本当にせこい   作:七九六十

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13-05 九州動乱 開幕

 

 

 

 一夜明けて。予定の時間にドアをノックする音が聞こえる。

 

「時間だ。出ろ」

「おいコラ、囚人のような扱いをするんじゃない」

 

 弁護士を呼べ弁護士を、とぼやきながら、(らく)は迎えに来た(つぐみ)と合流する。

 しかし部屋から出てきたのは彼のみである。

 

「橘の親父さんは、もう少し様子を見てるってさ」

「そうすれば妻の意思には逆らっておらず、それでいて娘の結婚に賛成もしてもいない、と?」

「……さすがにそれは」

 

 無いと思いたいが、立場の低い婿養子特有のどっちつかず感が出ているのも確かである。

 妻に言葉が届かないのはそんなところにあるのではと思わずにいられない。

 

「……少し不安ですが、まあいいでしょう。お嬢と合流します」

「おう」

 

 そう言って2人は走り出す。

 

 左右に地下牢を配置したトンネルとも言うべき通路。幸いにも明かりがしっかり設置されているため、走るのには問題ない。

 途中で看守たちを見かけ、会釈して通り過ぎる。

 千棘(ちとげ)の居る場所を目指して、2人は進む。

 

「……ん?」

「どうかしましたか?」

「いや、気のせいか、今とんでもなく不自然なことを自然に行ったような……」

「考えすぎでは? あ、見えました。あそこにお嬢が居ます」

 

 目の前にあるのは、特別な一室であった。

 (つぐみ)がすぐさまカギを開けようとしているが……

 

 (らく)が居たところよりも、太い格子。しかも金属で補強してある。

 壁は板張りのように見えるが、ひび割れの隙間から金属の光沢がのぞく。

 

 ……これってもしかして男女別じゃなくて、とドキドキする。

 

「一条様?」

「さ、さあ開けるぞ~!」

 

 勢いでごまかしつつ格子を開け、中に入る。

 奥に見えるドアには(つぐみ)が向かい、その間に(らく)は壁へと近づく。

 先ほどのひび割れは経年劣化によるものではなく、何か強い衝撃によるもののように見える。

 やはりここは……

 

(らく)、何してんの?」

「一条様?」

「なな何でもないぞぉぅ?!」

 

 まあそれはともかくまずは作戦会議である。

 一度部屋の中に戻り、テーブルに城内の見取り図を広げる。

 

「最初に共有すべき事として、今回の目的が『()()()の阻止』に変わりました」

「え? 『結婚』じゃなくていいの?」

「はい、当主の意識が『結婚式』のほうに完全に向きましたので」

 

 これまでは家の存続のために動いていた当主。

 この状態では万里花(まりか)の身柄を確保したとしても、状況を変える事はできなかった。

 

 しかし今は違う。

 自分のときには無かった、(らく)千棘(ちとげ)という部外者からの妨害。

 これは当主の『なぜあの子だけが特別扱いされなければいけないの?』という部分を刺激した。

 

 そのため自分のときと同様に、何としてでも結婚式を行わなくてはならない、そんな意識に囚われたのだ。

 

 既に(らく)千棘(ちとげ)は確保済みで、このまま行けば何の問題も無い。

 そう安心していたところに、しかも式の直前になってこの2人が地下牢から抜け出したという知らせが届いたら?

 

「当主の表情を変えることに成功しました」

「おぉー、私たちのときにはちっとも変わらなかった表情が」

「なんかラスボスに初めてまともな攻撃が通った感があるな」

 

 そういうわけで、これからの作戦の効果は彼女の表情の変化具合で確認できそうだ。

 

「そしてダメ押しとして、式がある程度進んだ後に橘万里花(まりか)奪取(だっしゅ)します」

「なるほど。ここでも安心した後に落とすわけね」

「確かに、これで結婚式に失敗したらダメージがでかいな」

 

 それに加えて、2人には伏せている情報もある。

 それは歴代当主の就任時期である。

 

 橘家は代替わりが早い。今の当主も20歳そこそこで継いでいる。

 これは健康問題というのももちろんだが、そもそも無理矢理やらされているものだから早く引継ぎしたいという面もある。娘の結婚というのはその第一歩でもある。

 ようやく肩の荷を降ろせる道筋が見えてきたと思ったところに、それを閉ざす。

 かなり酷いことをしようというのだ。

 もしかしたら、泣いちゃうかもしれない。

 

「そして結婚式はこの場所にある教会で行われます」

「教会まであるのね、このお城……」

「九州だから隠れ切支丹(キリシタン)大名とかの絡みかね?」

 

 もしくはその土地で権威を示すという意味では、宗教施設を内部に持つのは役に立つのかもしれない。

 

「私はてっきり、和風の結婚式だと思ってたんだけど。武家だし」

「そこは橘万里花(まりか)の好みだそうです」

「そういう要望は通るんだな」

 

 今後の行動について打ち合わせを行った後、3人は式場へと移動を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ。ウワサの花嫁はというと。

 

 彼女の要望通りのウェディングドレスに身を包み、式の始まりを待っていた。

 

「……お美しゅうございます。お嬢様」

「心にも無い事を言うのね、本田」

 

 普段よりも少し距離のある2人。

 

「……心からの言葉ですよ」

「そうなの? あなたに心があったなんて驚きだわ」

 

 本田から目線を外し、万里花(まりか)は続ける。

 

「お母様の命令さえあれば、なんでもする人間のクセに」

 

 やはりいつもより、言葉にトゲがある。

 まあ今の状況となる最後の引き金となったのは本田の決断なのだから、仕方のない事なのかもしれない。

 

 そしてもう1つ。

 

「……捕まったのは、(らく)様と誰?」

「あまり詳しいことはお教えできません」

 

 昨日、当主と久しぶりの面会を果たしたときに言われたのだ。

 (らく)たちを地下に捕らえている、と。

 

『あの子のご実家……確かあまり社会的に立派とは言えないご職業をされていたわね』

 

『加えて()()()()()は警察官……何かあったとしても世間は何も不思議がらないでしょうね』

 

『それが嫌なら妙な期待はせず、大人しく従いなさい。そうすれば悪いようにはしないわ』

 

『娘の大切な友人を傷つけたくはないもの』

 

 面会直前に逃げ出そうとして本田に捕まった娘への(おど)し。

 万里花(まりか)としてはそう受け取っており、現在大人しくしている理由であり、気になっていることでもある。

 

 しかし実際は少し違う。

 そもそも未成年を監禁している時点で、自分たちも結構危ういのだ。警視総監としても、歴史ある橘家としても、そこに繋がる企業としても、立派なスキャンダルである。

 今のご時世に娘を無理矢理結婚させようとしているだけでも危ないのに、それに加えてとなると、上手く世論を誘導できなかった場合のリスクが大きすぎる。

 そのため実際にはこの手は使えないのだ。

 

 ではなぜ、わざわざ娘へ伝えたのか。

 もちろん万里花(まりか)の性格的に、この脅しが有効であるというのもあるが。

 

 実際のところ、単なる嫉妬である。

 あの子だけどうしてという気持ちが、助けは無駄になったどころか足を引っ張ることになった、と伝えてやりたいという気持ちへと変わったのだ。

 

「……なら質問を変えるわ。ケガをした人はいる?」

「いません」

 

 それを聞いて、万里花(まりか)は安堵の笑みを浮かべる。

 

「……そう、良かった……。

 これで心置きなく、結婚式に臨めるわね……」

 

 そう言って万里花(まりか)は椅子へと腰を下ろす。

 

(わたくし)が大人しく式にでれば、(らく)様たちに危害が及ぶ事は無い……」

 

 本当に良かった。本当に……

 そう(つぶや)いて安心しきっている万里花(まりか)

 

 ところで、父親のことは良いのだろうか。

 

 同じく地下牢に捕らえてあるのに、(おど)しの材料としても使われない。

 父親が花嫁とバージンロードを歩くのは必須ではないとは言え、そもそも結婚に際して一言も交わしてないというのに、何の感慨もない。

 

 仲の悪い妻からの扱いはともかく、これまで散々尽くしてきた娘からの仕打ちがこれでは浮かばれない。

 

 

 

 まあそんな些事はともかく。

 結婚式が始まる。

 

 

 

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