そういうわけで
地方の空港なので搭乗機は小型である。外から見ると某ホンダジェットのようなサイズ感だが、意外と中は広い。エンジンを後部に配置する形状が某マクドネル・ダグラス社の
これだけの時間があれば冷静さも取り戻し、独りだとむしろ不安になっていたかもしれない。
しかし横には
「お嬢、一条様!」
予定通り空港まで迎えに来ていた
用意されていた車に乗り込み、さらに移動を開始する。
「……おい、流れで乗ってしまったが、なんでつぐみが運転してんだよ」
「え?」
「何をおっしゃいますか一条様。私はアメリカ人ですよ?」
彼女はHAHAHAと笑いながら返す。
「
「ねーよ。………………無いよな?」
車の運転くらいは朝飯前である。ヒットマンとしての教育の賜物だ。
まあもちろん、たとえアメリカで18歳未満が運転免許を取得したとしても、日本では18歳にならないと国内の免許に変更できない。そこら辺は抜かりなく偽造しているので問題ないが。
「あれ?
「今からだとご迷惑でしょうから、明日の午前中に面会を申し込みました」
夕方にはまだ早いとはいえ、一般家庭にお邪魔するのもどうかと思われる時間である。
そのため
「まあ面会は断られましたが」
「ダメじゃねーか」
「いえいえ、今の段階ではプレッシャーをかけられただけでいいんですよ」
「
「お嬢、卒業じゃないんですよ?」
「ちょっとそのネタは古すぎだろ」
今回の目的は結婚
もちろん法律上は合意のない婚姻届けは無効になるのだが、橘家の権力的にまあ無理であろう。というか一般人であっても、知らない間に知らない人から婚姻届けを出されて受理されていた、なんてことが起こるのだ。
両性の合意が必要だというのは憲法に記されているが、窓口の前で証明するような手続き上で必須というわけではない。よって今回のようなケースでは結婚を推し進める橘家の当主を直接説得し、結婚自体を止める必要があるのだ。
「結婚自体を止める、か……」
政略結婚と言えど、止めてはいけないものもある。
例えば両者が愛し合っている場合。
外から見れば政略結婚であっても、当事者同士は気が合って結婚に乗り気、という場合である。身近な例でいうと、どこぞのニセコイカップルが当てはまる。
普通に幸せになろうとしているのだから、止めてはダメである。
例えば金銭的な幸せのために、精神的な幸せを捨てた場合。
自分の力ではどうせまともな結婚ができないのなら、金銭的に満たされるだけマシと考えたり。本人や家族の負債を返せるならそれくらい、と納得済みの場合である。
止められると余計に不幸になるので、これも手を出してはダメである。
今回は家の存続のための政略結婚である。
橘家は代々女性が当主を務める家系なのだが、どの代でも当主の健康が大きな問題となっている。
そのため悠長に好きな人ができたらお付き合いをとは言っておられず、早く相手を見繕わなくてはならない。
「……家の存続って、そんなに大事なのか? そのために、橘は犠牲にならないといけないのか?」
「そうは言いますが一条様。何百年も、それこそ
失ってしまえば、そこで終わりである。戻すことはできないのだ。
それに橘家のように政治的、経済的に影響力の大きい家が潰れると、その被害も非常に大きいものになってしまうだろう。単純に多くの失業者が出るというだけでなく、技術や文化の喪失、外交窓口の消滅につながる場合もある。相手の国よりも長い歴史を持つ家系、というのは海外との取引で大きな武器になるのだ。
できれば『犠牲』ではなく、自分もその歴史の一員になれるという『誇り』を持てるよう、環境を整えられるのが良いのだが。
「そういう意味では橘
「……うーん、分かるんだが、分かるんだけど……」
別に『個人の自由はすべてに優先する』などという主義を持っているわけではないが、それでもモヤモヤする。
集団で社会を形成する以上、ある程度は仕方のないことではあるのだが。
「それに一条様もお嬢も、ご自分を犠牲にしているじゃないですか」
「え……?」
「……まさか、お忘れですか? 我々
「!?いやいや忘れていないとも!!」
「ももちろんわわ忘れてなんていないわよ!?!」
わははおほほと笑う2人に向けた
まあそれはさておき。
「今回は、橘
「……そっか。今すぐでも治療が終わった後でも、あんまり違いは無いのね」
「運命の人……ってそーいえば、
「鉄鋼業の社長のようで、40過ぎの人ですね」
「よ、よんじゅうっ?!」
自分たちの倍以上の年齢である。政略結婚に必須な『社会的に成功した人物』というのを考えると、ある程度の年齢になるのは仕方のないことである。
これが単に『大金を持っている人物』でいいのなら、若い世代も選択肢に入ってくるのだが。橘家は既に資産は十分にあるので、人脈や社会的な信用などのほうが大事なのだ。
「とは言っても、現当主も似たような年齢差のようですが」
「……そういや橘の親父さん、結構な歳だな」
キャリア組として順調に出世したとしても、既に還暦を迎えていてもおかしくない。
対して
……もしかして、義理の息子のほうが年上になるのだろうか。
「……ってあれ? そもそもウチの親父も……」
それに対して母親のほうは若い。こちらも40前後ではなかっただろうか。
いつ聞いても17歳だと言い張るので、正確な年齢が分からないのだが。
「ウチのパパも……?」
そしてこちらも母親は若い。同じく40前後だが見た目は更に若く、20代前半でも通じるほどである。
「……政略結婚の橘んとこはともかく、オレたちの親ってどうやって知り合ったんだ?」
年齢差もそうだが、若い女性がやくざ者と付き合うようになったのはどういう理由があったのだろうか。
「私のパパは、ピザ屋のバイトで配達に来たママに一目惚れしたとか言ってたけど」
しかも日本で敵対組織と銃撃戦の真っ只中だったらしい。
その場でプロポーズしたところ、返事は靴底による情熱的な一撃だったそうだ。
実にコメントに困る一幕である。
「……それにまさかオレたち3人とも、母親と別居中だったとは」
「え? ってことは
「私が言えた義理ではありませんが、皆さん家庭環境が荒れてますね……」
一条
母親は彼が中学を卒業したと同時に家を出ており、世界各地を転々としている絵本作家である。
桐崎
母親は年に数回会えるかというほどの仕事人間で、これまた世界各地を転々としている。
橘
キャリア組の警察官として各地へ転勤した後に、現在は警視総監として関東に居を構える父親と。
橘の本家として地元の九州から離れられない母親と。
ついでに言うと。
小野寺家と宮本家は両親がそろっている。子育てについては別として、真っ当な家庭である。
秦倉
ここまで家庭環境がまともではない少年誌のラブコメというのも珍しい。
自分たちの置かれた状況の悪さから目を逸らしつつ、話を対策会議へと戻す。
「事情はある程度分かったが、そもそも橘の母親に会えないんじゃ説得できなくねーか?」
既に面会を申し込んで断られているのだ。
これが明日になろうと、何度行おうと好転するとは思えない。
「甘いですね一条様。既に手は考えてあります」
「ほう」
胸を張って自慢げに宣言する
何故こうも目を引き付けるのだろうか。
「私たちにできないなら、できる人を利用すればいいんですよ」
「できるひと? りよう?」
疑問符を浮かべる
何のことやら想像ができなかった2人は、とりあえずそれに従ったのだが……
「なるほど……」
「確かに、私たちの知り合いで『できる人』ね」
「ん? 君たちは……」
もはや城とも呼べる
・初登場時の上空から見たときは門から『真っ直ぐ』
・次のコマで地上から見たときは『横向き』
・
・
・夜明けのコマでは『東向き』で、次のコマでは『南向き』
・地下牢脱出後の
・次のページでは門が写っておらず不明
・巻が変わってすぐは『真っ直ぐ』
・ヘリのシーンでは『真っ直ぐ』
中々に愉快な状態である。たまに茅葺き屋根のようになったり、窓があったり無かったりもする。
そんな建築物の門前で待っていた
どうやら彼も今回の件で急遽戻ってきたようだ。
「……なるほど。事情は分かったが……」
「お願いします! 橘を、助けたいんです!!」
「お願いします!!」
2人の申し出は、気持ちは分かるが受け入れるには難しいものがある。家庭内の問題だというのもあるが、何より当主である妻が赤の他人、しかも子供の話を聞いて改心するとは思えない。
……身内の恥をさらすのも、という気持ちも少しはある。
「……いや、よし。一緒に行こう」
「ありがとうございます!!」
もしかしたら、子供の説得であれば逆に効果があるかもしれない。そんな打算もあるが。
もしかしたら、彼らと
であれば、もしもあの時という後悔を残してはいけない。
それは自分に対しても言える。
だから、3人で行こう。
そう決断し、門をくぐるのであった。