最初に済ませてしまおう。

 そうしたら満足した万里花(まりか)は勝手に離れていくだろうし。

 

 小咲(こさき)たちのような良い子には聞かせられない密談を済ませた3人は、今日の予定を組み直すのだった。

 

 

 

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