本当にせこい   作:七九六十

61 / 82
12-07 修学旅行 3日目 後半

 

 

 

「というわけで、やってきました阿波弥大参寺(あわやだいさんじ)

「…………え?」

 

 3日目の自由行動が始まり、それぞれ宿を出ていく生徒たち。

 それに混ざって出発した直後に景色が切り替わり、いつの間にか道路に面した歩道に立っていた。

 万里花(まりか)の脳みそは処理が追い付いていない。

 

「…………え?」

「寺はどこだ……って、もしかしてこの階段の上か?」

「うわー……」

「え、何この角度」

 

 慣れている面々は状況把握が早い。

 しかし、だからと言ってすべてを受け入れられるわけではない。

 

「これは、ほとんど垂直では?」

万里花(まりか)お嬢様は、この試練を乗り越えることができるのでしょうか」

「まあ、さすがに目の錯覚だろうけどね」

 

 女性客で賑わう縁結びの神社の入り口が、こんなアグレッシブなはずがない。

 そういうわけで垂直に見える階段を登り切った一行を出迎えたのは、立派な鳥居と狛犬に本殿。

 

「……神馬(しんめ)もあるのか」

「お寺の要素は……?」

 

 何がどう縁結びなのか分からないが、せっかく来たのだからと周囲を見て回る。

 

 そして、こっそりとその輪の中から抜け出る万里花(まりか)

 まあ気付くものは気付いているのだが、気配を感じ取れる距離に居るのならと好きにさせている。

 

「名前の割には普通だね」

「でも、やけに境内が広くて殺風景ね」

 

 縁結びに興味のない小咲(こさき)とるりはのんびりと見学している。

 

「あれは何をしようとしているのでしょうか」

「さあ……」

 

 (つぐみ)と本田は別のところが気になっている。

 万里花(まりか)が何やら弓を抱えて戻ってきたのだ。

 

 そして彼女は矢をつがえ、足踏みを始める。

 そして胴造り、弓構(ゆがま)えと続いていく。

 

「やけに堂に入った構えですね」

万里花(まりか)お嬢様は代々続く武家の跡取りですので、弓道も修めています」

 

 神社の境内で、人に向かって弓を構えるという非常識な行動を取っている万里花(まりか)

 いや、神社の境内でなくとも人に向かって弓を構えるのは非常識だが。

 

 そして躊躇(ためら)いもなく矢が放たれる。

 

 その先には(らく)の姿がある。

 彼はまだ気づいていない。このままでは確実に当たる。

 

「もらった!!」

 

 勝利を確信した万里花(まりか)であったが、その背後から声が聞こえる。

 

辵家(チャクけ)棍法 旋曲弾(せんきょくだん)!!」

 

 凄まじい勢いで飛来した鉄球が彼女の真横を通り過ぎる。

 そして進路を変えて弧を描いて上昇した後に急降下し、矢を地面に叩き落してしまった。

 

「さすがはマイちゃん様。弓に対する返礼というわけですか」

「恐るべき伝説の秘技ですね」

 

 まるで呉竜府(ごりゅうふ)もといゴルフのスイングでも行ったかのような体勢の舞斗(まいと)。傍観者2人にとっては『凄いものを見た』というだけの話だが、万里花(まりか)にとっては違う。必殺の一撃を邪魔されたのだ。

 

「ちょ、何をするんですか!?」

「それはこっちのセリフなんだけど」

 

 舞斗(まいと)としては友人が射殺(いころ)されそうだったから止めただけである。

 纏欬狙振弾(てんがいそしんだん)万里花(まりか)ごと貫かなかっただけマシなのだ。

 

「これは縁結びのアイテムです! 痛いのは一瞬だけで、何も問題ありません!!」

 

 ここ阿波弥大参寺(あわやだいさんじ)が恋愛成就率9割超の(スーパー)縁結び神社と呼ばれているのは、これのお陰である。

 神主が超強力な縁結びの(まじな)いをかけたもので、女が男をこの矢で射ることで効果が出るのだ。

 

「……確かに、そんな《(ちから)》が込められてるね」

「でしょう、って、え?」

 

 分かるのかコイツ、とちょっと万里花(まりか)(おのの)く。

 今さらである。

 

「でもさ、じゃあなんで1割に満たないとはいえ失敗してる人が居るんだろうね」

「……え?」

 

 彼女としては9割=スゴイで単純に捉えていたため、そこは疑問に思わなかったのだが。

 

「そりゃあ、おまじないを理由に弓で射ってくる人はちょっと……」

「しかも無関係な人に当たるかもしれない状況で、ですからねえ」

 

 (つぐみ)と本田に顔を向ければ、そんな事を言われ。

 

「それも遠距離から全力でスナイプとか、ケガじゃすまないようなことをするのは……」

万里花(まりか)ちゃん…………」

 

 るりの言葉もそうだが、優しさ代表のような小咲(こさき)がフォローも無く引き気味なのが地味にダメージになり。

 

「伝説の樹の下に呼び出して失敗するって感じだよね」

「…………」

 

 呼び出しに応じた、つまり縁結びの神社に男女で来た時点で成立したも同然だったのに、それでも1割は失敗する。

 つまり、その後の行動に問題があって離れていったというわけだ。

 

「たぶん、あれが正しい使い方なんじゃないかな」

「……え?」

 

 舞斗(まいと)が指差す方に目を向ける。

 そこには彼女と同じく弓と矢を手にした千棘(ちとげ)の姿。

 

 ただし両手に持っているものの(つが)えてはおらず、矢の先端で隣の(らく)をツンツンしている。

 (らく)のほうも苦笑しつつも満更でもない様子で受け入れている。

 

「お嬢、カワイイです!」

「真っ赤になって照れながらも、しっかり完遂しているのがポイントですね」

 

 (つぐみ)と本田からの評価は高い。

 

「なんかもう、見てるコッチが恥ずかしいわね」

千棘(ちとげ)ちゃんカワイイ!」

 

 るりと小咲(こさき)も満足な様子。

 

「………………………………」

「橘さん? ……あ、ダメだこれ、気絶してる」

 

 どうやら現実を直視できず、ブレーカーが落ちたようだ。

 舞斗(まいと)が彼女の顔の前で手を振るが何の反応も返さない。

 

「なんかもう、橘さんの()()()がマイナスにしかならない……」

万里花(まりか)ちゃん、がんばってるんだけどね……」

「普通なら一途な少女としての魅力になるはずなのに……」

「一条様のことを考慮しないせいで空回りしてますからね……」

 

 もう少し、(らく)のことを考えて行動できたのなら。

 もう少し、周りの意見に耳を(かたむ)けられたのなら。

 

「……万里花(まりか)お嬢様は、お独りで、自分の力で立ち向かうと決めてしまいましたから」

 

 事情を知る本田としてはもどかしいものではあるのだが。

 助けを必要としていない者を、助けることはできないのだ。

 

 

 

 そんなわけで少し想定とは違ったが万里花(まりか)が無事死亡確認(ワンターレン)されたため、再び本田が背中に担ぐ。

 

「あれ? 橘はどうしたんだ?」

 

 そこに(らく)たちも合流してきた。

 万里花(まりか)はまあいつもの事なので、そこまで気にしていないようだが。

 

「じゃあ、改めて食い倒れツアーに出発しようか」

「豆腐のソフトクリーム! 逆さにしても落ちないヤツ!」

「お豆腐なら、とうふまんじゅうも美味(おい)しそうだよね」

「湯葉チーズと湯葉クリームコロッケも美味(うま)そうだよな」

伏見稲荷(ふしみいなり)のいなり寿司は、やっぱり本場の味なのかしら?」

「本場と言えば、みたらし団子もそうでしたっけ」

「宇治抹茶のわらび餅も食べたいですね」

 

 ごじょうぎぼし最中(もなか)が、金ごま団子がと盛り上がる一行。

 夕食として予約している料亭を含めて、自由行動の時間をフル活用して食べ歩く構えである。

 

 そうなると邪魔になるのが万里花(まりか)(気絶中)の身柄である。

 

「じゃあ、こうしよっか」

 

 そう言って舞斗(まいと)が左手を目の前にかざす。

 

4次元マンション(ハイドアンドシーク)

 

 念で作られた空間への出入りを可能にする能力である。

 オリジナルと違うのは壁や地面を利用する必要はなく、空中に直接穴を開けられるところだろうか。

 

 制約と誓約?

 そんなもの、圧倒的な(パワー)があれば必要ない。

 

「この手の能力は、1回見ると大体マネできちまうんだ」

「いや、その1回をどこで見たんだよ」

 

 とりあえずココに万里花(まりか)(気絶中)を放り込んでおく。

 

 またこの能力は食べ歩きにも便利である。

 食べ歩きは『歩きながら食べる』わけではない。店内か、店の前のスペース等を利用するのだ。そのため確実に食べる場所があるとは限らず、この手の能力が非常に役に立つ。皆で手分けして買い込んで、周囲を気にせずゆっくりと食べられるのだ。

 お土産を保管しておくのにも使えるし。

 

「……にしてもこの旅行の間、食べてばっかだな」

 

 帰りの新幹線でも京都駅で買い込んだ特産品をいろいろと食べる予定である。

 

 (らく)のそんな何気ない(つぶや)きに反応した少女が居る。

 そりゃあもう分かりやすく、身体をビクッとさせて。

 

「大丈夫だよ。これからの移動(ワープ)にコストとして余剰カロリーを支払うよう設定したから」

 

 別にコストが必須というわけではないのだが、どうせならという感じである。

 

「だから、いくら食べても問題ないよ」

「マイちゃんっ」

 

 小咲(こさき)舞斗(まいと)をギュッと抱きしめる。

 この中で唯一の、普通の少女である。

 

 

 

 (らく)はその理由を察するも、懸命にも(くち)をつぐんだ。

 

 小野寺は細いんだから、もっと食べたほうがいいんじゃないか。

 

 そんな事を思っていても、(くち)にしてしまえばいろいろと問題を引き起こすことを理解しているのだ。

 彼は大人しく、千棘(ちとげ)に腕を引かれて歩いていくのだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。