本当にせこい   作:七九六十

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13-03 九州動乱 合流

 

 

 

 そういうわけで(らく)千棘(ちとげ)は早退し、空港へ向かう。

 地方の空港なので搭乗機は小型である。外から見ると某ホンダジェットのようなサイズ感だが、意外と中は広い。エンジンを後部に配置する形状が某マクドネル・ダグラス社のDC-9(落ちそうなやつ)を想起させて不安になる。翼に搭載するよりも機体が低くなるため、乗降設備の整っていない昔の地方空港でよく採用されていたのだが、最近ではめっきり見なくなった。

 

 凡矢理(ぼんやり)市から福岡空港までは2時間弱。

 

 これだけの時間があれば冷静さも取り戻し、独りだとむしろ不安になっていたかもしれない。

 しかし横には千棘(ちとげ)がいる。彼女の前向きな明るさにより、今もやる気は十分である。

 

「お嬢、一条様!」

 

 予定通り空港まで迎えに来ていた(つぐみ)と合流する。

 用意されていた車に乗り込み、さらに移動を開始する。

 

「……おい、流れで乗ってしまったが、なんでつぐみが運転してんだよ」

「え?」

 

 千棘(ちとげ)と共に後部座席に並んで座った(らく)だが、極自然に運転席へと座った(つぐみ)にツッコミを入れてしまう。

 

「何をおっしゃいますか一条様。私はアメリカ人ですよ?」

 

 彼女はHAHAHAと笑いながら返す。

 

アメリカ(ステイツ)では16歳で免許を取得する際に、試験会場まで自分で車を運転して乗り付けるくらいに一般的な技能なんですよ?」

「ねーよ。………………無いよな?」

 

 車の運転くらいは朝飯前である。ヒットマンとしての教育の賜物だ。

 まあもちろん、たとえアメリカで18歳未満が運転免許を取得したとしても、日本では18歳にならないと国内の免許に変更できない。そこら辺は抜かりなく偽造しているので問題ないが。

 

「あれ? 万里花(まりか)のお(うち)に行くんじゃないの?」

「今からだとご迷惑でしょうから、明日の午前中に面会を申し込みました」

 

 夕方にはまだ早いとはいえ、一般家庭にお邪魔するのもどうかと思われる時間である。

 そのため舞斗(まいと)たちが陣を張っている旅館へと移動し、取り合えずで1週間ほど押さえている部屋にて作戦会議である。

 

「まあ面会は断られましたが」

「ダメじゃねーか」

「いえいえ、今の段階ではプレッシャーをかけられただけでいいんですよ」

 

 万里花(まりか)の友人が、こんなに早く押しかけてきたという事実が大事なのだ。

 

万里花(まりか)を連れて逃避行、じゃだめなの?」

「お嬢、卒業じゃないんですよ?」

「ちょっとそのネタは古すぎだろ」

 

 今回の目的は結婚()の阻止ではない。()()の阻止だ。そのため万里花(まりか)の身柄を確保しても何の解決にもならない。婚姻届けを出された後に、悠々と彼女を取り返しに来るだけだろう。

 もちろん法律上は合意のない婚姻届けは無効になるのだが、橘家の権力的にまあ無理であろう。というか一般人であっても、知らない間に知らない人から婚姻届けを出されて受理されていた、なんてことが起こるのだ。

 

 両性の合意が必要だというのは憲法に記されているが、窓口の前で証明するような手続き上で必須というわけではない。よって今回のようなケースでは結婚を推し進める橘家の当主を直接説得し、結婚自体を止める必要があるのだ。

 

「結婚自体を止める、か……」

 

 政略結婚と言えど、止めてはいけないものもある。

 

 例えば両者が愛し合っている場合。

 外から見れば政略結婚であっても、当事者同士は気が合って結婚に乗り気、という場合である。身近な例でいうと、どこぞのニセコイカップルが当てはまる。

 普通に幸せになろうとしているのだから、止めてはダメである。

 

 例えば金銭的な幸せのために、精神的な幸せを捨てた場合。

 自分の力ではどうせまともな結婚ができないのなら、金銭的に満たされるだけマシと考えたり。本人や家族の負債を返せるならそれくらい、と納得済みの場合である。

 止められると余計に不幸になるので、これも手を出してはダメである。

 

 今回は家の存続のための政略結婚である。

 橘家は代々女性が当主を務める家系なのだが、どの代でも当主の健康が大きな問題となっている。万里花(まりか)のように体が弱いため、複数の子供をもうけることもできず、常に存続の危機に立たされているのだ。

 そのため悠長に好きな人ができたらお付き合いをとは言っておられず、早く相手を見繕わなくてはならない。

 

「……家の存続って、そんなに大事なのか? そのために、橘は犠牲にならないといけないのか?」

「そうは言いますが一条様。何百年も、それこそ数多(あまた)の人たちの思いが生んだ歴史ですからね。おいそれとは失えませんよ」

 

 失ってしまえば、そこで終わりである。戻すことはできないのだ。

 

 それに橘家のように政治的、経済的に影響力の大きい家が潰れると、その被害も非常に大きいものになってしまうだろう。単純に多くの失業者が出るというだけでなく、技術や文化の喪失、外交窓口の消滅につながる場合もある。相手の国よりも長い歴史を持つ家系、というのは海外との取引で大きな武器になるのだ。

 

 できれば『犠牲』ではなく、自分もその歴史の一員になれるという『誇り』を持てるよう、環境を整えられるのが良いのだが。

 

「そういう意味では橘万里花(まりか)を救えても、橘家が没落して大勢の失業者がなんてことになれば、我々の作戦は大失敗です」

「……うーん、分かるんだが、分かるんだけど……」

 

 別に『個人の自由はすべてに優先する』などという主義を持っているわけではないが、それでもモヤモヤする。

 集団で社会を形成する以上、ある程度は仕方のないことではあるのだが。

 

「それに一条様もお嬢も、ご自分を犠牲にしているじゃないですか」

「え……?」

 

 (つぐみ)の言う『犠牲』に心当たりがない(らく)たちは、首を傾げる。

 

「……まさか、お忘れですか? 我々ビーハイブ(ギャング)と一条様の集英組(ヤクザ)、その抗争を止めるためにお嬢と……」

「!?いやいや忘れていないとも!!」

「ももちろんわわ忘れてなんていないわよ!?!」

 

 わははおほほと笑う2人に向けた(つぐみ)の視線は、生温かかった。

 

 まあそれはさておき。

 

「今回は、橘万里花(まりか)の『病の治療に時間がかかる』という点を利用できます」

「……そっか。今すぐでも治療が終わった後でも、あんまり違いは無いのね」

 

 千棘(ちとげ)の言う通り、何も明後日の結婚が必須というわけではない。時間を稼ぐことができれば別の打開策が見つかるかもしれない。もしかしたら治療中に運命の人と出会うかもしれないのだ。

 

「運命の人……ってそーいえば、万里花(まりか)の結婚相手ってどんな人なの?」

「鉄鋼業の社長のようで、40過ぎの人ですね」

「よ、よんじゅうっ?!」

 

 自分たちの倍以上の年齢である。政略結婚に必須な『社会的に成功した人物』というのを考えると、ある程度の年齢になるのは仕方のないことである。

 これが単に『大金を持っている人物』でいいのなら、若い世代も選択肢に入ってくるのだが。橘家は既に資産は十分にあるので、人脈や社会的な信用などのほうが大事なのだ。

 

「とは言っても、現当主も似たような年齢差のようですが」

「……そういや橘の親父さん、結構な歳だな」

 

 万里花(まりか)の父親、橘(げん)(婿養子)は警視総監である。

 キャリア組として順調に出世したとしても、既に還暦を迎えていてもおかしくない。

 

 対して万里花(まりか)と同じく高校在学中に呼び戻されて結婚した現当主。

 万里花(まりか)のように結婚後に数年の治療を経て出産だとして、40前後だろうか。

 ……もしかして、義理の息子のほうが年上になるのだろうか。

 

「……ってあれ? そもそもウチの親父も……」

 

 (らく)の父親、一条一征(いっせい)。見事な白髪(はくはつ)をした老人である。初対面の人は彼を『(らく)の祖父』だと勘違いするくらいだ。

 

 それに対して母親のほうは若い。こちらも40前後ではなかっただろうか。

 いつ聞いても17歳だと言い張るので、正確な年齢が分からないのだが。

 

「ウチのパパも……?」

 

 千棘(ちとげ)の父親、アーデルト・桐崎・ウォグナー。彼女たちの父親3人は、以前『旧知の仲』だと言っていた。そこまで年齢差も無いだろう。

 

 そしてこちらも母親は若い。同じく40前後だが見た目は更に若く、20代前半でも通じるほどである。

 

「……政略結婚の橘んとこはともかく、オレたちの親ってどうやって知り合ったんだ?」

 

 年齢差もそうだが、若い女性がやくざ者と付き合うようになったのはどういう理由があったのだろうか。

 

「私のパパは、ピザ屋のバイトで配達に来たママに一目惚れしたとか言ってたけど」

 

 しかも日本で敵対組織と銃撃戦の真っ只中だったらしい。

 その場でプロポーズしたところ、返事は靴底による情熱的な一撃だったそうだ。

 

 実にコメントに困る一幕である。

 

「……それにまさかオレたち3人とも、母親と別居中だったとは」

「え? ってことは(らく)のとこもなの? そーいえば一度も見た事なかったけど」

「私が言えた義理ではありませんが、皆さん家庭環境が荒れてますね……」

 

 一条(らく)の両親は別居中である。

 母親は彼が中学を卒業したと同時に家を出ており、世界各地を転々としている絵本作家である。

 

 桐崎千棘(ちとげ)の両親は別居中である。

 母親は年に数回会えるかというほどの仕事人間で、これまた世界各地を転々としている。

 

 橘万里花(まりか)の両親は別居中である。

 キャリア組の警察官として各地へ転勤した後に、現在は警視総監として関東に居を構える父親と。

 橘の本家として地元の九州から離れられない母親と。

 

 ついでに言うと。

 小野寺家と宮本家は両親がそろっている。子育てについては別として、真っ当な家庭である。

 (つぐみ)とポーラは孤児である。家庭どころではない。

 秦倉(ユイ)は両親とも死別。家庭どころではない。

 舞斗(まいと)も世界観に合わせて作った表でダイスを振ったら、父親は蒸発、母親は死別となった。こちらも家庭どころではない。

 

 ここまで家庭環境がまともではない少年誌のラブコメというのも珍しい。

 

 

 

 自分たちの置かれた状況の悪さから目を逸らしつつ、話を対策会議へと戻す。

 

「事情はある程度分かったが、そもそも橘の母親に会えないんじゃ説得できなくねーか?」

 

 既に面会を申し込んで断られているのだ。

 これが明日になろうと、何度行おうと好転するとは思えない。

 

「甘いですね一条様。既に手は考えてあります」

「ほう」

 

 胸を張って自慢げに宣言する(つぐみ)に、(らく)はちょっと視線の制御を持って行かれそうになる。

 何故こうも目を引き付けるのだろうか。

 

「私たちにできないなら、できる人を利用すればいいんですよ」

「できるひと? りよう?」

 

 疑問符を浮かべる千棘(ちとげ)に対し、明日の朝に橘本家の玄関前で待っているように伝える。

 

 何のことやら想像ができなかった2人は、とりあえずそれに従ったのだが……

 

「なるほど……」

「確かに、私たちの知り合いで『できる人』ね」

「ん? 君たちは……」

 

 もはや城とも呼べる(おもむき)の、天守の最上階部分の角度が見るたびに変わる不思議な建物。

 

 ・初登場時の上空から見たときは門から『真っ直ぐ』

 ・次のコマで地上から見たときは『横向き』

 ・(らく)たちから万里花(まりか)への場面転換時は『真っ直ぐ』

 ・(らく)の拘束直後と地下牢への場面転換時は門が写っておらず不明

 ・夜明けのコマでは『東向き』で、次のコマでは『南向き』

 ・地下牢脱出後の万里花(まりか)に続くコマでは『横向き』

 ・次のページでは門が写っておらず不明

 ・巻が変わってすぐは『真っ直ぐ』

 ・ヘリのシーンでは『真っ直ぐ』

 

 中々に愉快な状態である。たまに茅葺き屋根のようになったり、窓があったり無かったりもする。

 

 そんな建築物の門前で待っていた(らく)たちの前に現れたのは橘(げん)万里花(まりか)の父親である。確かにこの状況下で当主に面会できる、数少ない人物である。

 どうやら彼も今回の件で急遽戻ってきたようだ。

 

「……なるほど。事情は分かったが……」

「お願いします! 橘を、助けたいんです!!」

「お願いします!!」

 

 2人の申し出は、気持ちは分かるが受け入れるには難しいものがある。家庭内の問題だというのもあるが、何より当主である妻が赤の他人、しかも子供の話を聞いて改心するとは思えない。

 

 ……身内の恥をさらすのも、という気持ちも少しはある。

 

「……いや、よし。一緒に行こう」

「ありがとうございます!!」

 

 もしかしたら、子供の説得であれば逆に効果があるかもしれない。そんな打算もあるが。

 

 もしかしたら、彼らと万里花(まりか)今生(こんじょう)の別れになるかもしれない。

 であれば、もしもあの時という後悔を残してはいけない。

 それは自分に対しても言える。

 

 だから、3人で行こう。

 

 そう決断し、門をくぐるのであった。

 

 

 

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