「やはり妻には勝てなかったよ」
「いやー、取り付く島もないとは、正にあの事でしたね」
勇んで立ち向かった3人であるが。
確かに面会できた。短い時間とは言え、話ができたが。
しかしその結果、拘束されて地下牢行きとなったわけだ。座敷牢ではなく岩肌がむき出しの地下牢なあたり、本気度が
ちなみに男女別という、妙な配慮がなされているので
「……で、アレは何ですかね?」
「私にも分からんが……」
そんな地下牢の奥には普通過ぎて逆に怪しいドアと、地面に直径1メートルほどの謎の魔法陣が輝いている。
その魔法陣の横には立札があった。
『セーブポイント』
「嘘をつくな。いや、確かにタイミング的にも場所的にもありそうだけどさ」
こんなことをするのは岬だろうと犯人の検討を付ける。大当たりである。
そして立札を再度見てみると、下のほうに小さく続きがあった。
『この魔法陣に乗ると手枷が外れるよ!』
「……へー、便利だな」
どうやってだよとか、何で手枷のこと予想できてるんだよとか。
言いたいことはいろいろあったが、本人が居ないのでは意味が無い。
2人が手枷を外すと、立札と共に魔法陣は消滅してしまった。
もはや何も言うまい。
「で? こっちのドアは……」
そこには1通の封筒が挟まっていた。
表にはやけに丸い字で『一条君へ』とあり、裏はご丁寧にハート型のシールで封がされている。
……違うと分かっているが、それでもドキドキする。
「
「さあ開けるぞ~!」
勢いでごまかしつつ封筒を開け、中の便せんを取り出す。
そこにはこう書かれていた。
『お前がこの手紙を読んでいるということは』
「いいから早く本題に入れ」
あまりにもお約束のネタに思わずツッコミを入れてしまう。
すると文章がすべて消え、新しいものが浮かび上がってくる。
全部ネタだったのかよというツッコミと、だったら一度くらい読んどけばよかったという謎の後悔と。
もはやツッコミに合わせて文字が消えて再度現れたことなど、気にもならない。
とりあえず内容をまとめると以下のようになる。
・ドアの奥には宿泊施設があるよ!
・
・今準備中で手が回らないから、ちょっと待っててね!
・明日10:00に
「手が回らないとか、ぜってーウソだろ」
反則的に何でも同時に
手紙を読んだ
『敵の目をそちらに引き付ける、って意味もあるから!
結婚に反対する者は捕らえたって安心感と、式の直前に逃げられたってプレッシャーを与えるためだから!』
「会話すんじゃねーよ……」
独白に合わせて余白に現れた文字にも動じることは無い。
そして最後まで読み終えた
「どーせこの後は『なお、この手紙は自動的に消滅する』とか……」
『そんなのは無いよ?』
「ねーのかよ! クソッ、期待してたのに!!」
ここにきて一条
さすがに我慢できなかったようだ。
『だって、明日の予定も書いてあるんだよ? 時間が分からなくなったらダメでしょ?』
「そーだけど! 確かにそーなんだけど!」
お前は男のロマンが分からんのか、と不満を訴える。
『分かるけど、今回は一条をおちょくるのを優先したんだ』
「こ、こいつ……っ」
その後の交渉で、次の機会には男のロマンを優先することに合意した両者であった。
◆
地下牢の奥に設置されたドアを開けると、そこには何の変哲もないツインのビジネスホテル風の部屋が広がっていた。
次の作戦まで20時間以上ある。今は英気を養うのだ。
「……妻は、君の目にどう映ったかね」
冷蔵庫にあった清涼飲料水を片手に
その深刻な様子に『めっちゃ若かったっすね』とは返せない。
橘家の現当主であり、
着物、というにはやけに中国の影響を受けていそうな衣装に身を包んだ、黒髪ショートカットの女性である。ただし高校生の娘がいるとは思えないほどに若く、というより幼く見える。それこそ
そして特徴としてはもう1つ。表情が一切機能していなかったことであろう。同じ黒髪ショートカットで正反対に小生意気な表情のヤツが身近にいる彼にとっては、それが特に気になった。
無口キャラのように見えて結構しゃべるのも気になったが。
「……ヒドイ母親だと思ったかね」
ヒドイ母親……確かに、事情を知らなければ
しかしよくよく考えれば、彼女は何だかんだと甘いのだと感じた。
例えば、押しかけてきた
面会を断ったように、部外者として一切無視しても良かったのだ。それなのにいざ正対したらまともに相手をしてしまうのは、育ちの良さなのか何なのか。
岬のヤツ、ぜってー知ってて利用したなと確信を持ってしまう。
例えば、娘が自分のワガママのために実家の資産を使うことを黙認していたこと。
年末の南国の島もそうだが、昨年のバレンタインの
まさか食べられない品質のモノを送るとは思えないので、そこそこ味が良いチョコを200kg近く……
本田さんによると、像の運搬に使っていた台車は改造してエンジンを搭載していたそうなので、合わせると100万を軽く超えている……?
小野寺たちの会話が無かったら気付かなかっただろうなと思いつつ、改めてあの時のチョコに罪悪感を覚えてしまう。金額の事を考えれば、受け取っていても罪悪感はあったと思うが。
例えば、今回の結婚だって間に合わなかっただけで、相手を選ぶ権利はあったということ。
それさえ無ければ視野を広げて婿探しをして、あっさり見つかった可能性だってある。
もしくはやるならやるで、確実に結婚まで至れるよう道を整えてしまえば良かったのだ。
まあそもそも当事者である
改めて自分たちの親のヒドさに涙が出そうになる。
それらを踏まえると母親としてのヒドさについてはどうも、虐待を受けて育った人間によくある、自分が親になったときに子育てのやり方が分からない、だから自分がされたことをするというだけのようにも見える。
昨日、
ただし、娘が嫌いなのは本音であろう。
自分の倍以上の年齢の男と無理矢理な結婚の末に生まされた子供である。
これを『子供に罪は無いから』と自分の受けた虐待も無視して普通に愛せたとしたら、それはそれで怖いものがある。
今回はさらに夫が娘に愛情を注いでいるのも合わさり、セットでお得である。
自分の嫌いな人が愛情を向けているだ。嫌うのも当然である。
これは
当人の目の前でやらないだけマシだったとはいえ、どうも娘はこっそり覗き見していたようで、結果としてアウトになってしまったが。
その意味では肉体的な虐待が行われていないのは幸運であろう。どう考えても育児ノイローゼである。
目の前に当事者が居るので絶対に
そしてそもそも、ヒドさで言えば
転校してきたときの敵意に満ちていた彼女と比べれば、むしろ可愛いものなのかもしれない。
……聞こえる距離ではないとは思うが、近くに当事者が居るので絶対に
「彼女も娘と同じように、この家の伝統に苦しみながら生きてきた。その苦しみを娘にぶつけている部分はあるかもしれんな」
「私も彼女の気持ちを変えられないかと長年努力はしてきたつもりだが、未だに変えられずにいる。おそらく彼女の耳には誰の言葉も届かないだろう」
それは、
それとも自分にだろうか。
「彼女が
「だが……それでも私は……彼女を、愛しているんだ」