本当にせこい   作:七九六十

7 / 82
02-04 ツグミちゃん登場(1)

 

 

 

 厄介ごとの一部と最大の懸念事項が片付き、ストレスが大幅に軽減された一条(らく)

 その後も千棘(ちとげ)の相変わらずの憎まれ(ぐち)(さら)されつつも平和を噛みしめていたが────

 

「こいつがお前の次の任務の標的(ターゲット)───

 名は、一条(らく)────」

 

 千棘の実家(ビーハイブ)大幹部(メガネ)の手による────

 

「私ではお嬢を直接お守りすることができない。

 だが私が育てた優秀な部下であるお前ならば、あんのクソガキ(以下割愛)の魔の手から、お嬢を救い出すことができるだろう」

 

 新たな試練が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「よーしお前ら、突然だが今日は転校生を紹介するぞー」

「初めまして。(つぐみ)誠士郎と申します。どうぞよろしく」

 

 当日になって急に広まった、美男子の転校生が来るというウワサ。

 その期待に(たが)わぬ姿にクラスの女子一同から黄色い声が上がる。

 

 目にかかる長さの前髪を左側に流したアシンメトリー具合が、ただの脇役(モブ)ではないことを物語っている。

 制服が間に合わなかったのだろう、指定の学ランではなくボタンのないブレザーに短いネクタイ、なぜか太ももにボタンのあるスラックス姿である。

 ……腰パンにしても下げ過ぎではないだろうか。

 

「つぐみ!?」

「お久しぶりですお嬢ー!!」

 

 転校生がまさかの身内だったことに驚き、思わず立ち上がって声を出してしまう千棘(ちとげ)

 そしてその姿を認めるや否や、飛びついて抱きしめてしまう(つぐみ)

 

 その姿に教室からは先ほどとは別種の歓声が上がる。

 

「何何!? どういう展開!?」

「これって一条君にまさかのライバル登場ってこと!?」

「修羅場!? 修羅場なの!?」

 

「……でもこれって、一条に勝ち目無いんじゃね?」

「うん、完全に顔で負けてるし」

「ああ、勝負にならん」

 

 当事者(一条楽)には申し訳ないが、実におもしろい。そんな空気が広がっていた。

 

「バッ、バカ!! 何やってんのよ、みんなの前で!!」

「ああ、お嬢!! お会いしとうございました!!」

 

 引き()がされるも満面の笑みで喜びを表現する(つぐみ)

 その視界に気になるものが映る。

 

(つぐみ)ちゃん、やっほー」

 

 ひらひらと手を振る舞斗(まいと)の姿。

 今日は何の変哲もないセーラー服姿だ。というか毎日セーラー服姿だ。

 

「あれ? マイちゃん様?」

「え、何よその珍妙な呼び方は」

 

 自分が日本語の細かいニュアンスを分かっていないだけかとも思いつつ、いやそれでもおかしいとツッコむ千棘(ちとげ)

 (らく)の友人だと紹介を受けた3人のうちの1人が、何故か自分側の人間である(つぐみ)と面識がある感じなのも気になる。

 

(つぐみ)ちゃんって、仲良くなると苗字に様を付けて呼ぶようになるでしょ?

 それだとおもしろくないからって提案してみたら、これが定着しちゃって」

 

 いや、だからって……と(つぐみ)に視線を向けるも。

 

「以前、ちょっとした縁がありまして仲良くなりました。任務でも助けていただいたことがありまして」

 

 ねー、と笑いあう、2人の微笑ましい光景が返ってくるばかりであった。

 

「そ、そうなの……仲良く、任務でも──────ん?」

 

 微かな頭痛を覚えつつも何とか飲み込もうとする千棘(ちとげ)であったが、不穏な単語に引っかかる。

 

 任務でも? ということはつまり?

 

「!?!!!」

 

 気付いてからは早かった。

 

 2人の手を取り教室を飛び出る。

 その勢いは引かれる(つぐみ)舞斗(まいと)の体が完全に宙に浮き、そして無責任に想像の翼を広げていたクラスメートたちが、あっけに取られて黙り込んでしまうほどに凄まじかった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか? お嬢」

 

 人気(ひとけ)のない校舎裏にて荒い息を吐く千棘(ちとげ)

 原因その1(つぐみ)から背中をさすられ、どこからともなく取り出された水入りのグラスを受け取って一息つく。

 

 いつもより体力の消耗が激しいのは精神的な動揺のせいであろうか。

 それとも、引っ張っていたのが2人だと思っていたら実は、原因その2(まいと)の腕に抱き着いていた小咲(こさき)と、腰にしがみついていたるりを含めた計4人だったせいであろうか。

 

「えーっと、その……」

 

 気を取り直して舞斗(まいと)たち3人に向かうも、言葉が出ない。

 

私の家業に(実家がギャングだと)、気付いていますか?』

 

 確認したいのはたったそれだけなのだが、この一言で折角できた友人を失うかもしれないのだ。

 そう思うと体が(すく)み、声が出なくなる。

 

(つぐみ)さんって、千棘(ちとげ)ちゃんのおウチの人?」

「ええ、そうですよ。お嬢のそばにつくことになりました」

「ボディーガード的な?」

「お嬢向けの建前としては『一緒に学校に通うことによって見聞を広める』なんてことになってますが、その役目もありますね」

 

 舞斗(まいと)の後ろで繰り広げられる小咲(こさき)・るり・(つぐみ)による会話で、あっさりと目的を達してしまったが。

 

 私の葛藤をどうしてくれるのかと言いたい。

 つぐみはそれ私に聞かせちゃっていいのと言いたい。

 というかアナタはそんなキャラじゃなかったでしょと言いたい。

 すんごく言いたい。

 

 実家の事を知っていてなお受け入れてくれた、嬉しさと安堵で(にじ)む涙をごまかしつつ、そんなことを考える。

 

「桐崎さんの実家の事なら、一条の絡みで2人にも多少は教えてあるよ。

 一条のおかげで受け入れやすかったってのもあるだろうから、あんまり彼を責めないであげてね?」

 

 あのバカもやしのせいかと表情に出てしまったのだろう、苦笑されてしまった。

 

 

 

 

 

 幼馴染である(つぐみ)との再会のせいか、それとも精神的に揺さぶられたせいか。

 普段よりも少し大人しくなった千棘(ちとげ)を見て、これをチャンスと捉えた舞斗(まいと)は言葉を続ける。

 

「子供が仲良くなるのに、親の職業ってのはほとんど関係しないんだよ。何年たっても相手の親の事を一切知らない、なんてこともよくあるし」

 

 まあそんな事を言いつつも小咲(こさき)とるりに対し、中学時代に(らく)と接点を持った時点で彼の家業(ヤクザ)の事を伝えている。

 自分だけならいざ知らず、普通の女子中学生が自己責任で踏み込むには重い話題だったからだ。

 彼女たちを危険から遠ざけるためにも、事前に伝えておく必要があったのだ。

 

 そしてその上で問うた。

 この先何があっても2人を守るから、それを踏まえて一条(らく)との関係をどうしたいのかと。

 

 その時の回答があって、今の関係があるのだ。

 

「ただ、関係が壊れる原因にはなりうるんだよね。例えば実家の商売敵で、その子と仲良くすると親の機嫌が悪くなる、とかね。

 でもそれだって、そんなことより友達のほうが大事だって関係を築けていれば、どうにでもなるよ」

 

 舞斗(まいと)千棘(ちとげ)小咲(こさき)、るりにそれぞれ目を向ける。

 

「だから桐崎さんも、2人とそんな関係を築いていこうね?」

 

 彼にとって、桐崎千棘(ちとげ)は『育児放棄されて歪んで成長した幼い子供』くらいの認識である。

 そんな面倒な人間をわざわざ相手にする義理はないのだが、小咲(こさき)の友人となったからには話は別だ。

 千棘(ちとげ)の行動次第で、その友人である小咲(こさき)にも累が及んでしまう。

 

 であれば説教染みた事を(くち)にしてでも彼女の成長を促すしかない。

 その結果として(くち)うるさい奴だと(うと)まれても、小咲(こさき)が不幸になることに比べればなんてことはない。

 そういった覚悟を持って、彼は千棘(ちとげ)に接っすることを決めたのだ。

 

「……うん」

 

 しかしそんな舞斗(まいと)の覚悟をよそに、素直に頷く千棘(ちとげ)

 普段の(らく)とのやり取りから考えて、拒絶とはいかないまでも反発くらいはされ、長い期間をかけて徐々(じょじょ)に変わってくれればいいかと構えていた彼は肩透かしを食った。

 

 これは(らく)との絡みを基準に判断した舞斗(まいと)のミスである。

 そもそも第一印象がマイナスで、何をするにも身構えてしまう(らく)と同じ対応には、よほどのことが無い限りならないのだ。

 

 さらに言えば、このとき千棘(ちとげ)から舞斗(まいと)への認識も変化していたことも原因の1つである。

 『仲良くなったクラスメート』から『実家の事を知っても離れなかったお友達』へ。

 そして『お友達(小咲・るり)幼馴染(つぐみ)が信頼する人』という要素が加わり、『お姉ちゃん』的なポジションへと落ち着こうとしていたのだ。

 

 身長だけ見れば、頭上のリボンを含めずとも千棘(ちとげ)のほうが少しだけ大きいのだが。

 よく分からない人間関係になってきたものである。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。