「で、それに対して上手く返せなかったと」
「ああ……」
翌朝。
教室にて
彼女は発言を終えた直後、倒れてしまったのだ。
「本田さんは、極度の緊張から来るストレスに身体が耐えられなかったんだろうって」
それだけ真剣な想いが込められていたということでもあるのだが、同時にそれだけ身体が弱っているということでもある。
そしてその時に、気になる事も言っていた。
『限界です、お嬢様。母君様より拝命した監視役としての務め、果たさせていただきます』
それは普段のような、帰宅を促すための物言いではなかったように聞こえた。
その証拠に
彼女の座席を確認するも、姿は見えない。
今日も休みなのだろうか……
「あ、
「おーい、
教室に担任の
「えー……と……」
何かあったようだが、
それでも伝えないといけないと思ったのか、事実だけを簡潔にぶつけてきた。
「橘
そりゃあもうクラスは大混乱である。
最近は休みがちで顔を見る機会が減っていたとはいえ、
「えっ、ちょ、
「オレにも分からん、とにかく電話……!」
「……ダメだ、つながんねー」
しかし、何の情報も得られない。
電源が切られているようだ。
「そうだ、お姉ちゃんなら……って、あれ?」
このタイミングで全員が居ないということは、絶対に何か知っているはず。
『もしもし?』
「みさ……って、つぐみ?」
お目当ての人物ではなく、代理で
彼女も事情を知っているようなので、一度場所を変えて詳しく聞くことにする。教室ではこれから授業が行われるのだ、邪魔になってしまう。
そんなわけで
「まず、橘が転校したってのは本当なのか?」
『はい。表向きは体調の悪化により、九州の実家に戻ったことになっています』
実際に通学ができないほどに病が進行しており、これは嘘ではない。
しかし話はこれだけではないのだ。
『実家に戻った後は、すぐに結婚する手はずになっています』
「は? けっこん? ……もしかして結婚か?」
突然現れた単語を、すぐには理解できなかった。要は政略結婚である。古くから続く家ではよくあることだ。
とはいえ明後日には行われるというのは、いくらなんでも急すぎるが。
「……橘は、それを受け入れたのか?」
『自分で選んだ、という意味ではそうですね。ただし他に選択肢はありませんでしたが』
九州の実家に残り、近いうちに結婚か。
果たしてこれは、自分で選択した結果といえるのだろうか。
「オレは…………」
『他所様の家庭のことですよ?』
言葉に詰まる
確かにそうだ。
これは橘親子の問題であり、他人が口出しできることではない。
結婚という人生を左右するようなことなら
しかし、本当にそうなのだろうか。
「……いや、違う。友達だから……」
それは他人なら許されるが。
「オレは、橘を助けたい」
困ったときに手を差し伸べることができなくて、何が友人か。
家庭の事情により友人というものに深い思い入れがある彼にとっては、そういうものなのだ。
それを聞いた
「よく言ったわ! 私たちで
思ったよりも勢いが強かったらしく、
気合も入ったので問題ない。
「でも具体的にはどーしよ?」
「うっ……」
2人は顔を見合わせる。
今のところ、具体的なプランは何もない。
とはいえ別にすべてを彼らが考える必要はない。
やりたいと思ったことを
『大丈夫ですよ。マイちゃん様がいろいろと準備してますし』
「……さっきから気になってたんだが、お前らが学校に来てないのってもしかして」
『はい。私たちは九州は福岡の、具体的には橘本家の近くに居ます』
「オイちょっと待て、いくらなんでも行動が早すぎないか?」
訳が分からない移動方法があるので、福岡に居るのはまだ分かる。
しかし何故、
『昨日、本田さんから話を聞いてすぐに行動を開始しましたから』
「……なるほど。情報源はソコだったんだな」
その時点でコチラにも教えて欲しかった。
『マイちゃん様が言ってましたよ。コチラから話したら、一条様は絶対に皆の意見に流されるって』
「さすがお姉ちゃん。
「おい、オレはそんなに流されやすくはない……はず…………いやでもそう言われるとそうかもしれない……」
一方で
彼には明確な参加理由が、この時点では無いのだ。
今回は問題が問題なだけに、流された結果ではなく自分の意思で決めて欲しかったのだ。
そのため朝の学校で転校の話を聞いた直後に電話してきたら、事情を話す。
もしも時間をおいて様子見するようであったら、すべてが終わった後で結果だけを話す。
そう決めていたのだ。
『お嬢は一条様が迷ったときに、発破をかける役割だったそうです』
「発破って、ダイナマイトでいいのよね?」
「
後悔しそうな選択肢に対する保険としての配置だったが、恐らく不発に終わるだろうというある種の信頼があった。
「じゃあ、私たちも福岡に向けて出発!」
「どうやってだよ」
日本の地理に関しては
「京都に行ったときみたいに新幹線?」
「待ち時間を含めても飛行機のほうが早いか?」
座っている時間が短い方が楽なので、飛行機のほうが良いか。
『でしたらまず、昇降口まで移動してください』
「ん?」
よく分からないが素直に従う
『そうしたら下駄箱の…………小野寺様のとこですね、そこを開けてください』
「え?」
よく分からないが素直に従う
……なぜだかドキドキする。
「
「さあ開けるぞ~!」
中には
取り出して開いてみると、福岡行きの飛行機のチケットが2枚。今から帰宅して準備後に空港に向かうとピッタリの時間である。
『では福岡空港にお迎えに上がりますので』
「おい待て」
なぜこうもコチラの行動を先読みしたようなものが出てくるのか。
『タネを聞けば単純ですよ。例えばマイちゃん様のとこを開けてみてください』
「岬の?」
よく分からないが素直に従う
……なぜだかドキドキするが、
中には同じく一通の封筒、そして先ほどの1便前のチケットが2枚。
『私と宮本様のところにも後発のモノを仕込んでありますよ』
「いや、確かに単純だが……」
無駄に終わるかもしれない準備に、何万円もかける不安感。
そしてその仕事を完璧にやり遂げたときの安堵感……
『至上の快楽だ』
「
まさにインフィニティである。