本当にせこい   作:七九六十

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13-02 九州動乱 前兆

 

 

 

「で、それに対して上手く返せなかったと」

「ああ……」

 

 翌朝。

 教室にて千棘(ちとげ)と会った(らく)は、彼女と別れてからの出来事を話す。

 

 万里花(まりか)の想いに対して、自分の気持ちをすべて伝えようとしたのだが。

 彼女は発言を終えた直後、倒れてしまったのだ。

 

「本田さんは、極度の緊張から来るストレスに身体が耐えられなかったんだろうって」

 

 それだけ真剣な想いが込められていたということでもあるのだが、同時にそれだけ身体が弱っているということでもある。

 

 そしてその時に、気になる事も言っていた。

 

『限界です、お嬢様。母君様より拝命した監視役としての務め、果たさせていただきます』

 

 それは普段のような、帰宅を促すための物言いではなかったように聞こえた。

 その証拠に万里花(まりか)が激しい抵抗を示したのだ。

 

 彼女の座席を確認するも、姿は見えない。

 今日も休みなのだろうか……

 

「あ、(ユイ)先生おはよー」

「おーい、HR(ホームルーム)始まんぞ~~」

 

 (らく)が妙な胸騒ぎに気を取られている間にも時間は進む。

 教室に担任の(ユイ)が入ってくるが、どうにも様子がおかしい。

 

「えー……と……」

 

 何かあったようだが、(ユイ)自身が事態を飲み込めていないのか、うまく言葉が出てこないようだ。

 それでも伝えないといけないと思ったのか、事実だけを簡潔にぶつけてきた。

 

「橘万里花(まりか)さんが、昨日をもちまして転校する事になりました」

 

 そりゃあもうクラスは大混乱である。

 最近は休みがちで顔を見る機会が減っていたとはいえ、万里花(まりか)はクラスメートである。それが昨日付けで転校、つまりもう会えないと言われたのだ。

 

「えっ、ちょ、(らく)、どーゆーことっ!?」

「オレにも分からん、とにかく電話……!」

 

 (らく)は端末を取り出し、万里花(まりか)に電話をかける。HR(ホームルーム)中ではあるが誰も(とが)める者はおらず、それどころか全員が固唾を飲んで見守っている。

 

「……ダメだ、つながんねー」

 

 しかし、何の情報も得られない。

 電源が切られているようだ。

 

「そうだ、お姉ちゃんなら……って、あれ?」

 

 千棘(ちとげ)が辺りを見回すも、舞斗(まいと)の姿は無い。万里花(まりか)に気を取られていたため気が付かなかったが、そういえば今日は小咲(こさき)たちも姿が見えない。

 

 このタイミングで全員が居ないということは、絶対に何か知っているはず。

 (らく)は急いで電話をかける。

 

『もしもし?』

「みさ……って、つぐみ?」

 

 お目当ての人物ではなく、代理で(つぐみ)が電話を取ったようだ。どうやら今は手が離せないらしい。

 彼女も事情を知っているようなので、一度場所を変えて詳しく聞くことにする。教室ではこれから授業が行われるのだ、邪魔になってしまう。

 

 そんなわけで千棘(ちとげ)と連れ立って屋上へと移動した。

 

「まず、橘が転校したってのは本当なのか?」

『はい。表向きは体調の悪化により、九州の実家に戻ったことになっています』

 

 実際に通学ができないほどに病が進行しており、これは嘘ではない。凡矢理(ぼんやり)高校に通うためにこちらに出てきたのだから、それができないのなら九州に戻るのは当然である。この判断は彼女の母親から本田に一任されており、昨日の監視役という発言がこれに当たる。

 

 しかし話はこれだけではないのだ。

 

『実家に戻った後は、すぐに結婚する手はずになっています』

「は? けっこん? ……もしかして結婚か?」

 

 突然現れた単語を、すぐには理解できなかった。要は政略結婚である。古くから続く家ではよくあることだ。

 とはいえ明後日には行われるというのは、いくらなんでも急すぎるが。

 

「……橘は、それを受け入れたのか?」

『自分で選んだ、という意味ではそうですね。ただし他に選択肢はありませんでしたが』

 

 凡矢理(ぼんやり)高校に通う代わりに、戻れば即結婚か。

 九州の実家に残り、近いうちに結婚か。

 

 果たしてこれは、自分で選択した結果といえるのだろうか。

 

「オレは…………」

『他所様の家庭のことですよ?』

 

 言葉に詰まる(らく)に対し、(つぐみ)が先手を打ってくる。

 

 確かにそうだ。

 これは橘親子の問題であり、他人が口出しできることではない。

 結婚という人生を左右するようなことなら尚更(なおさら)だ。

 

 しかし、本当にそうなのだろうか。

 

「……いや、違う。友達だから……」

 

 万里花(まりか)が無理矢理結婚させられるのを、ただ見ているだけ。

 それは他人なら許されるが。

 

「オレは、橘を助けたい」

 

 困ったときに手を差し伸べることができなくて、何が友人か。

 (らく)はそう宣言する。

 家庭の事情により友人というものに深い思い入れがある彼にとっては、そういうものなのだ。

 

 それを聞いた千棘(ちとげ)は満面の笑みを浮かべ、彼の背中を勢いよく叩く。

 

「よく言ったわ! 私たちで万里花(まりか)を助けましょう!」

 

 思ったよりも勢いが強かったらしく、(らく)がよろめいてしまったのはご愛嬌。

 気合も入ったので問題ない。

 

「でも具体的にはどーしよ?」

「うっ……」

 

 2人は顔を見合わせる。

 今のところ、具体的なプランは何もない。

 

 とはいえ別にすべてを彼らが考える必要はない。

 やりたいと思ったことを(くち)にすれば、それに協力してくれる人間が周りにはいるのだ。

 

『大丈夫ですよ。マイちゃん様がいろいろと準備してますし』

「……さっきから気になってたんだが、お前らが学校に来てないのってもしかして」

『はい。私たちは九州は福岡の、具体的には橘本家の近くに居ます』

「オイちょっと待て、いくらなんでも行動が早すぎないか?」

 

 訳が分からない移動方法があるので、福岡に居るのはまだ分かる。

 しかし何故、(ユイ)が転校の話をする前に学校を休むという選択肢が取れたのか。

 

『昨日、本田さんから話を聞いてすぐに行動を開始しましたから』

「……なるほど。情報源はソコだったんだな」

 

 その時点でコチラにも教えて欲しかった。

 (らく)は少し不満だった。

 

『マイちゃん様が言ってましたよ。コチラから話したら、一条様は絶対に皆の意見に流されるって』

「さすがお姉ちゃん。(らく)のことよく分かってるわね」

「おい、オレはそんなに流されやすくはない……はず…………いやでもそう言われるとそうかもしれない……」

 

 舞斗(まいと)は数年前から橘家の問題をどうにかするために動いていた。よって本田から話があった直後に九州へ向かうことを決定した。そして(つぐみ)たちは橘家ではなく、舞斗(まいと)への協力を申し出たのだ。

 

 一方で(らく)は事情が異なる。

 彼には明確な参加理由が、この時点では無いのだ。

 

 今回は問題が問題なだけに、流された結果ではなく自分の意思で決めて欲しかったのだ。

 そのため朝の学校で転校の話を聞いた直後に電話してきたら、事情を話す。

 もしも時間をおいて様子見するようであったら、すべてが終わった後で結果だけを話す。

 そう決めていたのだ。

 

『お嬢は一条様が迷ったときに、発破をかける役割だったそうです』

「発破って、ダイナマイトでいいのよね?」

集英組(ウチ)にもあるから、これ以上は要らないぞ」

 

 後悔しそうな選択肢に対する保険としての配置だったが、恐らく不発に終わるだろうというある種の信頼があった。

 

「じゃあ、私たちも福岡に向けて出発!」

「どうやってだよ」

 

 日本の地理に関しては凡矢理(ぼんやり)市近辺しか分かっていない千棘(ちとげ)である。近所への移動くらいのノリで拳を突き上げている。

 

「京都に行ったときみたいに新幹線?」

「待ち時間を含めても飛行機のほうが早いか?」

 

 座っている時間が短い方が楽なので、飛行機のほうが良いか。

 

『でしたらまず、昇降口まで移動してください』

「ん?」

 

 よく分からないが素直に従う(らく)。もちろん千棘(ちとげ)もついていく。

 

『そうしたら下駄箱の…………小野寺様のとこですね、そこを開けてください』

「え?」

 

 よく分からないが素直に従う(らく)

 ……なぜだかドキドキする。

 

(らく)?」

「さあ開けるぞ~!」

 

 中には小咲(こさき)の上履き(一部地域では上靴、さらに一部ではズック)と、その上に一通の封筒。

 取り出して開いてみると、福岡行きの飛行機のチケットが2枚。今から帰宅して準備後に空港に向かうとピッタリの時間である。

 

『では福岡空港にお迎えに上がりますので』

「おい待て」

 

 なぜこうもコチラの行動を先読みしたようなものが出てくるのか。

 

『タネを聞けば単純ですよ。例えばマイちゃん様のとこを開けてみてください』

「岬の?」

 

 よく分からないが素直に従う(らく)

 ……なぜだかドキドキするが、千棘(ちとげ)に指摘される前に開ける。

 中には同じく一通の封筒、そして先ほどの1便前のチケットが2枚。

 

『私と宮本様のところにも後発のモノを仕込んでありますよ』

「いや、確かに単純だが……」

 

 無駄に終わるかもしれない準備に、何万円もかける不安感。

 そしてその仕事を完璧にやり遂げたときの安堵感……

 

『至上の快楽だ』

おまえ(ヒットマン)が言うとシャレになんねーよ」

 

 まさにインフィニティである。

 

 

 

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